インドネシアの森林保全関連 情報まとめ(2006年~2009年)


  • スマトラトラと住民、両者にせまる危機(2009年3月23日)
  • ジャワサイのすみか復元に向けて(2009年2月17日)
  • バルセロナより朗報!インドネシア政府がスマトラ島全域の生態系保全を公約(2008年10月10日)
  • 拡大決定!スマトラ島のテッソ・ニロ国立公園(2008年9月9日)
  • 世界で最も希少なサイの映像撮影に成功(2008年5月30日)
  • スマトラトラに迫る密猟の脅威(2008年2月13日)
  • 求む緊急アクション、絶滅の危機に瀕するリアウ州のスマトラゾウ(2006年4月6日)
  • 多発するゾウと住民の衝突 ~インドネシア・スマトラ島より(2006年3月28日)
  • ゾウの捕獲は、保護につながらない:WWFがリアウ州政府の政策に反論(2006年3月13日)

スマトラトラと住民、両者にせまる危機(2009年3月23日)

インドネシアのスマトラ島で最近、トラと住民の衝突が連続して発生しています。森林伐採を現場で監視しているNGOの連合体「アイズ・オン・ザ・フォレスト」は地方政府に対し、スマトラ島の自然林減少を食い止めるための活動を直ちに実施するよう、要求しています。(アイズ・オン・ザ・フォレストのニュースより)

世界的な植物の宝庫に危機が

インドネシアのスマトラ島中央部のリアウ州に残る熱帯林は、アマゾンにも匹敵する生物多様性を誇ります。特に植物(維管束植物)については、WWFが2001年に各国の熱帯林で実施した調査では、200平方メートルあたり218種と、きわめて多くの植物が確認されました。

スマトラ島はまた、アジアゾウの亜種スマトラゾウ、スマトラサイ、トラの亜種スマトラトラ、そしてオランウータンといった、貴重な野生生物がすむ森が残る場所でもあります。
しかし、現在の森の面積は、本来の豊かな生態系を維持するのが難しいほど、減少してしまいました。そして2009年に入り、トラと住民の衝突が多発。森林破壊が人とトラの命を脅かしています。

多発するトラと、住民との衝突

今回のニュースは、森林伐採を現場で監視するNGOの連合体「アイズ・オン・ザ・フォレスト」とインドネシア中央政府が発信した共同プレスリリースに基づくものです。

2009年2月以降、リアウ州とその北部に隣接するジャンビ州で、少なくとも6人の住民と、3頭のトラが命を落としました。報道によると6名の死亡事故はいずれもジャンビ州で発生。うち3名は違法伐採に従事しており、2月21~22日の間にトラに襲われています。

また3頭のスマトラトラは、食料を求め、リアウ州の森林周辺の村に迷い込んで罠にかかり、住民の手で殺されました。
リアウ州の別の場所でも、2人の住民が農作業の最中、突然現れたトラに襲われ重傷を負っています。トラの犠牲もこのニュースの後さらに1頭増え、計4頭になりました。

WWFインドネシアの森林プログラムリーダー、イアン・コサシは、これら事件の根本原因はいずれも、トラのすみかである自然林の減少だと指摘します。

「住民がトラの生息域に入りこんでしまうために危険な状況が生まれ、トラもさらに絶滅の危機へと追い詰められてしまいます。これらの事故をふまえ政府は、公共の安全を確保する意味でも、スマトラ島の自然林破壊を食い止める対策を講じるべきです」。

スマトラ島全域の生態系保全が急務!

2008年8月にインドネシア政府は、テッソ・ニロ国立公園の拡大を宣言。さらに同国政府は10月にも、IUCN(国際自然保護連合)の総会「世界自然保護会議」で、「今後のスマトラ島の土地利用や開発は、島の生態系保全に配慮して実施される」という公約を発表。インドネシア政府の4省庁とスマトラ島10州すべての知事が署名し、スマトラ島の森林保護の将来にとって明るいニュースとなりました。

しかし、野生で生息するスマトラトラは推定で、現在わずか400頭未満。2005年にはトラ研究の専門家が世界中の主要なトラの生息地について調査を実施し、スマトラ島のジャンビ州が世界的にも重要なトラのすみかであることを明らかにしましたが、その重要な地域が必ずしも、保護区に指定されているわけではありません。

今回起きた事件は、まさに、テッソ・ニロ国立公園の拡大はもちろん、国立公園に含まれない森林区域についても、保護や管理を実施することの緊急性を実証するものです。

続く森の伐採を食い止めるために

スマトラ島では近年、自然林が大規模に伐採されてきました。過去22年間にスマトラ全島で失われた自然林は1,200万ヘクタール。自然林の約50%が消失したことになります。
そして森は、紙の原料となるアカシアやパームオイル(ヤシ油)を採るためのアブラヤシのプランテーション(植林)や、農地に姿を変えてきました。

今も続くこの森林環境の破壊をくいとめ、人と野生動物の衝突事故のような緊急事態に対応するため、インドネシア政府とWWFは連携して、今回の事件の調査にあたっています。
また、何を措いても重要なのは、中央と地方の政府が協力し、スマトラ島の生態系に配慮した土地利用計画を作り、一刻も早く実施に移すことです。

WWFと「アイズ・オン・ザ・フォレスト」は、こうした野生生物と住民の衝突事件の件数と発生地点をとりまとめ、該当する森林区域の管理責任者を明らかにする計画を進めています。

この記事の原文:アイズ・オン・ザ・フォレストのプレスリリース (英語)
http://eyesontheforest.or.id/index.php?option=com_content&task=view&id=224&Itemid=6&lang=english

その他の情報:アイズ・オン・ザ・フォレストのサイト

アイズ・オン・ザ・フォレストは、リアウ州に残された天然林の主要な8つの区域からの伐採を現場で追跡調査、その結果をレポートにまとめ、ウェブでで公開しています。

http://www.eyesontheforest.or.id/


ジャワサイのすみか復元に向けて(2009年2月17日)

野生の生息数が、世界にわずか70頭前後といわれるジャワサイ。世界で最も絶滅の危機が高い動物の一種に数えられる、このジャワサイの保護を進めるため、インドネシアのジャワ島では今、すみかの自然林を広げる試みが、実施されています。

ジャワ島の至宝、ウジュン・クーロン

インドネシアは17,000を超える島々で構成される国ですが、中でも大きな面積を占めるのが、ボルネオ島とスマトラ島、そしてジャワ島です。

このうちジャワ島では早くから開発が進められ、多くの自然が失われてきました。この島に、辛うじて残された保護区が、島の西端に位置するウジュン・クーロン国立公園です。面積は約12万ヘクタール。東京23区の1.9倍に相当します。

このウジュン・クーロン国立公園は、野生の生息数がわずか70頭前後といわれるジャワサイの、最後に残されたすみかでもあります。世界のジャワサイの総個体数の90%、約60頭が、ウジュン・クーロンに生息しています。

ジャワサイが今後も絶滅することなく生き延びるかどうかは、まとまった生息域としてほぼ唯一残された、このウジュン・クーロン国立公園の自然が、今後どれだけ守られるかにかかっているといっても過言ではないでしょう。

生息地全域をカバーする、ビデオカメラを設置!

1960年代からジャワサイの保護調査に取り組んできたWWFでは、現在もこのウジュン・クーロンで活動を続けています。

2008年12月には、WWFインドネシアが、WWFドイツなどの資金援助を得て、ウジュン・クーロン国立公園に生き残っているジャワサイの生態を調査するため、30台のビデオカメラを園内の各地に取り付けました。これで現在、公園内で作動しているビデオカメラは合計34台になり、ジャワサイの生息地全域がカバーできるようになりました。

WWFインドネシアのウジュン・クーロン保護プロジェクトのリーダー、アディ・ハリアディは語ります「サイの出産、子育てなどの繁殖活動、食物にしている植物などについて詳細に知ることは、保護活動を進める上で非常に重要なことです。新たに設置されたビデオカメラは、そうした調査の大きな助けとなります」。
WWFインドネシアでは、これらのカメラの設置により、今後の保護に役立つ、新たな映像が得られることを期待しています。

自然の植生に戻し、サイのすみかを広げる

ウジュン・クーロン国立公園では、ジャワサイの調査と並行し、土地を自然の植生に戻していく取り組みも行なわれています。

そのひとつの例が、増えすぎたヤシの木を取り除くことです。
現在、ウジュン・クーロンには、侵食性の高いある種のヤシ(Arenga obutusifolia)が、自然の植生で見られる以上に繁茂しています。しかし、ジャワサイはこのヤシを食べないため、ヤシの繁茂が、サイのすみかを狭める一因となっていました。

また、ジャワサイは、同じく絶滅が心配される、バンテン(ジャワスイギュウ)とも食物や生息域をめぐって競合するため、その保護にはより広い生息域と食物が必要とされています。

そこでWWFは、2007年の終わり頃から、増えすぎたヤシを手作業で取り除き、多様な植物が生育しやすい区画を拡大する試みを始めました。そして2009年1月、ついに、その場所で植物を食べている1頭のジャワサイが撮影されたのです。

ジャワ島の自然を未来に

このウジュン・クーロンでの取り組みは、いずれもただジャワサイを守るだけでなく、他の地域ではことごとく失われてしまった、ジャワ島の貴重な自然を、保全する活動でもあります。

ウジュン・クーロン国立公園では、かつてはサイの密猟も多く行なわれてきましたが、厳しいパトロールの結果、密猟は劇的に減少し、現在では生息数が安定しています。島内でも最も重要なこの地域の生態系を維持するため、現在もなお、日々管理のための努力が必要とされています。

ウジュン・クーロン国立公園でのWWFの活動は、数多くの保護プログラムの中でも最も長い歴史をもつもの。ジャワ島にわずかに残された国立公園で、WWFの取り組みは今も続けられています。

WWFインドネシアのサイト (英文)
22 Januari 2009
WWF adds 30 video cameras to track the rarest rhino


バルセロナより朗報!インドネシア政府がスマトラ島全域の生態系保全を公約(2008年10月10日)

スペインで開かれている世界自然保護会議で、インドネシア政府は、スマトラ島の熱帯林保全に関する公約を発表しました。インドネシアがスマトラ島全域の環境保全の重要性を、公式の文書で認め、発表したのは初めてのこと。今後の保全活動の促進が期待されます。

国立公園拡大と、さらなる広範な生態系保全をめざす

2008年10月9日、スペインのバルセロナで開かれている、IUCN(国際自然保護連合)の総会「世界自然保護会議」で、インドネシア政府はスマトラ島の森林保全に関する公約を発表しました。

インドネシア政府は8月28日、スマトラ島に残されたテッソ・ニロの熱帯林を、国立公園が設立された2004年当時の約3万8,000ヘクタールから、8万6,000ヘクタールにまで拡大することを宣言しました。
今回、世界自然保護会議で発表された公約では、この宣言に加え、スマトラ島全域の生態系の保全が視野に入れられており、今後の土地利用や開発の際、同島に残された自然の生態系維持を必ず考慮しながら実施することなどが明記されています。

今後の保全を実現する国内外からの支援

公約にはスマトラ島の10州すべての知事とインドネシア中央政府の4省庁が署名。スマトラ島全体についての生態系保全の重要性を、政府が文書で明らかにしたのは、史上初の画期的なできごとです。
インドネシア政府の公約は、スマトラ島の熱帯林の未来に、明るい希望をもたらすものといえるでしょう。

しかし、今後行なわれる土地利用や開発の際に、公約を確実に実現してゆくためには、インドネシアの国内外からの大きな支援が必要です。
インドネシアの中央と地方の政府、以前からリアウ州などで現地の環境保全に取り組んできたWWFをはじめとする環境NGOの協力はもちろんのこと、資金的な援助や国際社会との連携など、さまざまな支援が、今後さらに重要な役割を果たすことになります。

電子署名で海外からの応援を!

世界の人々が、スマトラ島の森林保全に関心があることを形にして示すことも、現地の取り組みを後押しする、大きな励みになります。
そこでWWFでは、一般の人々がインドネシア政府に対して、今回の公約を歓迎する意志を表すための電子署名を開始しました。世界中の誰でも参加でき、インターネット上から署名を送っていだたくことができます。
一人ひとりができることはわずかでも、力を合わせれば大きな動きが生まれます。スマトラ島に残された森林とその生物多様性を将来の世代に残し、現地の住民の方々がくらしを維持できるように、日本にも協力が求められています。
ぜひご協力をお願いいたします。

▼電子署名は終了いたしました。ご協力いただいた皆さま、ありがとうございました。


拡大決定!スマトラ島のテッソ・ニロ国立公園(2008年9月9日)

2004年に、スマトラ島の中央部リアウ州に設立されたテッソ・ニロ国立公園。国立公園に指定された当初の面積は約3万8,000ヘクタールでしたが、インドネシア政府は2008年8月28日、これを2倍以上の8万6,000ヘクタールに拡大することを宣言しました。スマトラ島にわずかに残された低地熱帯雨林を守る取り組みが、大きく前進しようとしています。

失われゆくスマトラの森

かつて、全土が熱帯の森におおわれていた、インドネシアのスマトラ島。島ではこの半世紀の間に、世界屈指の豊かさを誇る自然林が失われて続けています。

自然林の消滅の理由は、木材や紙の原料となる樹木の伐採やアブラヤシ農園(プランテーション)開発や森林火災など。いずれもこの島だけに生息するアジアゾウとトラの固有亜種、スマトラゾウやスマトラトラをはじめ、多くの野生動物も現在絶滅の危機にさらされています。

森の消滅は、野生動物と住民との衝突も深刻化させました。すみかを追われた、スマトラゾウやスマトラトラが民家や農地に出没。住居が破壊されたり、住民に死傷者が出る事故が多発したのです。

そのため、この数年で数百頭もの野生のゾウが、毒や銃、罠などによって殺されました。また、島全体で300頭以下といわれるスマトラトラも、毛皮や骨(高価な薬の原料になる)を狙われ、密猟され続けています。

「テッソ・ニロ森林景観」保全の構想

スマトラ島でとりわけ森林の破壊や分断が進んでいるのが、島の東側に広がる低地の熱帯雨林です。その中で、島中部のリアウ州にあるテッソ・ニロ地域は、まとまった規模の森が残る最後の場所と言っても過言ではありません。

WWFなどの自然保護団体は、ここに保護区を設置するよう、長年インドネシア政府に求めてきました。これが実現し、テッソ・ニロ国立公園が設立されたのは2004年のことです。

しかし、設立当時の国立公園の面積は、わずか3万8,000ヘクタールほど。広域の熱帯林や、そこにいきる野生生物を保全するには、遠く及ばない規模でした。

WWFは当初から、15万3,000ヘクタールの森を国立公園に指定すべきだ、と提案していました。これを中心に、森林が消失したり、荒廃している周辺の土地に森林を復元し、分断された森林を繋ぎ合わせようという構想です。このように、より広い森を保全できれば、絶滅が危惧される多くの野生生物が安全な生息場所を得られると考え、テッソ・ニロ国立公園と周囲のいくつかの保護区をコリドー(森林の回廊)で結び、2015年までに300万ヘクタールの「テッソ・ニロ森林景観」を確立し、保全する目標を掲げてきました。

WWFは保護区の拡大と、地域への情報発信、さらに違法な伐採の監視支援といった活動を行ない、まだ保護区に指定されていないエリアを含む、テッソ・ニロの森林の保全に力を注いできました。

法の抜け穴、経済の需要、そして温暖化への影響

しかし、森林の減少には、なかなか歯止めがかかりませんでした。
明らかに違法な伐採が続いた上、国の法律で伐採が禁止されているはずの森林区域についても、地方政府が伐採許可を発行してしまうといった事態が続いたためです。この結果、リアウ州はここ数年の間で、インドネシアでもっとも森林の減少率が高い州になってしまいました。

州政府による許可を得て、森林の伐採を行なっているのは、大規模な製紙会社です。
とりわけ、APP社(アジアパルプアンドペーパー社)やAPRIL社(エイプリル社)の大手2社が、今もリアウ州の自然林をパルプの原料として操業していると見られています。

これらの製紙会社が生産する木材や紙パルプは、日本や欧米諸国に輸出されており、日本で使用されているコピー用紙も、その25%がこれらの企業が生産したものによって占められています。スマトラ島の自然林破壊には、消費者としての日本も、間接的に荷担しているということです。

パームオイル(ヤシ油)の需要が世界的に増加していることも、スマトラの森を脅かしています。パームオイルはアブラヤシの実から採られますが、これを栽培するため、広大な森が焼き払われ、アブラヤシを植林した大規模なプランテーションが造成されているのです。ここから生まれる製品も、海外に広く輸出されています。

