地球温暖化対策基法案が廃案に


2010年6月16日、通常国会の閉会に伴い、「地球温暖化対策基本法案」が廃案になりました。これは、今後の日本の温暖化対策の基本方針となる法案で、WWFも成立を期待していたものです。しかし、同法案は、いくつかの問題点も指摘されており、その改善も望まれていました。問題点が改善され、次の臨時国会で成立することが期待されます。

早期成立を!廃案を受け声明を発表

2010年6月16日、通常国会(第174回)の閉会に伴い、地球温暖化対策基本法案が廃案になりました。
同法案は、衆議院での審議を通過し、あとは参議院での審議を経て成立を待つのみでしたが、残念ながら、首相の交代による審議中断などにより時間切れとなり、廃案となりました。

地球温暖化防止の基本方針を定める法律として、この基本法が会期中に成立することは、WWFジャパンも実行委員会に名を連ねる、「MAKE The Ruleキャンペーン」の目標でもありました。

WWFジャパンは、同日、声明を発表。同法の次期臨時国会での早期成立を求めるとともに、現状の地球温暖化対策基本法案の問題点を指摘しました。

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地球温暖化対策基本法案 4つの問題点

すべて主要国が、削減目標に合意することを条件としていること
温室効果ガス排出量を2020年までに25%削減するという目標について、すべての主要国が参加する国際的枠組みの合意が強く条件付けられています。これは、国際的枠組みの構築がなければ、国の排出削減目標もなくなるかのように読めます。こうした条件付けは、国際的枠組みの構築自体を妨げるおそれがあります。

排出量が総量で増えてもOK?「原単位方式」が検討されていること
基本法案は、地球温暖化対策の施策の一つとして、温室効果ガスの排出量取引制度を1年以内に創設するとしています。しかし、その案では、確実に排出量の総量を削減できる「総量方式」の取引制度だけでなく、総排出量が増えてしまう可能性のある「原単位方式」が検討内容に挙げられています。

原子力エネルギーが対策とされていること
未来に負の遺産を残す事になる原子力発電の推進が、主要な温暖化対策としてうたわれています。持続可能なエネルギー源とはいえない原子力発電よりも、再生可能な自然エネルギーの活用を対策の主力とするべきです。

経済成長が最優先? 「環境基本法」の理念に応えていないこと
法案の中では、温暖化対策を、あくまで経済成長の一環と見なすような姿勢に終始した文言が繰り返されています。「経済の成長」よりも「持続的に発展できる社会」を重視した「環境基本法」の理念が、きちんと反映されていません。

これ以外にも問題点はありますが、今後の議論の中で、関するこれらの問題点が改善され、次の臨時国会で法案が成立することが期待されます。

求められる早急な政策の整備

しかし、地球温暖化対策基本法の成立は、日本が低炭素社会を早い時期に実現し、"脱"炭素社会へと向かっていくための、一つの通過点に過ぎません。

何より、「地球温暖化対策基本法」は、あくまでも日本の温暖化対策の基本的な方向性を示すもの。具体的な政策については、今後これとは別に、早急に検討する必要があります。

具体的な政策の整備が遅れれば、それだけ、日本の経済構造を、温室効果ガスの「大量排出型」に固定させてしまう危険性が高まるからです。

WWFジャパンは、2010年3月、「脱炭素社会に向けたポリシーミックス提案」を発表し、排出量取引制度を始めとする、いくつかの政策を提案しました。
ここには、排出量取引制度、固定価格買取制度、炭素税(地球温暖化対策税)といった主要な政策に加え、家庭、店舗・商業ビル、運輸といった各分野で、どんな政策や施策が有効なのかについての見解がまとめられています。

もちろん、現政権が掲げている「2020年までに25%削減、2050年までに80%削減する」という目標が、変革に向けたきっかけになることは間違いありませんが、現状の延長線上の政策や対策を繰り返すだけでは、日本は真の意味で、地球温暖化の防止に大きな役割を果たすことはできません。日本社会のあり方そのものを変えていく覚悟が必要です。

