放射能汚染による海洋環境への影響調査を


東日本大震災を受け、現在行なわれている東京電力福島第一原子力発電所からの放射能汚染水の海洋への放出・流出は、水産業に深刻な影響を与えるとの懸念が国内外に広がっています。被災地の復興を実現する上で、地域産業の大きな柱の一つである水産業の復興は欠かせません。また、そのためには、豊かな海の生物多様性を保全しなくてはなりません。今回の放射能汚染水の放出・流出による海洋汚染について、WWFジャパンは次のように考えます。

国内外の懸念に答えられる海洋生態系モニタリングの実施を

東京電力は、2011年4月4日付けの記者発表資料で、低レベル放射能汚染水を放出の理由を「高レベル汚染水の管理貯蔵スペース確保のため」とし、海洋への放出に伴う影響としては、一般公衆が自然界から受ける年間線量(2.4ミリシーベルト)の4分の1であると説明しています。

また、日本政府は、放射性物質の漏えいを止めるまでには月単位の時間がかかるとの見通しを示していますが、こうした事態が、海洋生態系や人にどのような影響がおよぶかは、明らかにされていません。

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実際に影響を把握するためには、包括的かつ長期的なモニタリング(調査)が必要となります。
そしてすでに、文部科学省、東京電力、千葉県、茨城県などでは、こうした放射性物質の海洋モニタリングを個別に行なっていますが、情報が一元化されていないことをはじめ、この現状にはいくつかの問題点があります。

  • 情報が一元化されておらず、情報公開が不十分であること
  • 水産物に対して設定された規準の科学的根拠があいまいであること(野菜類の暫定規制値の準用など)
  • 検査対象の海域が原子力発電所の周辺のみに限られていること
  • ヨウ素とセシウム以外の放射性物質については検査がなされていないこと
  • 検査されていない生物種(プランクトンなど低栄養段階の生物種、海藻、海草類、そして鯨類・鰭脚類(オットセイなど)・海鳥類など高次捕食者)が多いこと 

調査活動の開始と情報周知の徹底を

現在政府には、国内の食の安心と安全を確保すること、そして、放射能の影響による風評被害を抑制することが緊急に求められていますが、これと同時に、水産業の復興に向けた長期的な調査活動と、生物多様性の保全も、今後に向けた取り組みとして着手する必要があります。

また、今回の放射性汚染水の放出にあたっては、日本政府は国際法に触れないと解釈していますが、今後、原子力発電所からの放射性物質の漏えいをくい止め、安定化、安全化を図っていく過程で、さらに汚染水の放出が深刻化する可能性も考えられます。

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そして、周辺諸国や関係省庁、また影響を受けると思われる利害関係者への事前周知が不十分であった点については、すでに批判が出始めているほか、放 射性物質に関する人体や生物への影響に関する知見や情報が一般市民へ十分に伝わっていないこと、そのために消費者や流通業者が適切な判断が出来ず、健康に 影響のない水産物への買い控えがおこり、被災地域の水産業の復興の妨げとなっていることも、大きな問題です。

日本政府は、国際的な信頼を回復し、水産業への被害を最小限にするためも、関係者への事前周知を行ない、予防原則、科学的根拠に基づいたリスクコミュニケーションを徹底する必要があります。 

生物多様性条約締約国議長としての責任も

また、生物多様性を保全するという観点からも、日本には責任があります。日本は現在、世界193カ国が批准する生物多様性条約の議長国です。

2010年10月に名古屋で開催された締約国会議で採択された「海洋と沿岸の生物多様性保全」および「2020年目標と新戦略計画(愛知目標)」においては、海洋生物資源について生物多様性に配慮して持続的に利用するための適切な措置をとることが求められました。

この中では、脆弱な生態系に対する漁業の深刻な影響をなくし、資源、種、生態系への漁業の影響を生態学的な安全の限界の範囲内に抑えられることも求められています。

何より、豊かな海洋生態系を利用する水産業は、東日本大震災からの復興の基盤となるものです。特に沿岸で被災した6県は漁獲量だけで日本の水産業界全体の約23%を、養殖業では27%の大きな割合を占めています。

生物多様性の保全に取り組むWWFジャパンとしても、海洋生態系を持続的に利用する水産業の復興支援に、積極的に貢献していきたいと考えています。

 

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