2010年国連気候変動ボン会議 3rd


2010年8月2~6日まで、ドイツで国連気候変動ボン会議 3rdが開催されました。この会議は、期間が短いながらも、年末のメキシコ・カンクン会議(COP16)へ向けての準備としては重要な会議です。
今回の会議では、前回に引き続き、条約AWG(AWG LCA)の議長が用意した新しい議長テキストが議論の焦点となりました。

12月のCOP16(メキシコ・カンクン会議)へ向けての折り返し地点

2010年8月2日~6日の約1週間、2010年で3回目となる国連気候変動枠組条約会議が開催されました。

京都議定書の最初の約束期間が終わる2013年以降へ向けて、どのような国際的な枠組みを作っていくかが、前回に続き会議の主な議題となりました。

そのために、条約AWG(AWG LCA)と議定書AWG(AWG KP)という、2つの会合が並行して開かれました。

関連情報

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国連気候変動ボン会議3(AWG KP13・AWG LCA11)の報告

今回の会議の位置づけと概要

2009年12月のコペンハーゲン会議(COP15)において2013年以降の新しい国際枠組みに合意ができなかった後も、国際社会は引き続き交渉を進めてきました。

しかし、コペンハーゲン会議で合意ができなかったことのショックは大きく、国際社会は、合意に至るまでの数々の問題やそれをめぐる対立構造の複雑さを改めて認識せざるをませんでした。
そのため、全体的な合意を 2010年12月のメキシコ・カンクン会議の時点で作ることは無理であるとの認識が多くの国々の間で広まると同時に、メキシコ・カンクン会議までは国々の間での信頼回復に努め、まず足がかりとなるような合意を作り、2011年の南アフリカ会合で全体的な合意を達成するという段階的なアプローチをとるべきだとの認識が、特に先進国の間では広まってきました。

そうした状況の中、2010年8月2~6日に、年内で3回目となる国連気候変動会議がドイツ・ボンで開催されました。前回の6月の会合は、補助機関(Subsidiary Bodes;SB)会合と合わせての開催でしたが、今回は条約AWG(Ad-hoc Working Group on Long-term Cooperative Action under the Convention;AWG LCA)と議定書AWG(Ad-hoc Working Group on Further Commitments for Annex I Parties under the Kyoto Protocol;AWG KP)の2つのみの開催であり、期間も1週間と短いものでした(前回は2週間)。

2010年12月のメキシコ・カンクン会議(COP16・COP/MOP6)前には、今回も入れてあと2回しか会議がありません。その意味では、今回の会議はメキシコ・カンクンで何が合意されるべきかのイメージがそろそろ見えてくるべきタイミングにありました。

しかし、下で述べるように、残念ながらカンクン合意の姿形が今回の会議から浮かび上がってきたとは言い難い状況です。むしろ、先進国と途上国の間での議論が非建設的な形で行なわれ、交渉の進展の遅さが印象付けられました。

さらに、条約AWGの議長が今回の会議に先立って準備した交渉テキスト(最終的な合意の下書きになることを目されて作られる文書)は、当初は45ページでしたが、今回の会議の中で、おそらく倍近くまで増えてしまいました(分野ごとにテキストが分割されて交渉されたので正確な総数は分かりません)。2009年、200ページを超す交渉テキストを作り、それをまとめようとしてまとめきることができなかったコペンハーゲン会議の轍を踏まないためには、会議の進行自体にも何らかの工夫が必要なのかもしれません。また、各国の政府代表団にはより柔軟な交渉姿勢が必要です。

以下では、今回開催された議定書AWG、条約AWGそれぞれについて、どのような議論があったのかの概要を解説していきます。

 

議定書AWG

議定書AWGでは、交渉に先立って2つのワークショップが開催されました。1つは、会議直前の土曜日に開催された森林吸収源(Land Use, Land-Use Change and Forestry;LULUCF)に関するワークショップで、もう1つは、会議初日に開催された排出削減量に関するワークショップです。

これらのワークショップは、各国政府の交渉官や専門家からのプレゼンテーションと質疑応答によって行なわれ、充実した内容でした。しかし、それに続く交渉では大きな進展があったとは言えません。

