シンポジウム「クマの保全から生物多様性を考える」報告


「生物多様性年」にあたる2010年は、名古屋で生物多様性条約の会議(COP10)が開かれることもあり、「生物多様性を保全する」という視点から、これまでのさまざまな保全活動を捉え直す動きが、日本の各地でも見られています。2010年10月2日に東大弥生講堂で開かれたシンポジウムでも、クマの保護に関して、その試みがなされました。

クマ… 生態系を象徴する動物

東京大学弥生講堂で、2010年10月2日、シンポジウム「クマの保全から生物多様性を考える」が開かれました。日本クマネットワークが主催し、WWFジャパンなどが後援したものです。

「生物多様性」に注目が集まる2010 年は、それまでの保全活動に生物多様性の視点を取り込む動きが盛んになっていますが、クマに関しても、生態系を象徴する種であるという位置づけから、生物多様性の状況を測る生き物として捉え直されています。

このシンポジウムでは、ツキノワグマ、ヒグマ、ホッキョクグマなどのクマに対する保全活動が国内外から紹介されました。

四国のクマの保全

NPO法人四国自然史科学研究センターは、十数頭から多くても数十頭程度と見られる四国のツキノワグマの現況を報告しました。個体群を維持するために必要とされる100頭を下回っていることから、四国のツキノワグマ保護の重要性を訴えました。

同センターは丸紅株式会社などから資金的支援を得て、2005年からWWFジャパンと共同研究をおこなってきました。生態学的調査により、生息範囲や越冬状況に関する科学的事実が蓄積されています。
主に標高1000メートル以上の天然林で活動するクマのために、生息地の保全と回復が求められています。2009年11月には、国の鳥獣保護区が拡大されましたが、個体群を維持するにはまだ十分ではなく、さらなる保全施策が必要です。

今後は、「地域対話集会や住民の意識調査を通じて、地元に保全のための環境を整えていく予定」と同センターの金澤文吾氏は述べました。数年内に『生息環境整備ガイドライン』を策定し、四国に保全のためのネットワークを構築する試みが始まります。

岩手の官民学の連携

四国の報告に続いて、岩手大学から興味深い取り組みが紹介されました。クマの出没状況の分析から、同大学のツキノワグマ研究会は、地元自治会、行政、大学、農家といった関係者の連携が不足している状況を把握、2007年から対話の場を設けました。

それによって、官民学のあいだによきパートナーシップが生まれたことが報告されました。リンゴ園周辺への効果的な電気柵と警報器の設置ができるようになり、草や藪の刈り払いが実施されるようになったのです。
盛岡の猪去地区では、これ以降、クマの出没件数や捕獲頭数が大きく減少し、顕著な成果が現れています。クマの生息状況にとっても、リンゴ園農家にとっても事態が改善したことになります。岩手大学ツキノワグマ研究会を代表して、伊藤春奈さんは「人が代替わりしても、この仕組みが続いていく継続性が大切」と今後の課題にふれました。

気候変動とホッキョクグマ

海外からは、2005年から2009年までの4年間、IUCNホッキョクグマ専門家グループの議長を務めていたアンドリュー・デロシェール博士が来日。北極圏における生態系の変化を、ホッキョクグマの生息状況と照らしあわせて紹介しました。

地球温暖化の影響とみられる海氷面積の縮小が、アザラシ類の個体数に影響を与え、ホッキョクグマの生息域の北上などにつながっています。カナダやロシアなどの沿岸域から離れるほど、エサとなるアザラシを獲るのがむずかしくなり、十分な栄養を得られないホッキョクグマが観察されるようになっていると話しました。
個体群によっては、1995年から2005年までの10年間で、22%も個体数が減少したところがあるということでした。今後の予測として、IUCNは45年間で30%減、米国魚類野生生物局は40年間で66%減としており、非常に厳しい見通しです。

アンドリュー・デロシェール博士は気候変動に生物学的な見方をもっと取り入れるべきだとしつつ、「簡単な解決策はないが、人間に唯一制御できるのは、温室効果ガスを削減すること」と締めくくりました。

クマを保全する国内外のさまざまな取り組みは、それがクマの将来だけでなく、私たちの社会の持続可能性を保証することにもつながると考えさせる一日でした。

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四国の森で撮影されたツキノワグマ

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四国のツキノワグマのパネル展示

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普及啓発用のさまざまなキット

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ホッキョクグマ

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アンドリュー・デロシェール博士

 

 

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