温暖化防止政策 関連情報まとめ(2007年~2010年)


  • 温室効果ガス「25%削減」は、こうして実現する!(2009年11月27日)
  • 地球温暖化防止の政策は一石二鳥(2009年11月5日)
  • 新政権に向けた温暖化防止のための5つの要請(2009年9月18日)
  • オックスファム・インターナショナルとWWFインターナショナルからの鳩山総理大臣向けのレター(2009年9月16日)
  • 日本の「中期目標」 温室効果ガス25%削減に拡大へ(2009年9月7日)
  • 地球温暖化政策が総選挙を左右する(2009年8月11日)
  • 「高速道路料金の割引・無料化」および「自動車関連諸税の暫定税率の廃止」に対するWWFジャパン意見(2009年8月20日)
  • 「2050年までに80%削減」G8の温暖化防止目標を考える(2009年7月8日)
  • G8気候変動目標 各国首脳ようやく目を覚ますも、具体的対策無し(2009年7月8日)
  • 日本の「中期目標」 3つの大問題(2009年6月10日)
  • WWFジャパン 地球温暖化対策の中期目標に関する意見(2009年5月15日)
  • これでいいの?日本の温室効果ガス削減 中期目標(2009年3月27日)
  • グリーン・ニューディールと一体になった戦略アセスメントを!(2009年3月19日)
  • 温暖化防止に一世帯で105万円?経団連の意見広告に物申す!(2009年3月17日)
  • 中期目標の選択肢について声明を発表(2009年2月10日)
  • 「低炭素社会づくり行動計画」に物申す(2008年7月30日)
  • 地球温暖化を緩和する道は? 問われる日本の政策(2007年5月25日)

温室効果ガス「25%削減」は、こうして実現する!(2009年11月27日)

2009年11月27日、WWFジャパンは、地球温暖化防止のための新しい政策提案『脱炭素社会に向けたポリシーミックス提案』を発表しました。この提案は、二酸化炭素を多く排出する部門を対象とした、排出量取引制度の導入を柱に、日本の掲げる「25%削減目標」の達成と、石油・石炭のエネルギーに頼らない「脱炭素社会」の実現を目指したものです。

実現しなければならない、温室効果ガスの「排出削減」

今、世界各国が、地球温暖化の原因となっている、二酸化炭素などの温室効果ガスを、どれくらい、どうやって減らすのか、議論を続けています。 鳩山政権のもと、「25%削減」を目標に掲げた日本も、例外ではありません。そして国内では、この目標の是非、そして実現の方法について、さまざまな意見が交わされています。

産業界を中心に、多く主張されている意見は、「25%」という削減目標が、非現実的であり、国内産業の衰退を招くおそれがある、というものです。

しかしWWFは、日本を含めた先進国全体は、2020年までに、1990年比で少なくとも「40%」削減する必要があると考えています。

その理由は、この「40%」という目標が、世界の科学者たちにより、地球温暖化のさまざまな被害を最小限に抑える上で、最低限必要な目標である、と指摘、警告されているためです。

「25%削減」を達成し、世界をリードしよう!

その中で、日本が掲げた「25%削減」という目標は、決して十分ではないものの、先進国としての責任を果たす上では、貢献に値するものと評価できます。

しかし一方で、これを国内でどのように実現するのか、どのような政策を導入するのか、その具体的な手法については、まだ明らかにされていません。

そこで、WWFジャパンは、具体的な削減のための政策提案として、『脱炭素社会へ向けたポリシーミックス提案』(ver.1)を発表しました。

これは、京都大学准教授の諸富徹氏をリーダーとする研究チームに、WWFジャパンが研究を委託し、作成されたもので、二酸化炭素を多く排出するエネルギー転換、産業、工業プロセスという3つの部門を対象とした、排出量取引制度の導入を柱に、日本の掲げる「25%削減目標」の達成と、石油・石炭のエネルギーに頼らない「低炭素社会」の実現を目指したものです。

また同時に、排出量取引制度では対象とすることができない、運輸、家庭、業務といった分野についても、独自に削減のための政策を提案し、これらを総合的に「ミックス」することで、日本全体として、温室効果ガスの排出量削減を進めてゆくことを、めざしています。

2009年12月7日には、デンマークのコペンハーゲンで、「京都議定書」に続く、2013年以降の、世界の温暖化防止のための目標を定める、国連の重要な会議が開かれます。

WWFは、この会議に先立ち、日本政府が「25%削減」のための具体的な道筋を示すことで、世界が新しい、積極的な温暖化防止のための枠組みに合意できるよう、リーダーシップを発揮することを期待しています。

添付資料(PDF形式)


記者発表資料 2009年11月27日

25%削減目標の達成に具体的に貢献!「脱炭素社会へ向けたポリシーミックス提案」を発表

11月27日、WWF(世界自然保護基金)ジャパンは、鳩山政権の掲げる日本の中期削減目標25%(2020年までに90年比)を達成し、長期的に日本を脱炭素社会へと導くための、気候変動ポリシーミックスの提案を発表した。

今後、日本においては、この中期目標を達成し、さらに長期的には、日本全体を"脱"炭素社会へと導いていくための政策をどのように導入していくかが、極めて重要である。

『脱炭素社会へ向けたポリシーミックス提案』は、その政策議論に具体的な提案をもって貢献するために、京都大学准教授の諸富徹氏をリーダーとする研究チーム(*)に、WWFジャパンが研究を委託し、作成された。

本 提案は、2006年度に発表した『脱炭素社会に向けた国内排出量取引制度提案』の内容を踏まえ、それをさらに深化・拡大させたものである。前回の提案では 主に京都議定書の目標達成に重点を置いていたキャップ&トレード型の国内排出量取引制度提案を、2020年および2050年へ向けた新しい目標の下で、欧 米の新しい知見も取り入れて進化させ、前回以上に具体的で、実際の制度設計に貢献できる内容とした。

中心となるのは、エネルギー転換、産業、工業プロセスという3つの部門を対象とする国内排出量取引制度である。同制度は、現在では先進国における気候変動政策のスタンダードとなりつつあり、現政権もすでに導入については決定している。今回はこの具体的内容に踏み込んだ。

一方、排出量取引ではカバーすることができない運輸、家庭、業務といった部門についても、それぞれ適切な制度を設計し、日本全体として、温室効果ガスの確実な排出量削減を進める、総合的な"ポリシーミックス"を提案している。

本提案の新しい内容としては、例えば、以下が挙げられる。
 

  • 炭素集約的なエネルギー転換部門や産業部門には直接排出ベースでの下流型排出量取引を導入し、排出量取引制度から除外される部門に対しては、炭素税で対応する。
    • エネルギー転換部門、産業部門対象の排出量取引制度の初期配分は、ヨーロッパのEUETSで得られた知見を活かし、当初から、削減努力を評価するベンチマーク方式を採用し、2020年にはオークション方式に全面移行することを前提としている。
    • ベンチマーク方式3タイプ、及びオークション方式2タイプについて検討を加えており、排出量取引制度の将来設計を先取りする提案となっている。
  • 国際的に評価の高いGTAP-Eモデルを使用した影響評価では、排出量取引制度を実施することによる経済影響は大きくは出ない。ただし、モデルの前提条件について、より精査することが今後も必要である。
  • 先進国の中では、排出量取引制度を導入する国々が多く出ている。しかし、それぞれの制度固有の特徴があるため、連携を困難にしている面もある。今後の制度設計には、国際的な連携を視野に入れることも必要である。
  • 排 出増加著しい運輸部門には、自動車を偏重した政策が結果として排出増につながることがないよう、総合的な政策を導入することを提案している。それに加え て、個人を対象とする燃料購入権の取引制度を導入することにより、自動車燃料からのCO2排出を確実に削減することができる。燃料購入権のうち一定割合に ついて当面は無償配分し、残りは市場価格で放出する。取引には、既存のシステムを活用した電子的取引システムを構築し、ICカードなど電子記録媒体を用い る。
  • 間接排出が主な業務部門には、間接排出対象の許可証を取引する形の別の排出量取引制度を導入し、需要者サイドにも直接インセンティブを与える。
  • 対象数が多い家庭部門には、これまで日本政府が取ってきた手法である国民運動に頼るものではなく、エネルギー供給業者にCO2削減対策を義務付ける規制的手法を導入し、家庭における省エネ対策を進める役割をもってもらう。

12 月7日から始まるコペンハーゲン会議の前に、WWFジャパンが研究者と共に、25%削減のための具体的な道筋を示すことで、鳩山政権の代表団が会議に、政 策の裏付けを持った積極的な姿勢で臨み、国際交渉の場で、法的拘束力のある次期枠組みの合意に、さらなるリーダーシップを発揮することを期待している。

(*)研究チームメンバーは以下の通り。

諸富徹(京都大学大学院経済学研究科・准教授;排出量取引制度および全体総括)
兒山真也(兵庫県立大学経済学部・准教授;運輸部門)
鈴木靖文(ひのでやエコライフ研究所・代表取締役;家庭部門)
東愛子(京都大学大学院経済学研究科・博士課程;業務部門)
藤川清史(名古屋大学大学院国際開発研究科・教授;GTAPによる定量分析)
清水雅貴(横浜国立大学大学院国際社会科学研究科・博士課程;国際動向調査)


地球温暖化防止の政策は一石二鳥(2009年11月5日)

2009年11月、WWFとE3Gは、G20各国のおよそ100にのぼる気候政策を評価し、ベスト政策とワースト政策の事例についてまとめた、新しい報告書『Scorecards on best and worst policies for a green new deal』を発表しました。この報告書は、地球温暖化の防止を目的としたさまざまな政策が、経済を活性化し多様化するという利点も持っていることを明らかにしています。

各国の政策を採点

この報告書は、WWFとE3G(政策提言に取り組むイギリスの非営利組織)が、Ecofys(欧州のシンクタンク)とGermanwatch(気候変動に取り組む環境NGO)に委託して作成したもので、世界の温室効果ガス排出量の約3/4の排出量を占めるG20各国の気候政策を評価し、政策の事例とそこから学べる教訓についてまとめています。

評価ランキングの上位には、ドイツ政府が実施する、いくつかの政策が入っています。 一つは、「建物の効率性向上」プログラムで、建設部門における温室効果ガスの排出量を減らし、雇用を創出するもので、他の国々でも、広く応用することが可能な事例として、高い評価を得ました。
同じくドイツの政策で、「再生可能エネルギー電力の固定価格買取制度」イニシアチブも、安定した温室効果ガスの削減方法として評価されました。これは、太陽光などの再生可能エネルギーを生産する市民に対し、20年間の固定価格買取を保証する、というものです。

また、メキシコの「バス高速交通(BRT)」システムも、温暖化防止につながる政策が、生活の質と快適さを向上する大きな可能性を秘めていることを示すものとして、特に急成長を遂げつつある新興経済国に向けた興味深い参考例となることが期待されます。
さらに、エネルギーを多く必要とする産業分野の企業1,000をターゲットとした中国政府のプログラムも、企業のエネルギー管理や効率化を長期的に改善する政策として評価されました。

地球温暖化防止は世界の最先端!

今回の報告書は一方で、評価の低かったワースト政策についても取り上げています。
これらの政策はしばしば、ベスト政策が実施されている同じ国々で行なわれているものです。ワースト政策は、経済的な利益の獲得を妨げ、温暖化防止活動の足を引っ張るもので、地域採鉱への補助金や、エネルギーを多く使う産業に対する優遇措置、効率的な水資源管理の欠如などが含まれています。

WWF気候変動プログラムリーダーのキム・カーステンセンは、この報告書が「環境と気候変動に配慮した政策を実施できる国は、世界のリーダーとなってゆくことを示すものだ」としています。
逆に、温暖化防止のための低炭素政策に投資をしない国は、最終的に世界から取り残されることになるでしょう。WWFはG20の国々に対し、長期的な視点に立って、環境に配慮した経済活動への投資を活性化するよう求めています。

完全版報告書のダウンロードはこちら:
『Scorecards on best and worst policies for a green new deal』 (PDF形式/英文)

簡略版報告書のダウンロードはこちら:
『Scorecards on best and worst policies for climate and economic recovery』 (PDF形式/英文)


記者発表資料 2009年11月5日

WWFとE3Gの新報告書「気候にやさしい政策は一石二鳥」

G20各国の約100の気候政策をランク付けした報告書が、このたび発表された。同報告書では、気候にやさしい政策は、温室効果ガス排出量を減らすのみならず、経済を活性化し多様化するという利点もあることが明らかにされている。

WWF とE3G(政策提言に取り組むイギリスの非営利組織)の委託により、Ecofys(欧州のシンクタンク)とGermanwatch(気候変動に取り組む環 境NGO)が執筆した同報告書は、世界の温室効果ガス排出量の約3/4の排出量を占めるG20各国の気候政策を評価し、ベスト政策とワースト政策の事例と そこから学べる教訓についてまとめている。

現在、G20の財務大臣たちは、11月6~7日にかけて英・セントアンドルーズで開催されるサ ミットに向けて準備を進めている。WWFは大臣らに対して、次世代の大きなインフラ投資の波はグリーン投資、つまり環境に関連した投資とする措置を講じる ように強く求めている。その措置には例えば、9月のピッツバーグで行われたG20サミットで決定されたように、開発途上国が低炭素経済を確立し、気候変動 に適応する一助となる資金メカニズム関連の各種提案などが含まれる。

ランキングの上位には、ドイツ政府が実施する「建物の効率性向上」プロ グラムや、同様にドイツで行われている「再生可能エネルギー電力の固定価格買取制度」イニシアチブがランクインした。後者のイニシアチブは、再生可能エネ ルギーの生産者に対して20年間の固定価格買取を保証する、というものである。また前者の「建物の効率性向上」プログラムは、建設部門における温室効果ガ スの排出量を減らし、雇用を創出するもので、他国で広く汎用可能なグッドプラクティス例である。

メキシコのバス高速交通(BRT)システム は、グリーンな政策が生活の質と快適さを向上する大きな可能性を秘めていることを私たちに教えてくれる。これは急速に成長する新興経済国に対して非常に意 味深い参考となるだろう。また、エネルギー集約度の最も高い1,000の企業をターゲットとする中国のプログラムは、当該企業におけるエネルギー管理・効 率の長期的改善につながっている。

WWFの気候変動プログラム(Global Climate Deal Initiative)リーダーのキム・カーステンセンは「今回の報告書は、グリーンで気候にやさしい政策を実施する国は、世界のリーダーシップを取っていくだろう、ということを示している」と話す。

「低炭素政策に投資をしない国は最終的には世界から取り残され、有権者たちは現政権にそっぽを向けるだろう。WWFはG20の国々に対して、グリーン経済への投資を活性化する戦略を構築するよう求める。低炭素政策に投資をしないのは近視眼的にすぎる」

今 回の報告書はまた、いくつかのワースト政策についても取り上げている。これらの政策はしばしば、ベスト政策が実施されている同じ国々で行われている。これ らのワースト政策は経済的利益をもたらすことを妨げ、低炭素社会への道筋をつけることの足を引っ張っている。こういった政策には地域採鉱への補助金、エネ ルギー集約的な産業に対する優遇措置、統合的な水管理の欠如、などがある。

E3GのCEOニック・メイビーは「G20の指導者たちはピッツ バーグのサミットで、力強く、かつ持続可能な、バランスのとれた経済成長に向けた枠組に合意した。この合意は、低炭素な経済回復への具体的な投資に後押し されなければ、無駄なものとなってしまう。単発のグリーン刺激策では十分ではない。現在、投資家たちが求めているのは、各国政府は低炭素社会への移行に真 剣である、という長期にわたる、法的に担保された声高な政策メッセージである。コペンハーゲンの会議はそのスタート地点となるだろう」と語っている。

先進国は開発途上国、特に気候変動に極度に脆弱な国々における適応・緩和策のために約1,600億米ドルの資金を提供する必要があると、WWFは見積っている。

単発の政策でも変化は生まれる得るものの、同時に、今以上の政策統合および政策一貫性を喫緊に目指す必要がある。これが、WWFが先進国に対して「ゼロ・カーボン行動計画」を求めるゆえんである。


新政権に向けた温暖化防止のための5つの要請(2009年9月18日)

WWFは2009年9月18日、温室効果ガス排出量の「25%削減」を目標として宣言した鳩山新政権に対し、政策に関する5項目の要請を行ないました。これは、日本が今後とるべき具体的な地球温暖化対策のための政策を、検討・実施する際の参考として送ったものです。

目標の確実な達成を求めて

地球温暖化対策を重要課題として位置づけている鳩山新政権。WWFでは、その姿勢を歓迎しつつ、確実な削減目標の達成を促進するため、気候変動政策として重要な課題となる、5つの項目を新政府に対し提言しました。

提言の項目は、以下のとおりです。

  1. 2020年までの25%削減中期目標(1990年比)を達成するための具体策の提示
  2. 2050年までの長期目標を少なくとも80%以上削減にすること
  3. 25%削減を確実に達成する国内政策・対策の整備
  4. 途上国の適応と緩和への資金的・技術的支援の具体案の発表
  5. 気候変動政策・対策に関する基本法の制定

民主党がマニフェストで公約した地球温暖化対策は、おおむね前向きなものが多く、WWFとしてもその着実な実施を望みたいと考えています。
しかし一方、懸念される点もあります。マニフェストの中で掲げられた高速道路の無料化や暫定税率廃止は、そのままではCO2の削減に逆行する可能性があるからです。
新政権には、これらの問題をクリアにし、より高い目標のもと、実効力のある国内政策を実行するよう、求めてゆかねばなりません。

これまで日本では、温暖化防止の取り組みについて、家庭への負担増ばかりが強調され、偏った印象が押し付けられてきました。しかし、温暖化対策は今、世界中で産業の国際競争力を高め、新たな雇用を生み、経済活性化をもたらすチャンスとして、注目されています。日本も責任ある先進国として、国際的な温暖化防止の取り組みを、リードしてゆくことが期待されます。


要望書 2009年9月18日

「気候変動政策に関する5つの要請」の送付について

内閣総理大臣 鳩山由紀夫 殿
経済産業大臣 直嶋正行 殿
環境大臣 小沢鋭仁 殿
外務大臣 岡田克也 殿
財務大臣 藤井裕久 殿

拝啓

初秋の候、時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
私どもWWFは、約100カ国で活動する自然保護NGO(非政府組織)です。
この度の鳩山新政権の誕生、そして先日の温室効果ガス排出量25%削減目標の宣言につきまして、歓迎申し上げるとともに、気候変動政策の今後の更なる強化をご期待申し上げます。
同封いたしましたのは、WWFが、貴政権の気候変動政策につき、お願いしたいと考える5つの要請をとりまとめた文書です。今後の気候変動政策の検討・実施の参考として頂けましたら幸甚です。
何卒よろしくお願い申し上げます。

