地球温暖化対策に関する選択肢原案に対する意見書


意見書 2012年5月31日

中央環境審議会 地球環境部会 2013年以降の対策・施策に関する検討小委員会 委員各位

拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
エネルギー環境会議へ提出されるエネルギー選択肢の原案が、5月28日総合資源エネルギー調査会基本問題委員会から出されました。

エネルギー選択肢案に合わせた形で、6月上旬には貴部会から「地球温暖化対策の選択肢の原案」が提示されると聞いております。原子力委員会から出される選択肢案を合わせて、最終的にエネルギー・環境会議から提示される選択肢は、国民的議論の過程できちんと国民が意思を表明できるように、多くの国民が支持する選択肢を提示する必要があります。

しかし、今までの3つの委員会における議論の過程においては、既存のエネルギー政策を温存しようとする力が強く、安全で温暖化も促進しないエネルギーへ大胆にシフトする選択肢が弱められようとしていることに、WWFジャパンは強い危惧を抱いています。

WWFジャパンは、総合資源エネルギー調査会基本問題委員会から提示された選択肢案の原発比率を基として出されようとしている貴部会の選択肢案に向けて、以下の意見書を提出します。
ご高配のほど、よろしくお願い申し上げます。

公益財団法人世界自然保護基金ジャパン
(WWFジャパン)事務局長 樋口隆昌

 

(1)非現実的な原発の選択肢を残さないこと

「エネルギーミックスの選択肢の原案」では、2030年時点での電力における原子力発電の比率を0%、15%、20~25%で選択肢3案と、外部コストを入れて需要家の選択にまかせる選択肢1案の計4案が提示されています。

しかし、20%以上の選択肢は、原発の新設やリプレース、稼働年数を50年以上としたり、稼働率を上げたりする(=検査期間を短くする)ことを前提としています。既存の原発をより高い負荷で長く使用し、さらに新設することは、「脱原発依存」の方針と大きく異なるばかりではなく、福島原発事故を経た国民感情と著しくかけ離れており、現実的ではありません。

地球環境部会から提示する選択肢は、少なくとも新規増設なしの場合の10%~15%を上限の選択肢として、20~25%案は選択肢からはずすべきです。必要ならば、15%案を「脱原発の意思」か「一定比率維持する」のか「決定を先送りする」のかについて、別途選択肢として提示することが考えられます。(イメージ図参照)

(2)原発は温暖化対策ではない:原発と温暖化対策がトレードオフであるような見せ方をすべきでない

今までの日本では原発が地球温暖化対策であると強弁し、原発に頼るあまり温暖化対策を放置してきました。

「エネルギーミックスの選択肢の原案」においても、各原発比率によって参考としてエネルギー起源CO2の排出量が付記されており、あたかも原発比率によってのみ排出量が決まるような大きな誤解を国民に与える書き方がされています。

多大な環境負荷を与える原発はそもそも温暖化対策にはなりえません。地球環境部会から出す温暖化の選択肢においては、真の温暖化対策である省エネや再生可能エネルギーによる対策の強度によって、温室効果ガス排出量が変わることを示す選択肢の出し方をするべきです。

(3)温暖化対策は省エネの強度で決まる:省エネの強度を選択できる選択肢を出すべき

「エネルギーミックスの選択肢の原案」では、54つの選択肢すべてにおいて、2030年の電力は2010年比10%削減、一次エネルギーでは20%削減を一律としてしまいました。電力の選択肢のみで議論が終始しましたが、本来一次エネルギー全体の省エネをどの程度努力したいかこそが、選択肢となるべきです。

温暖化対策は、大幅な省エネと大規模な再生可能エネルギーの急速な普及にあり、省エネ率を一定におくエネルギー選択肢では、温暖化対策の選択肢を国民に提示することにはなりません。

したがって地球環境部会においては、温暖化対策の選択肢を与えるために、温暖化対策の強度によって分けた選択肢を提示するべきです。

これまでの議論では、省エネルギーを含む温暖化対策の強度について、低位・中位・高位という3ケースが想定されており、国立環境研究所の試算では、2030年の最終エネルギー消費量は2010年に比べて低位ケースで15%減、中位ケースで20%減、高位ケースで23%減となっています。