さらに近年は、地球規模の気候変動、すなわち地球温暖化に、森林破壊が影響を及ぼしていることも、指摘されています。
その原因の一つが、リアウ州にも広く見られる、泥炭地に広がる「泥炭湿地林」と呼ばれる森の伐採です。この泥炭は、植物の死がいが腐らずに水中に堆積し、炭化したもので、多くの炭素を貯蔵しています。

ところが、プランテーションを造るため、泥炭湿地の自然林が伐採され整地などのために火が放たれると、大量の二酸化炭素が大気に放出されます。これが、地球温暖化の原因となってしまうのです。
実際、リアウ州ではこれらの森林火災によって、2.2億トン(1990年~2007年の年平均)の二酸化炭素が排出されました。この量は、オランダ1国分の排出量(1995年時点)の約1.2倍に相当します。

テッソ・ニロの将来と、日本の責任

年々、厳しい状況が重なる中で、インドネシア政府は2008年8月28日、ついに、テッソ・ニロ国立公園を拡大する宣言を発表しました。
宣言の内容によれば、2008年内にまず8万6,000ヘクタール(東京23区の約1.4倍)を増設し、さらに近い将来、これが10万ヘクタールまで拡大される、ということです。

これは、リアウ州のみならず、スマトラ島の熱帯林保全という視点からも、その保全活動を大きく前進させる原動力となるものです。
インドネシアの森林保全に長年取り組んできた、WWFインドネシアの事務局長ムバリク・アーマッドは、政府による宣言を受け、次のように語りました「今回の政府の宣言をWWFは、たいへん高く評価しています。しかし、野生生物や先住民の生活の保護、そして森林伐採による地球温暖化の影響を軽減するため、保全しなければならない森林は、テッソ・ニロだけではありません」。

「世界規模で操業する製紙会社や、パームオイル産業など、天然資源に関連する企業は、経済的な利益というきわめて狭い関心事にとらわれています。しかし私たちは、スマトラ島の野生生物と住民の生活、そして地球規模の自然環境の維持を両立させていくことをめざし、そのための解決を、全力で追求していきます」。

長年の働きがついに実った、今回の保護区拡大の朗報に、現地インドネシアの関係者はわきかえっています。
しかし、たとえスマトラという一つの島の森林であっても、実際にそれを保全するためには、海外の国々で実践しなくてはならない取り組みがあります。森から生産される木材や紙などの林産物を輸入しているさまざまな国々で、消費者の意識を変えてゆかねばならないからです。

テッソ・ニロの保全活動に、長年にわたり資金援助を実施してきたWWFジャパンも、日本の企業などに対して、原産地や生産方法が分からない林産物を購入しないよう求め、そのためのガイドラインなどを紹介してきました。

また、FSC(森林管理協議会)のような国際的に信頼できる森林認証制度を国内で広め、これにより認証された木材や紙を積極的に選んで買うことが、原産地の森林保護につながることを訴えてきました。
保護区が広がれば森が守れるとは限りません。WWFは今後も、テッソ・ニロ現地の森と、多くの木材を使っている国々の両方で、森林の保全に向けた取り組みを続けてゆきます。

記者発表資料 2008年9月9日

インドネシアのテッソ・ニロ国立公園、面積倍増に スマトラゾウとスマトラトラの存続に光明射す

【インドネシア、ジャカルタ発】インドネシア政府は8月28日、 テッソ・ニロ国立公園の面積を、86,000ヘクタール(現在は約38,000ヘクタール)に拡大すると宣言した。テッソ・ニロ国立公園は現在、スマトラ ゾウのすみかとしてスマトラ島に残るもっとも広い森林区域をカバーしている。

「これは、スマトラゾウやスマトラトラの保護にとって画期的 なできごと。今回の宣言を実効あるものとするためWWFは、密猟や不法侵入の取り締まりなど、現場での活動をさらに強化していく必要があると考えていま す」WWFインドネシア事務局長、ムバリク・アーマッド博士は述べた。

スマトラゾウやスマトラトラは、絶滅を危惧されており、テッソ・ニロ国立公園はそうした野生生物に残された数少ないすみかのひとつ。また、4,000以上の植物種が発見されるなど、地球上でもっとも豊かな低地林の植物生態系を有し、未発見の種も多数あるといわれている。

テッソ・ニロ国立公園は2004年、スマトラ島のリアウ州に設立されたが、当時指定された面積はわずか38,000ヘクタール。今回の政府の宣言により、2008年末までに86,000ヘクタール(東京23区の約1.4倍)、将来はさらに18,812ヘクタールを追加し、合計約100,000ヘクタールに拡大の予定。

スマトラゾウが種として存続していくため必要な頭数が生息するのに充分な広さの低地林が分断されずに残っているのは、テッ ソ・ニロのみ。WWFも政府をサポートしながら保護に取り組んでいるテッソ・ニロの森林には、現在60~80頭のスマトラゾウと50頭のスマトラトラが生 息すると推測されている。
  テッソ・ニロはまた、周辺22の村の住民約40,000人の生活にとって、重要な自然環境を提供している。

「依然として様々な違法行為が発生しているテッソ・ニロの森林ですが、ここを保護できれば、スマトラで絶滅の危惧されている生物が安心してすめる場所を提供できることになります」

「今回の政府の宣言をWWFは、たいへん評価しています。その一方、野生生物の生息や先住民の生活、そして森林伐採による気候変動の影響を軽減するため保全しなければならない森林区域は、テッソ・ニロだけではありません(アーマッド博士)」

テッソ・ニロ国立公園の境界地帯に住む22のコミュニティは「テッソ・ニロ・コミュニティ・フォーラム」を運営している。WWFも設立を支援した同フォーラムは、地域住民共同によるテッソ・ニロの保護活動や、公園の管理への、住民の意見の影響力強化などを促進する組織。

自然林が減少したことで、すみかを追われた野生生物が住民と衝突する事件が多発しており、ここ数年で多くのゾウが命を落とした。野生生物と人間の軋轢を軽 減するのも、WWFの活動のひとつで、その成功例が、飼いならされた使役ゾウが民家付近に現れた野生ゾウを森に追い返す「フライング・スクワッド」であ る。WWFはまた、森と民家の境界に、ゾウの好物ではない植物を植えるなどの取り組みも実施している。

「WWFは、スマトラ島の野生生物と 住民の生活、そして地球規模の自然環境の維持を両立させていくことに焦点を当て、そのための解決策を、全力を尽くして追求しています。世界規模で操業する 一部の製紙やパームオイル関連企業のように、経済利益というきわめて狭い関心事だけにとらわれてはいけないのです。(ムバリク・アーマッド)」

Notes for Editors:

  • インドネシアの州別森林減少率は、リアウ州が最大。2005~2006年に11%の森林が減少している。過去25年間では400万ヘクタール以上(同州に元々存在していた森林の65%)が消失している。
  • リアウ州に現在生息するスマトラゾウは210頭 (過去25年間で、84%減少)、スマトラトラは192頭 (過去75年間で、70%減少)と推定されている。 このうち、拡大されるテッソ・ニロ国立公園に生息するゾウは60~80頭、トラは50頭。
  • 同州はまた、世界でも最大規模で操業する製紙企業、APP(アジアパルプアンドペーパー)およびAPRIL(エイプリル)の操業拠点でもある。紙パルプ製造のために伐採された自然林の面積は、インドネシアの州ではリアウ州が最大。
  • 炭素の貯蔵庫でもある泥炭湿地の森林を皆伐することにより、インドネシアは大量の温暖化ガスを排出したとされ、その量は、アメリカ合衆国と中国に次ぎ世界第三位。

このリリースのオリジナルはこちら

28 August 2008  WWFインターナショナルによる記者発表資料

New hope for Sumatra's elephants and tigers as Indonesia doubles size of key national park

Jakarta, Indonesia- The government of Indonesia today declared its commitment to enlarging one of the largest blocks of forest remaining for Sumatran elephants, expanding the vital TessoNiloNational Park on Sumatra island to 86,000 hectares.

"This is an important milestone toward securing a future for the Sumatran elephant and tiger," said Dr. Mubariq Ahmad, WWF-Indonesia's Chief Executive. "To ensure that the commitment is effectively implemented, we must redouble our efforts on the ground to eliminate poaching and illegal settlements within this special forest."

Tesso Nilo is one of the last havens of endangered Sumatran elephants and critically endangered Sumatran tigers.With more than 4,000 plant species recorded so far, the forest of Tesso Nilo has the highest lowland forest plant biodiversity known to science, with many species yet to be discovered.