敬具

グローバル気候イニシアチブ・ディレクター
キム・カーステンセン

WWFインターナショナルWWFジャパン事務局長
樋口隆昌

WWFから鳩山新政権へ気候変動政策に関する5つの要請

WWFジャパン・気候変動プログラム
WWFインターナショナル・グローバル気候イニシアチブ

WWFは、気候変動を重要課題として位置づける鳩山新政権の誕生を歓迎するとともに、新政権の気候変動政策として、以下の5項目を望みたい。

1. 2020年25%削減目標(1990年比)を達成するための具体的政策・対策の提示

民主党は、選挙のマニフェストにおいて、2020年までに1990年比で25%の温室効果ガス排出量を削減する目標を掲げていた。9月7日の朝日新聞社主催「朝日地球環境フォーラム2009」での鳩山代表のスピーチにおいても、この目標は再確認され、国際的にも高い評価を得た。

WWFはこの目標を歓迎するとともに、その達成は原則的に国内削減によって実施されるべきと考える。そして、この目標達成のための具体的政策・対策を早期に提示することを求める。

2. 2050年長期目標を少なくとも80%以上削減にする

民主党は、選挙のマニフェストにおいて、2050年の目標として60%超減(1990年比)を掲げていた。しかし、地球の平均気温上昇を産業革命前と比較して2℃未満に抑えるための世界的な取り組みの中で、日本が達成するべき排出量削減としては、この目標は不十分である。

今年7月にイタリアで開催されたラクイラ・サミットの宣言文において、日本を含むG8首脳は、先進国全体で2050年までに80%もしくはそれ以上(1990年比もしくはより近年の基準年比)の排出量削減を支持している。日本は、この目標達成に着実に貢献しなければならない。

新政権は、この2050年目標を少なくとも80%以上に変更し、最終的には「脱炭素社会」を目指すことを明確にしていただきたい。

また、地球の大気にとっては、特定の年での排出量だけでなく、今後2050年までの期間の中で排出される排出量の累積量が問題となる。このため、上述の2020年目標から、この2050年の目標達成に至るまでの間の、目安としての2030年・2040年のマイルストーン目標も示すべきである。

3.25%削減を確実に達成する国内政策・対策の整備

2020年25%削減目標を着実に達成し、将来的には「脱炭素社会」を達成するために、少なくとも以下の3つの政策・対策を整備することが重要である。

3-1.キャップ&トレード方式の排出量取引制度の導入

民主党はマニフェストで公約した、大規模事業者を対象としたキャップ&トレード方式の排出量取引制度を早急に導入するべきである。

現在実施されている排出量取引制度の「試行的実施」は、個別企業の自主的な参加・自主的な目標に依拠しており、キャップ&トレード方式の排出量取引制度の「試行」とは呼べない。また、原単位での目標設定を許しており、総量での排出量削減にはつながらない可能性がある。取引にかかわる実務や基盤の整備という点では一定の意義があるものの、より意義のある形とするためには大幅な見直しが必要である。

新政権は、同試行のあり方を早急に見直し、本格的な排出量取引制度の導入へ向けての準備を開始するべきである。

3-2.排出量取引制度対象部門以外への炭素税および個別政策の導入

排出量取引制度だけではカバーできない排出源を対象として、排出量に応じて課税をする「炭素税」を導入すべきである。さらに民生・運輸の個別部門には、部門ごとの特性に応じた政策・対策を導入するべきである。製品や車に関するトップランナー基準の強化・拡大、住宅・建築物に関する基準の整備、交通システム・インフラのあり方の見直しなどは特に重要である。

低炭素社会の実現には、すべての分野の参加が不可欠であり、包括的な温暖化政策パッケージが必要である。WWFでは、コペンハーゲン直前に、排出量取引制度を中心としつつ、他の政策・対策を含んだポリシーミックス提案を発表する予定であり、その中身も参考にして頂きたい。

3-3.再生可能エネルギー導入促進のための固定価格買取制度の拡充

再生可能エネルギーの推進は、今後の気候変動政策の柱の1つとなるとともに、新しい成長・雇用創出分野として極めて重要である。太陽光だけでなく、(洋上も含めた)風力、バイオマス、小水力、地熱といった様々な再生可能エネルギーの活用を、地域環境の特性を踏まえながら、総合的に検討するべきである。

そのためには、民主党がマニフェストの中で既に公約しているように、固定価格買取制度の対象を、現状の太陽光のみから全ての再生可能エネルギーに拡大し、余剰のみから全量買取方式にすることが必要である。

現在計画されているよりも積極的な再生可能エネルギー導入策によって、民主党がマニフェストで掲げた一次エネルギー供給10%目標を達成することが最低限必要であり、25%削減を着実に達成していくためには、それ以上を目指すべきである。

以上の3つの政策は、25%削減目標や脱炭素社会の達成へ向けて不可欠であるが、その取り組みは、将来に開始すればよいというわけではなく、京都議定書の6%削減目標を着実に達成することから始まる。将来の削減政策・対策の検討と同時に、既存政策の強化・発展を通じて、今すぐにできることを迅速に実施していくことが必要である。

4.途上国の適応と緩和への資金的・技術的支援の具体案の発表

世界の排出量を大幅に削減し、気候変動の脅威に適切に対応していくためには、過去の排出に責任のある先進国から、途上国の適応や緩和に資金的・技術的支援を行うことが不可欠である。12月のコペンハーゲン合意では、この資金的・技術的な支援の内容が重要な要素となることは間違いない。

鳩山総理は、9月7日のスピーチの中で「鳩山イニシアチブ」として、途上国支援の提案を出すと発表した。WWFは、同イニシアチブが、以下の諸点についての考え方を含むことを期待する。

  • 2020年時点で必要となる資金規模に関する見通し
  • 先進国が全体としてどの程度の資金を提供するべきなのか。そして、日本はその中でどの程度の資金を提供する用意があるのか
  • 資金源は、どのようなメカニズムによって創出されるのか
  • 資金は、どのようなガバナンスの下で提供されるのか
  • 公的資金と民間資金についてどのような役割分担がありえるのか

WWFは、途上国において必要とされる緩和・適応対策に対して、先進国全体としては1600億ドル/年の公的資金援助が必要になると考えている。日本は、責任の重さに応じた負担をするべきである。また、割当量のオークションや国際航空・船舶への課税などの資金創出メカニズムの検討を行う必要があり、資金のガバナンスは、国連を中心とするべきである。

5.基本法の制定

気候変動政策を日本の中で明確に位置づけ、長期的に取り組んでいくためには、気候変動政策・対策に関する基本法の制定が必要である。その中には、これまで述べた4つのポイントと共に、その実施を管理する体制・組織や、科学的知見に基づいて目標の見直しを可能にする仕組みが組み込まれていなければならない。

新しいリーダーシップをもった気候変動政策へ向けて

民主党がマニフェストで公約した気候変動政策は概ね前向きなものが多く、WWFとしてはその着実な実施を望みたい。
しかし、懸念される点もある。特にマニフェストの中で掲げられた高速道路の無料化や暫定税率廃止は、そのままではCO2削減の温暖化対策と逆行する政策である。廃止する暫定税率を上回る炭素税や、鉄道、フェリーなどCO2排出量の少ない公共交通手段へのモーダルシフトを促す政策とセットでない限り、先行して導入すべきではない。少なくとも、炭素税の導入意志を明確にしておくべきである。

前政権下においての低炭素社会作りの議論では、家庭に対する負担増ばかりが強調され、偏った印象を押し付ける議論が展開された。オバマ大統領のグリーン・ニューディールを挙げるまでもなく、世界の先進国は、環境保護と経済成長を同時に達成する「緑の成長」を志向して強力に推し進めている。CO2規制を先取りすることは、日本の産業の国際競争力を高めることに繋がり、新たな雇用を生み、経済活性化をもたらすものである。

そして何より、大幅な排出量削減は、世界の人々や自然に対し、気候変動がもたらす甚大な影響やコストを回避するために行うものである。国民が気候変動に対する正しい理解をして、自ら判断できるように説明することを新政権には求めたい。

気候変動の国際交渉において、今までの日本政府は世界の市民社会から、国際交渉を妨げる国として「化石賞」を贈られる常連であった。新政権には、実効力のある国内政策をバックに、野心的な目標を掲げ、責任ある先進国のリーダーとして、交渉を率いていくことを期待している。


オックスファム・インターナショナルとWWFインターナショナルからの鳩山総理大臣向けのレター(2009年9月16日)

共同声明 2009年9月16日

内閣総理大臣 鳩山由紀夫 殿

オックスファム・インターナショナルおよびWWFインターナショナルを代表して、私たちは、鳩山代表のリーダーシップの下、今回の選挙で民主党が歴史的な勝利を収めたことをお祝い申し上げます。同時に、民主党が日本の優先課題として示した諸問題への取り組みを開始したことにつきまして、鳩山総理と新政権のご成功を祈念申し上げます。

気候変動対策を貴政権の最重要課題の1つとされたことに感謝を申し上げると同時に、そのリーダーシップに敬意を表します。新政権が温室効果ガス排出量を1990年比で25%削減する意思を、選挙後に改めて示されたことは、多くの政府、市民社会、科学者、そして危険な気候変動を回避しようとする全ての人々から大変歓迎されています。私たちは、先進国全体が2020年までに排出量を1990年比で40%削減することを求めており、貴政権がこの25%目標を国内で達成することを要請します。また、国際支援をこの目標に追加することは可能だと考えます。

貴政権が、公式・非公式に、変化を好まない旧来型の産業界からの大変な圧力を受けていることは存じ上げています。日本は、世界をイノベーションによってリードしてきた誇るべき経歴を持っています。キャップ&トレード型の排出量取引制度、全ての再生可能エネルギーを対象とした固定価格買取制度、そして炭素税が産業を刺激し、新しい製品や技術を20世紀の高度成長期以来の規模で生み出すことは確実です。鳩山総理と同様に、私たちもまた、現状維持と決別することによって、日本経済と日本国民が経済的な便益を得られると信じています。私たちは、貴政権の2020年目標を、環境そして経済双方にとって堅実なものとして公式に支持できることを、嬉しく、また光栄に思います。

コペンハーゲンを目前に控えたこの最後の数ヶ月間の中で、コペンハーゲンにおける公平で、野心的でかつ法的拘束力を持った合意成立へ向けた流れを作り出すために、日本が中心的な役割を果たすことができるまたとない機会が存在します。

9月22日の国連総会および国連事務総長によるハイレベル協議に鳩山総理が出席されることを嬉しく思います。先進国および途上国双方へ向けて、日本がリーダーシップを発揮する重要な機会となるでしょう。この極めて重要な会合における鳩山総理の力強いリーダーシップが、コペンハーゲンでの交渉へ向けた大きな流れを正しい方向で作っていくために重要です。

ピッツバーグでのG20は、コペンハーゲンでの公平で野心的かつ法的拘束力を持つ条約締結へ向けての重要なステップとなる会議です。そこでは、途上国における適応および緩和のための資金メカニズムのパッケージに合意するためのプロセスを開始することが必要です。

資金の規模は、途上国における適応や緩和の取り組みについて、少なくとも年間1600億ドルであるべきです。この数字は、世界銀行、国連気候変動枠組条約事務局、欧州委員会、オックスファムおよび他の機関による国際的な検討における既存の試算から考えても妥当な水準です。

コペンハーゲンへ向けての交渉の進展が遅々としている中、まず日本が模範となり、また、建設的な議論によってコペンハーゲンの合意に必要な要素を築き上げ、進展を妨げている国々を喚起するよう、他国に働き掛けることによって、日本が今回の一連の会合でリーダーシップを発揮することを期待します。

最後に、このような機会はもはや二度となく、その重要性は強調してもしきれないということを、他の諸国にもぜひ伝えて下さるようお願い申し上げます。

重ねて、今後のご活躍をお祈り申し上げます。

オックスファム・インターナショナル事務局長 ジェレミー・ホッブス

WWFインターナショナル事務局長 ジェームス・P・リープ


上記レターの原文

Dear PM Hatoyama:

On behalf of Oxfam International and WWF International please accept our congratulations on the DPJ's historic election win under your leadership.We also extend our best wishes to you and the new governments as you begin to address the priorities that you have laid out for your country.

We want to thank you and recognize your leadership in addressing climate change as one of your government's highest priorities.Your post-election affirmation of the new government's intentions to reduce greenhouse gas emissions by 25% below 1990 levels by 2020 is most welcome by many governments, civil society, scientists and everyone who seeks to avoid dangerous climate change. As we urge all developed countries to reduce emission by 40% from 1990 level by 2020, we urge you to meet this 25% target at home and international supports can be added to the target.

We understand that your government will be under tremendous public and behind the scenes pressure from traditional industry that does not want to change.Japan has a proud history of leading the world in innovations.There is no doubt that a domestic cap and trade system as well as a Feed in Tariff for all renewable energy and a carbon tax will spur industry to create new products and technologies on a scale not seen since the boom years of the 20th century.Like you, we believe that by not choosing the status quo the Japanese economy and the Japanese people will reap the economic rewards.We would be pleased and proud to publicly support your 2020 targets as sound both for the environment and the economy.

In these final few months before Copenhagen, there is a real opportunity for Japan to play a pivotal role in building momentum for a fair, ambitious and binding deal in Copenhagen.

We are delighted that you will be attending the United Nations General Assembly and the Secretary General's High Level Event of September 22nd.It is here that Japan has a remarkable opportunity to demonstrate leadership behind the scenes and in public to both the developed and the developing world.Your bold leadership at this critical meeting will be important in building the right kind of momentum towards the Copenhagen talks.

The G20 in Pittsburgh will provide an opportunity to lay the cornerstone for a fair, ambitious and binding treaty in Copenhagen by setting in motion a process to agree to a finance package to address adaptation and mitigation in the developing world.

The scale of financing should be at least $160B annually to adaptation and mitigation efforts in developing countries. That figure flows from a reasonable balancing of estimates made already by the World Bank, UNFCCC, European Commission, Oxfam and other international sources.

As negotiations inch forward towards Copenhagen we encourage Japan to play a leadership role at international meetings first by leading by example and by encouraging others to be constructive and to build on a elements of a deal and to call out those who are obstructing progress.

In closing we simply ask that you are mindful remind others that we don't get another opportunity to do this over and the stakes simply couldn't be higher.

Again, please accept our best wishes.

Yours sincerely,

Executive Director Oxfam International Jeremy Hobbs

Director General WWF International James P. Leape


日本の「中期目標」 温室効果ガス25%削減に拡大へ(2009年9月7日)

2009年9月7日、民主党の鳩山代表は、日本の温室効果ガス削減の中期目標として、2020年までに、1990年比で25%排出を削減を掲げることを宣言。鳩山代表はこれを、臨時国会で首相指名を受けた後、9月22日にニューヨークで開かれる国連の気候変動サミットで、公にすることを宣言しました。

日本の中期目標、8%削減から25%削減へ

次期首相と目される、民主党の鳩山代表は、9月7日、東京で開催された「朝日地球環境フォーラム2009」で、日本の温室効果ガス削減のための中期目標として、2020年までに、1990年比で25%削減を掲げることを宣言しました。

鳩山代表はこれを、臨時国会で首相指名を受けた後、9月22日にニューヨークで行なわれる国連の気候変動サミットで公表すること宣言。これにより、日本政府が、2009年6月に中期目標として発表した、「2005年比で15%削減(1990年比に換算すると「8%削減」)」から、さらに踏み込んだ目標を、国際社会に示すことになります。

日本政府に対し、より積極的な目標を掲げるよう求めてきた、WWFをはじめとする温暖化対策に取り組む世界の環境NGOは、この宣言を歓迎。民主党が産業界の後ろ向きな声に影響されることなく、自らのマニフェストに挙げた「2020年に1990年比で25%削減」という公約を実現するよう、期待しています。

9月22日の国連気候変動サミットで、鳩山次期首相は、この決意をどのように世界に向かって宣言するのか注目されます。

関連情報

新政権の「25%削減」目標に歓迎と期待

MAKE the RULEキャンペーン実行委員会とWWFジャパンは、衆議院議員第一会館で緊急アクションを実施。岡田克也衆議院議員らに対し、25%の温室効果ガスの削減目標を示した民主党に歓迎の意を示すとともに、この目標を確実に実施できる、具体的な温暖化政策の実現を求めました。

「25%削減」に表敬

MAKE the RULEキャンペーン実行委員会とWWFジャパンは、2009年9月10日、東京・千代田区の衆議院議員第一会館で、緊急アクション「Yes 25%、Go for 30%」を行ないました。これは、新政権を担う民主党・鳩山代表が、温室効果ガス削減の中期目標として2020年までに1990年比で25%削減すると掲げたことを受けて、開催されたものです。

当日、会場の衆議院議員第一会館の会議室には、MAKE the RULEキャンペーン実行委員会に参加する、WWFジャパンや気候ネットワークなど、環境NGOのスタッフ約20人が集合。
多数の報道陣を前に、同キャンペーン実行委員長であるホッキョクグマのシロベエや、WWFのシンボルマークであるジャイアントパンダ(いずれも着ぐるみ)とともに、民主党・鳩山代表の「温室効果ガスを2020年までに90年比25%削減」を歓迎しました。

削減の確実な実施を!

まず、シロベエ実行委員長らが、民主党の岡田克也衆議院議員、福山哲郎参議院議員、岡崎トミ子参議院議員、社民党の福島瑞穂党首に30本のバラの花束を贈呈。この30という数字には、25%削減を歓迎すると同時に、さらにMAKE the RULEキャンペーンが目指す「30%削減へ」という思いが込められています。

そして、花束贈呈のあと、MAKE the RULEキャンペーン実行委員会として、25%削減を確実に実現するために必要な、具体的な温暖化政策の実現を求めました。
これは、民主党のマニフェストでも示されたキャップ&トレード型の排出量取引制度、地球温暖化対策税(炭素税)の導入、再生可能エネルギーの固定価格全量買い取り制度の、3つの政策の実施を求めるものです。

これらは、民主党・鳩山代表あての要望書という形で、岡田克也議員に手渡され、参加した各議員からも、温暖化政策の実現への意気込みを示すコメントがありました。

最後に、参加したスタッフらは、議員会館の前の路上で旗やビラを持って「Yes 25%、Go for 30%」と訴えました。
この緊急アクションの様子は、多くの報道関係者の取材を受けるところとなり、当日のテレビ・ニュースや新聞でもとりあげられました。キャンペーン実行委員会では、新政権の掲げた「25%削減目標」、そして、その実現のための政策の実施を、これからも求めていきます。


地球温暖化政策が総選挙を左右する(2009年8月11日)

共同記者発表資料 2009年8月11日

■Avaaz.org、気候ネットワーク、WWF

全国世論調査によると、野心的な排出削減目標、環境投資、および再生可能エネルギー政策が、総選挙の票を左右する!