市民に対して開かれた議論の中で、政府がその実現へ向けての政策を、しっかりと整備していくことができるのか。現政権の取り組みが試されています。

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東南アジアからオーストラリアにかけて広がるオセアニアのサンゴ礁。地域の人たちは、海面上昇やサンゴの白化、雨の不足に苦しんでいる。
(C)Martin HARVEY / WWF-Canon

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2010年5月31日~6月11日にかけてドイツのボンで開かれていた国連気候変動会議(SB32)。2009年末の「コペンハーゲン合意」を基に、世界が温暖化防止のための交渉を進めていく土台作りが行なわれたが、議論には時間がかかっている。


地球温暖化対策基本法案の今後についての声明 2010年6月16日

通常国会の閉会に際して

WWFジャパンは、今国会において地球温暖化対策基本法案が成立せず、時間切れで廃案となってしまったことを残念に感じる。地球温暖化対策基本法案は、気候変動問題への取り組みを日本の法体系の中に明確に位置づけるものであり、その早期成立は、今後の気候変動対策促進にとっての基礎となる。

しかし、現状の基本法案は多くの重大な問題を含んでいることも確かである。それらのうち、主要なものは以下の4点である。

  • 温室効果ガス排出量の25%削減目標について、主要国が参加する国際的枠組みが強く条件付けられ、国際的枠組みの構築が無ければ目標も無くなるかのように読めること。こうした条件付けは、国際的枠みの構築自体を妨げる恐れがある。
  • 排出量取引制度について、確実な排出量削減を担保できる総量方式だけでなく、排出量が増えてしまう可能性のある原単位方式も検討に挙げられていること
  • 持続可能なエネルギー源とはいえない原子力発電の推進が主要対策としてうたわれていること
  • 「経済の成長」よりも「持続的に発展できる社会」を重視した環境基本法の理念が活かされず、経済成長に固執した文言が繰り返されていること

以上の4点も含め、現行の基本法案にある問題点については、別に「『地球温暖化対策基本法案』の問題点に関する注釈(コンメンタール)」という形でまとめた。今後の議論の中で、法案に関するこれらの問題点について改善がなされ、次期臨時国会において法案が成立することを期待したい。

ただし、基本法はあくまで対策の基本的方向性を示すものであり、それさえ成立すれば十分というわけではない。具体的な政策に関する議論は、基本法案とは別にすぐにでも進めなければならない。具体的な政策の整備が遅れれば、それだけ、日本を温室効果ガス大量排出型の経済構造に、固定してしまう危険性が高まるからである。

排出量取引制度、固定価格買取制度、炭素税(地球温暖化対策税)といった主要政策に加え、家庭・業務・運輸といった個別分野での政策に関する議論を、互いの整合性をとりながら進めていくことが期待される。

WWFジャパンは、本年3月に『脱炭素社会に向けたポリシーミックス提案』を発表しており、その中に含まれる排出量取引制度を始めとする諸政策の具体案は、この議論に重要な貢献ができると信じている。

もとより、基本法の成立は1つの通過点でしかない。それは大事な通過点ではあるが、日本が低炭素社会を早期に達成し、より野心的な"脱"炭素社会へと向かっていくための一里塚でしかない。世界で顕在化する気候変動の影響によって、人々が苦しみ、生態系はバランスを失いつつある。この人類史上未曾有の問題に対する世界的な取り組みの中で、日本が、お題目ではなく真の意味で大きな役割を果たすことは、現状の延長線上にある政策・対策では絶対に無理であり、日本社会のあり方そのものを変えていく覚悟が必要である。

基本法案は、2020年までに25%削減、2050年までに80%削減という目標をまがりなりにも設定することで、その大変革へ向けてきっかけを作る内容にはなっている。今後、市民に対して開かれた議論の中で、政府がその実現へ向けての政策をしっかりと整備していくことが不可欠である。

■本声明に関する問い合わせ先:
WWFジャパン 気候変動プログラム
Tel: 03-3769-3509 Email: climatechange@wwf.or.jp

参考資料

添付資料:「地球温暖化対策基本法案」の問題点に関する注釈(コンメンタール)

