守ろう!四国のツキノワグマ シンポジウム報告


四国のツキノワグマを絶滅の危機から救い、個体群をどうやって回復させるか。このテーマに取り組む、NPO法人四国自然史科学研究センターとWWFジャパンは、クマの生態調査を通じ、2009年秋、保護区の拡大につなげました。しかし、まだ十分ではない四国のクマの保護施策。クマの置かれた現状を明らかにし、保護を充実させるためのシンポジウムが2010年1月、高知市で開催されました。
 

四国のツキノワグマの現状報告

四国のツキノワグマ個体群を回復させるにはどうすればいいか?
その道をさぐるシンポジウム「四国のツキノワグマ ~絶滅のおそれのある地域個体群の回復とその未来~」が、2010年1月24日、高知県高知市にある、こうち男女共同参画センター「ソーレ」で開催されました。
主催は、日本のクマの研究と保護に取り組む「日本クマネットワーク」。NPO法人四国自然史科学研究センターが共催し、WWFジャパンや丸紅株式会社などがこれを後援しました。

四国のツキノワグマは戦後、生息に適したブナ林が減ったことや、一時期、狩猟が奨励されたことなどが原因で個体数を減らし、絶滅のおそれが高まっています。1986年には高知県で、1987年には徳島県で捕獲禁止の措置がとられるにいたりました。

その生息数は、今や十数頭から数十頭ばかりと推定されています。しかも、四国にツキノワグマがいるということ自体、市民のあいだであまり意識されておらず、東日本のツキノワグマと異なり、人里への出没もほとんどありません。積極的な保護策の実施が求められる状態です。

四国自然史科学研究センターによる発表

今回のシンポジウムでは、WWFが2005年から5年間にわたり、共同研究に取り組んできた、NPO法人四国自然史科学研究センターの金澤代表から、四国のクマの生態についての発表が行なわれました。
四国自然史科学研究センターは、四国にわずかに残されたツキノワグマの生態調査を、多年わたり実施。WWFジャパンもこの調査を支援してきました。

その結果、それまで不明であった四国のツキノワグマの生態が徐々に明らかになってきました。
かつては、「暖かい地域にすむ四国のツキノワグマは、冬眠をしないのではないか?」という憶測もありましたが、同センターによる一連の生態調査により、毎年12月から翌春まで、クマたちが越冬穴で冬を過ごすことが分かりました。

また、高知県と徳島県にまたがる剣山山系の、標高の高い残された落葉樹林帯で、クマが1年のほとんどを過ごしていることも明らかになりました。
ここはブナを主とした天然林で、多くの木がツキノワグマの食べ物となる堅果類(ドングリ)をつけます。一方、標高の低いところは、スギやヒノキなどの人工林になっていて、ツキノワグマは食べ物を得ることができません。

四国自然史科学研究センターでは、これまでの調査で、10頭あまりの個体識別に成功。さらに、オスは行動範囲が広く、鳥獣保護区の拡大が求められることを科学的データで証明しています。また、メスが越冬穴で出産していることも確認し、命が次の世代に引き継がれていることも報告しました。

このような詳しい調査活動は、1993年から95年にかけて徳島県が行なって以来、10年ぶりのものであったこともあり、非常に価値のある生態調査として、シンポジウム参加者の強い関心を引きました。

 

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十数頭ともいわれる四国のツキノワグマと、生息地の剣山山系

保全の施策の提言と成果

さらに、シンポジウムでは、四国のツキノワグマの保護をめぐる、現在までの動きについても紹介されました。

生態調査の結果を基に、保護活動にも取り組んできた、四国自然史科学研究センターとWWFジャパンは、これまでマスメディアへの話題提供のほか、四国および東京の行政機関や国会議員等にはたらきかけを行ない、保全施策の充実を訴えてきました。

これを受け、2006年4月27日の参議院環境委員会では、民主党の議員から、四国の鳥獣保護区がツキノワグマの行動圏をカバーできていない旨の指摘がなされました。
また、2006年5月と2009年1月には、2団体から共同で要望書を政府に提出。保護区の拡大と生息地の適切な管理について提言を行ないました。

そして、こうした一連の活動が、2009年11月1日の剣山山系の国指定鳥獣保護区拡大に結びつきました。
拡大は、従来設定されていた保護区域の東南側(徳島県側)で行なわれましたが、このエリアは、ツキノワグマの重要な生息域として、WWFと四国自然史科学研究センターが、その重要性を指摘していた地域を、一部含めています。

このことは、中長期的な四国のツキノワグマ保護の重要な足がかりとして、注目を集めました。

また、シンポジウムでは、中国地方東部、近畿地方北部や紀伊半島のツキノワグマの現状も報告されました。
得に、兵庫県で森林動物研究センターが中心となって行なわれている、学習放獣の技術や追跡調査、普及啓発といった、先行した取り組みの実例をはじめ、こうした他の地域での活動にも、今後の四国のツキノワグマ保護が学ぶべき点が多くありました。

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シンポジウムの様子と、展示されたパネル、クマの頭骨

 

今後の保護活動の拡充にむけて

現在四国に生き残っているツキノワグマの行動範囲は、ある程度は保護区のエリアと重なっていますが、その外側にも依然として存在することから、さらなる保護区の拡大に務める必要があります。

また、ツキノワグマの生息地では、個体数が増えきた、シカによる農林業への食害が大きな問題になっています。生息地を適切に管理し、シカの食害を抑えつつ、ツキノワグマにとっても良好な森の環境を保全する必要があります。

ツキノワグマは、そこに豊かな森があることの象徴です。
2010年は国際生物多様性年ですが、ツキノワグマがいることは、日本が多種多様な野生の動植物が息づく森に恵まれていることを意味します。
豊かな森を次の世代に引き継ぐため、四国のツキノワグマの現状を知り、その存続のための課題を、一つひとつこなしていくことが大切になっています。

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