先日行われた全国世論調査では、日本人の有権者の76%が、野心的な地球温暖化政策を掲げる政党に投票する傾向にあるという結果が出た。これは、今月末に予定されている総選挙において、地球温暖化政策が、選挙における状況を大きく左右する可能性があることを示している。

「地球温暖化や環境投資に関する政策は、実は今回の選挙において、非常に重要視されている問題です。日本の有権者たちは、この重大な政策について、これまで以上のものを求めています。これに応えることのできない政党は、何百万という浮動票を失うことになるでしょう。」と世論調査を実施した国際的なキャンペーンネットワーク、AVAAZの事務局長リッケン・パテルは話す。

まだ投票する政党を決めていない有権者の69%が、地球温暖化問題に積極的に取り組もうとする政党に投票する傾向にあることから、地球温暖化政策は、そういった浮動票を獲得するための重要な役割を果たすと見られている。

「各政党は、それぞれの地球温暖化政策を、この選挙における重要事項としてまだ位置づけていないようです。しかし、地球温暖化政策を強く推進する政党が、多くの浮動票を集める可能性が高くなっているのです。」と気候ネットワーク東京事務所所長、平田仁子は言う。

多くの有権者は、民主党と自民党の地球温暖化政策についてよくわからないと答えているが、その中でも40%の有権者が民主党を支持しており、自民党支持者の20%を引き離している。2020年の排出削減目標に関して自民党と民主党の違いを具体的に説明すると、有権者の50%が2020年までに1990年比で25%削減するという目標を掲げる民主党を支持したのに対し、2020年までに1990年比8%という削減目標を掲げる自民党を支持するのはわずか29%にすぎなかった。

「現在どの政党にも、地球温暖化政策に敏感な有権者は存在しています。ということは、どの政党も地球温暖化対策を強化し、環境投資や再生可能エネルギー普及政策を前面に出すことで、他党から票を奪える可能性があるということです。」とWWFジャパン・地球温暖化プログラムリーダーの山岸尚之は言う。

気候ネットワーク・WWF・AVAAZの国内外3団体が合同で発表した世論結果によれば、有権者の19%が、地球温暖化問題に積極的に取り組む「グリーン・ニューディール」が日本の経済活性化に「非常に重要」であると回答している。

パテルは「私たちの調査では、日本人の多くが『環境経済を重視する有権者』であることが判明しました。この巨大な有権者層の票は選挙を大きく左右するでしょう。オーストラリアやアメリカのように、野心的な地球温暖化政策を掲げた政党が、地球温暖化対策に消極的な長期政権政党に取って代わる未来図がありえるのです。」と語る。

このプレスリリースに関する詳細、またインタビューのお申し込みは、下記までお願いします。

  • リッケン・パテル、Avaaz.org事務局長:+1-646-2290-5416(EST)、+1-888-922-8229(EST)、+32-470-860-660(CET);media@avaaz.org
  • 平田仁子、気候ネットワーク(東京):03-3263-9210;khirata@kikonet.org
  • 小西雅子、WWFジャパン(東京):03-3769-3509;konishi@wwf.or.jp
  • 相田真彦、Greenberg Quinlan Rosner(世論調査会社)(ワシントンDC):+202-478-8300;maida@gqrr.com

主要な調査結果:

  • 有権者の76%が、野心的な地球温暖化政策を持つ政党に投票する傾向にある。わずかに12%についてその傾向にないことが判明している。自民党支持者のうち79%が、そして民主党支持者のうち81%が、積極的な地球温暖化政策を持った政党を支持するという回答であった。まだ投票する政党を決めていない有権者の間では、69%が積極的な温暖化対策を持つ政党を支持している。
  • 回答者の19%が、投票の際には、クリーン・エネルギー経済、つまりグリーン・ニューディール政策の展開が非常に重要であると答えた。これらの有権者はどの政党にもまんべんなく存在しており、自民党支持者の23%、民主党支持者の20%、その他の政党の支持者の21%、および浮動層の16%を占めている。
  • 二大政党の地球温暖化政策に関して既に知っていることからは、有権者は2:1の割合で自民党よりも民主党を支持している。その内訳は、有権者の40%が民主党の立場が自分の立場に近いと回答しているのに対し、自民党の場合はわずかに20%にとどまっている。

調査の方法:国際的に活躍する世論調査会社Greenberg Quinlan Rosner(アメリカ・ワシントンDC)が、サンプリング法としてRDD(無作為番号ダイアル)方式を使用し、日本国民を代表する20歳以上を対象に電話調査を行った。調査期間は7月12~27日。総回答者数は970人だった。株式会社 アダムスコミュニケーション(日本・東京)が、CATI(コンピュータ支援電話インタビュー)を使用して実際の電話インタビューを行った。調査は日本の有権者を人口統計学的に、また地域的に代表するように行われている。RDD方式でのCATIインタビューは、世論調査の際に先進国で一般的に行われているものである。

世論調査に関する方法についての詳細は、調査を行った世論調査会社(上述)にご連絡をお願いします。


「高速道路料金の割引・無料化」および「自動車関連諸税の暫定税率の廃止」に対するWWFジャパン意見(2009年8月20日)

意見書 2009年8月20日

WWFジャパン 気候変動プログラム

概要

2009年8月30日の衆議院選挙へ向けて各党が発表したマニフェストの中で、一部の政党は「高速道路料金の割引・無料化」および「自動車関連諸税の暫定税率の廃止」を約束しています。

WWFジャパンは、これらの施策は自動車利用の増加を引き起こし、温室効果ガスの排出量を増大させる重大な懸念があるため、その負の効果を打ち消すような対策と同時でなければ実施してはならないと考えます。具体的には、鉄道、バス、フェリーなどのより排出量の少ない移動手段へのモーダルシフト(移動手段の変更)の積極的な推進や、廃止する暫定税率を上回る炭素税などの排出量削減対策が必須になります。

各党のマニフェストは、「高速道路料金の割引・無料化」や「暫定税率の廃止」に言及する一方で、地球温暖化対策を重視する姿勢を示しています。現政権のこれまでの温暖化対策や、掲げられている中期目標が不十分であることをふまえると、各党の温暖化対策についての積極的な姿勢自体は評価すべきであり、また、中には、負の効果への対策に言及しているものもあります。しかし、それらが負の効果を打ち消すに十分な水準なものになるかどうかについては、明確な記述はなく、温暖化対策の流れに逆行してしまうかもしれないという大きな矛盾を孕んでいます。

選挙後、いかなる政権が成立することになろうとも、「高速道路料金の割引・無料化」や「暫定税率の廃止」については温暖化対策の観点から慎重に検討するべきです。これらの施策を実施する場合は、増加してしまうであろう排出量分を削減対策によって打ち消し、全体としては必ず排出量の「削減」に持っていくことが必要です。

各党の立場

各党は、マニフェストにおいて、高速道路料金の割引・無料化や暫定税率の廃止の是非について表 1の通り言及しています。この中で、明確に「高速道路の無料化」および「暫定税率の廃止」を打ち出しているのは民主党です。この他、公明党は、高速道路料金の割引の「恒久化」および「自動車重量税の軽減など暫定税率を含む税率の在り方を総合的に見直し」に言及し、社民党は、「ガソリン税の暫定税率は廃止し、自動車の社会的費用や温暖化対策など環境面から抜本的に見直し」に言及しています。

他方で、社民党および共産党は、高速道路料金の割引や無料化については否定的な見解を示しています。

自民党は、両方の争点について特に言及していません。しかし、現政権の政策として、ETC利用者の高速道路利用料金を1,000円(週末)にする措置がとられていることを踏まえれば、一定の立場がその背景にはあると考えるのが妥当です。また、同政策の結果、本年(2009年)のお盆休みには、渋滞増加による排出量増大が引き起こされた可能性が高いと言われています。

表1:各党のマニフェストにおける立場

党名 高速道路料金の割引・無料化/暫定税率の廃止に対する立場
自民党 特段の言及無し
民主党

▼「マニフェストの工程表」において「暫定税率の廃止:ガソリン税等の暫定税率の廃止・減税」と「高速道路の無料化:原則として高速道路の無料化」に言及

▼「マニフェスト政策各論」において、それぞれ以下の記述がある:

29.目的を失った自動車関連諸税の暫定税率は廃止する

【政策目的】
○課税の根拠を失った暫定税率を廃止して、税制に対する国民の信頼を回復する。
○2.5 兆円の減税を実施し、国民生活を守る。特に、移動を車に依存することの多い地方の国民負担を軽減する。

【具体策】
○ガソリン税、軽油引取税、自動車重量税、自動車取得税の暫定税率は廃止して、2.5 兆円の減税を実施する。
○将来的には、ガソリン税、軽油引取税
 は「地球温暖化対策税(仮称)」として一本化、自動車重量税は自動車税と一本化、自動車取得税は消費税との二重課税回避の観点から廃止する。

【所要額】
2.5 兆円程度

30.高速道路を原則無料化して、地域経済の活性化を図る

【政策目的】
○流通コストの引き下げを通じて、生活コストを引き下げる。
○産地から消費地へ商品を運びやすいようにして、地域経済を活性化する。
○高速道路の出入り口を増設し、今ある社会資本を有効に使って、渋滞などの経済的損失を軽減する。

【具体策】
○割引率の順次拡大などの社会実験を実施し、その影響を確認しながら、高速道路を無料化していく。【所要額】
1.3 兆円程度

公明党

▼「特性を生かした地域の発展」の一項目として以下に記述がある:

高速道路料金の大幅割引
●物流の効率化を図るため高速道路料金をさらに引き下げます。
●現在の高速道路料金割引制度の恒久化を目指します。」

▼「税制抜本改革の基本的な視点」の一項目として以下に記述がある:
(5)税制のグリーン化、自動車関係諸税の見直し
低炭素化を促進する観点から、税制全体のグリーン化を推進します。
また、自動車関係諸税については、取得、保有、走行各段階における複数の課税について
簡素化を図ります。特に、自動車重量税の軽減など暫定税率を含む税率の在り方を総合的に見直し、負担を軽減します。

社民党

▼「1.税財政改革」の一項目として以下に記述がある:

ガソリン税の暫定税率は廃止し、自動車の社会的費用や温暖化対策など環境面から抜本的に見直します。消費税との二重課税や複雑な自動車諸税の整理・見直しをすすめていきます。

▼「3.人・まち・環境にやさしい交通」の中の一項目として以下に記述がある:

○民営化された高速道路各社に料金割引分を税投入し、効率化や営業努力と関係なく料金保証をする
政策は、交通モード間の不公正な競争をもたらすものであり、受益者負担原則や地球温暖化対策、環境問題、財源問題、モーダルシフトや総合交通政策との整合性、地域生活交通への影響、地域雇用等の観点から問題があります。国は公共交通や物流などのすべての交通モードに対して必要な対策を講じるべきです。

共産党

▼(2)軍事費・大型公共事業などの歳出の無駄をなくします」の中の一項目として以下の記述がある:

高速道路無料化より福祉・教育を優先する......高速道路料金の無料化や大幅引き下げに何千億円、
何兆円という税金を注ぎこむことが、「税金の使い方」として適切でしょうか。無駄な高速道路建設に歯止めもかけないまま、旧道路公団の借金を国民に肩代わりさせて続けられようとしている高速道路
料金の軽減よりも、福祉や教育を税金の使い方として優先します。

高速道路料金の割引・無料化について

高速道路料金に関しては、そもそも、1956年に日本の高速道路計画がスタートしたときには、建設後30年で償還して無料になる約束だったにもかかわらず、現在は、通行料金を半永久的に取り続ける仕組みとなっています。したがって、割引や無料化の方向自体が問題というわけではありませんが、その具体的な実施にあっては、慎重にも慎重であるべきです。

民主党は完全な「無料化」を、公明党は「割引制度の恒久化」を主張していますが、今の社会制度のまま、高速道路料金の割引や無料化を性急に進めれば、自動車利用を促進させ、CO2 排出量を増加させることは必至です。ただし、完全な無料化の場合は、高速道路の料金所の撤廃等を含むため、渋滞の緩和につながり、一部排出量の削減効果が生まれる可能性もあります。また、これまで一般道路を無理して走っていた自動車が高速道路を使用することによる渋滞緩和や燃費改善も考えられます。しかし、他の交通手段からあえて自動車に切り替える利用者が増加することによって、それらの効果も相殺され、排出量の増加は避けがたいと考えられます。

しかも自動車利用を加速させる一方で、鉄道やバス、フェリーなどの公共交通機関の利用を縮小させることになるので、低炭素社会のインフラ整備を強化していくことには逆行する動きになります。

したがって、今後取るべき政策は、自動車交通のみを一方的に有利にするような性急な高速道路料金の割引・無料化の実施ではなく、むしろモーダルシフトを進めるべく、公共交通機関の機能性を高め、自動車への依存を下げながらCO2 を減らしていくものでなければなりません。

また、地域経済の発展と低炭素社会の両立のためには、地域交通需要と地域条件に合わせた対策が必要です。現状では、大都市圏と地方において、地域ごとに輸送人キロ当たりCO2排出量に、3倍近い差があります(*)。したがって、高速道路料金の割引・無料化などの実施は、大都市圏と、自動車利用が生活の足となっている地方都市とに対してきめ細かく変えていくべきです。

上記のように、高速道路の割引、無料化については、低炭素社会の実現との両立を最大限に考慮に入れながら、慎重に検討していくべきです。

  • *西岡秀三編著「日本低炭素社会のシナリオ」p125-127,日刊工業新聞社(2008年)

自動車関連諸税の暫定税率廃止について

暫定税率は、そもそも道路整備五ヵ年計画(1973-1977年)の財源不足を確保するため、暫定措置として導入されたものであるため、本来の課税の根拠を失った現在、廃止することは筋にかなっている面もあります。

しかし、廃止の弊害として、自動車価格および燃料価格を低下させ、自動車の利用を促進することにより、結果としてCO2の排出を増加させ、またその他の排ガスによって大気汚染や光化学スモッグなどの環境問題を促進する恐れがあります。

暫定税率の廃止を掲げている民主党および社民党は、2020年までに温室効果ガス25%または30%削減('90年比)など温暖化対策の推進を政策として掲げていますが、暫定税率を廃止することでCO2の排出増を招いてしまっては、温暖化政策に逆行することになってしまいます。

そこで、双方の政策を両立するためには、炭素税の導入を同時期に行い、その税率を、廃止される暫定税率以上に設定することで、排出増加を回避することが肝要です。民主党・社民党ともに地球温暖化対策税や環境税の導入には言及していますが、暫定税率廃止の負の効果を打ち消すだけの水準で設定するのかどうかが不明です。炭素税を導入したことによる税収は一般財源化したり、社会保障費の軽減やさらなる温暖化対策の推進に充てたりすることが考えられます。炭素税は本来、排出削減の努力をしたものが報われ、それ以外のものが負担を強いられる、いわゆる汚染者負担原則(polluter-pays principle)に則った政策ですので、道路の利用に応じて課税する道路特定財源とは類似の側面があり、負の効果を打ち消すための対策としても適切といえます。

以上のように、暫定税率廃止や高速道路料金の無料化などは、モーダルシフトや炭素税の導入とセットで、包括的な税制改革の一部として提示されるべきです。その詳細が明らかでないまま、これらだけが一人歩きするのは、せっかくの温暖化対策を後退させるものとなってしまいます。各党は、すみやかにこの点を是正して、包括的な地球温暖化対策のありかたを示すべきです。


「2050年までに80%削減」G8の温暖化防止目標を考える(2009年7月8日)

イタリア・ラクイラでのG8サミット(主要国首脳会議)は、初日の2009年7月8日に「首脳宣言」を採択。「先進国として2050年までに(温室効果ガスの)排出量を80%、もしくはそれ以上減らす」と表明しました。WWFはこれを歓迎する一方、具体策が伴っていない点を指摘。実現に向けた各国の姿勢を、改めて問いました。

洞爺湖からの「前進」?

今回のラクイラ・サミットでの宣言は、前回2008年の洞爺湖サミットで共有された、「2050年までに、世界全体の温室効果ガスの排出量を、少なくとも50%削減する」という長期目標よりも、先進国の貢献が明らかに示されており、その分、踏み込んだ内容になっています。

しかし、何よりも評価すべきは、この首脳宣言が、地球の気温上昇を「2度未満」に押さえる必要性を認識し、明記している点です。

WWFはこれまで、「地球温暖化の影響を、取り返しのつかない、深刻なものとしないためには、産業革命以降の地球の気温上昇を、2度未満に抑える必要がある」と、各国に警告を発してきました。温暖化に関する世界的な研究者の集まりであるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の影響予測をふまえたこの警告を、G8が公式に「認識」したことは、確かに評価に値するものといえます。

今回も欠如した「具体性」

しかし、これで十分というわけではありません。
まず、この「宣言」は、あくまで実効性のない宣言であり、実際にG8各国が80%の削減を公約したわけではありません。また、それを本気で実施するつもりがあるのかどうかも、疑問があります。

とりわけ、「80%削減」のための具体的な対策が、全く示されていないことは、その疑念を深める一因といえるでしょう。
たとえば、2050年までに、この目標を先進国が本気で実行しようとするならば、まず2020年までの「中期削減目標」として、「1990年比で40%削減」しなくてはなりません。アメリカももちろん、同等な水準の目標を達成することが、厳しく求められます。

しかし、現在までに各先進国が約束した中期目標は、この必要なレベルに達していません。日本の目標も、現状では「1990年比で8%の削減」という程度にとどまっています。また、サミットの結果を受けて、この目標を改善しよう、という動きも、日本政府の中では全く見られていません。

G8は世界の期待に応えるべき!