法案記載内容解説
目的 第一条「この法律は、気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガス濃度を安定化させ地球温暖化を防止すること及び地球温暖化に適応することが人類共通の課題であり」 「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準」という表現は、国連気候変動枠組条約の「究極目的」をなぞった文言と推測されるが、近年の国際的な議論動向を踏まえ、より具体的な気温目標についても言及するべきである。すなわち、「産業革命前の水準と比較して、地球全体の平均気温の上昇を2度未満に抑制する」というような表現を入れるべきである。
第一条
「地球全体における温室効果ガスの排出の量の削減に貢献するとともに」
上述の「地球全体の平均気温上昇を2度未満に抑制する」という目標を達成するためには、世界全体の温室効果ガス排出量を2015年までにピークさせ、その後は減少傾向に転じさせなければならない。そうした認識もこの条項には必要である。
第一条
「環境基本法の基本理念にのっとり、」
  • 第一条の左記の文言にもかかわらず、続く同じ文の中に、「経済の成長」(第一条)、および「基本原則」の項の中には「経済の持続的な成長を実現しつつ」(第三条)とある。これらの文言は、環境基本法の基本理念にのっとっていない。環境基本法の基本理念(注1)では、環境の保全をすすめるには「健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら、持続的に発展することができる社会を構築する」ことと規定している(環境基本法第4条)。
  • ここでいう「健全な経済の発展」とは、資源、エネルギーにおいて効率化をすすめ、大量消費、大量生産、大量廃棄の社会を見直し、環境への負荷の少ない社会に転換していくことを意味している。「発展」とは「成長」と同じ意味ではなく、質的な向上が念頭にある。
  • 「経済の持続的な成長」と、「持続可能な社会の発展」とは異なる考えである。環境基本法でいう「持続的に発展できる社会」とは、人類の存続が環境を基盤としており、その環境は限りあるものであることから(環境基本法第3条)、環境の保全が可能な範囲で持続的に発展できる社会である。
基本原則 第三条
「経済の持続的な成長を実現しつつ、温室効果ガスの排出の量を削減」
  • 上記の通り、環境基本法の基本理念を踏まえる、「経済の持続的な成長」ではなく、「持続的に発展できる社会」の実現が目指されなければならない。
  • 環境基本法の基本理念にある「持続的に発展できる社会」の考えは、1992年の環境と開発に関する国際連合会議(地球サミット)のときに広く取り上げられ合意された「持続可能な発展」の考えを踏まえている。その意味は、「人々の生活の質的改善をその生活支持基盤となっている各生態系の収容能力限度内で生活しつつ、達成すること」である。「持続可能な経済」は「持続可能な発展」の結果得られるものである。国際社会はこの考えを共有し、気候変動枠組み条約や生物多様性条約を制定した(注2)。世界の共通認識は「持続可能な社会」をめざすことであり、「経済の持続的な成長」ではない。
  • 日本では、2008年に制定・施行された生物多様性基本法も、環境基本法の基本理念にのっとっている(注3)。
  • 環境基本法の基本理念は、我が国の公害対策から始まった環境問題の歴史上もっとも大きな価値観の転換といっても過言ではない。1967年に公害対策基本法が制定され、1970年の改正時に経済調和条項が削除されたときが、それまでの環境保全は経済の枠内でおこなうものとの考えを転換したときである(注4)。
