オオミズナギドリへの放射性物質の影響調査


福島第一原子力発電所の事故に伴い、東京電力は、放射性物質を含む汚染水を周辺海域へ大量に放出しました。この汚染水による海洋生態系への影響調査に取り組んでいるのが「NRDAアジア」。WWFもその活動を支援しています。2011年11月14~16日には、伊豆諸島の御蔵島で、巣立ち間際のオオミズナギドリの幼鳥を対象にした調査が行なわれました。

巣立ち間際の幼鳥の血液を調べる

NRDAアジアでは、今回の放射性物質を含む汚染水が海洋生態系にどのような影響を与えているか、オオミズナギドリを通して調べようと計画しています。

オオミズナギドリ(Calonectris leucomelas)は朝鮮半島、日本、中国の山東半島、台湾などで繁殖する海鳥で、海面近くにいる小魚やイカを食べています。日本における主な営巣地は、若狭湾の冠島(かんむりじま)、日向灘の枇榔島(びろうじま)、伊豆諸島の御蔵島(みくらじま)、新潟沖の粟島(あわしま)など。春から秋にかけて地面に穴を掘って巣を作り、ヒナを育てます。

このうち、御蔵島で営巣するオオミズナギドリは、三陸沖まで達する広範囲を移動して、魚を獲っていることがわかっています。そのため、今年、巣立ちを迎える幼鳥は、放射性物質を含む汚染水が大量に流れた海域の魚を、親から与えられて食べている可能性が考えられるのです。

ただ、福島第一原発から放出された放射性物質として注目されている「セシウム137」が体内に取りこまれているかどうかを測るには、オオミズナギドリを殺して解剖しなければなりません。

NRDAアジアでは、鳥を殺す必要のない方法で影響調査をしようとしているため、今回は、巣立ち間際の幼鳥を捕まえて血液を採取し、血中のカロチノイドの値を調べるという方法が選ばれました。1986年に大事故を起こしたチェルノブイリ原発の周辺で行なわれた研究の中に、鳥類の血中のカロチノイド値が減少したという報告があるためです。

11月14日、NRDAアジアを立ち上げた獣医師の植松一良氏が、東京都環境局の許可を得た上で、約15羽の幼鳥から血液の採取を行ないました。

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不器用に歩くオオミズナギドリの幼鳥

動物の血液中に含まれるカロチノイドは、細胞の酸化を抑える働きを持っています。長距離を飛ぶ渡り鳥では、血中のカロチノイドが減ると、渡りに失敗したり、渡りのあと、繁殖する余力が残っていなかったり、といったことが起きる可能性が高まることがわかっています。

また、チェルノブイリ事故の後の研究では、ツバメの羽毛の一部が白くなる「部分白化」や、くちばしに奇形が生じたりした例も報告されています。そこで、今回の御蔵島の調査では、血液採取のほか、幼鳥の体重やくちばしの長さ、足に白斑が出ていないかを確かめるための写真撮影なども行ないました。

オオミズナギドリは、幼鳥がある程度育つと、親鳥は幼鳥を残して、先に越冬地へと渡ってしまいます。後に残された幼鳥は、やがて土の中の巣穴を出て、自力で海へ飛び立ち、巣立ちと同時に渡りの旅に出ます。

巣立ちを迎えた幼鳥が巣穴から出てくるのは、日が暮れてからです。オオミズナギドリはつばさが長く、陸上では俊敏に動けません。御蔵島では、街灯が灯る民家の庭先や林道などに、不器用にうろうろする幼鳥があちこちで見られました。島の方々によると、時には道いっぱいに幼鳥がいて、歩くのに苦労するときもあるとのことです。

巣立ち間際の幼鳥の中には、まだ腹や頭に、ほわほわの産毛が残っているものもいました。放射性物質の影響も心配ですが、うまく海へと飛び立てるように、そして無事に育ってくれるように、願わずにはいられませんでした。

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日向灘に浮かぶ枇榔島でも調査

NRDAアジアでは、御蔵島と同様の調査を、宮崎県東臼杵群門川町の沖合い6kmに浮かぶ枇榔島でも行なっています。放射性物質を含む汚染水が広がった海域と、そうでない海域の両方で、同様の調査を行なって、結果を比較する必要があるためです。

御蔵島と枇榔島の値を比較して、もし御蔵島のほうが顕著に高ければ、福島第一原発から流れた放射性物質が、御蔵島のオオミズナギドリの体内に取りこまれている可能性が高くなってきます。

ただ、実際に放射性物質が検出されたとしても、それが短期的・長期的にどのような影響をオオミズナギドリの個体群に対して及ぼすかは、すぐに明らかになるわけではありません。NRDAアジアでは、長期的・継続的な調査が必要であると指摘しています。

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また、血中カロチノイドのほか、ふ化した後の卵の殻を使って、福島第一原発から放出された放射性物質の一つであるストロンチウム90の値を測る計画もあり、すでに御蔵島と枇榔島それぞれで卵の殻の採取が済んでいます。

ただ、ストロンチウム90の分析には1サンプル17万円といわれる高額な費用がかかり、まだその分析費用が確保できず、分析までは至っていません。

それでも、事故の起きた年に、できる限りのサンプルを集めることができたのには、大きな意義があります。原発事故によって放出された放射性物質による海洋生態系への影響調査は、まさに緒に就いたばかり。これから息の長い取り組みが必要とされています。

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