またこの宣言では、途上国に対しても、きわめて厳しい削減の要求を突きつけている一方、必要とされている明確な資金的支援に関する公約や、排出量がピークを迎え減少に転じる時期などについての合意が無いなど、実効性の乏しさも指摘されます。
これでは、「気温上昇を2度未満に抑える」という点を盛り込んだ宣言も、結果として、掛け声だけで終わってしまうことになりかねません。

WWFは、G8の地球温暖化に関する宣言について同日、記者発表を行ない、これらの問題を指摘。さらに先進国は、途上国における排出削減のため、そして気候変動の悪影響に対する適応のために、年間1,600億米ドルの資金援助の公約を提示する必要性を訴えました。

今回のG8は、2009年末のコペンハーゲンでの温暖化会議に向けた、重要な布石となる会議です。WWFは真の意味で、先進各国政府が世界をリードし、温暖化の防止に積極的に取り組む必要があると考えています。


G8気候変動目標 各国首脳ようやく目を覚ますも、具体的対策無し(2009年7月8日)

記者発表資料 2009年7月8日

【イタリア・ラクイラ】G8首脳らは、気温上昇を2度未満に抑える必要性をようやく認識した。これは、長きにわたる否定の時期から目を覚ました証拠である。しかし、この2度未満という目標を達成する上で今何をすべきかについては、全く描けていない。排出削減の明確な筋道がなければ、2度未満に関する声明は、守れない約束の長いリストに加わるだけであるとWWFは述べている。

WWFは、首脳達の野心を歓迎してはいるが、野心的な中期削減目標や明確な資金的支援に関する公約、排出量がピークを迎え減少に転じる時期などに関する合意が無ければ、2度未満の約束は、何ら実効性を持たない。

「世界の首脳達は、ようやく目を覚ました。我々はこれを歓迎するが、約束をどのようにして達成したいのかについて、何故明確にしないのか? 首脳達は、今から2020年までの間に何をやるつもりなのか? 目標達成のための筋道を描かないのであれば、2度未満に関する声明は、守れない約束の長いリストに加わるだけである」とWWFグローバル気候イニシアティブ・リーダーのキム・カーステンセンは述べている。

2050年までに排出量を80%またはそれ以上減らすというG8の公約は歓迎すべきニュースであるが、明確で野心的な中期目標の欠如を補うことはできない。今すぐ対策が行なわれるためには、先進国の野心的な2020年中期目標が必要である。排出削減の筋道を立てなければ、各国の実質的な義務が弱まり、2度未満は達成不可能となるだろう。

これまでのところ、各先進国が約束した排出削減目標は、2020年までに必要なレベルには達していない。今回のG8は、この差を埋める機会を逸してしまった。

「依然として、温暖化の進行の方が首脳達の行動よりも速く進んでいる状況だ。我々は、首脳達が今から2020年までの間にどれだけ排出を減らしていくのかを知る必要がある。それ無くしては、首脳達は何ら成果の無い親善訪問のためにお金を費やしただけになる」とカーステンセンは述べている。

WWFの考えでは、先進国全体の排出量は2020年までに40%削減されなくてはならない。米国も、他の先進国と同等なレベルの法的拘束力のある総量削減目標を持つべきである。WWFはまた、途上国における排出削減と気候変動の悪影響に対する適応のために、先進国が年間1,600億米ドルの資金援助の公約を提示するよう求めている。


日本の「中期目標」 3つの大問題(2009年6月10日)

2009年6月10日、麻生太郎首相は、地球温暖化に向けた温室効果ガス削減のための、日本の中期目標を発表しました。実現可能でかつ野心的、とされたその内容は、「2020年までに、2005年比で15%削減」というもの。真に地球温暖化の脅威を回避するため、日本が国際的に求められている貢献からは、残念ながら程遠いものとなりました。

3つの問題

WWFジャパンは、この中期目標に対する声明を発表。特に3つの問題点について指摘しました。

  1. 温暖化の影響を食い止められない
  2. 国際社会の一員としての日本は責任を果たせない
  3. 日本を低炭素社会に変革するためには不十分

問題その1: 温暖化の影響を食い止められない

今回の中期目標について、これまで行なわれてきた議論では、そもそも、「何のためにこの目標が必要なのか」という、一番大切な部分が忘れられてきました。
目標は何のためのものか。それは、地球温暖化による影響と脅威を、抑えるためです。

温暖化に関する科学者の集まりである、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告書によれば、温暖化の被害を最小限に抑えるためには、先進国は1990年比で25~40%削減する必要があります。
これは、削減が実現できなければ、地球と、その未来は、深刻な被害を受ける恐れがある、という警告に他なりません。

しかし、今回の日本での議論では、温暖化対策にかかる費用や、取り組みの困難さばかりが声高に叫ばれ、温暖化がもたらす被害の深刻さについては、ほとんど注目されませんでした。科学者の警告を無視した決断といえます。

また、「2005年比で15%」の削減は、1990年比に換算すると、「8%の削減」となります。日本では、1990年以降も排出量が増え続けており、2005年の時点で、1990年比で7.7%増加していました。
1990年とされてきた基準年をずらした背景には、この7.7%の増加という現状を、覆い隠そうという意図が感じられます。

京都議定書の目標と比べても、進歩と呼べるものがありません。
京都議定書の目標は「2012年までに1990年比で「6%の削減」でしたが、今回の中期目標が示した、2020年までの目標は「8%の削減」。深刻になりつつある温暖化の脅威を前に、積極的に取り組む姿勢を見せたとはとても言えない内容です。

問題その2: 国際社会の一員としての日本は責任を果たせない

日本は国際的に公平な排出削減のための負担を求め、世界の大量排出国が、軒並み排出削減の義務、または目標を負うことを求めてきました。

しかし、温室効果ガスの排出が多いか少ないかは、国全体としての排出量のみで測れるものではありません。「国民一人当たりの排出量」や「国民一人当たりの、過去からの累積排出量」のように、日本が重視していない指標もあります。

途上国をはじめ、これらの指標を重視する国々との交渉を、今後進めてゆくためには、日本がその考え方に対して理解があることを示し、これまで温暖化に加担してきた「責任」を自ら果たすことができるような、より高い目標を設定する必要があったといえるでしょう。

日本の中期目標の内容は、他の先進国の目標と、途上国の削減行動への参加意欲に、悪影響を及ぼす可能性もあります。そうなれば、日本政府が主張してきた「全ての国々が参加する枠組み」の達成すら危うくなることになります。

問題その3: 日本を低炭素社会に変革するためには不十分

日本が温暖化を食い止め、同時に世界を牽引できる経済大国の地位を守るためには、今の経済社会の構造を、大幅に改革する必要があります。温暖化防止のための取り組みは、その具体的な方法であり、チャンスに他なりません。

しかし、この中期目標は、あくまで現状の延長線上でしか、温暖化の防止策を検討していません。これまでの経済・産業の枠の中で、削減可能な目標を決めてみたところで、変革が起きるはずもありません。
経済危機や人口の減少など、日本が転換期を迎えていることについても、十分な検討が加えられているのか、疑問の余地が残ります。

また、政府は日本が「石油ショック以来の、世界一の省エネルギー大国」と、しばしば主張していますが、日本が誇りにしてきたこのエネルギー効率も、1990年以降は改善が滞り、国際的にも優位性を失いつつあります。意欲的な中期目標を掲げ、それを刺激としなければ、日本はいずれ、世界から置いていかれる、「かつての先進国」となるでしょう。

WWFジャパンは6月2日、他のNGOと共同で、新聞の意見広告などを通じ、麻生首相に積極的な温暖化対策を打ち出す、「ヒーロー」になるよう訴えてきました。
しかし、発表された中期目標は、日本と麻生総理がヒーローには到底なれないことを示す内容となりました。現在、ドイツのボンで国連気候変動枠組み条約の特別作業部会が開かれています。日本の中期目標は、注目度が高かっただけに、会議への悪影響も懸念されます。


記者発表資料 2009年6月10日

地球温暖化対策に向けた政府の中期目標に対する声明

「05年比15%削減」=「90年比8%削減」ではヒーローになれない!

本日、麻生首相は実現可能でかつ野心的な中期目標として「2020年までに05年比で15%減」と発表する予定である。WWFジャパンは他のNGOと共同で、新聞の意見広告などを通じ、麻生首相に温暖化対策の「ヒーロー」になることを訴えてきた。今日も『ビッグコミック』掲載の意見広告で、そのことを訴えたばかりである。
しかし、この削減目標では、国際市民社会のヒーローには、到底なることはできない。国連気候変動枠組み条約の特別作業部会がボンで開かれる中、日本の中期目標への注目度は高いだけに、残念でならない。

麻生首相が、この削減目標では国際市民社会のヒーローになれない理由は、3つある。

その1)温暖化の影響を最小限に食い止めるためには不十分

  • 「2005年比15%削減」は、1990年比に直せば8%削減である。この数字の違いは、1990年以降、日本が排出量を増やしていることに由来する。2005年の日本の排出量は、1990年と比較すると7.7%も増えている。基準年をずらすことで、この90年以降の排出量の増加を覆い隠すという意図が見える。
  • 京都議定書の目標は2012年までに90年比「6%削減」であり、2020年までに「8%削減」では、京都議定書以降に明らかになってきた温暖化問題の緊急性に応えているとは言えない。
  • 京都議定書の「6%削減」については、「森林吸収源による3.8%削減」、「京都メカニズムによる1.6%削減」を計上できるので、実質的には「0.6%削減」でしかなく、そこからすれば進歩という主張も見受けられる。しかし、それは極めて内向きな理屈である。国際公約はあくまで「6%削減」である。それをどのように達成するのかは国内の議論でしかない。議定書採択から12年経った今、「6%削減は厳しいのです」という言い訳は通用しない。
  • 政府資料によれば、「7%削減」の時に想定されている先進国全体の排出削減量は25~29%である。「8%削減」であっても、おそらくこれに近い範囲が想定されるものと考えられる。これは、IPCCの第4次評価報告書が示した温暖化の被害を最小限に抑えるシナリオに必要な先進国削減幅(25~40%削減)の中でも緩い水準になってしまう。温暖化の脅威が予想以上に厳しいことが分かってきた現状を踏まえるなら、先進国全体の削減量としては、より40%に近い水準を考えるべきだった。

その2)国際社会の一員としての日本が果たすべき責任を果たしていない

  • 日本は、この目標が限界削減費用の観点から見て国際的に公平であると言っているが、それは独りよがりの公平である。「費用」が重要な指標であるのは確かだが、それだけで公平性が担保できるわけではなく、国連の議論では、「責任」や「能力」、「削減ポテンシャル」等、他の指標も合せて検討がされている。
  • 特に、日本がこれまで温暖化に加担してきた「責任」の指標が欠けていれば、途上国の理解は絶対に得られない。例えば「一人当たりの排出量」や「過去からの(一人当たりの)累積排出量」など、日本がどれくらい現在の温暖化に加担してきたかという指標も、重要な指標であり、途上国は特に重視している。
  • この他にも、「能力」を示す「一人当たりGDP」や「人間開発指標(HDI)」、削減ポテンシャルを示すエネルギー効率や炭素集約度(GDP当たりの排出量)など、様々な指標が提示されている。それら全てを統合することは無理だが、日本にとって有利な「限界削減費用」だけでなく、その他の指標も考慮し、日本の国際社会の中での位置をより明確に意識したならば、日本が掲げるべき目標は必然的に高くなったはずである。
  • この目標では、国際社会の一員としての責任を十分に果たしていない。他の先進国の目標に関する意欲にも悪影響を与え、途上国の削減行動への参加意欲も削ぐ可能性がある。そうすれば、日本政府が度々主張している「全ての国々が参加する枠組み」の達成すら危うくなる。

その3)日本を低炭素社会に変革するためには不十分

  • この目標では、あくまで現状の延長線上にしか2020年を見ていない。経済危機、人口減少など、日本が転換期に来ていることは確かである。いずれにせよ、日本は今の経済社会構造を変革しなければならない。現状の延長線上におかれた目標では、変革は起きるはずがない。
  • 日本が誇りにしてきたエネルギー効率も、90年以降は改善が滞っているのは統計から見て明らかである。また国際的にも、70年代以降に確保した優位性は失われつつある。今一度、刺激がなければ、いずれ追い抜かれてしまう。

WWFジャパン 自然保護室 気候変動プログラム グループリーダー 山岸尚之のコメント:

「この中期目標に関するこれまでの議論は、そもそも、何のためにこの目標が必要なのか、という部分が抜けてしまっていた。温暖化対策の費用が高く、いかに難しいかという点は語られたが、温暖化によって、どのような被害が起きるのか、それをどうやって最小限に抑えるのかという観点が希薄だった。特に、日本のように食糧などを海外に頼っている率が高い国にとっては、日本だけでなく、世界全体に対する温暖化の影響をもっと重視すべきだった。京都議定書のホスト国が、次の枠組みへ向けての合意形成にリーダーシップを発揮できないことが残念である。」


WWFジャパン 地球温暖化対策の中期目標に関する意見(2009年5月15日)

意見提出者

提出者名:WWFジャパン(財団法人 世界自然保護基金ジャパン)
担当者名:気候変動プログラム・山岸尚之、小西雅子、池原庸介
住所:〒105-0014 東京都港区芝3-1-14 日本生命赤羽橋ビル6F
電話番号:03-3769-3509
電子メールアドレス:climatechange@wwf.or.jp

(1)我が国の温室効果ガスの中期目標(2020年)は、どの程度の排出量とすべきか

・以下の6つの選択肢から選ぶか、独自にふさわしいと考える排出量(■■年比●●%)を挙げてください。また、その理由も述べてください。

<意見> 日本は、2020年までに1990年比15~30%の排出量削減を行うべきである。

理由:1)世界の気温上昇を産業革命前と比較して2℃未満に抑え、気候変動による被害を最小限に食い止めるためには、世界全体で大幅な削減を緊急に行っていく必要がある

IPCC第4次評価報告書以降、気候変動は同報告書が予測した以上の速度で進展し、影響も顕れている。

  • 現状の世界のCO2排出量増加のペースは、IPCC第4次評価報告書で検討された排出シナリオのうち、A1F1シナリオという最も危険なシナリオ(最良予測で4℃上昇につながる)の経路をたどっていることが確認されている(Raupach et al 2007)。

  • IPCC第4次評価報告書以降の知見によって、海面上昇の予測値はより大きくなっている。

  • 北極の夏期における海氷面積の減少ペースは、IPCC第4評価報告書が示した予測値を既に超えている。

したがって、IPCCの第4次評価報告書が示した内容以上に、気候変動への対応の緊急性は高まっている。その事実を踏まえて、世界全体で大幅な削減を緊急に実施することを達成するために、日本は積極的な貢献をする必要がある。

Raupach, Michael R., Gregg Marland, Philippe Ciais, Corinne Le Quere, Josep G. Canadell, Gernot Klepper and Christopher B. Field. (2007) Global and regional drivers of accelerating CO2 emissions. PNAS. 104(24): 10288-10293.

理由:2)先進国全体としての排出量削減目標は、25%では不十分でなるべく40%に近い水準で行う必要がある。日本はその中で、相応の負担を率先して負い、削減を行っていくべきである

気温上昇を2℃未満に抑えるためには、大気中の温室効果ガス濃度を450 ppm 以下に抑える必要がある(ただし、仮に450 ppmに抑えたとしても、2℃を超えてしまう可能性は50%近く残る)。

そして、450 ppm に温室効果ガス濃度を安定化することを前提とし、かつ先進国が気候変動を引き起こしてきた責任を重視するという原則にたって、先進国・途上国の削減分担を考慮した場合、先進国は全体として、25~40%の排出量削減が必要であることをIPCC第4次評価報告書は示している。

前述のように、IPCC第4次評価報告書が出版されて以降、気候変動に関する緊急性がさらに高まっている事実を踏まえれば、先進国全体としては40%に近い削減を実施していかなければならない。

しかし、選択肢1~4は、先進国全体の削減量が-9%~-29%の幅でしか検討されておらず、そもそも先進国全体の削減水準の想定が不十分である。

尚、アメリカが現状では「1990年比0%」しか掲げていないため、先進国全体で-25~-40%レベルの削減はそもそも無理という指摘もある。しかし、アメリカの目標が低いことを言い訳にして、日本が低い目標を掲げていいことにはならない。オーストラリアは、他の先進国が追随すれば-25%の目標を掲げると主張を変えてきた。日本も他の先進国のさらなる削減を誘導するような高い目標を掲げるのが、京都の名を冠した議定書のホスト国の責務である。また、万が一アメリカが応分の負担を国内削減でどうしても達成できないとすれば、その削減に対応する国際的な貢献を求めていくことが必要である。

理由:3)先進国内で排出量削減の分担を行う際、比較同等性の基準として限界削減費用だけが採用されることはありえないため。「責任」、「能力」、「削減ポテンシャル」等に関する他の指標も含めて総合的に検討した既存研究を参考にすると、日本は15~30%程度の排出量削減が必要となる

中期目標検討委員会での検討では、限界削減費用という指標が、国際的な公平性・比較同等性を確保する指標として重視されている。そして、次善の候補として、GDPに占める費用の割合(%)も別指標として検討されている。

これらの指標は、確かに一定の有用性はあり、国際的な議論の中でも取り上げられる可能性は高い。しかし、現状の国連での議論や各国・各研究機関の主張を見る限り、それらの指標だけで公平性や比較同等性がはかられることはまずあり得ない。

したがって、日本の目標が、他の先進国の目標と比較して公平であるか、または比較同等性を確保できるかという点については、他の指標も考慮して総合的に判断する必要がある。他の指標の例としては、以下のようなものがある。

  • 「責任」に関する指標:一人当たりの(累積)排出量、(累積)排出総量、世界全体に占める排出量の割合、等

  • 「能力」に関する指標:一人当たりGDP、人間開発指標(HDI)等

  • 「ポテンシャル」に関する指標:GDP当たり排出量、GDP当たりエネルギー消費量、特定部門のエネルギー効率、ベースラインからの改善率等

  • その他の国別事情に関する指標:人口(の傾向)、一定期間の排出量傾向、排出総量の規模、排出量の増加率、等

現在の国連での議論では、これらの指標について、各国が様々な選好を示しており、議論はまとまっていない。

また、これらの指標をどのように扱うのかについては、さらに色々な手法・アプローチが存在する。

そうした様々な指標・アプローチを検討したいくつかの既存の研究を参照に日本の目標を検討すると、日本の目標はおおよそ15~30%程度が適当であると考えられる。

たとえば、den Elzen et al (2008) によれば、先進国全体で30%もしくは40%の削減を達成することを想定し、いくつかの指標・アプローチを活用して先進国各国の分担を検討した結果を見ると、日本の削減幅は13%~39%となっている。

また、Hohne and Moltmann (2009) によれば、450 ppm の濃度安定化を想定し、いくつかの指標・アプローチを活用して先進国各国の分担を検討した結果を見ると、「削減量」に海外での削減支援貢献分を明示的に含むアプローチ以外は、日本の削減幅は32%~34%となっている。

また、国立環境研究所・京都大学・東京工業大学のチームが、先進国全体で25%の削減を達成することを想定し、いくつかの指標・アプローチを活用して先進国各国の分担を検討した結果を見ると(西岡 2009)、日本の削減幅は-3%~-30%となっている。

それぞれ、想定している先進国全体の削減量が違うため、単純な結論を出すのは難しいが、「先進国全体で40%に近い削減を行う」という原則にたてば、日本としてはおおよそ15%~30%程度の削減が妥当であると考えられる。

西岡秀三 (2009) 「中期目標に関する意見」 第7回中期目標検討委員会資料 2009年4月14日

den Elzen, Michel, Niklas Hohne, J. van Vliet and C. Ellermann. (2008) Exploring comparable post-2012 reduction efforts for Annex I countries.Netherlands Environmental Assessment Agency.