  • さらに、環境基本法が、限りある環境(第3条)のなかで経済を発展させるとの考えを取り入れた時点で、環境が保全される範囲で経済を発展させるという、第2の価値観の大転換があった。環境基本法は、あくまでも環境を基盤としつつ、経済を環境に適合させる形で環境と経済を統合することを示している。
温室効果ガスの排出の量の削減に関する中長期的な目標 第十条
・温室効果ガスの排出量を2020年までに25%、2050年までに80%削減(世界全体の排出量を少なくとも半減する目標をすべての国と共有するよう努める)
・すべての主要な国が、公平かつ実効性のある国際的枠組みを構築し、意欲的な目標に合意した場合を前提
  • 地球温暖化による世界の気温上昇を、産業革命前と比較して2度未満に抑制する旨を記載すべきである。
  • 現状の文言では、国際的枠組みの構築を25%削減目標の前提条件としており、国際合意がなければ、国内の温室効果ガス排出量削減目標が設定されないと読むこともできてしまう。
  • 公平かつ実効性のある国際的枠組みの構築自体は必要なことである。しかし、自国の削減目標の成立条件にそれを掲げることは、国際交渉の中で消極的な姿勢として受け止められ、他国の姿勢にも悪影響を及ぼし、却って国際的な枠組みの構築自体を阻害してしまう恐れがある。
  • また、こうした条件付けは、環境基本法の基本理念にある「国際的協調の推進」(第5条)にも反する。我が国の経済社会は国際的な密接な相互依存関係の中で営まれていることから、国際社会における我が国の占める地位に応じて、国際的協調の下に地球環境保全を積極的に推進することを明示している。すなわち、我が国の経済社会が海外の環境に大きく依存していることを前提として、国際的に協調し、積極的に推進していくことが求められている。
  • 中長期の目標を基礎として、英国の気候変動法でも採用されているカーボン・バジェット(炭素予算)の概念を採択するべきである。2020年や2050年という特定の年での目標はもちろん重要であるが、そうした「断面」だけに着目するのではなく、2050年までの「期間」に、一体どれだけの温室効果ガス排出量が許される(削減が求められる)のかを量的に把握し、それをある種の予算として扱って管理することが必要。今後講じる全ての政策・対策・施策は、炭素予算の収支を十分に考慮したうえで、制度設計を行うものとする。そして、その予算は、気候変動の最新の科学によって見直され、修正が行われるものとする。
再生可能エネルギーの供給量に関する中期的な目標 第十一条
一次エネルギーの供給量に占める割合を2020年までに10%に
再生可能エネルギーに水力やバイオマスが含まれているが、今後の再生可能エネルギーの促進においては、新規の大規模ダム式水力や、食糧と競合するなど、持続可能でないバイオマスは除外されるような条項があることが望ましい。また、ヒートポンプ(空気熱)は省エネ技術として推進されるべきではあるが、再生可能エネルギーの範疇に含めるべきではない。
基本計画 第十二条
所掌大臣は目標や政策を定めた基本計画の案を作成し、閣議決定を求める
  • 基本計画は、2050年長期目標達成へ向けた大きな方向性を示す計画と、2020年中期目標達成へ向けた具体的な政策・対策を示した詳細な計画の2種類から構成されるものとするべきである。
  • カーボン・バジェットの維持および適応対策に関する科学的知見に基づいた助言を行う機関として、気候変動委員会を設立するべきである。同委員会は、自然科学、社会科学などにおいて優れた学識を有する者、及び気候変動を専門とする環境市民団体の代表者などの専門家から構成され、政府に対して、第三者的な立場から助言を行う。政府は、その助言を参考にしなければならない。
基本的施策