議定書AWGでの交渉は、4つのグループに分かれて行なわれました。1つは、通称"Numbers" と呼ばれる「先進国の削減数値目標」に関する議論をするグループ。2つ目は、「その他の問題」("Other issues")と呼ばれるグループです。「その他の問題」とは、具体的には森林吸収源(LULUCF)や京都メカニズム、削減対象として加えるべき温室効果ガスの種類などの問題です。3つ目は、「潜在的な帰結("Potential Consequences")」と呼ばれるグループで、温暖化対策をとることによる他分野への影響を検討するグループです。そして4つ目は、「法的な問題」を扱うグループです。

この4つのグループのうち、今回の会議では1つ目のグループの先進国の削減目標に関する議論と、2つ目の「その他の問題」グループの論点の1つである森林吸収源(LULUCF)の議論に重点が置かれ、交渉の時間が多く割かれました。

これら2つの議論と、日本の発言が目立った「法的な問題」グループの議論を簡単にまとめておきます。

1.先進国の削減数値目標

 先進国の削減数値目標に関するグループでは、先に述べたワークショップでの議論において、先進国が現在約束している削減数値目標と、気候変動の悪影響を抑制するために必要な削減量との幅に大きな乖離(ギャップ)があることが認識されました。その認識自体が広まったことは良かったのですが、実際の交渉はあまり進みませんでした。

象徴的だったのは、最初の会合で、初日のワークショップの要約を議長がどう書くべきかという点で先進国と途上国の間で対立が起きてしまったことでした。サウジアラビアや中国は、ワークショップの議論では途上国の削減量に触れていたけれども、この議定書AWGの役割は先進国の削減目標を決める事にあるのだから、その部分は反映されるべきでないという意見を述べました。

これに対し、日本やEU、オーストラリアなどは強く反発し、要約なのだからきちんと発表された内容を反映するべきだと主張しました。両者の議論の応酬によって貴重な交渉時間が浪費されてしまいました。途中で議長が指摘したように、ワークショップの中で発表された資料は通例ではウェブサイトに後日掲載されるので(本稿執筆時点ですでに掲載されています)、要約自体にそれほどの大きな意味がありません。先進国と途上国の間の、お互いに一歩も譲りたくないという頑な姿勢が印象的でした。

交渉の争点としては、以前から議論が続いているものとして、「削減数値目標の基準年をいつにするのか(1990年、2000年、2005年、・・・?)」「約束期間の長さをどれくらいにするのか(5年?8年?」「『2020年までにX%削減などの目標』をどうやって5~8年という「期間」の目標に換算するのか」といった点があります。これらについての議論がされ、さらには具体的な文言が議論されましたが、目立った進展を得る事はできませんでした。

2.森林吸収源(LULUCF)

森林吸収源、つまり「森林が成長過程でCO2を吸収する(大気中からCO2が削減される)効果をどのように考えるか」という問題は、京都議定書の目標を議論した頃から大きな論点の1つでした。2013年以降の新しい国際枠組みに関する交渉でも、削減数値目標の意味を実質的に大きく変える可能性があるために重要な争点になっています。

今回の会議では、3つの論点について議論が集中しました。

1つは、「不可抗力(force majerue)」と呼ばれる争点です。これは、一見なんの事だか分かりにくいのですが、山火事などの自然災害で森林が大幅に減ってしまった場合等をどう考えるかという争点です。カナダやロシアなどの広大な森林を持つ国にとっては、このルールによっては国全体の排出量に甚大な影響を与えるため、特に強い関心を持っています。

2つ目は、「木材製品(Harvested Wood Products;HWP)」と呼ばれる争点です。現在の排出量算定のルールでは、森林が伐採された場合、「その場で森林が全部燃やされて排出がされた」と見做す考え方をとっています。しかし、実際には、伐採された木材は製品として加工され色々な場所で相当程度の期間保存さるケースもあります。日本の身近な例で言えば、長く桐のタンスなどがそうです。そのようにして保存されている間は少なくとも排出にはなっていないので、そうした末長い木材利用を推進するためにも、木材製品からいつ排出されるかということをきちんと考慮した算定ルールにするべきだという考え方があります。ニュージーランドなどがこの考え方を強く推奨しています。ただ、木材製品は貿易によって世界のあちこちに動いてしまうので、その点が難題として挙げられています。

