沖縄のサンゴ礁保全と持続可能な観光について考える


海のゆりかご、サンゴ礁の現状と課題


九州の南端から台湾まで連なる南西諸島は、大小さまざまなサンゴ礁が広がる海の楽園です。
石垣島と西表島の間にある日本最大のサンゴ礁である「石西礁湖」には、240~300種のサンゴが棲んでいるといわれています。
地球上の海のたった0.2%の面積しかないサンゴ礁に、海の生き物全体の約1/4が暮らしているといわれていることから、石西礁湖をはじめとする南西諸島のサンゴ礁が、海の生きものたちの暮らしにとってどれだけ大切な場所であるかが想像いただけると思います。
しかし、かつては色とりどりのサンゴの群生地であったこの石西礁湖でも、年々サンゴが減少しています。

サンゴの主な減少要因は、赤土の流出による汚染、海水温が上がることで生じる白化現象、サンゴを食べるオニヒトデの大量発生など。それが複雑に絡まりあっています。
その中で近年、深刻化が懸念されている問題のひとつが、過剰な観光利用による「オーバーツーリズム」。

これは、大勢の観光客が、同じ海域のサンゴ礁でダイビングなどを繰り返し行なうことで、サンゴが壊されたり、海域が汚染されて生物が減少する、といった問題を引き起こすもので、世界的にも問題になっています。

白化したサンゴ

サンゴの天敵であるオニヒトデ。海水が汚染され富栄養化が進むと大量発生し、サンゴを食い荒らすとも考えられている

年間100万人以上 石垣島の観光事情

現在、石垣島では年間の観光客数が137万人を突破。
また、隣の西表島が現在、世界自然遺産登録の候補となっており、今後登録が実現すると、観光客がさらに増えることが考えられます。
実際、石垣島で生活していると、すれ違うレンタカーの多さに気づいたり、頻繁に起こる渋滞を目にすることがあります。また、夏はスーパーマーケットに観光客が押し寄せ、レジに長蛇の列ができていることも珍しくありません。
そして、多くの観光客は海でシュノーケリングやダイビングなどのマリンアクティビティなどを楽しんでいます。
今後、さらに増えるであろう、サンゴの海の観光利用に対して、ある程度の決まりや約束を決めておかなければ、破壊が進み、やがて自力で自然が回復できなくなってしまうおそれがあります。

こうした現状には、何十年も前から環境に配慮したツアーに取り組んできたツアーガイドの方々も危機感を募らせています。
また、人気のある観光スポットに観光客が集中して、同じ場所を頻繁に多数の人が利用することで、ストレスを受けたサンゴなどが自然回復する間もなく、結局破壊されてしまう、ということも実際には起こっています。

八重山諸島のひとつ、干潮時のみ出現する幻の島、浜島。ピーク時は陸地が見えないほどの観光客でにぎわう。
©WWFジャパン

八重山諸島の観光事情。干潮時のみ出現する幻の島 浜島。ピーク時は陸地が見えないほどの観光客でにぎわう。

WWFではこうした状況の改善のために石垣島をはじめとする八重山諸島の関係者の方々に、観光の現状や課題、求められている取り組みについて意見交換を続けてきました。

八重山の持続可能な観光と陸と海の保全に関するフォーラムの開催

そのつながりの中で、石垣島島内では関係者による自主的な取り組みが行なわれ始めています。
2019年3月17日には、石垣市の大濱信泉記念館多目的ホールにおいて、「八重山の持続可能な観光と陸と海の保全に関するフォーラム」が開催されました。
主催は、WWFとも協力して観光や農業という視点から、サンゴ礁の保全活動に取り組んでいる、特定非営利活動法人 石西礁湖サンゴ礁基金です。
フォーラムの目的は、実際に観光に関係する方々をお招きし、それぞれの現状や課題をお話しいただいて、八重山における持続可能な観光の可能性をさぐること。
当日は、八重山内外からエコツアー事業者やダイビング事業者、サンゴ礁保全の関係者からエコツーリズムを専門に研究している有識者など多様な方が招かれ、行政の取り組み、事業者の自主的な取り組みに関してさまざまな話題が提供されました。
具体的には、沖縄本島恩納村での積極的な普及啓発・教育の取組や、西表島で計画されているガイド事業者の登録条例・制度作りの話題、石垣島吹通川で取り組まれている沖縄県の事業である保全利用協定の取組など。
また、WWFサンゴ礁保護研究センター「しらほサンゴ村」のスタッフも登壇し、WWFがインドネシアで展開している、観光改善の取り組み「Signing Blue」について、事例紹介を行ないました。

後半のディスカッションでは、各地で進められている取り組みについて好意的な意見が出る一方、課題を指摘する声も多く聞かれました。

たとえば、各事業者が努力をしていても、増加し続ける観光客と、それに伴う事業者数そのものの急増には対応するのが難しいこと。
そうした事態をコントロールする行政的な仕組みがないこと。ギリギリの資金や人員で経営されている中小規模の事業者が多い中、環境に配慮したツアーを行ないたくても実施できない例もあるのではないか、といった意見です。

また、観光の質を向上し、持続可能な観光を進めていくためには、市や県といった行政機関の参加や協力も欠かせません。
環境に配慮したツーリズムを推奨する条例や、観光による自然破壊を予防する規制の導入などは、こうした行政機関の決定が必要となるからです。

実際、西表島を含む竹富町では、世界自然遺産登録と同時に予想されている観光客の急増に備えて、西表島の適正利用に向けたガイド事業者の登録制度や利用ルール作りに取り組む方針を示しています。

こうした取り組みは今後の南西諸島の観光問題に対する取り組みに、一つの在り方と考え方を提供する事例といえるでしょう。

これからの取り組みに向けて

今回のフォーラムでは、さまざまな関係者のお話の内容から、観光業が自然環境に与えている影響が小さくないこと、そして今、持続可能な観光に舵をきらなければ、その観光業の基盤となる貴重な自然が守れないことが、改めて明らかに示されました。

特に、海の中の環境破壊は、地上の大規模開発のように、日常生活を通してはなかなか目に付きません。一般の人の関心が少ないことは、マスメディアでもなかなか情報が取り上げられにくく、問題が表面化したときには、既に手遅れとなることもあります。

石垣市は今後、さらなる観光客の誘致を掲げており、営利目的で自然を利用するガイド事業者もより多くなることが予想されます。

その状況の中、WWFジャパンでは、地域の関係者の皆さまと引き続き意見交換を行ないながら、八重山における持続可能な観光業の確立に向けて、活動を続けていきます。

持続可能な観光を認証する取り組みの例は、国外にも多くあります。その一つで、WWFインドネシアが推進している「Signing Blue」という認証制度では、ダイビングショップやホテル、レストランなど海洋観光に関係する事業者と、観光客のそれぞれを対象に、5段階の基準を設定。今までの海洋観光の在り方を見直す革新的な取り組みとして、インドネシア各地で進められつつあります。

コモドオオトカゲを観察する観光客

コモドオオトカゲを観察する観光客

コモドオオトカゲ

コモドオオトカゲ

インドネシア パダール島

インドネシア パダール島

インドネシアのダイビング船にあった分別ごみ箱

インドネシアのダイビング船にあった分別ごみ箱

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