第十三条
「国内排出量取引制度の創設」
・法律施行後一年以内を目処に成案
・排出量の総量目標を基本としつつ、原単位目標についても検討

第十四条
「地球温暖化対策税の検討と税制全体の見直し」
・平成二十三年度の実施に向けた成案を得るよう検討

  • 排出量取引が環境政策として意味を持つのは、確実な総量削減につながるからである。その大前提を崩すような原単位方式の採用は避け、あくまで総量での削減ができるような制度としなければならない。ただし、総量での排出量限度を定める方式としての、ベンチマーク方式の採用は問題ない。
  • 現行の基本法案は、「個別の排出者の排出許容量」→「全体の排出許容量」という順に決めるボトムアップ型の排出量取引になる可能性がある。むしろ、「全体の排出許容量」→「個別の排出者の排出許容量」という順に決めるトップダウン型のキャップ&トレードを目指すべきである。そうでないと、1)「許容限度を定める方法」が排出者ごとの多種多様な事情に配慮しすぎた形で作られ、結果として、最も重要な「全体としての」削減量の確保が犠牲にされる、2)「キャップ」とは本来「全体の排出許容量」を指すが、個別企業の削減目標=キャップという誤った理解が助長され、制度に対する理解が妨げられる、といった危険性がある。
  • キャップ&トレードの対象は、主要な産業部門を含むものとし、特に大量に排出する電力部門をカバーできるよう直接排出を対象とすることを明記するべきである。エネルギー・産業部門を含まないキャップ&トレードは、著しく環境十全性を損なう。また間接排出を対象とすると、排出削減の責任があいまいになる恐れがあり、将来的に世界の排出量取引制度とリンクする際の整合性も難しくなる。間接排出に対しては、税などの形で、削減インセンティブを与える制度を考慮することができる(ポリシーミックス)
第十五条
「再生可能エネルギーに係る全量固定価格買取制度の創設等」
  • 技術的に実用化レベルに達している全ての再生可能エネルギーを(余剰分ではなく)全量買取対象とすることを明記するべきである。
  • 2011年度に制度を開始することを明記するべきである
  • 一定規模以上の建築物の設置に対して、太陽光発電などの再生可能エネルギーの利用を検討するべきである
第十六条
「原子力に係る施策等」
国民の理解と信頼を得て、原子力を推進
  • 従来の温暖化対策は原子力発電の推進に大きく傾倒し、省エネ・燃料転換・再生可能エネルギー普及を先延ばしにしてきた。その結果、1990年以降、我が国の総排出量は大幅に増加し、気候変動対策の遅れへとつながった。今後の原子力の位置付けは、このような過去の教訓を十分に踏まえる必要がある。
  • そもそも原子力推進の背景には、核燃料サイクルによるエネルギー自給率向上の意図があった。しかし、現実にはもんじゅのナトリウム漏れ事故により、高速増殖炉技術は先行きが極めて不透明であり、代替技術として浮上したプルサーマルも、燃料として使用するMOX燃料の製造を海外に依存している。高レベル放射性廃棄物の最終処分場の技術的目処も立っていない現状では、原子力は、温暖化対策・エネルギーの安定供給のいずれの観点から見ても、優先すべき選択肢とはいいがたい。
  • 原子力発電については、これらの状況をきちんと国民に説明した上で、費用対効果、安全性、実現性など総合的な観点から、その必要性について国民的議論・見直しを行うべきである。
第十七条
「エネルギーの使用の合理化の促進等」
  • 家庭での排出量削減を促進する制度として、家庭での省エネを診断・助言するサービス(省エネコンシェルジュ)を制度として導入することを検討するべきである。(注5)
  • 東京都が実施している排出量取引制度や英国のCarbon Reduction Commitment 制度のように、業務部門の間接排出量に対して、通常の国内排出量取引制度とは別の排出量取引制度の導入を検討するべきである。(注5)
  • 新築の建築物・住宅および増改築の際に、省エネ等の基準を満たすことを義務付けるべきである。"
第十八条
「交通に係る温室効果ガスの排出の抑制」
  • 自動車からの排出量削減について、現状の文言は「自動車の適正な使用の促進及び道路交通の円滑化の推進」のみが挙げられており、燃費規制などの自動車単体についての政策の必要性が述べられていない。燃費規制に替わるCO2排出量に関する基準の創設等を今後議論していくことが必要であり、そのためには、自動車そのものについての政策の必要性が言及されるべきである。
  • また、運輸部門については、燃料の購入段階に制度を導入することで、通常の排出量取引制度とは違った形での排出量取引制度を導入する可能性を検討することも必要である。したがって、「運輸部門の特性に配慮した排出量取引制度の導入の検討」も条項として入れるべきである。(注5)"
国際的強調のための施策 第二十九条
・すべての主要な国が参加する公平かつ実効性が確保された国際枠組みの構築を図る
・技術及び製品の提供を通じた自国以外の地域における排出抑制等への貢献を適切に評価する仕組みの構築
  • 国連気候変動枠組条約の「共通だが差異ある責任及び各国の能力」の原則に則った上で、国際枠組みの構築に積極的に貢献していくべきである。
  • 国外における排出抑制への貢献については、日本の排出削減にカウントするために、途上国自身にも実施可能な安価な排出削減機会を奪ったり、地球全体の排出削減の観点においてダブルカウントなどが生じることがないよう、慎重な制度構築が必要である。また、日本が火力発電所等を提供することによって、そのような技術を経ずによりクリーンなエネルギー源を途上国が導入する芽を摘んでしまうことがないようにすべきである。さもなければ、単なる公害輸出となってしまう。