具体的な選択肢としては、原発0%と高位の省エネルギー対策の1案、原発15%と中位と高位の省エネルギー対策をそれぞれ組み合わせた2案を作り、合計3案とするべきです。それに外部コストを入れて需要家の選択にまかせる案と合わせて計4案になります。

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(4)温暖化対策を行わないという選択肢をはずすこと

現状維持のままで新たな対策をとらないという低位ケースは温暖化対策ではありません。

細野大臣が「世界最高水準の省エネ」「後塵を拝した再エネを世界最高水準に引き上げ」を明確に指示して始まった議論の結果として、新たな対策をとらないケースを地球温暖化対策の選択肢原案に含めることは大臣の意思にも反することです。

国際エネルギー機関によると、2035年までに許容されるエネルギー起源CO2総排出量の5分の4はすでに既存の資本ストックに固定化されており、2017年までに新規の厳格な温暖化対策をとらなければ、その時点で導入されているエネルギー関連インフラが、2度未満を実現するために許容されるCO2のすべてを排出してしまうと警告しています。

温暖化対策を遅らせることは致命的である中、「温暖化対策をしない」という選択肢を国民に提示することは、国際的にも無責任のそしりを免れません。

(5)対策の中の施策を吟味するべき:高位ケースの上乗せした最高ケースの提示も検討すべき

高位ケース、中位ケース、低位ケースと示されている対策に示されている施策は、選択肢案の議論の中では、くわしく検討されていません。

自動車、住宅・建築物、産業、エネルギー供給など各ワーキングループによって、高位・中位・低位ケースに属する施策の強度のバランスもとれておらず、素材4業種の生産工程にいたっては、高位・中位・低位ケースすべて同じ対策・施策となっている有様で、議論を尽くしているとは到底言えない状況です。

当該産業界のヒアリング結果のみを鵜呑みにするのではなく、中身の施策を吟味した客観的な対策提示が必要です。

なお、WWFジャパンが2011年7月に発表した「脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案〈省エネルギー編〉」では、2030年に2008年比で32.7%減(2010年比では33.3%)最終エネルギー消費量を削減可能であることを示しています。

上記対策高位ケースよりも、10%前後さらに省エネを進める余地があり、さらなる対策の深堀りが可能である根拠を示しています。したがって、各施策を吟味した上、温暖化対策を最大限行いたいと考える国民が選択できる対策「最高ケース」の提示も検討するべきです。

(6)再生可能エネルギーの導入は最大限目指すのが必然:電力システム改革の必要性

地球環境部会における再生可能エネルギーの割合は、対策・施策から割り出されており、最初から割合が決められた「エネルギーミックスの選択肢」とはやり方が異なって、対策によって結果として高位で35%、中位で31%と示されています。

しかし温暖化対策の柱である再生可能エネルギーに関しては、最大限の対策で最高水準の導入を目指すのが必然です。

WWFジャパンが2011年11月に発表した「脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案〈100%自然エネルギー編〉」における想定のように、これから目指すべき再生可能エネルギー中心の社会の究極の姿として、2050年に100%を目指すと仮定すれば、2030年頃には、電力の6割を超える割合を再生可能エネルギーでまかなっていることが必要です。

再生可能エネルギーに関しては、固定価格買い取り制度の導入がされた今、最大の障害である電力システムの改革が、どの程度進むかが決め手となります。

「エネルギーミックスの選択肢」には、既存の電力システムを温存することを前提とした大規模集中型の選択肢が残っていますが、地球環境部会から出す選択肢にはそれはあり得ません。

したがって、エネルギー供給ワーキンググループの提言に基づいた系統安定化策を可能とする電力システム改革の必要性について、強く踏み込んだ提言を選択肢に盛り込むべきです。

