アマゾンの森が危機に ブラジルの「森林法」改正


世界の注目を集めていた、ブラジルの「森林法」の法改正。期待されていたブラジル大統領の拒否権は一部しか行使されませんでした。この法改正実現によって保護規制が大幅にゆるめられることにより、アマゾンをはじめブラジル国内の森林破壊が深刻化する可能性が高まることになります。2012年6月20日に開かれる「リオ+20」を直前にして、そのホスト国であるブラジル政府の、環境保全に対する姿勢が問われています。

全面的な拒否権行使を拒否したブラジル大統領

アマゾンの大半をその国土に持つブラジルで、「森林法」の法改正の実施が現実味を帯びてきました。

この改正は、ブラジル国内での森林破壊を助長することにつながるいわば「改悪」ともいうべき措置で、アマゾンや大西洋沿岸林といった世界的に貴重な森林の破壊と、それにともなう地球温暖化の深刻化が懸念されています。

この法案については、WWFブラジルを含む世界の200以上の団体が参加する「ブラジル委員会(O Comitê Brasil)」が、久しく反対を訴えてきました。

2012年5月には、ブラジルのディルマ・ルセフ大統領に、議会を通過したこの法案に対し、大統領として全面的な拒否権を発動するよう要請。世界から200万人を超える署名を募り、決断を求めました。

しかし5月26日に、大統領が拒否したのは、議会が承認した法案の84の条項のうち、12の条項のみにとどまり、実質的にこの法律が持つ、環境破壊につながる問題をはらんだ大きな条項は、十分に取り除かれませんでした。

懸念される問題

今回のこの「森林法」について、最も大きな問題とされているのは、過去に行なわれた違法な森林伐採の行為に対する、「罰金」と、「森林再生の義務」を恩赦してしまう、という点です。

こうした、森林再生の義務が課されるはずだった地域の中には、社会的、生態学的にも重要な環境が含まれています。河川の源流部や、湿地帯、マングローブ林といった場所でも、この法の「改悪」は適用されることになり、さらに、ユーカリのような外来種の植物による「復元」も許されることになります。

また、これまで川の流れに沿った森林は、30メートルから最大500メートルの幅で、そのままに保全することが義務付けられていましたが、今後はこれが5~100メートルに、大幅に縮小されることになりました。

こうした変更の結果、これまで現行の森林法で「恒久保護区」とされてきた地域は、「合法的」に極端に縮小されることになるのです。

一方、法案が持っていた、森林保全に貢献し得るただ一つの要素は排除されました。保護地域の回復のために、電力や水道料金に課される税の一部を割り当てる、という条項が取り消しになったのです。これは実現すれば、重要な地域の森林回復を、経済的な側面から支えるはずのものでした。

危機にさらされるブラジルの森

法改正がもたらすこうした一連の結果は、実質的に、これまで法律で保全が義務づけられていた森林の多くを、伐採し、農地などに転用することを合法化するものです。

この結果失われると予測される森の広さは、76万平方キロ。日本の国土の約2倍に相当します。

今回の法改正は、アマゾンの森林はもとより、大西洋沿岸林と呼ばれる同じく熱帯の貴重な森林など、いずれもゴールデンライオンタマリンなど、絶滅のおそれのある野生生物が多く生息する地域で、水の質と量を消耗、劣化させ、その貴重な生物多様性の保全に、大きな損失をもたらすものです。

さらには、これらの森林破壊が、280億トンの二酸化炭素(CO2)を放出するという試算もあり、大量の温室効果ガスの排出による、地球温暖化の深刻化も懸念されます。

この法改正については、ブラジルの世論も問題視しており、特に過去の違法伐採に対する恩赦については、85%が反対している、という世論調査の結果が出ています。

また、国内外の多くの世論があったにもかかわらず、その求めに応じて全面的な拒否権を発動しなかったルセフ大統領に対しても、自身の「選挙公約に違反している」と批判が寄せられています。

そして、この法改正自体が、ブラジルの持続可能な開発を促進するためのものではなく、輸出用の商品作物の生産をサポートする、つまり大規模農業者や大地主といった、一部の人間の利益のために行なわれたものだ、とする指摘もなされています。

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アマゾンの森の破壊

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森だった場所に開かれた牧場。ブラジルのマト・グロッソ州
にて

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ロンドニア州を流れるアマゾン川

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アマゾンカワイルカ。アマゾン川に生息する淡水生の
イルカで、絶滅が心配されている。

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大西洋沿岸林。アマゾンよりも深刻な森林破壊の歴史を
持つ

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ゴールデンライオンタマリン。大西洋沿岸林にだけ生息する

「リオ+20」を前にして

2012年6月20日から、ブラジルのリオ・デジャネイロでは、国連持続可能な開発会議(リオ+20)が行なわれます。

この世界の持続可能な開発と、すべての国が直面している環境・社会・経済についての、さまざまな課題に対して、世界の国々が団結して解決にあたる機会といえるでしょう。

この重要な会議に先立って、議長国を務めるブラジル政府が、今回の「森林法」に対して下した判断は、ブラジルと世界の人々の期待を裏切るものでした。

今回、ルセフ大統領が一部のみしか拒否権を発動しなかった「修正法案」は、最終的に「リオ+20」の終了後に、ブラジル下院で採決が行なわれる予定です。

ブラジル国内では「ブラジル委員会」を中心に、この「リオ+20」を機に、再度法案の全面的な見直しを求めようとしています。

南米の森林保全と地球温暖化の防止において、世界がブラジルに期待し、またブラジル自身が達成を掲げてきた責任を達成するとともに、これまでの保全の努力を無にすることなく、未来に引き継いでゆくためにも、ブラジル議会と大統領の判断が注目されます。

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