3 つ目は、「参照レベル(reference levels)」と呼ばれる問題です。森林吸収源による排出量削減には基本的に2種類あり、1つは植林をして新しく木々を増やすこと(新規植林・再植林)、もう1つは、今既にある森林をより上手に管理して吸収量を増やすこと(森林管理)です。前者は比較的単純ですが後者を正確に算定するのは非常に難しい作業となります。参照レベルとは、「より上手に管理」しなかった場合の吸収量がどれくらいかという意味で、「より上手に管理」した時の吸収量とそうでなかった場合の吸収量を比較して、実際にどれくらい吸収量が減ったのかを算定するために必要な指標です。しかし、その「参照レベル」を決めるためには、現実には起きていないことを「こうだったはず」と推測しなければいけないので、難題です。

以上のような3つは、森林吸収源というものが抱える様々な論点のうちの1つでしかありません。現在、先進国が掲げている2020年の削減数値目標の中には、こうした森林吸収源の扱いが変わってしまうと大きく削減数値目標の意味が変わってしまう国もあるので(カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどがその筆頭です)、こうした論点をクリアにしていくことが重要なのですが、今回の会議によって充分にクリアになってきたかというと、残念ながらそういうわけではないようです。
ただ、この分野は比較的交渉が建設的に行なわれており、少なくとも交渉の雰囲気自体はそれほど悪いものではありませんでした。

3.法的問題

このグループでは、前回の会議における決定によって事務局が準備したペーパーを元に議論が行なわれました。

そのペーパーは、このまま交渉が遅れてしまうことによって、次の新しい国際枠組みを合意した条約の発効が間に合わず、京都議定書の第1約束期間と第2約束期間の間に間隔(ギャップ)が空いてしまった場合はどのような影響があるのか、そしてそれを防ぐためにはどのような手段があるのかという問題について、論点を整理したものです。

その事務局のペーパーは、ギャップを埋めるための法的な手段にはいくつかあること、それをやるかどうかは結局各締約国の意志にかかっていること、そして、ギャップが空いてしまった場合は、京都議定書で作られた仕組み(京都メカニズム等)がいきなり全てダメになるというわけではないが、課題も出てくることなどが挙げられています。

このペーパーを元に始まった議論の中では、途上国がこうした議論があること自体の問題を指摘したり、第2約束期間の合意を早くするべきだとの意見を示したりしました。これに対し、日本は、あくまで京都議定書だけの改正ではなく、(京都議定書の改正ではない)新しい国際枠組みの合意全体の合意を優先するべきだとの主張を強くしました。

EUも似たような主張をしましたが、日本は、「たとえギャップができたとしても、包括的な(アメリカや途上国も含む)新しい国際枠組み全体の合意を優先するべきだ」という主旨のことを強く主張しました。これは、京都議定書の改正こそが先進国が責任を持って先に進むという意志の象徴になるとして捉えている途上国グループに警戒心を持たせる結果となったようです。

以上のような争点の交渉を経て、議定書AWGは、分野毎に分けていた交渉のテキストを1つのテキストにまとめました。テキストがまとまってくるのを見ると、一見、この議定書 AWGでの交渉は進展しているかのように見えます。しかし、実際には、中身という点では大きな進展があったとは言えない状況です。

 

条約AWG

条約AWGでも、交渉をいくつかのグループに分けて交渉をしようとしたのですが、その段階で議論が紛糾してしまいました。各国がそれぞれ自分たちが重視する問題についてのグループを作ろうとした結果、一時はグループの数が7つまで膨らみ、話がまとまらずに初日の交渉はそれだけで終わってしまいました。2日目にようやく4つのグループを作ることで合意がされ、交渉が開始されました。

4つとは、「緩和」(排出量削減のことをこの交渉では緩和と呼びます)、「適応」、「資金・技術・キャパシティ・ビルディング」、そして「共有ビジョン」の4つでした。これらのグループはドラフティング・グループと呼ばれ、交渉は基本的に非公開で行なわれました。このため、WWFを含むNGOのメンバーは、会合から出てきた交渉官をつかまえて話を聞いたり、別途会合を設定して得た情報を活用したりしながら、働きかけをしていきました。