(7)経済モデルによる計算結果の見せ方は、前提条件を明らかにし、特定の利益に誘導する提示をしないこと

エネルギーミックスの選択肢と合わせて、温暖化対策の選択肢においても、技術モデルと経済モデルによって、対策の効果や経済への影響など多くの情報が示されました。

しかし、モデルは経済成長率や主要素材の生産量などに一定の前提をおいて検討するものであり、前提次第で結果が大きく異なるものです。

また現状の産業構造の延長線上で考えるため、新しい産業の創出や新たな経済効果を十分に反映しているとは言えず、低炭素社会へ大きく舵を切る選択肢を評価するには、そうしたモデルが持つ限界を十分に踏まえる必要があります。

2009年の麻生政権の際に、温暖化の目標選択にあたって、家庭の負担額を誤った手法で見せるなど適切ではないモデルの見せ方による誘導が見られましたが、同じ過ちを繰り返すべきではありません。

したがって前提などを明示し、モデルができることや限界を示したうえであくまでも参考として提示するべきです。その提示の仕方には利害関係のないコミュニケーションのプロを使うような工夫が考えられます。

(8)温暖化対策の法的な位置づけを与えること

エネルギーの選択結果は、エネルギー政策基本法によって法的な位置づけが明確ですが、温暖化対策には、地球温暖化対策基本法が実現していない中、法的な位置づけが明らかではありません。

国民的議論を経ての決断となる中期目標や施策には、着実に実行していくための強い法的な位置づけが必要です。

そのためにも早く地球温暖化対策基本法の制定が必要であり、制定までは実効力を担保していく施策が早急に求められます。

(9)2020年目標を同時に検討して結論を出すこと:国際公約した25%を提示する努力をするべき

2030年を中心とする議論が進んでいますが、温暖化対策を遅らせる余裕はありません。国際交渉で焦点となっている2020年目標も早急に示すべきであり、2030年目標と同時に提示していくことは必然です。

(4)で述べたように、世界的な温暖化対策の中で遅れが生じれば、温暖化の進行を食い止めることはより困難になります。日本が2020年目標を軽視することは、その直接的な影響に加え、他国の姿勢にも影響を与え、その致命的な「遅れ」に更に拍車をかける可能性があります。

京都議定書の第2約束期間を事実上拒否した日本が、さらに2020年目標の提示を遅らせ、カンクン合意の実施にすら後ろ向きというのは国際的にも許されるものではありません。

また目標の引上げが国際交渉の中心となっている中、少なくとも国際公約した2020年25%削減目標の提示に向けて最大限努力するべきです。

(10)オフセットと国際貢献分を分けた検討を織り込むこと

日本が、先進国全体に必要とされる25〜40%(2020年)の排出量削減に貢献していくにあたっては、出来得る限り国内削減をもって貢献するべきですが、現実的には届かない可能性も考える必要があります。

その差分については、日本が本来削減するべき量を海外で削減する量、つまりオフセット分として、明示的に検討することが必要です。

この上で、更に、一種の国際貢献として、市場メカニズムや(今後作られるかもしれない)非市場メカニズムを通じて削減する分を上乗せすることも検討されるべきです。

2020年ごろに必要となってくる途上国への資金・技術援助の資金源の議論が大きな関心となっている中、資金源議論に貢献していない日本が、国際的な支援の分野における貢献の遅れを挽回する1つの方策として検討するべきです。

地球環境部会においては、まだこうした国内削減分以外の削減量の話は議論が進んでいませんが、温暖化の選択肢を提示した後の地球環境部会において、集中的に議論を進めていくことが考えられます。2012年末のドーハCOP18においては一定の考え方を示すことができるようにするべきです。

また、2013年以降も国際的なルールを順守した形で、こうしたオフセットや国際貢献分についても貢献していく姿勢を示すべきです。

 

以上10項目について、WWFからの意見を提示させていただきました。
ご高配をいただき、十分にご検討くださいますようにお願い申し上げます。

 

WWFジャパンのエネルギーシナリオ

 

■本件に関するお問合せ先:

WWFジャパン(公益財団法人世界自然保護基金ジャパン)  気候変動・エネルギーグループ 

〒105-0014 東京都港区芝3-1-14 日本生命赤羽橋ビル6F
Tel:03-3769-3509 Fax:03-3769-1717  climatechange@wwf.or.jp

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