Hohne, Niklas and Markus Hagemann. (2009) Comparable efforts between Annex I countries based on principles proposed by the EU and Japan. Presentation at Bonn Side, Bonn, Germany, 30 March 2009.

Hohne, Niklas and Sara Moltmann. (2008) Distribution of emission allowances under the Greenhouse Development Rights and other effort sharing approaches. Ecofys.

理由:4)日本の目標設定は、他の先進国の目標の水準に影響を及ぼす。先進国全体の目標を低く抑えることになれば、中国・インドなど主要途上国の削減行動を鈍らせ、ひいては世界全体の排出量削減の水準にも悪影響を及ぼす。特に、選択肢1のような低い目標を掲げた場合は、次期枠組みの合意そのものを危うくする可能性すらある。

現在の国連の議論では、多くの途上国は、先進国に全体として40%以上の削減を求めてきている。この中には、中国やインドなどの国々も含まれる。

また、小島嶼国と一部の中南米・アフリカ諸国は、共同で45%以上の削減を求める宣言を先のボン会議で発表した。

こうした状況において、極端に低い目標、特に京都議定書からの進展がほとんどみられない選択肢2や3,ましてや逆行を意味する選択肢1といった目標を掲げれば、それは翻って途上国がどれだけの行動を次期枠組みの中で約束するかに影響を及ぼす。最悪の場合、次期枠組みの成立そのものに悪影響を及ぼす可能性がある。

次期枠組みにおいて、世界全体での排出量削減の進展を重視するのであれば、なおさら、日本は先進国として責任ある目標を掲げるべきである。

理由:5)比較同等性の基準として、限界削減費用を使用したとしても、各国・各研究機関によって、限界削減費用のデータそのものが異なる。異なるデータを調整する必要があり、結果として日本が想定している排出削減量よりも大きくなる可能性が高い

中期目標検討委員会では、公平性・比較同等性の指標として、限界削減費用を重視している。しかし、国毎の限界削減費用曲線を作成するためには、当該国での利用可能な技術やその費用に関するデータが必要となる。このデータの情報源やその扱いは各研究機関や各国によって異なるため、同じ国の限界削減費用曲線であっても、研究機関によって違った曲線が描かれることがある。

こうした性質を持つ限界削減費用を国際的な公平性・比較同等性の指標として使用する場合、当然ながら、異なるデータや想定の調整が必要となる。その結果として、日本が現在想定しているほど、日本にとって有利な目標にはならない可能性がある。また、研究機関および各国の間での調整自体が「交渉化」するリスクもあることは留意する必要がある。

たとえば、オーストリアの研究機関IIASAがウェブ上で公開しているGAINS IIASA Gains Mitigation Efforts Calculatorを使用して、日本の各選択肢が想定している限界削減費用やGDPに占める費用の割合を入力して削減量を求めると、おおむね日本での計算よりも大きな削減量が求められる。

理由:6)高い目標を掲げることで、表面上の費用の増加は発生するが、それ以上に、モデル試算には含まれていない利益(新規産業および雇用の創出、技術革新の奨励)がもたらされる可能性が大きい

気候変動対策の要となる省エネ産業や再生可能エネルギー産業は、今後、成長や拡大が見込まれる産業としても有用である。たとえば、CleanEdgeという機関が発行している報告書によれば、再生可能エネルギー産業の市場は今後10年間で倍以上に大きくなっていくことが予測されている(Makower et al 2009)。

他方で、日本のGDP当たりのエネルギー消費量や二酸化炭素排出量などの、日本の効率性を示す指標は、1990年以降は改善が滞ってしまっている。1970年代の石油危機をきっかけとして行われた大幅な改善による日本の優位性は、近年では失われつつある。

このことを踏まえ、大幅な削減目標を設定して、技術開発や省エネ産業・再生可能エネルギー産業に明確な拡大の方向性を示すことが、結果としては日本に利益をもたらす。具体的には、新規の産業が創出され、雇用が拡大したり、技術力の優位性を海外に対して確保したりといった利益が考えられる。しかし、そうした利益はモデルの影響評価には十分には取り入れられていない。目先の対策費用ばかりではなく、低炭素社会へ向けた施策のもたらすプラスの効果を積極的に評価して目指していくべきである。なお、プラスの効果をもっと積極的に国民に伝える義務がある。

Makower, Joel, Ron Pernick and Clint Wilder. (2009) Clean Energy Trends 2009. Clean Edge.

理由:7)いずれの選択肢でも2050年までに60%~80%の削減をするという長期目標は達成可能とあるが、そこに至るまでの累積排出量は、小さい削減目標では増えてしまう。また、次世代に必要削減量の多くを押し付けるのは公平とはいえない

政府資料では、選択肢のいずれをとっても、日本が掲げる長期目標(2050年までに60%~80%削減)は達成可能とある。しかし、どのようなペースで削減をするかによって、2050年までの期間内に累積して排出してしまう排出量は異なるため、地球環境に対するインパクトは異なる。一般的に、小さい削減目標ほど、より多くの排出量を累積では排出してしまう。

IPCC第4評価報告書の知見によれば、気温上昇を2℃未満に抑えるための2100年までのカーボン・バジェットは、1100Gt-CO2未満と限られている。したがって、2020年までに多くの排出を許すということは、この予算を早期に使い過ぎてしまうことを意味する。たとえ、2050年における到達地点が同じであったとしても、途中の排出経路が違えば、2℃未満に抑えられる予算を使いきってしまう恐れもある。

また、小さい削減目標を掲げることは、即ち2020年以降の排出削減のペースをより急激にしなければならないため、そうした負担を将来世代に押し付けることになる。政府資料でも指摘されているように、技術開発もそのインセンティブが明確でなければ進まない可能性もあり、小さい削減目標で、誤ったインセンティブを与えるべきではない。

(2)その中期目標の実現に向けて、どのような政策を実施すべきか

・規制的措置(エネルギー効率改善規制、機器等の導入義務付けなど)、経済的助成措置(補助金、減税等)、経済的負担措置(炭素税、排出量取引等)など様々な種類の政策を、どのように組み合わせて実施すべきか。

1)排出量取引制度を中核とし、炭素税を補完的に使用するポリシーミックスを導入するべきである

部門別には、エネルギー転換、産業、工業プロセスの3部門に属する一定規模以上の排出量を持つ事業所は、排出量取引制度の対象とする。これらに加え、全部門を対象に、上流にて炭素税を導入する。先の3部門における排出量取引参加者については免税扱いとして、排出量の算定報告の手続き時に還付を受けられるようにする。排出量取引対象部門のキャップおよび炭素税の税率は、中期目標および長期目標の達成と整合的な水準に設定する。対象とするのは、直接排出量とする。

この他、各自治体において、主に業務部門を対象とした地球温暖化対策計画書制度を導入することを義務とする。主体数の数などから考慮して、意義があると認められる場合は、東京都で実施されているような排出量取引制度を同時に導入する。この場合の対象は、間接排出量とする。上述の排出量取引制度と二重負担が生じる部分については、過度な負担につながるケースを特定し、必要な軽減措置を講ずる。

2)家庭用・業務用機器に対するトップランナー形式は拡充・深化を行う

現在の家庭用・業務用機器に関するトップランナー目標の対象範囲を拡大し、また、水準も中期目標上の想定に合うように設定する。

3)発電施設など省エネ法下でのベンチマーク作成に適する部門については、ベンチマークを元に基準を設定する

現在、省エネ法下で進められているベンチマークの作成が進展している業種については、作成されたベンチマークを元に、効率基準を設定する。この際、単に日本国内で最高効率を目指すのではなく、各業種の施設が全て世界最高効率になることを目指すような基準の設定を行う。

4)車両に関するトップランナー基準は、燃費基準からCO2排出量基準に切り替え、目標の強化を行う

電気自動車等の拡大も想定して、トップランナー基準を燃費基準からCO2排出量基準に切り替えることが必要である。また、水準も中期目標上の想定に合うように設定する。

5)建築物に関する断熱基準(壁やガラス等)を義務化する

建築基準法において、建築物の省エネ水準を設定して、新築については少なくとも早期から、そして既存住宅についても漸次的に改修を義務化する。ただし、既存住宅の改修にあっては、政府からの助成が得られるようにする。

6)排出量取引制度内の中で実施する排出枠オークションからの収入や炭素税税収を再生可能エネルギー・省エネルギー支援に一部振り向ける

排出量取引制度の中で実施する排出枠オークションや炭素税による税収は、その一部を再生可能エネルギー導入および省エネルギー導入の支援に振り向ける。再生可能エネルギーについては、太陽光発電設備の導入等の支援策を重視する。省エネルギーについては、HEMS・BEMSなどの省エネルギーの進展を総合的に支援し得る枠組みの支援の他、具体的な設備導入、住宅・建築物の省エネ基準達成のための支援策に使用する。

7)同じくオークション収入や炭素税税収を、途上国支援に充てる

途上国での適応対策や脱炭素化政策の支援の資金源とする。

8)同じくオークション収入や炭素税税収を、逆進性問題が発生した場合の救済に充てる

炭素価格の上昇は、エネルギーコストの上昇につながるため、低所得者層の家庭に対して影響がより大きくなる可能性もある(逆進性の問題)。このような問題がどの程度発生し得るのかを客観的に分析・検討した上で、オークション収入・炭素税収入を活用して、その救済に充てる。

9)上述の用途で使用する以外のオークション収入は社会保障費負担の低減に使用する

6や7で述べた支援策・救済策に使用される分以外のオークション収入については、社会保障費負担低減のために使用するなどして、その収入・税収が一般の人々の生活負担軽減に回るようにする。

・政策の実施に伴うコスト(規制に伴う国民や企業への負担、経済的助成に伴う財政負担など)について、どのように考えるか。

1)モデル試算で示されているGDP成長率の押し下げは、成長スピードの鈍化を示すものであって、成長が止まることを示すものではないことを重視するべきである

政府資料では、2020年の実質GDPの押し下げが強調されているが、これは基準ケースとされている選択肢1からの差である。

選択肢1では、年平均1.3%のGDP成長率を見込んでいる。この成長率であれば、2005年を基準として考えると、2020年には累積の21.3%の成長が達成されていることになる。それが、25%の排出量を削減する選択肢6では、3.2%下がって、18.2%の成長になると計算できる。決して、2020年の実質GDPが現状から3.2%下がるという意味ではない。

したがって、いずれのシナリオでも、経済の成長そのものは持続することがモデル試算では示されている。日本社会が、今後「経済成長」や「GDPの拡大」ということに「豊かさ」の重きをおくべきなのかということ自体、見直さなければならない課題ではあるが、それを差し置いたとしても、GDPの成長は持続することは重視するべきである。

ましてや、対策を行なわない場合の気候変動の悪影響による被害が、一体どれくらいの費用に相当し、GDPの何%になるのかは分かっていない。被害の費用を重視せず、対策の費用のみを重視することは、誤った判断に結びつく。

2)モデル試算で示されている世帯当たりの可処分所得への影響については、その計算の仕方に一部問題があり、過大な影響の見積もりになっている可能性がある

「地球温暖化対策の中期目標の選択肢」という資料の注を見ると、世帯当たりの可処分所得への影響は、

(2007年の家計調査実績値)×(2020年時点での基準ケースからの増減率)

という形で求められていると解釈できる。たとえば、選択肢6では、日経センター・CGEの可処分所得押し下げ率が「-4.5%」なので、

483万円 × 4.5% = 21.735万円(約22万円)

という形で求められていると推測できる。

しかし、この算出の方法には問題がある。

まず、モデルそのものの試算から算出されているのは、基準ケース(選択肢1)からの増減率である。したがって、それを2007年の実績値に乗じるのは適切でない。

「基準ケースは現状継続だから、2007年と変わらない」という想定なのかもしれないが、そもそも、基準となる選択肢1でGDP成長率年平均1.3%が想定されている。そうであれば、可処分所得についても、過去の実績を元に上昇が想定されるべきである。もしそれが想定されないとすれば、経済が成長するにもかかわらず、可処分所得(一般の人々にとっての使用可能なお金)は上昇しないことがモデルの想定となる。

3)モデル試算で示されている世帯当たりの可処分所得への影響および光熱費の影響には、税収を還流して負担を軽減する等の措置は考慮されていない。したがって、適切な政策措置を講じることによって、家庭への影響は緩和できる

「経済・社会への影響の分析結果(一般均衡・マクロモデルによる)」という資料の備考欄では、AIMの部分にだけ、可処分所得への影響については、税収還流分が入っていないという注記がある。しかし、通常の一般均衡モデルによる影響評価を行っている限り、これは他のモデルにおいても同様と考えられる。

したがって、排出量取引制度におけるオークション収入や炭素税の税収を活用することによって、家庭等への影響の軽減措置をとることは可能である。

4)モデル試算に示されている光熱費への影響には、太陽光発電や住宅の次世代省エネルギー基準が想定通り普及した場合の光熱費減の効果が考慮されていない

「地球温暖化対策の中期目標の選択肢」という資料の注を見ると、世帯当たりの光熱費への影響は、

(2007年の家計調査実績値)×(2020年時点での基準ケースからの増減率)

という形で求められていると解釈できる。たとえば、選択肢6では、日経センター・CGEの光熱費の増加率が「81.0%」なので、

17万円 × 81.0% = 13.77万円(約14万円)

という形で、「14万円の増加」と求められていると推測できる。

しかし、可処分所得の場合と同様、この算出の仕方には問題がある。

まず、モデル試算において基準ケースとの比較において算出されている光熱費の増減率を、2007年の実績値に乗じるのは適切であるとはいえない。

また、より重要な点として、選択肢5や6のような目標においては、既存住宅および新築住宅の相当な割合に太陽光発電が導入されていることが想定されている。さらに、同じく既存住宅および新築住宅の相当な割合が、世代省エネ基準を満たしていることが想定されている。

こうした太陽光発電や次世代省エネ基準の普及を想定した場合、電気代、ガス代、灯油代といった光熱費は、住宅の省エネ化によって引き下げられると想定するのが妥当である。したがって世帯当たりの光熱費が現状のままで推移すると想定して、光熱費の影響を算出した場合には、影響が過大推計になっている可能性がある。

(3)その他、2020 年頃に向けた我が国の地球温暖化対策に関する意見

1)長期的な視点を

  • 日本は2050年に60~80%の排出削減を世界に約束している。2020年は、この2050年に向けた最初の中間点として重要であり、世界に約束した60~80%削減を可能にする道筋を選んでいなければならない。このような大規模な低炭素社会へ移行するには、社会や産業の構造自体を変えていく必要がある。既存のインフラ・社会基盤を前提とした小手先の対策では、気温上昇を2℃未満に抑え温暖化の深刻な悪影響を食い止めることは困難である。長期的な産業、社会構造変革計画を持って実行していく中間点として2020年を位置づけるべきである。

  • 日本が進んでいくと見られる少子高齢化の社会の将来を見据え、ふさわしい温暖化対策を選択していくことが必要である。たとえば、都市の計画段階から、バリアフリーなインフラ整備、車がなくても日常の用が足りるコンパクトシティーなど、少子高齢化の社会が、低炭素社会とカップリングするような開発を当初から想定していくべきである。

2)政策で解決を

  • (2)で述べたように、規制的措置、経済的助成措置、経済的負担措置などあらゆる政策を、拘束力を持った形で導入して、低炭素社会へ導いていくべきである。その際に、いたずらに国民啓発運動などを、政策がないことへの代替としてはならないことを肝に銘じるべきである。国民啓発は大切ではあるが、しっかりした政策の組み合わせの上に行われるべきである。したがって、家庭における省エネなども、意識の高い国民の行動を待つだけではなく、助成措置などの政策での解決を図るべきである。

  • 原子力発電の稼働率だけに頼った排出削減の道ではなく、再生可能エネルギーを中心とした多様なエネルギー源を積極的に推進する方向で、低炭素社会を実現していくべきである。

  • 日本国内において、対策による経済的な負担をいたずらに誇張して対策を逃れようとするのではなく、積極的な対策により得られる経済効果や雇用拡大などのプラス面をより強く意識して、技術的優位性を活かして「豊かな低炭素社会」を、世界に先んじて実現することが、日本が世界へ貢献できる一番の道である。また、世界に先駆けて「豊かな低炭素社会」の実例を目指すことが、日本の国際競争力を高めることをもっと認識したいものである。

3)世代間公平性に配慮を

  • 2020年に日本で生きていく子どもたちや孫たちの世代に、温暖化の影響のつけを回すようなことはできない。と同時に2020年に今の私たちの世代が温暖化対策を怠ることは、より厳しい排出削減の対策を、子供たちや孫たちの世代に押し付けることになる。たとえば2020年に+4%の目標を持つと、2050年に80%減を達成するには、2020年以降毎年2.8%ずつ削減しなければならなくなる。また、 25%削減ケースでも、毎年1.83%ずつ削減していかなければならない。京都議定書の「6%」達成においてすら苦しんでいる国にとって、「毎年」2.8%削減しなければならないというのは、決して小さな数字ではない。+4%は論外としても、緩い目標を選べば選ぶほど、現在世代の私たちは、子供たちの世代により厳しい対策努力と対策費用を押し付けることになることを自覚すべきである。子どもたち、孫たちの世代に、よりより地球環境を残すためには、今なにをしなければならないかを考えて、2020年までにとるべき道を選ぶべきである。

4)途上国への支援を

  • 途上国は、すでに温暖化の影響に苦しんでいる。歴史的に排出に責任のある先進国の一員として、温暖化の影響に脆弱な途上国への支援策、特に急務である適応への資金援助や技術移転の仕組みを、日本の国内政策の中に組み込むべきである。EUは、域内排出量取引制度の排出枠配分方法をオークションに移行し、その収益からの一部を途上国支援へあてることを表明している。アメリカオバマ政権も、排出量取引制度のオークション収益からの一部をまわすことを示唆している。日本も、持続可能で予測可能な金額を途上国の適応支援へ回すことを前提とした包括的な温暖化政策を確立していただきたい。

5)日本の適応戦略を

  • 温暖化の進行は避けられないので、日本の適応の戦略も立てるべきである。国土計画、災害計画、治水、農業、漁業などあらゆる分野で適応戦略をたて、予算も確保していくべきである。短期的にみると、温暖化による食糧生産量へのプラスの効果も予測されるが、長期的にみればマイナス効果が顕著に現れてくることが予測される。日本の食糧自給率は約40%と低く、将来的にこれを高めていく上で、温暖化の悪影響に対する対策が大きな鍵を握っているといえる。

