© Matthieu Paley

金融機関の自然対応実務

この記事のポイント
WWFジャパンは2026年5月12日、金融機関および事業会社を対象に、ネイチャーポジティブに向けた実務対応をテーマとしたウェビナーを開催しました。本セミナーでは、WWFジャパンが開発した「ネイチャーポジティブに向けた投融資チェックリスト」の活用方法を軸に、パーム油を事例としたエンゲージメントの重要論点と、水リスクへの具体的な対応手法について解説しました。自然関連リスクへの対応が求められる中、金融機関による対話の質を高める実践的な視点を共有しました。
目次

チェックリストの役割と背景

WWFジャパンは2026年5月12日、「ネイチャーポジティブに向けた金融機関による企業エンゲージメントの実践」をテーマとしたオンラインウェビナーを開催しました。金融機関において自然関連リスクへの対応が進む一方で、実務レベルでのエンゲージメントには多くの課題が残されています。本ウェビナーでは、そのギャップを埋めるために開発された「ネイチャーポジティブに向けた投融資チェックリスト」の活用方法を紹介しました。

同チェックリストは、企業の取り組みを単に評価するものではなく、金融機関と企業との対話を支援するツールとして設計されています。項目は、社内体制や人権、水リスクなどを扱うパートAと、パーム油などコモディティごとの論点を扱うパートBで構成されています。各指標には難易度が設定されており、単なる取り組みの有無の確認ではなく、企業の取組状況に応じた段階的な対話を促す設計です。

また、ネイチャーポジティブの実現においては、生物多様性への「悪影響の回避・低減」を優先するミティゲーション・ヒエラルキーの考え方が重要であることも説明されました。自然の回復や再生といった取り組みは、その前提として悪影響への対応が十分であることが求められます。

講演資料1:「ネイチャーポジティブに向けた投融資チェックリスト」の概要

パーム油の対話での重点課題

パーム油を対象としたエンゲージメントでは、NDPE(森林破壊ゼロ・泥炭地開発の禁止・搾取の禁止)方針の有無だけでなく、その実効性の確認が重要であることが強調されました。多くの企業が方針やKPIを設定していますが、目標達成の妥当性を十分に検証できない指標設計となっているケースが見られます。

特に、森林破壊ゼロの定義やカットオフデートといった基本事項が曖昧な場合、方針が実質的に機能しない可能性があります。また、「持続可能なパーム油」といった表現についても、具体的な定義や基準が伴っていなければ適切に評価することは困難です。

さらに、企業のサプライチェーン上の位置によって取り組み可能な範囲は異なります。そのため、実現可能性を踏まえた対話が求められます。トレーサビリティの確保においては、ミルリストや位置情報の活用が重要であり、農園レベルのリスク把握を進める手段として有効です。

講演資料2:パーム油に関する企業エンゲージメントの留意点

水リスクの多面的な把握

水リスクについては、水量だけでなく、水質、洪水、衛生(WASH)、生態系、ガバナンスなど、多面的に捉える必要があります。企業の取り組みは水使用量の管理に偏りがちですが、実際には複合的なリスクが存在します。

分析手法としては、Water Risk Filterなどのグローバルツールを用いた初期評価が有効です。その結果に基づいて重要拠点を特定し、ローカル情報による詳細分析へと進む段階的なアプローチが推奨されます。また、気候変動の影響により水リスクは将来的に変化するため、将来シナリオを踏まえた評価も重要です。

さらに、水課題は企業単独で解決できない場合が多く、流域単位での対応が不可欠です。地域の利害関係者と連携した取り組みや、水ガバナンスへの関与といった視点が今後の重要な論点として示されました。

講演資料3:直接操業における水利用と「流域」概念

ご質問への回答

ウェビナー中、「最近、山火事が増えていますが、その要因として、プラネタリー・バウンダリーで言われる「グリーンウォーター(土壌水分)」が減っていることも影響しているのでしょうか?」というご質問を頂きました。

山林火災の原因は、以下のような要因が考えられます。
・森林伐採や農地拡大をはじめとした土地利用の変化に伴う植生の断裂・劣化とそれに伴う乾燥した裸地の増加
・湖沼や湿地の縮小、河川流量の減少などに伴う土壌・植生の水分保持力の低下や、自然の防火帯となり得る水辺の消失
・気候変動に伴う気温上昇、熱波、乾燥

多面的な要素が関連しているため、土壌中の水分だけが唯一の要素とは言い切れませんが、土壌の乾燥度と火災件数との相関が強い地域があるとの報告もあり、火災の一要因とし研究を深めるべきと言われています。

金融機関へのメッセージ

本ウェビナーで示されたポイントは、金融機関が企業との対話を通じて実効性のある変化を促すための実務的な視点です。方針の有無だけでなく、その内容や実装状況を確認し、企業の取組を段階的に引き上げていく対話が求められます。

紹介したチェックリストは、すべての項目を一度に活用する必要はなく、個別の論点ごとに段階的に導入することも可能です。金融機関によるエンゲージメントの質を高めるツールとして、今後の活用が期待されます。

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日時:2026年5月12日
場所:オンライン
参加者数:144人
主催:WWFジャパン

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