TessoNiloNational Park was created in 2004 in RiauProvince, but only 38,000 hectares of forest were included. With today's declaration, the government of Indonesia is to extend the national park into 86,000 ha by Dec 2008 and integrate an additional 18,812 ha into the national park management area of 100,000 ha.

WWF has been supporting the government effort to extend and protect the park as the last block of lowland forest in central Sumatra large enough to support a viable elephant population. About 60 to 80 elephants are estimated to live there, along with 50 tigers.

Tesso Nilo forest is also an important watershed for more than 40,000 people living in the surrounding 22 villages.

"Tesso Nilo is still under serious threat from illegal activities, but if we can protect the forests there, it will give some of Sumatra's most endangered wildlife the breathing room they need to survive,"Dr Ahmad said.

"And while we greatly appreciate this precedent for more protection from the Indonesian government, there are other areas on Sumatra that need safeguarding for the sake of its wildlife, its threatened indigenous peoples and to reduce the climate impacts of clearing."

WWF helped establish and supports the Tesso Nilo Community Forum, run by all 22 local communities living in the buffer zone of the national park.The forum supports joint actions to protect the Tesso Nilo forest and gives the communities a unified and more influential voice in park management.

WWF is working with local communities that suffer from human-wildlife conflict as a result of disappearing forests in the province.Hundreds of elephants have died in the last few years.

A successful Elephant Flying Squad uses domesticated elephants and mahouts to keep wild elephants inside the park from raiding village crops outside the park.WWF also promotes the planting of buffer crops that are not attractive to elephants.
"WWF is committed for finding solutions for Sumatra's people and wildlife and the global environment," Dr Ahmad said. "This is where the focus should be, rather than on the narrower interests of global pulp and palm oil conglomerates."

For further information, please contact:

Desmarita Murni, WWF-Indonesia: +62 811793458) dmurni@wwf.or.id
Phil Dickie, WWF-International press office: +41 79 701952 or PDickie@wwfint.org

Notes for Editors:

  • RiauProvince has the highest deforestation rate of any province in Indonesia, with an astounding 11 percent forest loss between 2005 to 2006. It has lost more than 4 million hectares of forest in the past 25 years (65% of the province's original forest).
  • Riau is home to an estimated 210 Sumatran elephants (the remainder of a 84 percent population decline in the past 25 years) and 192 Sumatran tigers (after a 70 percent decline in the past quarter century). The new boundaries of TessoNiloNational Park are estimated to be home to 60-80 elephants and 50 tigers.
  • Riau is home to two of the world's largest pulp mills, owned by Asia Pulp & Paper (APP) and Asia Pacific Resources International Holding Ltd(APRIL). The province has lost more natural forest to pulpwood concessions than any other Indonesian province.
  • The clearing of carbon-rich peatlands and peat forests in Riau has contributed to Indonesia having the third-highest rate of greenhouse gas emissions in the world, behind only the United States and China.

世界で最も希少なサイの映像撮影に成功(2008年5月30日)

インドネシアのウジュンクーロン国立公園で、WWFは世界で最も希少な大型哺乳類の一種ジャワサイの親子の映像を、ビデオ撮影することに成功しました。ジャワサイはウジュンクーロン以外の地域ではほぼ絶滅しており、総個体数も60頭あまりといわれています。

ジャワサイ親子の姿をとらえた!

インドネシア、ジャワ島の最西端に位置するウジュンクーロン国立公園で、WWFはジャワサイの親子の映像をビデオ撮影することに成功しました。

ジャワサイはかつて、東南アジアに広く分布していましたが、漢方薬の原料となる角を狙った密猟と、生息環境である熱帯雨林の消滅によって激減。現在、世界に60頭ほどしか確認されておらず、しかもそのほとんどが、ウジュンクーロン国立公園に生息しています。

今回の映像は、WWFインドネシアが、国立公園の管理事務所や、研究者、地域の人たちと、ウジュンクーロンで行なっている、自動ビデオカメラを使った調査で撮影に成功したもので、世界で最も絶滅の危機が高いとされる、この大型哺乳類の親子の姿を捉えた、非常に貴重なものとなりました。

映像には親子と思われる2頭のサイが映っており、最後では、ジャワサイの母親がカメラに近づいて、それを攻撃し、跳ね飛ばして壊してしまった様子が映っています。

「わずか60頭しかいない野生のジャワサイの映像は、壊れたカメラよりもはるかに価値があると思います」。ウジュンクーロンでWWFインドネシアのプロジェクトに携わっている、アジ・ラフマト・ハリヤディはいいます。
「熱帯雨林の奥深くでジャワサイを見ることは、非常に難しいのです。赤外線を使って動くものを自動で撮影できるカメラを使った調査は、直接観察して調査するよりも、生息地の彼らの状況を、はるかに詳しく教えてくれます」。

このビデオカメラを使ったジャワサイの調査は、最近数カ月にわたって行なわれてきました。マレーシアの熱帯林におけるスマトラトラや、ボルネオ島のスマトラサイの調査で、先駆的に行なわれていた手法です。

「撮影がうまくいくかどうか、常にチャレンジです。特にジャワサイのような希少な動物の場合は」と、カメラとラップの設計を手がけたWWFマレーシアのカメラマン、ステファン・ホッグはいいます。「母サイがカメラを攻撃してきたことには、困惑させられました。私たちは撮影のため光源に赤い光(IRライト)を使っているのですが、それはこの光が動物を怖がらせないとされてきたからです」。

その意味でも、今回の撮影は教訓になりました。その後、ビデオカメラを設置する場所の位置や距離を改良したことで、翌日、2度目の撮影に成功した際には、カメラは攻撃を受けませんでした。

今後のジャワサイ保護のカギに

このビデオによるデータは、今後のジャワサイ保護を推進する上で、大きな意味を持っています。なぜなら現在、ジャワサイの一部の個体を、ウジュンクーロンから、他の森へ試験的に移す計画が進めているからです。

ウジュンクーロンの森では、これまでも充実した保護活動が行なわれてきましたが、残念ながら、それほどたくさんのジャワサイが生息できるほど広くありません。また、生息場所が限られていると、そこが万が一、災害や伝染病などに見舞われた場合、個体群が丸ごと、致命的な打撃を受ける恐れがあります。
何より、現在のウジュンクーロンからジャワサイがいなくなることは、ジャワサイが地球上からほぼ完全に絶滅してしまうことに他なりません。

そのために、かつてジャワサイが生息していた他の地域に移す計画が検討されることになりましたが、それにも大きな困難があります。もともと多くても50頭前後のジャワサイを、不用意に他へ移し、死なせることになったら、やはりこれは大きな打撃になるからです。

「サイを移動させるためには、ジャワサイの生態や生息環境についての、信頼できる科学的なデータが必要です。この自動カメラを使うことによって、希少なジャワサイの調査をする研究者は、生息地の竹やぶで一晩中過ごすことなく、調査ができるのです」と、アジは言います。

WWFでは今後も、ジャワサイが通る森の中のルートや、体についた虫をとるために泥あびをする場所、家畜用の岩塩をなめに森から出てくる場所の近くにカメラを設置し、調査を継続すると共に、インドネシア政府や、国際サイ財団(IRF)、アメリカ魚類野生生物局など、インドネシア国内外の自然保護団体・機関と協力して、ジャワサイの保護に取り組んでいくことにしています。


スマトラトラに迫る密猟の脅威(2008年2月13日)

野生生物の違法取引を監視するトラフィックは、絶滅の恐れのあるスマトラトラの取引に関する、新しい報告書を発表しました。この中でトラフィックは、スマトラ島内におけるトラの流通状況から、2006年の1年間に少なくとも23頭のスマトラトラが密猟の犠牲になったことを明らかにしました。

密猟の犠牲に

2006年、トラフィックはスマトラ島内における28の都市や町でスマトラトラの流通に関する市場調査を行ないました。
貴金属店、土産品店、中国の伝統薬店、骨董品店、宝石店など326店舗を調べた結果、全体の10%でトラの犬歯、ツメ、毛皮、顔の体毛、骨といったトラの部位を販売していることが判明しました。
これらの製品を作るために、少なくとも23頭のスマトラトラが犠牲になったと考えられます。

現在スマトラトラは、IUCN(国際自然保護連合)が絶滅の恐れの高い野生生物種をまとめた「レッドリスト」で、絶滅の恐れが非常に高い「近絶滅亜種(CR)」と評価されています。危機の主な原因は、パルプやパーム油の需要に伴う森林伐採による生息地の森の減少、そして密猟や違法取引によるものです。

トラフィック サウスイーストアジアのオフィサーであるジュリア・ヌグは現状を危惧しています。
「1990年から2000年にかけて、毎年52頭のスマトラトラが殺されていたと推定されています。その数値からは少なくなっていますが、この数が減っている理由は、悲しいことに、野生下のトラの数が減少しているためともいえます」。

トラフィックではこれまで、インドネシア政府当局に対し、関与している取引業者の詳細について定期的に報告してきました。今回も、新しいレポートの報告を基に、インドネシア政府が法の下でこれらの取引を厳しく規制し、違法取引をなくすよう、強く働きかけてゆきます。

▼この記事のオリジナルはこちら

WWFインターナショナルのサイト
13 Feb 2008
Body part by body part, Sumatran Tigers are being sold into extinction
http://www.panda.org/wwf_news/press_releases/?124480/

記者発表資料 2008年2月13日

スマトラトラの体の部位が次々に売られ、絶滅に向かっている~トラフィックの新報告書は警鐘を鳴らす~

【英国・ケンブリッジ、スイス・グラン発】 本日発表されたト ラフィックの報告書によれば、スマトラトラという絶滅のおそれが極めて高いトラを保護するのに、法律が機能していないことが分かった。インドネシアの市場 でトラの部位(body parts)が売られていたのである。

スマトラ島にある28の都市や町で2006年に行われた調査から、326の小売店の10%において、トラの犬歯、ツメ、毛皮、顔の体毛、骨といったトラの部位を販売していることが分かった。小売店とは、貴金属店、土産品店、中国の伝統薬店、骨董品店、宝石店などである。

犬歯の数から、同調査は、こうしたトラの部位からなる製品を作り出すのに、23頭のスマトラトラが殺されたと推定している。

「1990年から2000年にかけて、毎年52頭のスマトラトラが殺されていたという推定値からは少なくなっています。しかし、利用されるトラの数が減っ ているのは、悲しいことに、野生下のトラの数が減少しているためという見方が成り立ちます」とトラフィック サウスイーストアジアのプログラムオフィサーであり、本報告書"インドネシアのスマトラ島でトラの取引がふたたび起きている(The Tiger Trade Revisited in Sumatra, Indonesia)"の主著者であるジュリア・ヌグは言う。

今回トラフィックが行った調査の全体から、スマトラ島北部の中心都市メダンと、そこから15km離れた小さな町パンクール・バトゥ(Pancur Batu)がトラの部位の取引に関して、主要集積地としての役割を果たしているのが分かった。

トラフィックでは、インドネシア政府当局に対し、関与している取引業者の詳細について定期的に報告している。それにも関わらず、そのことに対して何らかの実効性ある措置がとられているかどうか明確ではない。

「トラフィックの成果をあげた調査は、スマトラトラが絶滅に向かって、その部位を次々と利用されていることを示している。これは、法の実効性の危機であ る。もしインドネシア政府当局が国際社会からの助けを必要とするならば、そうすべきである。そうしないのならば、インドネシア政府当局は、法の実効性の問 題を真剣に考えていることを目に見える形で示してみせるべきだ」とWWFの野生生物保護プログラムのディレクターであるスーザン・リーバーマンは言う。

"取引業者を指導して違法取引をやめさせる"という有効な法執行に、持てる労力を集中すべきであると、この報告書は提言する。取引のホットスポット(重要 地点)のモニタリングは継続的におこない、インドネシア政府当局が行動を起こせるように、すべての情報は伝えられるべきである。トラやほかの野生生物に関 する取引で、刑罰に値すると見受けられるものは、法律を最大限に適用して処罰すべきである。

「私たちは野生生物取引の問題に取り組まなく てはいけません。ただ、現在のところ、私たちはほかにも多くの重大な問題に直面しているのです。不幸にも、それがスマトラトラの個体数減少につながってい ます。私たちは、スマトラ島における土地利用の転換、生息地の分断、人とトラの軋轢、貧困といった問題と悪戦苦闘しているのです。土地利用の転換と生息地 の分断は、トラを人の居住地に近づけ、人とトラの軋轢の問題を生んでいます」とインドネシア森林省の生物多様性保全ディレクターのトニー・ソエハルトノは 言う。

2007年にバリで開催された気候変動の会議中、インドネシアの大統領は、トラ問題への取り組み強化として"スマトラトラ保護戦略とその行動計画2007-2017"を発表した。

スマトラ島の残り少ないトラは、パルプ・製紙産業とパーム油産業による森林の無秩序な伐採による脅威にもさらされている。生息地の喪失と違法取引という複 合的な脅威を前にして、ただちに問題解決に取り組まなくては、インドネシアのトラは死亡宣告を受けることになるだろう。

「スマトラトラ は、すでにIUCNのレッドリストの絶滅危惧種の中では最上位(CR:近絶滅種)に入っています。これは、野生下では絶滅する一歩手前の状態にあることを 意味します。このすばらしい生き物を失うことは耐え難いことです」とIUCNの野生生物保護プログラム責任者のジェイン・スマートは言う。

「スマトラトラの個体数は400-500頭よりも少ないと推定されています。もしも密猟と違法取引が続くならば、ジャワトラとバリトラが絶滅したように、スマトラトラもまた消えゆく運命にあることは、数学者の力を借りなくても分かります」とジュリア・ヌグは言う。

インドネシアは現在、ASEANの野生生物執行ネットワーク(ASEAN WEN)の議長国である。したがって、「インドネシアが、トラの部位を含む違法な野生生物取引に対して行動を起こすことによって、ほかのASEAN諸国に 対してリーダーシップを示して見せるべき」と、同国のトラフィック事務所のコーディネーターであるアニ・マルディアストゥティは提言を行っている。

NOTES:

  • 英文の報告書 "The Tiger Trade Revisited in Sumatra, Indonesia"はこちらからダウンロードできます。 (英文・PDF形式)
  • スマトラトラ(Panthera tigris sumatrae)はIUCNのレッドリストでCRに分類されている。また、CITES(ワシントン条約)の附属書Iに記載されている。さらに、インドネシアの「生物資源と生態系に関する1990年法律第5号」で保護動物に指定されている。

海外連絡先:

1.Richard Thomas, Communications Co-ordinator, TRAFFIC, t + 44 1223 279068, m + 44 77434 82960, email richard.thomas@traffic.org
2.Jan Vertefeuille, Communications Manager, WWF Asian Elephant, Rhino and Tiger Programmes, m +1 202 489-2889, email janv@wwfus.org
3.Sarah Halls, Media Relations Officer, IUCN, Tel: +41 22 999 0127; Mobile: +41 79 528 3486; Email: sarah.halls@iucn.org

トラフィック報告書

"The Tiger Trade Revisited in Sumatra, Indonesia"(英文・PDF形式:936KB)


求む緊急アクション、絶滅の危機に瀕するリアウ州のスマトラゾウ(2006年4月6日)

記者発表資料 2006年4月6日 Media Advisory 仮訳

原文(英文)はこちら

現在発生している問題

インドネシア・スマトラ島のリアウ州に生息するスマトラゾウ(アジアゾウの亜種)の個体数は、過去11年間で約75%も減少している。現在約400頭が生息していると推定されるが、保全や管理の体制を改善しない限り5年以内に絶滅することが懸念される。
本日WWFと「アイズ・オン・ザ・フォレスト」は、最新技術を用いた新たな地図情報を公開した。同州内で死亡あるいは捕獲されたすべてのゾウのデータが以下のアドレスの地図で確認でき、さらにゾウの生息数と森林の皆伐状況を重ね合わせて見ることが可能である。

http://eyesontheforest.or.id/eofnew/ele_map_announcement.php.

ゾウの減少は、おもに以下の原因による。

  • ゾウのすみかである森林の大規模な伐採と、アブラヤシあるいはパルプ用植林への用途転換。こうした伐採の多くは、違法である。
  • ゾウは、天然林だった場所に栽培される農産物しか食べる物がなくなるため、住民との間に深刻な衝突をひき起こしている。その対応として行なう毒殺や射殺。また、政府が捕獲した後の、管理不充分による死亡。
  • 捕獲や、他の場所への移送に際しての、技術的な未熟さによる死傷。

裏づけとなる事実

  • 2000年からのWWFの調査によると、同州内で45頭のゾウが毒殺または自家製の銃で射殺された。ゾウの襲撃により死亡した住民は16名だった。
  • 201頭が住民との衝突を軽減する目的で捕獲されたが、45頭(22%)が捕獲の結果死亡している。
  • 上の201頭のうち41頭(20%)は、離れた場所の森林に解放されたが、多くの場合人の目に触れないように実施されている。この頭数は、WWFが現地住民からの聞き取り調査などで得た情報から推定したものである。
  • 別の102頭は捕獲された後に痕跡を残さず姿を消し、WWFは保護センター、動物園いずれでも、何ら足取りをたどることができなかった。未確認のまま死亡している可能性もあり、WWFの集めた情報によると、その確率が高い。
  • これら102頭も死亡しているのならば、捕獲されたゾウの死亡率は73%に及ぶ。
  • 2005 年12月、政府の捕獲チームはテッソ・ニロ国立公園に11頭を解放したとみられる。2006年2月7日には、同国立公園の付近の森で3頭の白骨死体が発見 されたが、それらは木に鎖でつながれていたことが明瞭に確認できた(*)。1頭は、首回りに鎖を付けた状態で、政府施設付近の潅木の中で発見された (*)。

解決策

人間とゾウの衝突による双方の犠牲はいずれも、未然に防ぐことができた。
「300万ヘクタールにおよぶ、リアウ州のテッソ・ニロ景観の1地域で活動している、WWFとリアウ・フォレスト・レスキュー・ネットワークである現地 NGOの連合体ジカラハリ(Jikalahari)は、州内の森林減少率を年間平均4%から0.8%まで低下させ、2001年以降のゾウの死亡数をゼロに することに成功している」と、WWFインドネシアの政策および法人対応ディレクター、ナジール・フォアドは言う。
また、WWFはインドネシア政府林業省自然保護総局と共同し、テッソ・ニロ国立公園周辺におけるゾウと人間の衝突を軽減するため「フライング・スクワッ ド」を導入している。このチームは音や火を発する小型の火器を携行した4名のレンジャーと軽トラック、そして村を襲撃する野生ゾウを森林に追い戻すために 訓練された使役ゾウから成る。
「フライング・スクワッドは、ネッソ・ニロ周辺のコミュニティの損害を減少するのにきわめて効果的だった」(N・フォアド)
2004年4月のチームの始動以来、ゾウの襲撃による地域コミュニティの損害は、月平均1,600万ルピア(1,740米ドル)から約100万ルピア(109米ドル)へと顕著な減少を見せている。
「フライング・スクワッドの開始で、ようやく安心して眠れるようになりました」ネッソ・ニロのフライグ・スクワッドチームが初めて活動を始めた地域であるルブ・ケンバン・ベンガ村に、陸稲と小規模なアブラヤシ農園を所有するサリム氏は語る。

これからのステップ

リアウ州のゾウと地域住民が共存していくためには、上記のような成功事例を州の残りの地域に拡げていく必要がある。
現在直面している危機は、テッソ・ニロ国立公園を38,000ヘクタールから100,000ヘクタールへ拡大し、ゾウのすみかを広げることの必要性を強く示している。
ブキ・ティガプル国立公園とリンバン・バリン鳥獣保護区域では、理想的な管理体制が構築されている。これを拡大してテッソ・ニロに適用すれば、さらに広くゾウのすみかを確保することができるだろう。
WWFとリアウ州政府は、州内の人間とゾウの衝突を軽減するための手順書に合意しているが、未だ運用されていない。この手順書が2004年の作成時から運用されていれば、これまでに発生したうち数十に上る事件は回避できたはずである。
WWFはまた、アブラヤシ農園内および周辺での人間とゾウの衝突を軽減するための、最も効果的な行動指針を策定している。「持続可能なパームオイルのため の円卓会議 (Roundtable on Sustainalbe Palm Oil)」で最近採用された原則とクライテリアの各国での適用により、この指針が実践に移されていくだろう。

問題のより広範な関連と影響

加速しつつある現在の状況は、ゾウにとってのみならずリアウ州の住民にとっても大きな問題である。破壊的な森林伐採が継続することは、洪水の増加やより頻繁なゾウとの衝突をもたらすからである。
環境保護団体グリーノミクスの2005年の報告書によれば、リアウ州政府は森林消失に起因する洪水への対策に、年間1,000万米ドルを費やしている。 2001年には、150万ヘクタールの森林を用途転換するとの政府提案が出されているが、この提案の実施はゾウの襲撃による農地や財物への損害をひき起こ し、損害額は州予算の90%に及ぶとしている。
こうした情報すべてが、森林のさらなる伐採は州および住民いずれの権益にも反することを明確に示している。
2003年にWWFが委託され実施した事前調査は、リアウ州で400,000ヘクタール以上が荒地になる可能性を指摘している。
WWFは政府および植林関連の企業がこの研究結果を検証し、荒地を利用してアブラヤシや商業用丸太のための樹木を植林するよう強く推奨する。
現在の状況はまた、利害関係者が協力して問題に取り組み、環境と経済のバランス良い発展のため、土地利用の計画を策定することの必要性をも示している。
ゾウのすみかの確保と回復は、この取り組みに組み込まれて実現すべきである。

注釈

最新技術を用いた地図情報はWWFを含むNGOの連合体である「アイズ・オン・ザ・フォレスト」が立ち上げているが、リアウ州の森林消失の経年変化とゾウ の頭数の減少および、人間とゾウの衝突の発生を、本日から総合的に見ることができるようになった。ウェブサイトではまた、残存している森林区域が、次々と 伐採や植林変換の許可地域にされていく様子も確認できる。アドレスは以下:

http://maps.eyesontheforest.or.id/Home/index.html

 以下のマップは、ゾウのすみかから伐採された木材が製材所に搬入されるまでの道程を示している:

http://www.eyesontheforest.or.id/eofnew/Elephant_Conflict_inLiboBlock.php.

 2006年3月、WWFは6頭のゾウがリアウ州マハトのジャングルで毒殺されているのを発見した(*)。
リアウ州には1985年時点で、11の区域で1,067~1,617頭のゾウが生息していたが、1999年には16区域で約709頭、2003年は15区域で353~431頭と、急速に減少している。
2002~2006年には、密猟に直接関係すると思われるゾウの死亡は3件しか報告されていない。しかし、毒殺あるいは捕獲されて死亡した多くのゾウからは牙が抜き取られている。政府の管理下にあるのか取り引きされたのか、行方は定かではない。
ゾウの白骨死体、毒殺の現場、農作物や農家への被害、ゾウのすみかの広範な破壊および活動中のフライング・スクワッドの写真(文中(*)を参照)は以下で閲覧ができる:

http://www.wwf.or.id/tessonilo/Default.php?ID=926

解像度の高い写真を希望の際は、WWFに問い合わせされたい。
テッソ・ニロ国立公園のゾウとフライング・スクワッドの画像はビデオでも提供している。

 

Media Advisory   4 April 2006 (原文)

Urgent action needed to prevent possible extinction of Sumatran elephants in Riau, Indonesia - WWF

The Issue:

Sumatran elephants in Riau, Indonesia have declined by nearly 75 percent over the past eleven years. Without improved management, it is likely they could face extinction in another five years. Currently there are approximately 400 Sumatran elephants in Riau.
A state of the art new interactive mapping tool launched today by WWF and Eyes on the Forest shows every human and elephant death and capture in Riau, overlaid with data on elephant populations and forest clearance.

See http://eyesontheforest.or.id/eofnew/ele_map_announcement.php.

The main causes of population decline are:

  • Rampant destruction of elephant habitat through the, often illegal, logging and uncontrolled conversion of forests into oil palm and pulp plantations.
  • This conversion has been creating massive conflict between humans and elephants as elephants are forced to feed on the crops that replaced their natural foods. Elephants are poisoned and shot in retaliation or die when captured by the Government
  • The incompetent handling of wild elephant captures and release.

TheEvidence:

  • A WWF investigation has found that since 2000, 45 elephants have died in Riau from poisoning or shooting with home-made guns, and sixteen people have died in elephant encounters.
  • An additional 201 elephants were captured by the government to mitigate conflict. Forty-five of those (22 per cent) died as a result of the captures.
  • An additional 102 elephants disappeared without a trace after capture, and WWF teams found no evidence of them in camps or zoos. They may have also died though their death was never revealed.Evidence gathered by WWF indicates this may well be the case.
  • If all 102 'missing' elephants had died, capture mortality in Riau may have reached 73 per cent.
  • Forty-one elephants (20 per cent) were, often secretly, released somewhere in Riau's forests. WWF teams traced all available information and calculated this number through interviews with local residents.
  • In December 2005, the capture teams apparently released 11 elephants in the Tesso Nilo forest. On 7 February 2006, three elephant skeletons were found in the forests near Tesso Nilo National Park with the marks where they had been chained to trees clearly visible (photos available). An elephant with a chain still tied around its neck was found in a shallow grave near a government facility (photos available).