6)最新の科学の知見と、現状の排出傾向などに基づくレビューを

  • 現状の排出傾向は、IPCCが示す最も排出量が高くなるA1F1シナリオに沿っている。このままでは、世界は21世紀末に平均気温が4度上昇するシナリオに沿っていることを認識すべきである。温暖化対策を遅らせるような低い目標や、効果の高い政策の導入をためらっているような時間はない。高い削減目標を掲げて政策でその達成を確実にしながら、直近の排出傾向や最新の科学的知見に応じて、削減目標や政策手段を定期的にレビューし、必要に応じて修正しながら、常に最も野心的な温暖化対策に更新しながら実行していかなければならない。

参考資料

WWFジャパン:中期目標の考え方(PDF形式)

これでいいの?日本の温室効果ガス削減 中期目標(2009年3月27日)

2020年までに日本はどれくらい温室効果ガスの排出を削減するのか。2009年6月に発表されることになっている、この中期目標の原案として、5つの目標案が示されました。しかし、その内容は非常に消極的で、温暖化の危機を回避するには不十分なものです。WWFは同日、この案に抗議する声明を発表しました。

発表間近!日本の削減目標

日本は2020年までに、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出を、どれくらい削減するのか? 6月までに発表されることになっている、この削減の「中期目標」が現在、首相官邸の「中期目標検討委員会(座長・福井俊彦 前日本銀行総裁)」により検討されています。

この目標は、日本が今後、どれくらい積極的に地球温暖化の防止に取り組むかを、実際の数字で示す、きわめて重要な意味合いを持つものです。

2009年3月27日、この委員会より、想定される削減目標として「複数の選択肢」が示されました。これは、国内の温室効果ガス排出量を、1990年比でマイナス25%から、プラス4%の範囲で、5つの目標値を選択しとして選んだものです。
これについて、WWFをはじめ、地球温暖化問題に取り組む複数の環境団体の代表は、麻生首相宛に書簡を送り、検討委員会による選択肢の内容を、厳しく批判しました。

温暖化を食い止められない目標値

そもそも、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)では、温暖化による深刻な影響を回避するためには、先進国が2020年までに1990年比で25~40%削減することが必要だと示しています。この指摘は「これが達成できなければ、地球の将来が危ないのだ」という世界の科学者たちによる警告に他なりません。

また、この25~40%という削減範囲は、2007年のウィーンでの国連気候変動会議以降、先進国全体が掲げる目標の重要な目安として、国際的にも認識されてきました。
したがって、日本としても、掲げるべき温室効果ガスの排出削減目標も、この25~40%の削減という範囲を中心に議論し、決定することが求められます。

しかし、2008年11月から行なわれてきた、中期目標検討委員会での議論では、「温暖化の危険を回避する」という本来の目的は意識されず、産業界として「実現が可能かどうか」という点に終始する形で、目標値が検討されてきました。
そして、実際に5つに絞り込まれた選択肢は、その大半が25~40%という削減量に届いていません。そればかりか、1990年比でプラスとなる目標値さえ含まれています。これは、マイナス6%という目標を掲げた「京都議定書」の精神にも逆行するものです。
世界に求められ、未来に対して果たすべき責任を、果たす意思があるのか。日本はその姿勢を、国際社会からも問われることになります。

視点を変え、国としての展望を明らかに!

この他にも、中期目標検討委員会での議論には、根本的な問題がいくつも見られます。

たとえば、コストの問題。温暖化防止、つまり排出の削減にどれくらいのコストがかかるか、ということばかりが強調されていますが、実際に温暖化によって、さまざまな影響、洪水や大型台風などの異常気象による被害が出た場合、対応にどれくらいのコストが必要とされるか、という点は、定かにされていません。

イギリスで発表された「スターン・レポート」によれば、世界の気候変動に対する、予防のための対策コストが世界のGDPの約1%であるのに対し、悪影響への対応に必要なコストは5%から20%に達すると試算しています。こういった視点や試算が、日本での議論には欠落しています。

さらに、対策を進めることで得られるメリットについても、十分な評価が行なえていません。省エネを進めたり、風力などの再生可能エネルギーを活用することで削減できるエネルギー・コストや、環境分野にかかわる産業の新興によって得られる、新規の雇用やサービスといったものが、顧慮されていないのです。

EUや、新たなスタートを切ったアメリカのように、世界的な金融危機の中で、温暖化の防止、排出量の削減や、低炭素社会の実現といった取り組みを、産業構造の革新と、将来的な国の発展につなげてゆく発想が求められます。

新たな世界の約束に向けて

2009年末には、デンマークのコペンハーゲンで、国連の気候変動に関する会議が開かれ、京都議定書に続く新たな温暖化防止のための約束が各国の間で交わされます。

これに向け、3月28日にはドイツのボンで第一弾となる国際会議が始まりますが、27日午後の事前会合では、各国がそれぞれの中期目標を発表することになっています。日本も6月までには、自国の中期目標を決定し、発表することになっていますが、この目標を決定する上で重要なステップとなる、今回提示された削減目標案は、あまりにも積極性を欠いたものになっています。

中期目標検討委員会により、この提案が行なわれた2009年3月27日、WWFは、気候ネットワーク、環境エネルギー政策研究所(ISEP)、地球環境と大気汚染を考える全国市民会議と共に、東京で記者会見を開き、ここまで行なわれてきた議論の問題を指摘。さらに、WWFインターナショナルのキム・カーステンセンが、温暖化問題に取り組む世界のNGOを代表してメッセージを読み上げました。

さらに、世界450のNGOが所属するCAN(気候変動ネットワーク)からは、麻生太郎首相あてに、書簡が送られ、社会全体が大きな転換期にある中、温暖化防止に取り組む上で、日本が今、国として何を重視すべきなのか、あらためて問い直しました。


合同記者発表資料 2009年3月27日

首相官邸の中期目標検討委員会のとりまとめに際し、環境NGOが一斉に批判

2009年3月27日午後、首相官邸の中期目標検討委員会(座長・福井俊彦 前日本銀行総裁)が開催され、これからの日本の温暖化対策の重要な道筋を描くものとなる中期目標についての複数の選択肢の再構築がなされ、発表された。
これについて、地球温暖化問題に取り組むNGOの代表が、気候行動ネットワーク(CAN)の麻生太郎首相宛の書簡*を携え、そろって共同緊急記者会見を開き、同検討委員会の検討状況について、厳しく批判するコメントを発表した。
主な指摘事項は、次の通り。

  1. CO2排出量を90年より増やすオプションや京都議定書の目標値よりも低いオプションが提案されており、日本としての低炭素社会づくりへの意欲が全く見られない。科学の要請に反し、国際交渉の足を引っ張るもので、後ろ向きの提案である。
  2. 対策費用ばかりが負担として強調されているが、対策をとらない場合の悪影響へ対応する費用との比較は全く考慮されていない。
  3. 温暖化対策によるエネルギー削減で得をする費用が、モデルによっては過小評価されている。
  4. 新たな温暖化対策費用追加による雇用創出効果、内需拡大の経済効果が全く考慮されていない。
  5. そ もそも温暖化防止のために何がどこまで必要なのかというバックキャスティングの発想で議論が行なわれていない。中期目標については、地球の平均気温上昇を 産業革命前に比べ、2℃よりはるかに低く抑えるため科学的に整合した野心的な削減目標(1990年比25~40%削減)を掲げるべきである。
  6. これまでの議論に市民社会の参加・関与が全く認められておらず、産業界の主張に偏った議論が行なわれている。今後のプロセスについては、市民・NGOの参加を確保すべきである。

記者会見出席者

浅岡美恵(気候ネットワーク 代表)
飯田哲也(環境エネルギー政策研究所(ISEP) 所長)
早川光俊(地球環境と大気汚染を考える全国市民会議専務理事)
樋口隆昌(WWFジャパン 事務局長)

【特別参加】シロベエ(MAKE the RULEキャンペーン実行委員長)


【関連資料】中期目標検討委員会の「複数の選択肢」へのコメント

2009年3月27日 WWFジャパン・気候変動プログラム

昨年の11月より開催されてきた中期目標検討委員会において、この度、日本の温室効果ガス排出量削減中期目標について「複数の選択肢」が示された。
WWF ジャパンは、2009年1月23日に本研究会の「仮分析」が示された後、本研究会における議論のあり方について懸念を表明する声明を2月10日に発表し た。しかし、その後に研究会で行なわれてきた議論や、今回「本分析」後に再構築された「複数の選択肢」を見ても、その懸念は解消されていない。
そこで、前回既に述べた懸念を含め、改めてWWFジャパンとして懸念するポイントを、以下コメントとして発表する。

気候変動の影響を最小とするために「必要とされる」削減量の達成を目指し、京都議定書から逆行するような選択肢は排除すべき

IPCCの第四次評価報告書では、気候変動による被害を最小限に抑えるシナリオを達成するためには、先進国は温室効果ガス排出量を2020年までに1990年比25~40%削減することが必要であると示されている。

中 期目標検討委員会での議論では、目標の実現可能性が重視されるあまり、この削減幅が軽視されてしまっている。無論、目標の実現可能性への配慮はされるべき であるが、中期目標を掲げる本来の意味を重視すべきである。それはすなわち、日本が、気候変動による被害を最小限に食い止めるための国際努力において、責 任ある役割を果たすことである。
したがって、日本が掲げる温室効果ガス排出量削減目標は、上述のIPCCが示した範囲と整合性を持った目標でなけ ればならない。この25~40%という範囲は、2007年のウィーンでの国連気候変動会議以降、続いての同年のバリ会議、そして昨年のポズナニ会議でも、 先進国が全体として掲げる目標についての、一つの重要な範囲であるとの認識が示されてきた。

上述の削減幅ですら、国連会議の議論の中では、気候変動の被害をすでに受けているツバル等からなる小島嶼国連合からは不十分であるとの認識が示されており、それらの国々は「少なくとも」40%の削減をするべきだとの声を挙げている。
ア メリカのオバマ政権が掲げている目標が「2020年までに1990年水準まで削減する」というものであるため、そもそもこの削減幅は達成が困難であるとい う声も挙がっている。たしかに、先進国の中で最も重要な排出国であるアメリカの目標が低ければ、先進国全体としての目標達成は困難になってしまう。
しかし、コペンハーゲンへ向けての国連交渉が本格化する現時点にあって、検討の選択肢の中から、アメリカのそうした立場を理由に「率先して」この削減幅を軽視するようでは、日本は今後の国際的な気候変動対策において先進的な役割を果たすことはできない。

提 示されている検討の選択肢の中には、この削減幅を明確に意識したものが少なく、中には1990年比で排出量を増加させる可能性を含む選択肢すら含まれてい る。「必要な削減量」は軽視する一方で、京都議定書の目標である-6%(仮に吸収源や京都メカニズムの役割を考慮したとしても-0.6%)から完全に逆行 するような目標が選択肢として検討されるという事実は、それ自身が日本の消極的態度を国際社会に対して示すものとして捉えられかねない。少なくとも、京都 議定書目標から逆行するような選択肢は明確に排除されるべきである。

対策のコストだけではなく、気候変動の影響によるコストも考慮すべき

中期目標検討委員会でのこれまでの議論では、対策コストの議論に重点がおかれる一方で、気候変動による日本への影響がどの程度になるのかという包括的な評価が行われていない。このため、対策の費用が強調される一方、対策をとらないことによる費用が極めて不明確である。
気 温の変化や海水温の変化が、農林水産業などの第一次産業に対して直接的な影響を与えることは、容易に想像がつく。また、気候の変化が四季の移ろいに影響を 与えたり、降雨量・降雪量に影響を与えたりすることで、観光業やレジャー産業にも影響が出てくることが予想される。さらには、海面上昇に備えての護岸工事 等によって、余分な公共工事費用がかさむことも予想される。こうした影響に加えて、日本が持つ豊かな生態系そのものに対する影響への懸念も高まってきてい る。

温暖化の影響が日本にどれだけ顕れてくるかという問題は、日本の中期目標だけで決まるわけではなく、他国における排出量削減の度合いも 当然影響してくる。しかし、日本が定める中期目標の水準は、同時に国際的な削減努力の水準を想定しながら決めていく以上、その決定は、日本として、間接的 にどのような水準の気候変動影響であればやむを得ないとするのかという判断を下したことになる。それは、上述のような形で現れてくる日本の影響だけでな く、世界の他の国々への影響についても同様である。その判断の過程で、対策をとるためのコストだけが検討され、影響が顕在化した場合のコストとの比較がな されていないことには、重大な欠陥がある。

英国で発表された「スターン・レポート」では、世界の気候変動の影響を包括的に試算した結果とし て、対策コストが世界GDPの約1%であるのに対し、悪影響へ対応するコストはGDPの5%から20%に達すると指摘された。日本においてもこのような包 括的な気候変動の経済報告を早急に発表し、悪影響への対応費用との比較も加えて、中期目標の検討を行なうべきである。

どれだけデメリットがあるかだけではなく、どのようなメリットがありえるかを検討すべき

現在の議論は、追加的な温暖化対策を行なうことでどのようなデメリット、たとえばGDPへの影響や失業率への影響がどれだけ出てくるのかということに重点が置かれている。
その一方で、対策を実施していくことによって、どのようなメリットがありえるのかという点が過小評価されている。メリットとして代表的なものは、以下である。
第 1は、エネルギー・コストの減少である。気候変動対策は、省エネという需要側の対策をとるにせよ、再生可能エネルギーの推進という供給側の対策をとるにせ よ、いずれのケースでも化石燃料の使用が減る。これは、単に個別企業においてエネルギー・コストの減少につながるというだけでなく、日本の化石燃料への依 存を減らし、エネルギー自給率を上げることにもつながる。

第2は、対策を推し進めることによる新規産業・新規雇用の創出と技術開発の可能性 である。2020年までの目標達成の努力は、2020年以降の日本の発展にもつながりうる新規産業や新規雇用の創出や、技術開発を促進する可能性が高い。 省エネルギーに関する機器やサービスの開発、そして再生可能エネルギー産業の育成などは、こうしたメリットが期待できる分野として有望である。
世 界的にみても、再生可能エネルギーの分野は新しい成長産業としての位置づけが明確になってきている。2007年~2008年の1年間だけでも、太陽光と風 力を合わせた市場規模は53%も成長しており(2008年時点で1159億ドル)、10年後にはさらにそれが2.8倍の規模まで拡大するという試算もあ る。そして、それは同時に大幅な雇用の増加にもつながると予測されている 。

こうした新規産業・新規雇用の創出を2020年のさらに先にかけて促進していくためにも、2020年の目標は重要な役割を果たすと考えられる。

現在の延長ではなく、新しい社会の構想を行なうべき

気候変動政策の分野だけに限らず、日本社会全体にとって、今は転換期に当たるといえる。
一 つは、昨年秋からの経済危機である。当初、日本への影響は大きくないとみられていたが、アメリカの危機が深刻化し、それが世界に波及するにつれ、日本にも 甚大な影響が発生してきた。今では、日本を代表する企業にまで影響はおよび、回復の見通しも立たない状況である。今回の経済危機は、日本の産業構造が持つ リスクを示し、このままでよいのかという議論を改めて巻き起こしている。

もう一つの転換点は、日本が人口減少に突入したということである。 日本の人口は、2005年から減少が始まっており、2020年ではまだ1億2千万人を維持するものの、2050年では1億人を切ると言われている。これ は、単に数字上の変化だけでなく、都市・地方におけるインフラのあり方など社会の根本的な見直しを迫る変化となりえる。

このように、日本が社会全体として転換期にあることをふまえ、2020年の中期目標は、その先を見越した社会の構想を含んだものでなければならない。
各 種モデル試算で使用されているモデルの多くは、パラメーターや産業構造のベースについて過去の構造から作られている。それ自体が問題であるわけではない が、そうしたモデルの特性から、これから2020年と、さらにその先の低炭素社会へ向けての構造変化を検討するには限界があることを踏まえることが重要で ある。
低炭素社会を構築していこうとする際には、あえて、大きな構造変化を前提とする検討も含めるべきである。

日本の国際社会における役割を認識すべき

2009 年末のコペンハーゲン合意を目指して、国連の気候変動に関する会議が加速して行なわれていく。その第1回が3月28日からドイツ・ボンで始まるが、27日 午後の事前会合において、世界がそれぞれの中期目標の発表を行なうことになっている。日本は、今回の中期目標検討の結果を持ち込むことになるが、世界が、 京都議定書の目標よりも低い選択肢も含む日本の発表をどう見るかが注目される。第2回の6月の気候変動の会合までに、日本はいよいよ自国の中期目標を決定 して発表することになっているが、世界の気候変動枠組み交渉の足を引っ張ることなく、リーダーシップを発揮できる選択とは何かを熟慮する必要がある。

1990年以降、日本は残念ながら、まだ温室効果ガス排出量を減少に向かわせることに成功していない。2013年以降の将来の枠組みにおいては、途上国に対して も、排出量の削減行動への協力を呼びかけていくことになるが、高度な技術力を誇る日本ですら、排出量を減少傾向に向かわせることが出来ていない中で、途上 国に対して大幅削減を訴えることはできない。

野心的な中期目標をかかげ、自らが率先してその達成を実現していくことによってしか、必要とさ れる削減の実施を他国に対して要求するすべはない。国際社会の中で先進国の一員である日本は、温室効果ガス排出量削減の「実践」において、明確なリーダー シップを示すことが求められているのである。
日本は、どれだけできない理由があるかをあげつらうのではなく、いかにすれば大幅削減を達成できるのかを検討し、世界に対して示していくことこそが、京都議定書のホスト国が、コペンハーゲンという次のステップへ向けての世界の前進に真に貢献するために必要な姿勢である。


合同記者発表資料 関連資料 2009年3月27日

CANインターナショナルを代表して
中期目標検討に関するNGO緊急共同記者会見にて キム・カーステンセンからのメッセージ

キム・カーステンセンと申します。本日はCAN(気候行動ネットワーク)インターナショナルを代表してお話させていただきます。CANインターナショナル は世界の約450の気候変動問題に関するNGOによるネットワークで、気候変動の危機に対して安全で、十全で、かつ公正な解決方法を提唱するために協力し ています。

年末のコペンハーゲン会議での気候変動対策に関する合意に向けて、UNFCCC(国連気候変動枠組み条約)による国際交渉が1 年以上にわたって続いています。気候変動の危険な影響を回避するためには、世界の温室効果ガス排出量がこの10年のうちにピークを迎え、その後は顕著に減 少する必要があります。

したがって私たちは、6月までに温室効果ガス削減の中期目標を策定しようとする日本の試みを高く評価しています。 しかし提案されている中期目標の選択肢には失望せざるを得ません。提案には、日本が批准した京都議定書の目標値よりもさらに低い選択肢が含まれています。 最新の科学的分析結果が示すように、京都議定書の目標値よりも後退することは絶対に許されません。

残念なのは、日本では「削減行動にはどれほど莫大な対策費用がかかるか」という観点からのみ、議論が行なわれていることです。これは、世界で最も裕福な国 の一つで、歴史的な排出責任を負う日本にとって正しい選択ではありません。はっきり申し上げます。日本はさらに削減することができますし、そうしなくては なりません。日本には、その技術力を駆使して、25~40%という削減幅のうち、より高い削減目標を掲げる義務があります。そうすることで日本はエネル ギー効率の高い技術から恩恵を得ることができますし、将来の低炭素社会をリードすることができるのです。

これらの点は、麻生太郎首相宛ての、気候変動に取り組む国際NGOによる共同意見書に盛り込まれています。意見書の目的は、現在の日本の議論に対する国際NGO全体の懸念を表明し、麻生首相にリーダーシップをとるよう、求めることです。

日本の仲間たちは現在、"MAKE the RULE Campaign(メイクザルール・キャンペーン)"を展開しています。世界的に繰り広げられているグローバルキャンペーンの一環として、国際NGO全体 が同キャンペーンを支持しています。気候変動の危機に対応するために野心的な中期削減目標を掲げることで、日本が世界の議論をリードすることを期待してい ます。

 私たち世界の市民社会は日本の動向を注視しています。まもなく始まるドイツのボン会議での、そして年末にはコペンハーゲン会議での日本のリーダーシップを楽しみにしています。


このメッセージのオリジナルはこちら

Kim Carstensen's message on behalf of CAN International on 27th March
My name is Kim Carstensen, I'm talking on behalf of CAN International, which is a network of roughly 450 nongovernmental organizations from around the world, working together to advocate for safe, sufficient, and equitable solutions to the climate crisis.

