【動画あり】COP23現地報告:「アメリカの責任」を果たす非国家アクターの動き

この記事のポイント
2017年11月6日から、ドイツで開かれている国連の気候変動会議「COP23」。世界各国の政府代表が集まり、温暖化防止の新しい約束「パリ協定」のこれからを話し合うこの重要な会議の場で今、「非国家アクター」と呼ばれるさまざまな人の集まりが注目を集めています。11月11日には、アメリカの非国家アクターによる報告書の発表がありました。協定からの離脱を宣言したトランプ大統領の意図とは裏腹に、アメリカの非国家アクターは「パリ協定と共に歩む」意思を明確に示しています。現地のCOP23会場よりその動きをお伝えします。

「パリ協定離脱」がきっかけに

ドイツのボンで国連気候変動枠組み条約の締約国会議「COP23」が開幕してから7日目を迎えた11月11日の朝。

氷雨の降るなか、多くの参加者が「アメリカ気候行動センター」前の長い行列に加わりました。

傘のある人は傘を差し、傘のない人は雨に濡れながら。

気候変動に関するCOP(締約国会議)史上初めて、アメリカの非国家アクターがその取り組みをまとめた報告書を発表し、国連に提出するイベントが開催されるからです。

ドイツ政府が出展しているパビリオン

フィジー政府が出展しているパビリオン。各国政府や自治体、企業、NGOなどによる出展が数多く行なわれている。

「非国家アクター」とは、各国の政府以外の組織、つまり、企業や、地方自治体、大学などの学術機関、市民団体やWWFのような環境団体などの主体を言います。
トランプ大統領の意図に反して、パリ協定からの離脱宣言は、気候変動のない未来を願うアメリカの人々を「非国家アクター」という単位で結束させ、より積極的に行動させる役割を果たしています。
離脱宣言のわずか3日後には、州政府、自治体、企業、大学などが「WE ARE STILL IN(我々はまだパリ協定の中にいる)」というイニシアチブを誕生させました。
当初1,200だった、このイニシアチブへの参加団体は、15の州、455の自治体、1,745の企業、325の大学や研究機関など2,500を超え、今なお増え続けています。

もう一つのアメリカの「意思」

このイニシアチブの創設にはWWFアメリカが大きな役割を果たし、現在もコーディネイターの一員として活動しています。WWFアメリカのシニア・バイス・プレジデントであるルー・レナードは、その成立の背景を次のように語ります。

「パリ協定からの離脱を公約に掲げたトランプ大統領が当選した直後、アメリカ企業365社がパリ協定に留まるよう求める書簡を送りました。また、大統領が離脱を発表した当日には、15州が気候同盟を発足させるなど、イニシアチブの下地となる多くの行動がすでに生まれていました。

そして、離脱宣言が現実のものとなったとき、こうした行動が分野を超えて結集したのです」

アメリカ気候行動センターのパビリオン

アメリカは今も世界1位の経済大国であり、世界2位の温室効果ガスの排出国。しかしその中で、この「WE ARE STILL IN(我々はまだパリ協定の中にいる)」に参加するアメリカ国内の州政府や市など自治体は、総合すると同国の人口の50%、GDPの54%、温室効果ガスの排出量の35%を占めています。
これを仮に国に見立ててみると、経済力では世界3位、排出量では4位の国、ということになります。

日本と比較しても、人口では日本を上回り、経済力も2.5倍、排出量では2倍もの規模になります。
これらの「非国家アクター」の集合体である「WE ARE STILL IN」は、すでに国内でこれだけの影響力を持つ勢力になっている、ということです。

国連に届けられた「非国家アクター」の声

こうした連邦政府の代表ではない人々が、今回のCOP23でも、自分たちの温暖化対策を国際的に宣言して、削減目標を定量化していこうとする新たな動きを見せました。

その名も「アメリカの約束(America's Pledge)」。

これは「we are still in」に集結した、アメリカの各州政府が中心となり、自分たちの削減を定量化していくことによって、連邦政府の削減努力の不足を補おうとするものです

「アメリカの約束」の報告書

これには各州のほか企業などが参加し、それぞれの排出量や削減目標などを算出。その内容を第1次報告書としてまとめたのです。
そして、この報告書を発表する舞台として選んだのが、COP23でした。
トランプ大統領がパリ協定に背を向けても、多様な非国家アクターが力を合わせて、アメリカが「責任」を果たすことを、世界に向けて発信するために。

報告書の発表イベントの会場となる「アメリカ気候行動センター」も、イニシアチブのメンバーが開設。
通常はアメリカや中国、日本も含めて各国は、COP会場にパビリオンを設立して、自国の温暖化対策の取り組みや技術をアピールしており、アメリカもこれまでは、どこよりも大きなパビリオンを設立していましたが、COP23では、その出展を取りやめ。その連邦政府に代わって、イニシアチブが出展したのです。

イベントには、COP23の議長であるフィジーのバイニマラマ首相と国連気候変動枠組み条約事務局のエスピノーサ事務局長も駆けつけ、アメリカの非国家アクターの努力を歓迎するスピーチを行ないました。

その後、報告書はエスピノーサ事務局長に手渡されました。こうして非国家アクターによる取り組みが国連に提出されるのは初めてのことです。

COP23から未来に向けて

国連の気候変動特使を務めるマイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長は、「我々は、他の締約国と同じように、アメリカが約束した削減目標の達成をめざす。連邦政府が何もしなくとも、非国家アクターの力を結集して、すでに削減目標の半分を達成した」と実績を訴え、一年後の2018年には、より詳細な第2次報告書を出すことを発表しました。

こうした非国家アクターの取り組みをさらに加速させるため、カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事は、2018年9月に非国家アクターのサミットの開催を計画しています。

条約事務局長のパトリシア・エスピノーサ。「アメリカの約束」報告書はエスピノーサに手渡された

「アメリカの約束」発表イベントには世界中のメディアの注目を集めた

トランプ大統領の決断を非難し、パリ協定を守ろうと叫ぶことは簡単です。

しかし、地球の未来を考えるアメリカ社会の人々は、一つの国に匹敵する規模のつながりを築きあげ、連邦政府に代わって、オバマ前政権が掲げた削減目標を自ら達成するという困難な道を選択しました。
そして、その道を着実に進み、「パリ協定」を真に意味あるものにする取り組みは今、このCOP23の場で、一つ確かなものになろうとしています。

パリ協定を守るために立ち上がったアメリカの多様な非国家アクターの挑戦。
これが世界に勇気を与え、今後さまざまな国や地域で非国家アクターの取り組みを励まし、喚起していくことはまちがいありません。

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP