スマトラのゾウ、絶滅危機が深刻化


インドネシアのスマトラ島に生息するアジアゾウの亜種スマトラゾウが、絶滅の危機に瀕しています。スマトラゾウの推定個体数は2400~2800頭。危機の最大の原因は、今も続く島の熱帯林の消失です。IUCN(世界自然保護連合)も、絶滅が心配される世界の野生生物のリスト「レッドリスト」の中で、このスマトラゾウの危機ランクを最高位の近絶滅亜種(CR)へと引き上げ、その未来を警告。生息環境である森の保全が急がれます。

減少する森と、人と野生動物の軋轢(あつれき)

豊かな生物多様性に恵まれた、世界的に貴重な熱帯林が今も残るインドネシアのスマトラ島。その森は、人々の生活の基盤となるとともに、アジアゾウ、トラ、スマトラサイ、オランウータンなど、多くの希少な大型野生動物の生息地でもあります。

しかし、この森は製紙企業による森林の伐採と、アカシアやユーカリといった紙の原料となる木の植林地(プランテーション)へと換えられ、大規模に失われてきました。また、パーム油を生産するためのアブラヤシの大規模農園の開発や、違法な居住地や農地の開発も、熱帯林を劣化・減少させる原因になっています。

これにより、1980年代半ばからの約25年間に、スマトラの森林の面積は大幅に減少。今では世界で最も森林減少するスピードが速い場所、とまで言われています。

この現状を受けて、森に生息する多様な野生生物にも、深刻な危機が及んできました。とりわけ、ゾウやトラのような、広い生息域を必要とする大型の野生動物については、森が失われ、また残された森の近くにも人が住むようになったことで、地域の住民との衝突が頻発しています。

野生動物と人間社会との距離が縮まってしまったことにより、野生のゾウは畑や農園に姿を現し、農作物を荒らすようになりました。時には、家屋などを壊したり、住民を殺してしまうケースもあります。そして、こうした現状の中、住民が毒薬や銃などを使い、ゾウを捕獲したり殺してしまう事態も生じています。

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スマトラゾウ。スマトラ島にだけ生息するアジアゾウの亜種(Elephas maximus sumatrensis)

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野生のゾウによって荒らされたアブラヤシ農園(プランテーション)。ゾウはこの実を好んで食べるという。

スマトラゾウの危機を呼ぶ紙、パーム油

絶滅の危機にある世界の野生生物のリスト「レッドリスト」を公開しているIUCNでは、深刻化する危機の現状を受け、今回スマトラゾウのレッドリストでのランクを、従来の絶滅危惧亜種(EN)から、もっとも絶滅のおそれが高い近絶滅亜種(CR)に引き上げました。

この警告は、スマトラゾウの危機だけでなく、スマトラの森とそこに生きるよりさまざまな野生生物全体を脅かす危機に対して、発せられた、厳しい警告として受け止めねばなりません。

WWFではこれまでにも、インドネシアの国立公園管理局や林業省、また地域の住民と協力しながら、保護されるべき森林への不法な居住や農地開拓を防ぐ取り組みを行なってきました。

また、違法行為の監視や取り締まりの強化、持続可能な土地利用計画の策定などをインドネシア政府に働きかけつつ、スマトラで森林を伐採し続けている製紙企業や、パーム油の生産企業といった産業界に対しても、保護価値の高い森林をこれ以上失わせることのないよう強く求めています。

こうした根本的な問題を解決しなければ、WWFが同じく展開している、野生生物の調査や、ゾウが集落に出没して人との衝突事故を起こさないように訓練されたゾウを使って行なっている「エレファント・パトロール」など、現場での活動も、十分な効果をあげることが期待できません。

地球上でスマトラの森にだけ生息するスマトラゾウの未来。それは、世界の宝であるこの島の自然の森を、保全することができるかどうかにかかっています。

WWFは今を生きる私たちの世代だけでなく、将来にわたっても自然の森林や野生に生きるゾウやトラなどの野生生物が生き続け、人間の暮らしとも共存していけるよう、問題解決のために取り組みを続けていきます。

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毒を仕込んだ餌を使って殺されたゾウ。
インドネシアのリアウ州にて。

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使役ゾウとゾウ使いたちによるパトロール隊。
出てきた野生のゾウを森へ戻す活動に貢献している。

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