以下は、そうした中で断片的に得られた情報と、最終的に公開された交渉途中のテキストから得られた情報などを元に、各分野で争点となっていることを整理したものです。

1.緩和

緩和は今回の交渉の中でも最も揉めたグループでした。
特に大きな議論となったのが、削減目標や削減行動のMRV(measurable, reportable and verifiable; 測定・報告・検証可能性)という項目に関わる議論でした。これは要するに、「削減が確実に行なわれているかを確認する手続き」と言えます。これが、先進国・途上国双方について(程度の差はあれ)適用される、というところまではほぼ合意があります。

アメリカ、日本、オーストラリアなどから構成されるアンブレラ・グループは、途上国が行う削減行動について、この"MRV"を強く要求しました。アンブレラ・グループからすれば、途上国の削減を義務的な目標として要求しない代わりに、途上国が行う削減行動について少しでも透明性を確保したいという意図があります。このために交渉のある地点で、アンブレラ・グループは、より詳細な規定を定めるいくつかの文言の追加を提案しました。

しかし、途上国の側からすると、それらの文言の追加提案は唐突で、しかもこれまでの交渉で得られた合意地点から逸脱したものと受け取られました。
先進国自身の削減目標に関するMRVの記述の少なさとのバランスがとれていないということも問題にされました。途上国の側からすれば、「そんなに細かい規定は先進国の方ですら書いていないのに、なぜ途上国の部分だけに書き足すのか」という気持ちがあったと考えられます。上で述べたように、議定書AWGの場では、先進国自身が自分たちの目標の透明性を確保する作業にあまり積極的でないということも、途上国の不信を買う結果となっているようです。

この他にも、緩和の一部として議論がされたREDD+(森林減少・劣化等からの排出量削減)は、もともとはコペンハーゲンの段階で最も合意に近づいていた分野と考えられていたのですが、この分野でさえ、サウジアラビアやボリビアなどの一部の国々が根本的な部分(REDD+という分野に何が入るかという定義など)に異義を唱え始め、議論が後退してしまった感があります。

この緩和に関するグループの交渉で、先進国はやや自分たちの主張を無計画に出しすぎてしまった感があります。

一方では、先進国は、自分たちの削減目標が実際どういう性質のものになるのか、森林吸収源やメカニズムの利用はどれくらいになるのか、などの議論を避ける姿勢を見せています。その反面で途上国のMRVについてのみ、強硬に主張しても反発を招いてしまうのは十分予想ができたことでした。

議論が起こること自体は問題ではありませんが、双方がお互いに対して「話をまとめていこうという意志がないのでは」と思わせてしまったところは、交渉を建設的に進めていく戦略としてはよくなかったと思います。

2.適応

適応については、適応に関する新しい組織を作るかどうかが大きな争点になりました。途上国は、適応委員会(Adaptation Committee)という新しい組織を作り、現在は散逸してしまっていたり、より一般的な開発政策の中に埋もれてしまっていたりする適応に関する活動・対策をより調整して、かつ資金援助とも組み合わせて実施するためには適応委員会のような新しい組織が必要であると主張しました。これに対し先進国は、そうした新しい組織を作ることの有用性について疑義を呈し、既存の組織で対応することを求めました。

新しい組織のニーズについては判断が難しいところもありますが、少なくとも、適応に関して現存する組織や枠組み(適応基金理事会、ナイロビ作業計画、後発開発途上国専門家グループなど)は、いずれも与えられている役割や権限が限定されており、グローバルな適応対策全体を見渡してガイダンスを出したり、調整を行ったりする組織は存在しません。そのため、WWFも含むNGOは、適応委員会(名称はどうであれ)の設立は重要であると考えています。

3.資金・技術・キャパシティ・ビルディング

このグループでは、資金と技術とキャパシティ・ビルディングという関連が深い3つの分野をまとめて議論をすることになっていましたが、議論の時間は資金に多く割かれました。

その議論の中で、コペンハーゲン合意の中で作られたファンドの概念を引き継ぎ、ファンドを作る事自体については大筋の合意ができてきました。

しかし、肝心の資金源の議論については空白のままで、ほとんど議論がされませんでした。唯一議論としてあったのは、ボリビアがGNPの6%を援助に回すべきだと議論したことと、これに付随してサウジアラビアが二酸化炭素地中貯留にもGNP2%相当の援助をするべきだと訴えたことがあったのみでした。

