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APP(エイピーピー)社、エイプリル(APRIL)社関連情報

この記事のポイント
日本に多くの紙製品を輸出する国のひとつ、インドネシア。主にインドネシアのスマトラ島とカリマンタン(ボルネオ島インドネシア領)で、豊かな熱帯林を製紙原料調達と製紙原料となる木を植える植林地とするために開拓してきた製紙メーカーのAPP社とエイプリル社。現地で調査を行なうWWFインドネシアによれば、製紙産業のために破壊された自然の熱帯林は250万ヘクタールを超えるとされています。これは東京都の面積の約12倍に及ぶ広さで、その操業が周囲の環境や社会、そして地球温暖化(気候変動)問題に及ぼしてきた影響は計り知れません。

APP(エイピーピー)社、エイプリル(APRIL)社と熱帯林の消失

かつては鬱蒼とした熱帯の森に覆われ、今もスマトラトラやスマトラゾウ、スマトラオランウータンなど多くの絶滅危機種が生息する国、インドネシア。

このインドネシアのスマトラ島とカリマンタン島で、紙の原料調達のため、そしてアカシアやユーカリなどの製紙原料を植える植林地(プランテーション)として利用するために、長年にわたり自然林破壊を伴う事業を展開してきた企業があります。

1980年代から30年以上にわたり、200万ヘクタール以上の熱帯林がその操業のために破壊された、シナルマス・グループの製紙メーカー、アジア・パルプ・アンド・ペーパー社(以下、APP社)。

そして、同じく1990年代から操業を開始し、同様の問題が指摘されるロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループの製紙メーカー、エイプリル社です。

紙パルプ用の植林地開拓のための大規模な自然林破壊が、地平線まで広がる。破壊された森は、絶滅の危機に瀕する野生のトラも生息する希少な自然の熱帯林だった(インドネシア、スマトラ島)。
© Eyes on the Forest

紙パルプ用の植林地開拓のための大規模な自然林破壊が、地平線まで広がる。破壊された森は、絶滅の危機に瀕する野生のトラも生息する希少な自然の熱帯林だった(インドネシア、スマトラ島)。

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WWFインドネシアによれば、両社の操業による熱帯林の破壊は、深刻かつさまざまな問題を引き起こしてきました。

大規模な植林地開発により指摘されてきた問題点

野生生物への悪影響

© WWF-Indonesia

製紙用植林地で罠にかかった野生のトラと毒殺されたゾウ。野生生物の生息に関わる事前調査や生息地の保護など、自然環境への配慮を欠いた植林地管理が問題となっている。

土地の利用権をめぐる先住民族や地域住民との紛争

© KKI Warsi/Heri Doni

伐採された木材の上にたたずむ先住民族の子供たち。森とともに生きる先住民族の暮らしは自然林の消失とともに失われる。また、地域住民の強制的な立ち退き、暴力行為など地域住民の権利侵害も多数報告されている。

大量の温室効果ガス排出の原因となる泥炭地開発とそれに起因する火災と煙害

©WWF Indonesia

泥炭湿地を開発してつくられた製紙用植林地。海や川につながる水路を掘り排水を行なうことで、水分を多く含んだ泥炭土壌を乾燥させる。これにより地中に蓄積されていた炭素が大量の温室効果ガスとして空気中に放出される。しかも人工的に乾燥させた泥炭地は燃えやすく、乾期には火災と煙害が問題となる(インドネシア、カリマンタン島)。

グリーンウォッシュ(バランスを欠いた広報)

報告書「SMG/APP社グリーンウォッシュの裏側」 自然環境を損なうだけでなく地域住民との紛争が続く一方で、自社の環境、社会への貢献を主張する、その自己肯定的な姿勢への批判もある。

スマトラ島の自然林被覆推移。1985年時点では自然の熱帯林に覆われていたが、2018年までに、その約60%が失われた。主要因の一つに、製紙やパーム油といわれる植物油の一種の原料を得るための大規模なプランテーション開発がある。

スマトラ島の自然林被覆推移。1985年時点では自然の熱帯林に覆われていたが、2018年までに、その約60%が失われた。主要因の一つに、製紙やパーム油といわれる植物油の一種の原料を得るための大規模なプランテーション開発がある。©WWF Indonesia

スマトラ島中部に広がるブキティカプル森林景観。国立公園にも指定され、希少な森林生態系が今も残る希少な場所。しかし周囲にあった自然林は皆伐され、製紙原料となるアカシアやアブラヤシなどのプランテーションへ転換されている。
© Neil Ever Osborne / WWF-US