The international negotiation process under the UNFCCC has been underway for more than a year now, towards a global climate agreement in Copenhagen at the end of this year. In order to avoid dangerous climate impacts, the global emissions will need to peak within the next decade and decline sharply thereafter.

With this in mind, we welcome Japan's willingness to state its mid-term emission reduction target by June. However, we find the proposed target ranges to be quite disappointing. We note that the proposals include targets even weaker than Japan's current target under the Kyoto Protocol, which it has ratified. Based on the latest scientific findings, backing away from the Kyoto targets is totally out of the question.

We find it a shame that the discussion in Japan seems to be completely dominated by the perspective of how costly the reductions will be. This is not the right approach for one of the world's richest and most responsible countries. Simply put, Japan can do more and must do more. With all its technological capability and power, Japan must set its own target in the top end of the 25-40% reduction range. By doing so, Japan can benefit from its high energy efficient technologies and lead the coming low carbon society.

These points are included in our joint letter to Prime Minister Taro Aso, which we are sending to express the concerns of international NGOs on current debate and urge his leadership.

Our Japanese colleagues are running "MAKE the RULE Campaign" in Japan. It is fully supported by the international NGO community, and it is an integral part of the global climate campaign. We look forward to see Japan leading the discussion by showing that Japan is ready to take on an ambitious target to respond to the climate change challenge.

We in the global civil society are watching Japan closely. I look forward to seeing you soon in Bonn - and later, in Copenhagen.


グリーン・ニューディールと一体になった戦略アセスメントを!(2009年3月19日)

世界で注目されるグリーン・ニューディール政策。日本でも同様の政策の実現が望まれています。しかし、新たな産業の振興が、自然環境を損なうものであってはなりません。WWFはまだ日本で導入されていない「戦略的環境アセスメント」の早急な法制化を強く求めています。

グリーン・ニューディールの波

世界的な不況対策として各国で注目されているグリーン・ニューディール政策。
アメリカではオバマ大統領が、10年間に1,500億ドルを投じ、500万人の雇用を生み出す計画を表明しました。
これは、短期的な景気対策にとどまらず、再生可能なエネルギー産業を育成し、アメリカ再生の柱とするもので、「クリーンで再生可能なエネルギーの手綱を握る国が、21世紀を主導する」とするオバマ大統領の政治理念を形にしたものといえます。

日本でも、このグリーン・ニューディールの方針は強く意識されていますが、まだ実際の政策としては位置づけられておらず、早急な実現が望まれます。

政策を真に環境に配慮したものにするために

しかし、新たな産業の振興は、同時に自然環境を損なうことにもなりかねません。
たとえば日本でも、風力発電開発については、鳥が風力発電用の風車にぶつかる「バードストライク」や、風車の騒音、景観の阻害といった問題が指摘されていますが、これを解決するためには、事前の環境アセスメント(影響調査)が必要です。

しかし現在のところ、日本の法律では、このアセスの実施が義務付けられていません。NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が作成した「風力発電のための環境影響評価マニュアル」や、一部の自治体(4つの県、1つの政令都市)が設けた条例があるのみで、国としての指針はいまだに整っていません。

各国でグリーン・ニューディール政策が展開されるに際しては、このような事例について、「戦略的環境アセスメント(SEA)」の点検を受けることが求められますが、日本ではいまだに法制化されていないのが現状です。グリーン・ニューディール政策の立案とあわせ、戦略的環境アセスメント(SEA)の法制化を図ることが必要とされています。

戦略的環境アセスメントについて

戦略的環境アセスメントは、規模の大きな開発事業などが行なわれる際、その実施によって周辺の環境がどのような影響を被るか、評価を行なう制度。従来の「環境アセスメント(環境影響評価)」よりも、対象と実効の範囲が広く、日本では、国土交通省や経済産業省、農林水産省、防衛省、厚生労働省などが実施・監督する事業計画をも、その対象に含むものになることが想定される。
また、この環境影響評価は本来、事業が実施される以前、計画の段階で行なわれ、深刻な影響が懸念される場合は、事業者に対し、事業の取り消しを含めた、改善や対応を義務づける。

海外の戦略的環境アセスメントの導入状況は以下の通り

  • アメリカ:国家環境政策法(1969年)
  • カナダ:閣議決定(1990年)
  • オランダ:環境管理法(1987年、1999年)
  • EU加盟国:SEA指令に基づき25カ国が導入している(2007年1月末時点)
  • 中国、韓国、ベトナム、香港で導入(2005年12月末時点)。

記者発表資料 2009年3月19日

グリーン・ニューディールは"戦略アセス"の法制化と抱き合わせて立案を 立ち後れた我が国のアセスメント法の強化を

このところの世界的不況対策として、各国ともグリーン・ニューディール政策を打ち出している。欧米のみならず、東アジアの日本や中国、韓国も同様である。
米国ではオバマ大統領が、10年間に1,500億ドルを投じ、500万人の雇用を生み出す計画を表明している。短期的な景気対策にとどまらず、再生可能エ ネルギー分野を新たな産業として育成し、米国再生の柱としようとするものである。2月24日の米議会演説でも、オバマ大統領は「クリーンで再生可能なエネ ルギーの手綱を握る国が21世紀を主導すると分かっている"We know the country that harnesses the power of clean, renewable energy will lead the 21st century."」とまで述べている。石油という化石燃料に固執し、京都議定書にも背を向けていたブッシュ政権下の米国の方針転換としてまずは歓迎した い。

ひるがえって我が国は、同日のオバマ大統領の議会演説で、太陽光発電の生産においてドイツとともに一歩先をゆく国として言及されている が、実際には、政策的には不十分である。太陽光発電推進への後押しとして打ち出されているのは、我が国の場合、余剰電力の買い取りであり、ドイツのように 全量買い取りではない。普及に大きな弾みがつくようには制度設計がなされていない。

また、風力発電開発にしても、希少鳥類のバードストライ クや騒音、景観、設備の強風による倒壊などの問題と折り合うためには、事前のアセスメントが必須であるが、現行法では対象となっていない。NEDO(独立 行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)作成の「風力発電のための環境影響評価マニュアル」や一部自治体(4つの県、1つの政令都市)の条例にした がっているのが実情である。

現在、次期国会での上程に向けて、アセスメント法を改正するための「環境影響評価制度総合研究会」が環境省主催 で7回にわたり開かれている(7回目が18日にあったばかり、8回目は4月開催見込み)。ところが、極めてマイナーな改訂にとどまる方向であり、これでは "グリーン"の名の下に、環境破壊的な公共事業がおこなわれても歯止めがきかなくなるおそれがある。

これまでのアセスメント法は、その趣旨を活かして、我が国の各種事業を環境調和的なものに変えた場面はほとんどなく、"アワス(合わす)メント法"とまで揶揄されてきた。すでにある事業計画を追認するだけのものに終わっていたのが実情である。
そうしたなか、「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」が当時の環境影響評価課課長・課長補佐の尽力によって取りまとめられた(平成19年4月)。戦 略的環境アセスメント(SEA)は、早い段階からより広範な環境配慮を行うことができる仕組みとして待望されていたものである。しかしながら、那覇空港の 滑走路増設に際しての環境省意見提出(本年3月9日)が同ガイドラインの第1号案件であるように、いまだ端緒についたに過ぎない。本当に望まれているの は、ガイドラインから踏み込んで、正式に"法制化する"ことである。そうでなくては、効力が十分には期待できない。
各国の戦略的環境アセスメントは、欧米では、米国:国家環境政策法(1969年)、カナダ:閣議決定(1990年)、オランダ:環境管理法(1987年、 1999年)のほか、EU加盟国がSEA指令に基づき25カ国が導入している(平成19年1月末時点)。また、アジアでも、中国、韓国、ベトナム、香港で 導入されている(平成17年12月末時点)。

世界各国でグリーン・ニューディール政策が展開される際には、戦略的環境アセスメント (SEA)の点検を受けることになるが、いまだ法制化されていない我が国では心許ない。我が国でもグリーン・ニューディール政策を立案するのとあわせて、 戦略的環境アセスメント(SEA)の法制化を図ることが切望される。
なお、西尾哲茂環境省事務次官は平成20年5月27日の参議院・環境委員会において、当時、総合環境政策局長の立場で、「環境省の戦略的環境アセスメント 導入ガイドラインにおきましては、事業を行わない案、いわゆるゼロオプションにつきましては、これが適切な場合には代替案に含み得るものとしております」 と、事業が適切でない場合には実施しない選択肢もあると前向きな答弁をしている。

米国に典型的に見られるように、グリーン・ニューディール 政策は単なる景気対策ではなく、将来の国の在り方を決めるものとして進められている。オバマ大統領は3月3日、絶滅危惧種を保護する法律を所管する内務省 での演説で「科学的な評価を法の中心に据えて、生物保護を強化すべきだ」と述べた。これは Endangered Species Act of 1973(絶滅危惧種法)を弱めようとしたブッシュ政権に対して、反対の姿勢を表明したものであり、注目に値する。このような姿勢を持つがために、米国の グリーン・ニューディール政策に対して、今のところ一定の安心感がある。

我が国も早期に戦略的環境アセスメント(SEA)の法制化を図り、21世紀のグラインドデザインを描く中に、日本版グリーン・ニューディール政策を位置づけるべきである。海図なき後追い的施策では、よき国の舵取りにならない。
国民の将来への不安材料のなかには、年金や医療制度のみならず、環境の悪化が含まれている。これらの問題をどう解決しながら国作りをしていくのか。これが今、政府と政権党に問われている事項ではないだろうか。


温暖化防止に一世帯で105万円?経団連の意見広告に物申す!(2009年3月17日)

2009年3月17日、経団連をはじめとする業界団体は、各紙朝刊に「CO2を3%削減すると、一世帯あたり105万円かかる」という内容の意見広告を出しました。WWFジャパンは、この広告には表現や計算の方法に問題があり、コストの過大さを印象付けるものだとして、抗議する声明を発表しました。

コスト高を強調? 問題ありの意見広告

2009年3月17日、日本経済団体連合会を始めとする複数の業界団体が、新聞各紙の朝刊に「考えてみませんか?私たちみんなの負担額」と題した、意見広告を出しました。
その内容は、温暖化の主因とされている二酸化炭素の排出量を、日本が3%(1990年比)削減すると、一世帯あたり105万円のコストがかかる、というものです。

しかし、この広告には、表現や計算の方法に大きな問題が見られます。

「1世帯あたり105万円」は、2020年までの数字

これは日本が2020年までに、温室効果ガスの排出量を3%削減(1990年比で)すると52兆円かかる、という試算に基づいています。105万円という数字は、この52兆円を単純に世帯数で割ったものです。

つまり、52兆円という数字も、105万円という数字も、2020年までの累積の額であり、1年間の負担でみると、およそ7万円ということになります。この金額の表現の違いは、見る側の人に、大きく違った印象を与え、安易に負担の大きさを強調するものに他なりません。

本当に52兆円? それは一体誰が払う?

また、この根拠になっている、総額52兆円という数字も一つの試算に過ぎません。そもそも、この金額は市民だけでなく、政府や、今回の広告を出した企業を含めた業界が負担するもの。
しかも、その用途によっては、日本の内需拡大や、雇用増大につながる投資となるものです。

また、温暖化の防止が、お金がかかるだけでなく、コスト削減につながる点も、見落とされています。
広告で負担額とされている52兆円には、実際この省エネ効果などによって見込まれる、エネルギーのコスト削減分が含まれていません。
国立環境研究所の試算では、1990年比で4%削減したとしても、このコスト削減によって、日本全体では「負担」でなく「得」になるとしています。

日本は世界トップレベルの低炭素社会?

広告で強調されている「日本は世界トップレベルの低炭素社会です。」という一文も問題です。

広告左側のグラフを見ると、これは「GDPあたりのCO2排出量(2006年)」であり、「2000年の基準為替レート」を指標にしています。
しかし、このGDPあたりのCO2排出量は、指標の選びかたによって全く違った数字になります。たとえば、為替レートではなく、物価の違いを反映した購買力平価を指標にしてみると、日本とヨーロッパの間には、ほとんど差がなくなります。

日本は1990年当時は世界でも最先端の低炭素社会でしたが、今は他の国々に追いつかれてしまっているのが現状です。
また、仮に日本がある程度、低炭素社会の実現に成功しているとしても、地球温暖化問題の深刻さを考えれば、これで満足してよい理由にはなりません。

温暖化防止こそがコストの削減になる!

また、経済全体の未来を考えても、現時点でかかるコストばかりに目を奪われ、排出削減の努力を怠ることは、結果的にマイナスにつながります。
温暖化を放置した結果、進んでしまうさまざまな環境への悪影響に対処する費用は、現時点での取り組みに必要なコストの数倍にのぼると予測されているからです。

温暖化の経済分析「スターン・レビュー」によると、温暖化の予防と対策のため必要な費用は、世界全体のGDPの1%ですが、悪影響が起きてしまってから対処に必要な費用は、GDPの5%から20%にもなると予測しています。

21世紀後半には、4度上昇すると予測されている地球の平均気温。温暖化が進んだ結果おきる、海面の上昇や、頻発する異常気象は、経済や社会に甚大な被害をもたらし、日本にも計り知れない悪影響を及ぼすことになるでしょう。

しかし今すぐに、世界がその防止のために動けば、その深刻な被害を、なんとか軽度に抑えることが可能です。そのためには、京都議定書に続く2013年以降の温暖化対策のための約束を、全世界が協力して果たさなければなりません。

その約束とは、先進国は2020年までに1990年比で25~40%の排出削減を実現し、主要な途上国も大規模な排出削減努力を実現することです。

未来の世代のために

日本政府は6月に、「2020年までにどれだけ排出を削減するか」、その中期目標を発表することにしています。しかし、この広告は、発表される中期目標の達成には「コスト負担が大きすぎる」という、一方的で誤った認識を誘導するものです。

現在、京都議定書に続く、新たな削減のための約束を、世界の国々は交わそうとしています。その中で、各国が温暖化対策のコストを避けるため、ゆるい目標で合意を済ませようとするならば、未来の世代が、温暖化の悪影響を受け、対処のためのコストを強いられることになります。
今の世代の決断が、将来の地球の運命を決めるのです。

真に技術と経済力を誇る国というならば、日本にはその誇りにかけ、世界に率先して温室効果ガスの排出削減に取り組むべきでしょう。
WWFジャパンは、コスト負担が過大であるという認識にこだわり、温暖化対策を渋ることの危機を訴えていきます。

意見広告について

経団連他諸団体による意見広告についてのコメント

2009年3月17日 WWFジャパン・気候変動プログラム

2009年3月17日の朝刊各紙に、経団連やその他の業界団体によって「考えてみませんか?私たちみんなの負担額」という意見広告(以下「広告」)が掲載された。WWFジャパンは、同広告の説明は、国民に誤った印象を与えかねないとの危惧から、以下のコメントを発表する。

世帯への負担は105万円になるか?

広告では、エネルギー起源CO2排出量を2020年までに1990年比で3%削減する場合でも、各世帯への負担が105万円と表示されている。

この数字は、政府のエネルギー長期需給見通しにおいて、技術等を最大限導入して削減をはかる「最大導入ケース」を達成するために、今から2020年までにかかる費用の総額として示されている52兆円を、日本の現在の世帯数で割ることによって求めた数字である。

こうした数字の示し方には3つの大きな問題がある

1:52兆円は2020年までのコスト

1つ目は、この52兆円は、「今から2020年までに」かかる費用であるという点である。政府のエネルギー長期需給見通しは、2005年度を1つの基準としているので、2005年を「今」と考えれば、そこから2020年までの約15年間で負担される費用という意味合いになる。
したがって、単純に52兆円を15年で割れば、年間の費用は約3.5兆円である。これを、現状の世帯数である4900万世帯で仮に割ったとしたら、1世帯当たりの負担額は年間にして7万円強である。この数字は決して小さくはないが、「105万円」という金額から得るイメージとは明らかに異なる。また、後述するように、必ずしも家庭が直接に負担するわけではない。

2:負担は国民の世帯だけにかかるものではない

2つ目は、この52兆円という費用を誰が負担するのか、という点が明らかではないにもかかわらず、「一世帯当たり」で表現することによって、あたかも家庭が負担するかのように示唆している点である。

この52兆円には、企業が設備投資などで投じるお金も含み得るし、政府が補助金等で払うお金も含み得る。第一義的な費用負担は、一般の家庭ではない可能性が高い。特に、企業が負担する場合は注意が必要である。例えば、ある企業が省エネ設備を導入するために払う費用は、それを受注する側にとってみれば、新しい売上を意味するからである。

3:52兆円はあくまで一つの試算に過ぎない

3つ目は、この52兆円という試算自体、1つの試算にしかすぎないという点である。
たとえば、1月23日に開催された政府・中期目標検討委員会の第3回会合で示された国立環境研究所の試算をみると、全く違う可能性も示唆されている。同研究所の「AIMモデルによる分析-2020年排出量選択候補に関する検討- 日本:Enduseモデルの試算結果とCGEモデルにおける対応」という資料の28ページでは、政府のエネルギー長期需給見通しで想定されているのと同レベルの削減を前提とした「対策ケース1」と、それより一段上の削減を想定した「対策ケース2」の両方において、コストが相殺され、逆に便益が生じる可能性が示唆されている。
これは、仮分析という試算の段階を示したものであるので注意が必要だが、重要な点は、同研究所の試算では対策を行なうことで生じるエネルギー・コストの削減がきちんと考慮されている点である。つまり、対策は、導入時点では費用になるかもしれないが、結果として化石燃料使用量を減らすことにつながるのでエネルギー・コストの減少につながり、最終的には元がとれる可能性が高いという点である。加えて、化石燃料の輸入額の減少は、日本が海外にエネルギーを依存する度合いを下げるという利益ももたらす。

このように、「一世帯当たり105万円」という表現は、数字としては間違いではないものの、あたかも一般家庭が105万円ものお金を負担しなければならないような誤解を招く恐れがある。

日本は「世界トップレベルの低炭素社会」か?

