辺野古・大浦湾の埋立て工事及び環境保全措置に関する要請


要請書 2014年9月25日

内閣総理大臣 安倍晋三 様
環境大臣   望月義夫 様
防衛大臣   江渡聡徳 様

(公財)世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
会長  德川恒孝

拝啓

時下、益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。

我が国の南西諸島は、地球上でもとくに重要な生態系を有している場所として、「世界環境保全戦略」(UNEP、IUCN、WWF 1980年)、「グローバル200」(WWF 2003年)、「南西諸島生物多様性評価プロジェクト」(WWF 2009年)などにおいて、その保全価値の高い地域として指定されています。WWFジャパンは、1983年より南西諸島での自然環境や野生生物の調査研究を実施し、生物多様性保全の視点から地域の保全活動やその体制づくりを支援してきました。一方で、林道を含む道路、空港、港湾、ダム、農用地や軍用地の造成といった公共工事による環境を大きく改変する事業は続いており、生態系への影響はとどまる兆しがみられません。

現在、辺野古新基地(普天間代替施設)建設に向けたボーリング調査が、辺野古・大浦湾海域において行われています。この海域は、沖縄県において最大の海草藻場を有し、アオサンゴ群集の生息の北限と考えられることや、多くの新種が見つかった甲殻類をはじめとした希少な生物が生息する、まさに生物多様性の宝庫です。環境省が公表している、絶滅のおそれのある野生生物の種の生息状況等を取りまとめたレッドデータブックによれば、我が国に生息するジュゴンは最も緊急性の高い絶滅危惧ⅠA類に指定されています。この建設計画の環境影響評価書においても、ジュゴンの残りわずかな個体が建設計画対象地域を含む海域に生息していることが認められており、現政権の対応次第では近い将来、絶滅したニホンオオカミやニホンカワウソと同じ道をたどる懸念があり、重要な岐路にある状況です。 このためWWFジャパンは、対象海域の生物多様性保全の観点から、現在進められているこの辺野古新基地(普天間代替施設)計画において、その手続き及び調査を含む工事を中止し、改めて十分な保全措置の検討を行うことなど、下記の内容について要請いたします。

1. 環境影響評価報告書では、周辺の生物多様性豊かな沿岸環境のシンボルともいえるジュゴンについて、この海域を利用する可能性は小さいと結論づけたものの、最近になり多数の食痕が見つかるなど、事前に行われた環境影響評価書での調査を基にした影響予測と評価及び環境保全措置は、甚だ不完全なものと言わざるを得ません。IUCN(国際自然保護連合)のアンマン会議(2000年)及びバンコク会議(2004年)での勧告、バルセロナ会議(2008年)でのジュゴンの保護決議を遵守するよう、現在進められている計画と調査を含む工事について即時の中断を求めます。

2. 辺野古・大浦湾周辺は地域住民にとって、生活の糧を得る場としてだけでなくサンゴ礁のクチや岩にも伝統的な呼称が付けられており、自然環境を基盤として生活や文化が育まれた文化的な遺産といえます。計画に対する住民の反対意見や首長である名護市長の意向を最大限に尊重し、手続きや工事を急ぐことなく、まず地域との合意を徹底して図ることを求めます。

3. WWFジャパンが実施した南西諸島生物多様性評価プロジェクトの結果、この地域において、30種類以上の甲殻類の新種が見つかるなど、優先的に保全すべき環境を有する地域と認められるとともに世界的にも重要な生物多様性のホットスポットです。このため辺野古・大浦湾海域における基地の建設を見直すとともに、この海域に海洋保護区を設置するよう要望します。

4. 環境影響評価の過程及び報告書は、内容の不備や保全基準との整合性に科学的根拠が欠けているなど、前述のとおり不完全な内容です。このことを鑑み、今一度、方法書の手続きに立ち戻り再度の評価実施を行うこと。併せて、我が国の環境影響の評価制度において、環境省が取りまとめた「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」(2007年)をもとに、諸外国同様に事業計画の段階から市民が検討に参加する戦略的環境アセスメント(SEA)の法制化を図ることを求めます。

世界的にも貴重な南西諸島の自然環境を後世に残すため、以上の要請事項につき、なにとぞご高配の程、よろしくお願いいたします。

敬具


■この件に関する問合せ

WWFサンゴ礁保護研究センター「しらほサンゴ村」(担当:権田)
masayuki@wwf.or.jp / TEL(0980-84-4135) / FAX(0980-86-8865)

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