(注1) 環境基本法は基本理念として3つの原則を掲げている。(1)環境の恵沢の享受と継承、(2)環境負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築、(3)国際的協調による地球環境保全の積極的推進である(第3、4、5条)。条文は以下のとおり。

(環境の恵沢の享受と継承等)
第三条  環境の保全は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること及び生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っており人類の存続の基盤である限りある環境が、人間の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じてきていることにかんがみ、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように適切に行われなければならない。

(環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築等)
第四条  環境の保全は、社会経済活動その他の活動による環境への負荷をできる限り低減することその他の環境の保全に関する行動がすべての者の公平な役割分担の下に自主的かつ積極的に行われるようになることによって、健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会が構築されることを旨とし、及び科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として、行われなければならない。

(国際的協調による地球環境保全の積極的推進)
第五条  地球環境保全が人類共通の課題であるとともに国民の健康で文化的な生活を将来にわたって確保する上での課題であること及び我が国の経済社会が国際的な密接な相互依存関係の中で営まれていることにかんがみ、地球環境保全は、我が国の能力を生かして、及び国際社会において我が国の占める地位に応じて、国際的協調の下に積極的に推進されなければならない。

(注2)1992年の地球環境サミットで「持続可能な開発」の言葉が用いられた。「生態系の支える環境収容力の範囲内で暮らしつつ、人間生活の質を向上させること」としている。WWFは、1991年、IUCN、UNEPとともに、「新・世界環境保全戦略 かけがえのない地球を大切に」を発表し、環境を圧迫している自然資源の消費をくい止め、持続可能な社会を実現するための9つの原則と、より具体的な132の行動規範をまとめた。

(注3)生物多様性基本法の第3条(基本原則)は、「生物の多様性の利用は、社会経済活動の変化に伴い生物の多様性が損なわれてきたこと及び自然資源の利用により国内外の生物の多様性に影響を及ぼすおそれがあることを踏まえ、生物の多様性に及ぼす影響が回避され又は最小となるよう、国土及び自然資源を持続可能な方法で利用すること」と規定する。また、その前文には、「生物の多様性への影響を回避しつつ、その恵沢を将来にわたり享受できる持続可能な社会の実現に向け、踏み出さなければならない」と規定している。ここでも、めざすは「経済の成長」ではなく、「持続可能な社会の実現」である。

(注4) 1960年代後半、水俣病、イタイイタイ病など深刻な公害が社会問題となり、1967年に公害対策基本法が制定された。当時は、環境保全よりも経済発展を重視する考え方が強かったため、条文には「生活環境の保全については、経済の健全な発展との調和が図られるようにするものとする」(第1条第2項)という、いわゆる「経済調和条項」がおかれていた。これは産業界において、公害対策の負荷がかかると、経済成長において国際的な競争に負けるのではないかとの不安から、生活環境の保全と、経済の健全な発展との調和を図るものとされた。
しかし、1970年の公害対策基本法の改正時に、この調和条項は削除された。これは、ややもすれば経済成長優先のなかで公害の対策をおこなう考えからの転換であった。
さらに、1992年に開催された地球サミットのテーマである「持続可能な開発」という概念が、1993年に制定された環境基本法の基本理念に取り入れられた。すなわち、経済と環境の関係は、「経済成長か環境保全か」という対立したものと捉えるのではなく、人類の存続自体が環境を基盤としており、限りある環境のなかで経済を質的に発展させていくとの考えである。

(注5) WWFジャパンの『脱炭素社会に向けたポリシーミックス提案』を参照
/torihiki

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