The Solution:

This current crisis where humans and elephants are dying is unnecessary.
"WWF's and Riau Forest Rescue network 'Jikalahari's' work in one area of Riau - the 3-million hectare Tesso Nilo landscape - has succeeded in reducing the rate of forest loss from the Riau province's average of 4 to 0.8 per cent per year, with no elephant deaths having been recorded since 2001," said Nazir Foead, WWF-Indonesia's Director of Policy and Corporate Engagement.
WWF, with PHKA (Indonesian Directorate of Nature and Forest Conservation), has also introduced so called 'flying squads' to minimize conflicts between wild elephants and humans in the buffer zone of Tesso Nilo National Park.
A squad consists of four rangers with noise/light-making devices, a pick-up truck and trained elephants who drive wild elephants back into the forest whenever they threaten to enter villages (photos/footage available).
"This has been proven to be very effective to reduce losses suffered by local communities near Tesso Nilo," said Nazir.
Since it began operating in April 2004, one Tesso Nilo Flying Squad has reduced the losses of a local community from elephant raids from approximately 16 million Rupiah (US$1,740) to around 1 million Rupiah (US$109) per month on average.
"Since the flying squad began operating, I have started to sleep well again," said Salim, owner of a rice field and a small oil palm grove in Lubuk Kembang Bunga village, a staging area for Tesso Nilo's first flying squad.

Future Steps

This success needs to be replicated across the rest of the province if both elephants and local people are to have a future in Riau.
The current crisis demonstrates the need to extend the existing Tesso Nilo National Park immediately from 38,000 hectares to at least 100,000 hectares to provide habitat.
Extension of, and applying good management in, Bukit Tigapuluh National Park and Rimbang Baling Game Reserve will provide further elephant habitat.
Although there is a human-wildlife conflict mitigation protocol signed by both WWF and the Riau government - it currently remains on the shelf. If this had been implemented when it was first written in 2004, several tens of human and elephant deaths could have been prevented.
WWF has also developed best management practices for mitigating human-elephant conflict in and around oil palm plantations. These will be fed into the local implementation of the principles and criteria for responsible production of palm oil which were recently adopted by the Roundtable on Sustainable Palm Oil. The Roundtable consists of oil palm industry players, financial institutions, environmental and social NGOs, among others.

The Broader Context

This escalating situation not only spells disaster for elephants, but is also a huge problem for Riau's local people. Continued rampant forest destruction will result in increased flooding and more conflicts with elephants.
According to a report by Greenomics (2005), the Riau government already spends US$10 million per year to mitigate floods as a result of deforestation. In 2001, WWF calculated that a proposal to convert 1.5 million ha of forests would result in damage to farmland and property from elephants, equivalent to 90 per cent of Riau's provincial budget.
All the evidence demonstrates that it is not in the economic interests of Riau and its people to allow any further destruction of Riau's forest.
For example, a preliminary study commissioned by WWF in 2003 identified over 400,000ha of potential wastelands in Riau.
WWF strongly recommends that government and plantation industries verify this result and use available wastelands for oil palm or industrial timber plantation development.
This situation also shows the needs for stakeholders to work together to develop a spatial plan that ensures the balance between environment and economic development.
This should incorporate protection and restoration of elephant habitat.

Notes

  • The state of the art mapping tool launched by 'Eyes of the Forest', a coalition of NGOs, including WWF, today shows for the first time how as the forest has disappeared from Riau, the elephant populations have shrunk and maps each human and elephant death and capture that has occurred in the province. The website also shows how Riau's remaining forest blocks are increasingly given over to timber concessions and oil palm plantations. http://maps.eyesontheforest.or.id/Home/index.html
  • One map shows the full chain of custody of timber logged from elephant habitat.
    http://www.eyesontheforest.or.id/eofnew/Elephant_Conflict_inLiboBlock.php
    .
  • In March 2006, WWF found six elephants dead in the jungles of Mahato, Riau, apparently poisoned (photos available.)
  • Riau's elephant population dramatically declined from around 1067-1617 in 11 distinct ranges in 1985 to around 709 in 16 ranges in 1999 and around 353-431 in 15 ranges in 2003.
  • There have only been three reported elephant deaths directly linked to poaching between 2000 and 2006. However, many poisoned elephants and most captured elephants have had their ivory removed without any information on where the ivory has gone - either stored in government vaults or traded.
  • Photos available of the elephant skeletons, poisoned elephants, elephant damage to crops and villages, large scale destruction of elephant habitat, and elephant "flying squads" in action.Please see http://www.wwf.or.id/tessonilo/Default.php?ID=926for a sample. High resolution versions available from WWF on request.
  • Video footage of elephants in Tesso Nilo National Park and Mpegs of "flying squads" in action available on request.

多発するゾウと住民の衝突 ~インドネシア・スマトラ島より(2006年3月28日)

熱帯雨林の伐採・消失が進むインドネシアのスマトラ島で、絶滅のおそれのあるアジアゾウと地域住民の間で衝突事故が多発しています。島で最後の低地熱帯雨林が残るテッソ・ニロ国立公園やその周辺でも、他の場所から公園に移されたゾウが近くの村に出没したり、集落に現れた群がそのまま留まってしまい、一部が捕獲され食料もなしに放置されるなどの問題が発生。ゾウのすみかである森の保全と衝突の回避が求められています。

減り続けるリアウ州の森林

かつてはそのほぼ全てが、熱帯林に覆われていた、インドネシアのスマトラ島。その面影は、今ではほとんど残されていません。島の中央部に位置するリアウ州の森林面積も、2004年には294万4,065ヘクタールありましたが、2005年は274万3,198ヘクタールに減少。20万ヘクタールあまりが失われてしまいました。現在、残されている低地熱帯雨林は、きわめて希少なものになっています。

森が失われる大きな原因は、紙の原料となるアカシア、ヤシ油を採るためのアブラヤシの植林、居住地を作るために用地転換が行なわれていること。そして、紙の原料とするために、天然林を広範囲に渡り違法に皆伐していることです。法律などで名義上保護されている森の多くも、実際には保全されず、植林に転換されたり、伐採されたりしています。
それにもかかわらず、リアウ州では、国立公園などの保護区として指定されている森林、保護価値の高い森林(HCVF)として企業により、自主的な保護を受けている森林の面積さえ、まだ限られているのが実情です。

アジアゾウがすみかを追われる

熱帯林の減少は、そこに生息する野生生物にとっても、大きな問題です。とりわけ、大量の食物や広い生息域を必要とするアジアゾウのような大型動物は、深刻な影響を受けることになります。

現在リアウ州内に生息しているアジアゾウは推定で350頭。7年前と比べ、その数は半減したと見られています。このままでは近い将来、野生のゾウは州内には1頭もいなくなるのではないかとWWFは危惧しています。

しかも、スマトラ島では、すみかを失い、食物に困ったゾウの群が、かつて森だった場所に作られた集落に現れ、アブラヤシの実などの農作物を食い荒らしたり、住民が死亡する事故が多発。住民の側も、毒などを使ってゾウを殺す例が跡を絶ちません。

多発する野生生物保護区での事件

2005年8月、テッソ・ニロ国立公園に近い、ルブ・ケンバン・ブンガという集落で事故が起きました。集落に8頭のゾウが出没したのです(※1)。この8頭は以前、他の森から国立公園に移送されてきたゾウでした。
リアウ州政府は現在、伐採や用地転換によって狭くなった森から抜け出し集落に出没するようになったゾウを捕獲して、森林が残っている他の場所に移送する取り組みを行なっています。その移送されたゾウが、一カ月と経たないうちに、付近の村を襲撃したのです。

2006年2月下旬から3月にかけても、リアウ州北西部のバライ・ラジャ・ドゥリという野生生物保護区 (Wildlife Sanctuary)内の集落で、別の事件が起きました。保護区内にあるバライ・ラジャという集落にゾウが出没し、農作物を繰り返し荒らして、民家を破壊したのです。その数17~51頭。ゾウがやってきたのは、集落から実に25キロあまりも離れた、リボという地域の森でした。
ゾウは食物を求めて森を抜け出し移動している途中で、この集落に迷い込んできたと考えられていますが、久しく民家の周辺に留まり、なかなか森へ帰ろうとしないため、住民はいつまた襲撃されるかわからない不安に怯える状況が続きました。

