ネパールでトラの移送作戦を実施


2011年1月21日、ネパールのチトワン国立公園から同国のバルディア国立公園に、野生のトラを移送する試みが実施されました。この取り組みは、ネパール政府が、絶滅のおそれのあるトラを保護する試みの一環として、WWFネパールとネパールの自然保護団体National Trust for Nature Conservation(NTNC)の支援を受けて行なったもので、同国内では初めてのトラの移送プロジェクトとなります。

トラが生きるテライ・アークの自然

今回、プロジェクトが行なわれた地域は、ヒマラヤの南麓、ネパールとインドの国境一帯に東西1,000キロ以上にわたって広がる、テライ・アークと呼ばれる地域です。
ここには、広大な草地や湿地、低木林を中心とした景観が見られ、トラの亜種ベンガルトラや、インドサイ、アジアゾウなどの大型野生動物が生息。また、数百万人の人が暮らす生活の場にもなっています。

チトワン国立公園と、バルディア国立公園は、共にこのテライ・アーク地域を代表する保護区で、ネパールでも屈指の規模と自然の豊かさ、そして長い保護の歴史を誇る場所。 絶滅が心配される野生のトラが、世界で最も高い密度で生息している、貴重な生息地でもあります。

移送先となった場所は、バルディア国立公園内にあるバダイ渓谷(Babai valley)です。
「このバダイ渓谷は、移動先としては理想的な場所でした」と、ネパールの国立公園および野生生物保護部のクリシュナ・アチャリア部長は言います。

実際、この谷は、トラの食物となる野生動物が豊富な上、密猟の対策と地域住民との軋轢(あつれき)問題への対処も行き届いていました。さらに、同じくテライ・アークの景観内にあるインドのスヘルワ野生生物保護区にも連絡のよい場所に位置しています。

年々狭められて来ている野生のトラの生息エリアを回復し、トラの遺伝的な多様性を保持することを目的とした今回の取り組みには、まさにうってつけの地域でした。

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豊かな自然が残るネパール、バルディア国立公園

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ねむらされ、運ばれるトラ。首には発信器つきの首輪が付けられました。

移送作戦

プロジェクトで移送されたトラは、2010年9月に捕獲された、傷を負ったオスのトラで、チトワン国立公園の外、観光客で賑わう町サウラハに現れ、ホテルの中にまで現れたのを、国立公園当局によって捕獲され、保護されていた個体です。

立案された計画のもと、このトラはチトワン国立公園から西へ600キロの場所に位置する、バルディア国立公園に、特別仕様のトレーラーに乗せて運ばれることになりました。

そして、2011年1月21日、トラは国立公園と自然保護団体のスタッフ、獣医と野生生物の研究者によって、GPS発信器のついた首輪をつけられ、この渓谷に放たれました。

この発信器は、人工衛星を介して30分ごとにトラの正確な居場所を保護担当者や研究者に知らせます。

ここから得られる情報は、保護活動に欠かせないトラの行動やその範囲といった生態を把握する上で、非常に重要なものとなります。また、密猟を取り締まる上でポイントとなる地域の選別などにも役立つことも期待されます。

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放獣を前に行なわれた計測

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バルディアの森で一歩を踏み出したトラ

今後の保護活動への期待

WWFネパールの代表アニル・マナンダは、WWFが今回、ネパール政府の新しい挑戦に参加・支援できたことを喜ぶと共に、テライ・アークの保全について、次のようにコメントしています。

「ネパール政府は(トラなどの)個別の野生動物の保護から、テライ・アークという自然環境の保全に、活動を進化させ、成功を収めてきました。未来の世代に今の自然を引き継いでゆくため、WWFがネパール政府のパートナーとして、共に歩んできた過去40年にわたるその取り組みを、これからも続けてゆきます」。

ネパール政府は、次の寅年の2022年までに、国内に生息するトラの個体数を2倍にすることを目指しています。今回の取り組みは、こうした目標に実際に近づいてゆくための、具体的な手段の一つとして注目されるものとなりそうです。

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