また、資金援助について、新しい組織を作るかどうかについても対立がおきました。上で述べた「適応」分野における適応委員会に関する議論と構造は同じで、途上国はその必要性を訴え、先進国は反対をしました。EUはその必要性がしっかりと確立されれば検討してもよいという立場でやや柔軟性を見せましたが、現状ではやはり慎重な姿勢を示していました。

資金については、肝心の資金源についての議論が潘基文国連事務総長のイニシアティブで行なわれている「気候変動資金に関するアドバイザリー・グループ(AGF)」の結論待ちになってしまっている点がやや懸念としてあります。

4.共有ビジョン

共有ビジョンは新しい国際枠組み全体としての目標に関する議論をする分野です。コペンハーゲン合意で言及された「気温上昇を2℃以内に」という目標の他に、「1℃」や「1.5℃」といった目標が議論されています。さらに、今回の会議では、「300ppm」という濃度に着目した目標もボリビアから提案がありました。

この他、「排出量としては何%削減されなければならないか」「排出量はいつまでにピークを迎え(そして減少に向かわ)なければならないのか」「先進国・途上国それぞれについて、全体としての必要な排出量削減量はどれくらいか」など、様々な論点について意見が交わされました。

気候変動の悪影響を抑制するためには、本来、1.5℃未満に気温上昇を抑えることが必要です。それが難しいとしても、コペンハーゲン会議では少なくとも「2℃」という言葉を入れ込むことにほとんどの国は合意しました。そのラインは何とか守られるべきです。

5.法的課題

これまで述べてきた4つのグループは、会議の中で明確に位置づけられて行なわれたのですが、それとは別に、現在の交渉の結果として、最終的にどういう形式の法的文書を作るのか、という議論が、年末のカンクン会議議長国となるメキシコのイニシアチブで非公式に行なわれました。この話し合いのために、条約事務局はありうる形式を3つにまとめたペーパーを出し、それぞれに含みうる事項を整理しました。3つとは、具体的には1)条約、2)COPもしくはCOPMOPの決定、3)2つの組み合わせ、です。それぞれについて、細かい議論がどのようにあったのかは分かりませんが、議定書AWGの方でどのような結論を出すのかと合わせて、今後極めて重要になっていく論点です。

以上のような議論を通じて、各分野に関する交渉テキストは当初のものよりも随分と膨らんでしまいました。本来、合意にもっていくためにはより選択肢が絞られて短くなっていくのが理想です。しかし、各国の主張が収斂して行く傾向は見られず、先進国・途上国双方が、お互いに対して「合意をまとめる方向に持っていこうという意志がないのではないのか」という不信を持つ結果になってしまいました。

 

REDD+パートナーシップ(RPP)

正式な国連交渉とは別に、会期中に会合が重ねられたのが森林減少・劣化等からの排出量削減(REDD+)に関するパートナーシップ("REDD+パートナーシップ")の会合でした。

REDD+は、メキシコ・カンクンで最も成果が出やすいだろうと言われている分野であり、その分野において、2012年までの期間に先行して取組みを進めるために設立されたのがREDD+パートナーシップです。2010年に入ってからフランス、ノルウェー、ブラジルとこれまで会合が持たれており、今回も国連会合の脇で会合が行なわれました。

本来、前回の会合までの段階で作業計画について合意をしている予定でしたが、議論がまとまらず、今回まで持ち越されていました。作業計画には2010年内に関する計画(フェーズ1)と2011~2012年までの計画(フェーズ2)の2種類がありましたが、そのどちらに重点をおくのか、どのような中身を盛り込むのかに意見の相違があったようです。先進国側は、とにかく2010年内の目標を片づけてしまわないと進めないと考えていたのに対し、途上国側は、 2011年~2012年の計画の要素に重きを置きたかったようです。

もう1つ争点になったのが、NGOや先住民グループを含むステークホルダーの参加のあり方についての議論でした。オスロで採択された宣言ではステークホルダーの参加が重要事項としてしっかり認識されていたにもかかわらず、一部の国々はあまりオープンにすることに抵抗を示し、今回の会合もかなりの部分が非公開で行なわれました。
そのため、最後にオープンな形で開かれた会合では、各ステークホルダーほぼ全てに発言をする機会が与えられるという、この分野の交渉では異例なことが行なわれました。