WWFはゾウの群を近くにある森にうまく追い返すよう提言していましたが、WWFインドネシアの現地スタッフは3月21日、襲撃地の付近で10頭のゾウが住民によって捕獲され、水や食糧もなく木につながれているのを発見しました。(※1)

このように、住民とゾウが衝突を繰り返す中で、ゾウが殺傷されたり、住民側に死傷者が出るケースは跡を絶ちません。2006年2月末にも、リアウ州と北スマトラ州の州境付近のアブラヤシ農園で、6頭のゾウの死骸が確認されました。このゾウの群は、アブラヤシの植林を襲った折に、住民に毒殺されたものと思われます。この場所もやはり保護区であるマハトという区域から1キロほどの所にありますが、1994年の保護区指定後も天然林が伐採され続けており、現在までに森林はすべて植林や居住地に転換されています。(※1)

ゾウの移送が抱える問題

体が大きく、力も強いゾウを森へ追い返したり、ゾウの収容所や動物園などへ移送するのは容易なことではありません。しかも、これまでリアウ州が行なってきたゾウの捕獲や移送作業については、その途中や移送後にゾウが死ぬケースが大変多く、事実上、充分な保護策になっていません。

この事態を改善するため、2004年、NGOと林業省は協力して人間とゾウの遭遇事故を削減するための手順書を作成しました。WWFインドネシアも州の林業局に対し、ゾウの捕獲と移送を止めることを再三にわたり勧告。しかし、一連の事故が物語る通り、現在も状況は変わっていません。準備された手順書が結局運用されなかったため、事故を防ぐことが出来なかったのです。

州政府は、バライ・ラジャで捕獲された10頭について、テッソ・ニロ国立公園への移送を計画しています。しかし10頭のゾウの健康状態は大変悪いため、移送すると死亡する危険性が高いと見られています。しかも、仮に移送に成功したとしても、再びゾウが集落を襲い、事故が再発する可能性が懸念されます。
WWFインドネシアはまず、ゾウに適切な医療措置を施し、水・食料を与えるよう政府に要求すると同時に、無秩序な移送は行なわないよう働きかけています。さらに、ゾウの扱いに習熟したチームを提供することで、ゾウの保護活動への支援を提案しています。

共存、そして森林の保全を!

WWFインドネシアは地域住民とアジアゾウの衝突を防ぐため、2004年4月から、飼育されているゾウ(使役ゾウ)を使った「フライング・スクワッド」というパトロールチームを編成し、集落に出没する野生のゾウを森に追い返す活動を実施してきました。
同じアジアゾウの背に乗ってパトロールを行なうフライング・スクワッドは、野生のゾウを傷つけることなく、また民家への損害も最小限に抑える実績をあげています。同時に、地域の人たちが活動に協力し、森林保全への理解を深めるきっかけにもなっています。2005年8月にテッソ・ニロ国立公園付近の、ルブ・ケンバン・ブンガで起きた事故の際も、フライング・スクワッドが出動し、大事には至りませんでした。

しかし、出てくるゾウを森へ追い返すだけでは、解決にはなりません。
何よりも優先して取り組まねばならない活動、それは、ゾウが生きられる森を保全することです。スマトラ島の中で保護価値が高く、大規模な伐採を停止すべき森林と見なされている、テッソ・ニロ国立公園、バライ・ラジャ保護区のリボ、マハト保護区、それらのいずれの場所でも、保護区指定後も森林の急激な伐採が止まらず、森が失われ続けています。

WWFでは今後も「フライング・スクワッド」の取り組みを強化する一方で、全ての自然林の皆伐、違法伐採と人々による不法侵入を即刻止め、また、テッソ・ニロ国立公園を現在の3万8,576ヘクタールから10万ヘクタールに拡大するよう、インドネシア政府に求めています。(*2)

関連サイト


ゾウの捕獲は、保護につながらない:WWFがリアウ州政府の政策に反論(2006年3月13日)

WWFインドネシア情報仮訳

【インドネシア、スマトラ発】

WWFはスマトラ島リアウ州政府の森林管理行政担当者に対し、ゾウを捕獲して移送する方策に反論を唱えている。
同州内で近年捕獲されるスマトラゾウの多くが捕獲の最中または直後に死亡している。一方生き残ったゾウは、移送して開放された森林を抜け出して周辺の村を襲撃している。
「政 府による移送中の死亡率は、許容できる範囲を超えている。また、捕獲は他に代替手段のない場合に限り実施されるべき。それでも捕獲する時は、第三者のチー ムが同行し、捕獲と移送の一部始終を監視すべきだ」WWFインドネシア野生生物保護プログラム・ディレクターのナジール・フォアドは言う。
「政府は住民との衝突を起こしたゾウを捕獲するという、顕在化した問題への対処に注力しているが、残念なことに根底にある問題つまり、スマトラに最後に残された野生生物の住処である森林の、野放図な伐採という問題に目を向けていない」(N・フォアド)

2005年12月、8頭のゾウがテッソ・ニロ国立公園に秘密裡に移送されたが、それから4週間を経ずしてWWFのフライング・スクワッドは、移送されたゾウが公園に最も近い村ルブ・ケンバン・ブンガを襲撃した映像を撮影した。
ま た現在、最大51頭を数えるゾウの群れがバライ・ラジャ付近に滞留して人家や農作物を荒らしている。ゾウたちは住みかであるはずのリボ林区から25キロ メートルも離れた場所に出没した。リボは、すさまじい勢いで違法伐採と用地転換が進行している区域であり、WWFは政府に対し伐採を一刻も早く停止し、ゾ ウを森へ返す活動に着手するよう要求している。
「我々はフライング・スクワッドの助けを得、ゾウとの衝突が減るよう力を尽くしてきました。この近 隣の森にゾウを放すことは言語道断。ゾウはすぐに村を襲いに来るでしょう。バライ・ラジャの惨状を復旧することは我々にはできません」テッソ・ニロ・コ ミュニティ・フォーラム※のラダイモン氏は語る。

2004年、複数のNGOとインドネシア林業省は、人間とゾウの衝突を軽減するような手順 書をとりまとめており、それに従えば今回のような問題は回避できたはすである。この手順が施行されていれば地域住民は、ゾウの捕獲をせず損害も受けずに衝 突を避ける方法を知らされていたはずだった。
2004年以来WWFは、テッソ・ニロおよびスマトラ島内の他の地域で、ゾウの襲撃による損害を軽減するため協働で種々の活動を展開してきた。その活動期間中に対象地域での損害は80%も減少し、襲撃された民家、死亡者、死亡したゾウいずれもゼロだった。

今 後テッソ・ニロ国立公園にゾウを移送するためには、公園の面積を政府に提案されている100,000ヘクタールに拡大することが絶対に必要である。 1992年以来リアウ州政府の自然保護局はテッソ・ニロ内にゾウの保護区域を設立することを中央政府に要求し続けているが、現在までに認定されているのは わずか38,576ヘクタールに過ぎない。
リアウ州の森林面積は、23年前と比較すると6,400,000ヘクタールから2,700,000ヘク タールへと57%も減少したが、最大の要因は違法な森林の用地転換。ゾウの頭数も過去7年間で半減し、現在は約350頭を数えるのみである。マハトやバラ イ・ラジャ等のゾウ保護区の森林は、違法伐採によりほとんど皆伐されているが、地方政府の担当者はこれを取り締まるための対策を何も講じていない。
WWFはインドネシア政府に対し、同州内の森林転換を即座に停止するよう要求している。

この記事に関する問い合わせ先:

ナジール・フォアド
WWFインドネシア 種保全プログラム・ディレクター
TEL: 62 811 977 604
電子メール:nfoead@wf.or.id

ジャン・バードフィユ
コミュニケーション・マネジャー
WWFトラ保護およびAREAS (Asian Rhino and Elephant Action Strategy)担当
TEL: 1 202 861 8362
電子メール:nfoead@wf.or.id

  • ※テッソ・ニロ・コミュニティ・フォーラム:テッソ・ニロ国立公園周辺の集落の代表者で構成される組織体。自然保護とバランスの取れた地域の発展を目指し、2004年1月にWWFインドネシア等の主導により設立した。

この記事のオリジナルはこちら(WWFインターナショナルのサイト)

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