スマトラ島中部に広がるブキティカプル森林景観。国立公園にも指定され、希少な森林生態系が今も残る希少な場所。しかし周囲にあった自然林は皆伐され、製紙原料となるアカシアやアブラヤシなどのプランテーションへ転換されている。

自然の森を大規模に伐採した後につくられる植林地(手前)と奥に広がる自然の森。このような植林地に植えられる樹種は、成長が速く5〜7年で収穫が可能となる。植林地はこうした同じ種類の樹種ばかりが人工的に並び、多種多様な木々の存在する熱帯の森とは大きく異なる(インドネシア、スマトラ島)。
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自然の森を大規模に伐採した後につくられる植林地(手前)と奥に広がる自然の森。このような植林地に植えられる樹種は、成長が速く5〜7年で収穫が可能となる。植林地はこうした同じ種類の樹種ばかりが人工的に並び、多種多様な木々の存在する熱帯の森とは大きく異なる(インドネシア、スマトラ島)。

世界の消費を支えて 減少し続けるインドネシアの熱帯林 

世界中に紙製品や製紙原料を輸出し、ビジネスを拡大してきたAPP社とエイプリル社。

熱帯林減少と製紙原料調達の現場となっているインドネシアで、WWFインドネシアは誰が、どこで、いつ、何が起きているのかを調査する、森林モニタリング(監視)の活動に力を入れています。

「アイズ・オン・ザ・フォレスト」は、そうした活動に取り組む主体の一つ。

2004年にスマトラ島リアウ州の環境 NGO、フレンズ・オブ・ジ・アースのリアウ州オフィスと、ジカラハリ(リアウ森林レスキュー・ネットワーク)、WWF インドネシアが立ち上げたプロジェクトで、これまでにスマトラ島ジャンビ州やカリマンタンにもネットワークを広げ、残された自然林の状況をモニターし、世界に情報発信を行なっています。

©Eyes on the Forest

これと並行し、この問題のより根本的な解決に向け、世界のWWFネットワークが協働してさまざまな角度からの働きかけを行なっています。

具体的には、次のような国際的な取り組みがあります。

  • サステナビリティ(持続可能性)を重視するサプライチェーンの企業を増やすこと
  • 金融機関の責任ある投資へのシフト
  • 国連機関との協調や支援、など

とりわけ製品の購入という立場で、日本は市場面で深いつながりがあります。

2020年までの5年間、日本に輸入されたコピー用紙に占めるインドネシア産コピー用紙の割合は約60%。日本国内の工場で日本のメーカーよって製造される分も含めると、日本市場に流通するコピー用紙の4枚に1枚ほどがインドネシア産となります。

またティッシュ・トイレットペーパーなどの紙類でもインドネシアと、インドネシアにとって最大の木材輸出国、中国から日本への輸入の量、割合も増加の傾向にあります。

このような状況から日本では、購入企業に対して責任ある紙製品の調達を働きかけ、また消費者に対しても、このような問題に関与しないための具体的な選択肢として、国際的な森林認証制度であるFSC®(Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)の認証紙や再生紙の選択などを呼びかける活動を継続しています。

国際的な森林認証制度、FSCとの関係 

FSCは、責任ある森林管理を世界に普及させることを目的とする国際的な非営利団体として、1994年に設立されました。

このFSCの森林認証は、環境保全の点から適切で、社会的な利益にかない、経済的も継続可能、そんな管理のされた森林や林産物の責任ある調達に対して与えられます。

信頼性の高い森林認証制度として支持されるFSCの、こうした問題のある行為に関わる企業への対応は明確です。

2007年、FSCは、APP社と関連企業との関係を絶つことを決定。その後、「FSCと組織の関係に関する指針」を定めました。2014年にはエイプリル社にも同様の措置をとり、これにより両社とも、一切のFSC認証取得ができない状態が今も続いています。

この指針は、管理する森林の一部の区画や工場では認証基準を満たしていても、その事業者全体の操業では、違法伐採や人権の侵害といったFSCの定める「許容できない活動」に関与がある場合、部分的に基準を満たしている森林区画や工場も含めて一切の認証取得を許可しない、あるいは取り消す制度です。

サステナビリティ(持続可能性)やSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境-Environment、社会-Social、企業統治-Governance)といった言葉が、以前にも増して大きな注目を集める近年、取引先の企業やビジネスが及ぼす環境や社会への負荷について、製品ごとではない、企業単位での評価は、調達の判断においても重要な考え方として、企業の間でも取り入れられるようになっています。

©FSC Japan

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