結果として、今回の会合は、2つのフェーズの作業計画を採択し、ステークホルダーの参加についても再度その重要性が確認されて終わりました。

前回の会合から、議長がパプアニューギニアと日本の共同議長ということになっており、次回は日本で開催される生物多様性条約締約国会議(COP10)の期間中に会合が開催されることになっています。

 

メキシコで何が合意されるべきか

冒頭で述べたように、今回の会議は、本来であれば「メキシコ・カンクン会議(COP16・COP/MOP6)で何が合意されるべきか」ということが少しでも見え始めているべき会合でした。しかし、交渉の進展は遅々としたもので、会議に参加した参加者の中には「むしろ後退した」とすら言う人もいます。

中身の交渉自体も複雑ではありますが、それに加えて、条約AWGと議定書AWGという2つのプロセスの関係をどう整理していくのかというところにも、根強く先進国と途上国の間に溝があります。先進国は条約AWGを主に、途上国は議定書AWGを主に進めたいという構図は変わらず、それが中身の進展にも影響を及ぼしています。

会議の前にニュースで流れた、アメリカ上院が年内に法案を通すことをあきらめたという事実も、この交渉の見通しの不確実さを強め、交渉参加者の意識を下げてしまった部分もあったかもしれません。アメリカ政府の交渉団は、依然として交渉スタンスが変わらないことを強調していましたが、影響は小さくはないからです。

会議の最後の総会では、各国から、今回の進展の遅さについての懸念の声がいくつもあがりました。そして、次回の中国・天津での会合では、(今回のように何を議論するかで揉めてしまうのではなく)すぐにでも交渉にとりかかるべきであるという声も多くあげられました。

今回の進展の遅さが各国に教訓を与え、次回の会合で建設的かつスピーディーな交渉が行なわれることに期待がかかります。そのためには、各国政府は、交渉の現場に来る交渉官により広いマンデート(権限)を与え、交渉官が柔軟に交渉できる余地を確保することが重要です。日本も、同じ主張をするにしてももう少し柔軟な姿勢を見せていくことが、全体としての合意にはより近づくと思います。

WWFも参加する気候変動関係のNGOの国際的なネットワーク、Climate Action Network(通称CAN)は、今回の会議の最中に、暫定版の「カンクン・パッケージ」を発表しました。

暫定版「カンクン・パッケージ」について

「カンクン・パッケージ」の主な内容は、資金、適応、REDD+、技術、キャパシティ・ビルディング、緩和、MRVといった代表的な分野で、2011年の合意へ向けての着実な進展を達成するというものです。

たとえば、「資金」については、ファンドの設立やそれを管理するための組織の設立、そして、新たな資金源を2011年までに運用化に導くためのプロセスの合意などが含まれます。
また、「緩和(排出量削減)」については、先進国が全体として40%以上の削減をしていくことや、各国でゼロ・カーボン化を目指すための長期的プランを策定するガイドラインに合意すること、途上国についても低炭素化を着実に進めるための計画策定を合意することなどが含まれます。

このような形で、「必要な要素全てではないけれども、着実な進展と呼べる」合意をカンクンの時点でパッケージとして合意し、翌年の2011年南アフリカ会議(COP17・COP/MOP7)で、公平で野心的かつ拘束力のある国際枠組みを達成するための道筋をつけることを意図したものです。

この「カンクン・パッケージ」は名前の通り、メキシコ・カンクン会議(COP16・COP/MOP6)の時点でどのような合意がされるべきかについての環境NGOの議論の途中経過を示したものです。これをサイドイベントでCANが発表したとき、ある国の交渉官は「ずいぶんと野心的な合意内容で、できるかどうかはわからない」という感想を述べました。

しかし、その「野心的な内容」は、本来は2009年の時点で合意されているべき内容でした。今回の会議の間にも、ロシアを記録的な熱波が襲い、中国では大規模な記録的な洪水が被害を出し、パキスタンの洪水では少なくとも1400人が死亡し、100万人が影響を受けたといわれています。

こうした現象が気候変動の影響であったかどうかは後世の科学的な研究を待たねばなりませんが、気候変動がこのまま進行すればどのような世界が待っているかを想像させるには十分に悲劇的な惨状が連日報道されていました。それを防ぐための合意は、たとえ野心的に見えたとしても、断固として目指さなければならないものです。2010年末のメキシコ会議へ向けて、各国の意志が問われます。

 

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