広告では更に、日本が「世界トップレベルの低炭素社会」であることを主張している。仮にそうであったとしても、気候変動問題の重要性を鑑みれば、現状で満足してはいけないことは明らかである。

加えて、以下の点は留意が必要である。

日本の優位は失われつつある

図1は、広告で使用されているデータ元と同じ統計資料を使用して作成したグラフである。広告では、2006年という1年のみを比較しているが、このグラフでは、過去からの傾向を示している。

日本は、確かに、各国と比較してもGDP当たりのCO2排出量は低いが、他国の努力によって、その優位性は近年どんどん失われていることは傾向として明らかに分かる。

なお、このグラフからは、特に数字が大きいロシア、中国、インドは外してある。これらの国々を加えた形でグラフを見ると、その差が他の国々とあまりに大きいため、傾向が分かりにくいためである。ただし、これらの国々を加えたグラフも付録に掲載してある(図6)。また、このグラフでは、広告で比較されている国々に加えて、EU27国のうちの主要国(イギリス、ドイツ、フランス)についても参考までに示している。EU27は、その名の通り、27カ国の集合体であるので、比較の際には、個別の国がどうであるかということも見る必要がある。

指標によっては、日本はトップではない

図2は、広告で使用されているデータ元と同じ統計資料に載っている別のデータを用いて作成したグラフである。違いは、前のグラフは、各国のGDPを揃えるのに、2000年の為替レートを使用しているのに対し、こちらのグラフでは、2000年の購買力平価(PPP)を使用している点である。購買力平価は、たとえば同じ1ドルでも、物価等の違いによって国によっては買うことができるものが違うことに着目し、それを調整するための指標である。

前節と同じ理由から、このグラフからもロシア、中国は外してあるが、付録にはそれらを含めたグラフを掲載している(図7)。
この指標で揃えられたデータで見ると、そもそも日本はトップレベルではなく、傾向としても、他国に追いつかれる傾向にある。

2006年の段階だけを見た図3でも、日本がトップレベルではないということは、明らかである。

日本は、一人当たりの排出量で見れば必ずしも優秀ではない

図4と図5は、日本の国民一人当たりのCO2排出量を各国と比較した結果である。

中国やインドなどの途上国は、これで見ると、日本よりもはるかに小さい数字にとどまっており、先進国と途上国の差は歴然としてある。加えて、日本はアメリカ、オーストラリア、カナダと比べれば小さいが、その他の欧州諸国と比べた時には、格別に優秀であるというわけでもない。


記者発表資料 2009年3月17日

CO2排出削減対策に伴う負担増の意見広告「考えてみませんか? 私たちみんなの地球の負担を」(本日各紙朝刊掲載)に対するWWF声明

このまま温暖化が進むと、今世紀後半には地球の平均気温は4度上昇する(註1)と予測されています。その結果、海面が上昇、異常気象が頻発し、地球は大きな負担をおい、この日本にも計り知れない悪影響が起きることになります。
しかし今ならまだその被害を、なんとか許容できるレベルで留めることができるのです。そのためには、全世界が協力して、京都議定書に続く2013年以降の 温暖化対策の国際約束をしなければなりません。先進国には2020年までに1990年比で25~40%の排出削減が、そして主要な途上国にも大規模な排出 削減努力が求められています。

日本政府は、2020年の中期目標を6月に発表することにしています。
しかし、日本経済団体連合会を始めとする多数の業界団体が本日の各紙朝刊に掲載した、CO2排出削減対策に伴うコスト負担に関する「考えてみませんか?私 たちみんなの負担額」という意見広告は、中期目標達成の「コスト負担が過大になりすぎる」という誤った認識を誘導しています。

1. 日本の一世帯当たりの負担が105万円になる?

(広告では、90年比で3%削減するためには52兆円かかり、世帯数で割ると105万円になるとしている)

  • (ア) 52兆円は1年の負担額ではなく、今から2020年までの累積額である。総世帯数で割ると一世帯あたり1年間の負担はざっと7万円である。
  • (イ) 52兆円は、家庭だけが負担するものではない。国や企業を含めた負担額であり、国内で使われれば内需拡大、雇用増大につながる投資である。
  • (ウ) 52兆円には、省エネ効果で浮くエネルギーコスト削減分などは含まれていない。国立環境研究所の試算だと4%削減ケースでは、追加費用よりも、エネルギーコスト削減額の方が上回り、日本全体では「負担」でなく「得」になる(註2)。

2. 日本は世界トップレベルの低炭素社会? (添付資料参照)

  • (ア) 1990年にはそうであったが、今は追いつかれてしまっている。
  • (イ) GDPあたりのCO2排出量は、指標の選択によっては全く違った数字になる。為替レートではなく、物価の違いを反映する購買力平価で見ると、日本はほぼヨーロッパと同じであり、決してトップレベルというわけではない。
  • (ウ) 一人当たり排出量では、途上国と大きな差がある。

3. 排出削減の努力をコストが高いからと敬遠しても、温暖化を放置した結果進んでしまう悪影響に対処する費用は、その数倍にのぼると予測される。

温暖化の経済分析・スターンレビューによると、世界全体で対策費用は世界GDPの1%だが、悪影響に対処する費用は、GDPの5%から20%もかかってくると予測されている。(註3)

今は、京都議定書に続く次の国際約束を決める大事なときです。今私たちの世代が決断することが、将来の地球の運命を決めるのです。温暖化対策のコストを避けるために緩い目標で済ませるというなら、温暖化の悪影響のコストはいったい誰が負担するのでしょうか?

WWFジャパンは訴えます。大事なのは、地球環境の存続です。その地球の将来がかかった決断の時期に、コスト負担が過大であるという誤った認識を広めて、温暖化対策を渋るのは、誰ですか?

1)IPCC第4次評価報告書第1作業部会
2)国立環境研究所:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai03tyuuki/siryou2-2_1.pdf
3)スターンレビュー(気候変動の経済学、ニコラス・スターン、2006)
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=9176&hou_id=8046


中期目標の選択肢について声明を発表(2009年2月10日)

現在検討されている、2020年までの中期的な日本の温室効果ガス排出削減目標案。WWFは、この中期目標の設定が、日本が今後どのような道筋で低炭素社会をめざしていくかを世界に示す、重要なプロセスであり、国内の気候変動政策の方向性を事実上決定付けるものとして注目し、声明を発表しました。

日本の気候変動政策のカギ!

現在、首相官邸の中期目標検討委員会では、2020年までの中期的な日本の温室効果ガス排出削減目標を検討しています。
この目標は、京都議定書に続く、新たな合意の削減目標にもつながる、日本の温暖化対策として重要な目標です。またこれは、日本が先進国としての責任を果たしていくことを国際社会に示し、途上国の時期枠組みへの積極的な参加を促すためにも、きわめて大きな意味を持ちます。

現在、中期目標検討委員会では、1990年時点の排出比で、温室効果ガスの排出量を、5%増~25%削減という範囲で、6つの案を検討しているとされています。
しかし、この数字では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、「温暖化の危険な影響を回避するために必要だ」として指摘した、「先進国全体が、2020年までに温室効果ガス排出量を1990年比で25~40%の削減」に届きません。

WWFジャパンは、中期目標検討委員会において行なわれている議論を、今後の日本の気候変動政策の方向性を事実上規定する重要な議論として注目し、声明をとりまとめ、発表しました。

声明のポイント

  1. 日本の「選択肢」は、先進国の削減幅25~40%削減に呼応した範囲内に限るべき
  2. 「選択肢」は、京都メカニズムや吸収源を除いて、国内の削減目標として提示すべき
  3. 具体的な選択肢のコストから見た検討の際には、以下の個別論点を考慮すべき
    1. 対策をとらなかった場合のコスト
    2. 対策による各種ベネフィットの考慮
    3. コスト想定の見直し

世界は今、アメリカにおけるオバマ政権の誕生で、低炭素社会へ向かう舵を切ろうとしています。この世界の潮流の中で、温暖化への対策と、エネルギーの希少性を考慮した新しい産業の育成に取り組まなければ、日本の産業力は低下することになるでしょう。
中期目標の設定は、日本が今後どのような道筋で低炭素社会をめざしていくかを世界に示す、重要なプロセスです。科学的な判断を尊重し、日本が国際社会で責任をきちんと果たしながら、低炭素型の経済発展を実現することを、WWFは求めています。

記者発表資料 および声明 2009年2月10日

中期目標検討委員会の中期目標選択肢に関する声明を発表 日本は温室効果ガスの野心的な削減目標を掲げるべき

WWFジャパンは「中期目標検討委員会」(座長・福 井俊彦前日銀総裁)における、国の温室効果ガス削減の中期目標検討案に関する議論を、今後の日本の気候変動施策の方向性を事実上規定する、重要な議論と考 えています。先頃の報道によれば、同委員会による中期目標検討案が、1990年比5%増(もしくは7%増)~25%削減までの6つに絞られたとありまし た。しかし、それらは、日本の国際社会での責任を踏まえたものとは言えず、本日、添付の声明を発表しました。

中期目標の設定は、日本が今後 どのような道筋をとって低炭素社会をめざしていくかを、世界から問われているといっても過言ではありません。科学の要請を踏まえて、日本が国際責任をきち んと果たしながら、低炭素型の経済発展を示すことが、今最も求められています。現状をむしろ機会としてとらえ、最終的な選択肢は決定されていくべきです。 ぜひ添付の声明をご高覧いただき、取材くだされば幸いです。

なお、本声明は「中期目標検討委員会」および「地球温暖化問題に関する懇談会」の各委員に宛て、本日郵送いたしました。

声明の要点

1.日本の「選択肢」は、先進国の削減幅25~40%削減に呼応した範囲内に限るべき

  • 「検討の」選択肢自体から、この範囲の上限である40%が排除されていることは、日本が気候変動の国際交渉において世界をリードしていく意欲が欠落しているともとられかねない。
  • 1990年比で排出増になるような選択肢の検討は、それ自体が日本の国際社会での責任を軽視するものであり、コペンハーゲンでの建設的な合意の妨げになる恐れがある。

2.「選択肢」は、京都メカニズムや吸収源を除いて、国内の削減目標として提示すべき

  • IPCC第四次評価報告書における「25~40%」という削減量は、そもそも、国内での排出量削減を想定し、吸収源も考慮していないため、選択肢の検討にあたっても、この想定と整合をとることが必要。

3.対策のコストだけではなく、対策をとらなかった場合のコスト、対策により生じ得るベネフィットなどを考慮すべき


中期目標検討委員会の中期目標選択肢に関する声明

WWF ジャパンは、中期目標検討委員会において行われている議論を、今後の日本の気候変動政策の方向性を事実上規定する重要な議論として、注目しています。国際 的なネットワークを持つNGOとして、昨今の中期目標検討委員会での議論に関して、以下の声明をとりまとめました。
なお、各研究機関の仮分析に関する個別の留意点を付属としてつけてあります。

1. 日本の「選択肢」は、先進国の削減幅25~40%削減に呼応した範囲内に限るべき

先頃、一部メディアにおきまして、中期目標の検討案が6つに絞られたとの報道がありました。報道によれば、2020年の中期目標検討の選択肢が、1990年比5%増(もしくは7%増)~25%削減(温室効果ガス排出量)までの範囲で、計6つの案に絞られたとあります。

IPCC第四次評価報告書では、気候変動による被害を最小限に食い止めるための排出削減シナリオを達成するには、先進国全体として、2020年までに温室効果ガス排出量を1990年比25~40%削減することが必要であることが述べられています。

こ の数字は先進国全体についての数字であるため、個々の先進国の削減目標値には幅がありえるものの、「検討の」選択肢自体から、この範囲の上限である40% が排除されていることは、日本が気候変動の国際交渉において世界をリードしていく意欲が欠落しているともとられかねません。

国連交渉においては、小島嶼国などから、上述の削減幅ですら不十分であるとの声が挙がっていることや、日本が果たすべき国際的な責任を踏まえ、少なくとも検討の選択肢と しては、40%が考慮されるべきであると私どもは考えます。逆に、1990年比で排出増になるような選択肢の検討は、それ自体が日本の国際社会での責任を 軽視するものであり、コペンハーゲンでの建設的な合意の妨げになる恐れがあります。少なくとも京都議定書の目標よりも上乗せしたものでなければ、国際的に 受け入れられません。

2. 「選択肢」は、京都メカニズムや吸収源を除いて、国内の削減目標として提示すべき

今後、各選択肢を検討していく際には、将来の京都メカニズムや吸収源の扱いを明確にして議論をする必要があります。そもそも、上述のIPCC第四次評価報告書における「25~40%」という削減量は、国内での排出量削減を想定し、吸収源も考慮していません。
このため、選択肢の検討にあたっても、この想定と整合をとることが必要です。現状では、国連交渉において将来の京都メカニズムのあり方や吸収源の扱いが決 定していないことも踏まえ、「40%削減」に近い選択肢を検討する場合を除き、各選択肢は「国内の」排出量削減目標として検討すべきです。京都メカニズム 等の利用を通じた海外での削減や吸収源の利用を想定する場合は、目標をその想定利用分だけ上乗せして検討をすることが必要です。

3. 具体的な選択肢のコストから見た検討の際には、以下の個別論点を考慮すべき

  • 対策をとらなかった場合のコスト:仮 分析における検討では、対策をとらなかった場合のコストが考慮されていません。「検討の流れ」(第3回中期目標検討委員会・資料1)においては、本分析の ための複数の選択肢を絞り込んだ後に、対策をとらない場合のコストを分析する旨が記載されていますが、そもそも仮分析の段階でこれが行われていないことが 問題です。正確な算定は現時点では難しいとしても、日本における温暖化影響としてどのようなことが考えられ、それらがどのような損失をもたらすのかを検討 すべきです。その際、特に、取り返しのつかない損失(不可逆的な損失)が起こり得る場合は注意すべきです。現状のように、石炭の利用を安易に拡大し続けて いくと、温暖化の促進により将来莫大な対策コストが降り掛かってくることを考慮すべきです。
  • 対策による各種ベネフィットの考慮:現 時点での仮分析では、対策を行なうことによるコスト(費用)が強調されていますが、対策を行なうことで生じ得る各種ベネフィット(利益)も考慮にいれるべ きです。たとえば、エネルギー費用減少(化石燃料輸入額減)による利益、新規産業の育成による雇用増加や輸出額の増加なども、ベネフィットとしては想定し えます。正確な推計が難しい場合でも、最低限、どのようなベネフィットがありえるのかを検討することが必要でしょう。
  • コスト想定:技 術に関するコストでは、学習曲線やスケールメリットによるコスト低減の可能性も検討するべきです。日本は世界トップレベルの環境技術を有していますが、こ れまで十分な政策が不在であったため、実運用面に関わる技術的知見が不足している面が散見されます。例えば再生可能エネルギーに関しては、固定価格買取制 度などの適切な政策によって導入が加速されれば、実践の中で知見不足が解消され、更なる技術革新が進み大きなコスト削減をもたらす可能性があります。

現 時点での議論の傾向から、中期目標検討委員会では、各選択肢のコストや経済的影響に重点がおかれて検討されていくものと予想されます。しかし、コストの検 討は、上記の論点を考慮に入れた上で、さらに、長期的にグローバルな視点で見るべきです。エネルギー逼迫時代を迎え、世界の温暖化対策をリードするEUに 加えて、オバマ政権率いるアメリカの誕生で、世界は低炭素社会へ向かう舵を切ったといえるでしょう。この世界の潮流にあって、新規産業育成への舵取りをあ やまることは、日本の産業力低下につながるものです。温暖化対策の費用は、単なる費用ではなく、国内対策に使われる場合には、内需拡大のための支出であ り、来るべき低炭素社会を長期的に構築する基礎となります。
中期目標の設定は、日本が今後どのような道筋をとって低炭素社会をめざしていくかを、世界から問われているといっても過言ではありません。科学の要請を踏 まえて、日本が国際責任をきちんと果たしながら、低炭素型の経済発展を示すことが、今もっとも求められているのです。現状をむしろ機会としてとらえ、最終 的な選択肢は決定されていくべきと考えます。

各研究機関の仮分析に関する個別留意点

以下の諸点は、2009年1月23日の会合(第3回中期目標検討委員会)で配布された各研究機関の「仮分析」の内容を基にしています。

地球環境産業技術研究機構(RITE)

  • 図 4の一次エネルギー供給量、図5の発電電力量においては共に、各ケースとも再生可能エネルギーの割合が極めて低いという分析が示されています。図3の部門 別排出量において、限界削減費用が200~300ドルを超えたあたりから、再生可能エネルギーの普及が進んでいることを踏まえると、これはおそらく、再生 可能エネルギーのコストが高く設定されているためと考えます。再生可能エネルギー自体の物理的な潜在量にはまだまだ伸びる余地があることを踏まえ、仮に、 このコストが政策措置等によって大きく引き下げられたケースについても検討がされるべきです。

日本エネルギー経済研究所(IEEJ)

  • 「最 大導入ケース」達成時のコストとしての52兆円や、追加的に1%削減するためのコストとしての追加50兆円(計100兆円)、18%削減/25%削減を達 成するためのコストとしての230兆円/380兆円などが特に発表資料では強調されています。これらのコストは、資料ではGDPの○○%という形で示され ていますが、これは年間のGDPに対して2009~2020年までに必要なコストを比較したパーセンテージを表示しているのでしょうか。もしそうだとすれ ば、この示し方には誤解を招く問題があります。
  • 「1%追加削減の可能性検討」(同研究所・資料5頁)において、太陽光発電や風力発電な ど単一の施策のみを用いて削減値を1%増やす場合に要する莫大なコストが強調されています。しかし、実際に1%を追加的に削減する場合は、ここで取り上げ られている特定の施策以外のものも含め、実現性や費用対効果などを考慮した上で、優先度の高いものから実施されていくと考えられます。このため、特定の単 一施策を引き伸ばすことによるコストだけを示すのは、誤解を与える可能性があります。あくまで、総合的な削減対策の中で、追加コストがいくらになるかを検 討すべきです。

国立環境研究所(NIES)

  • AIM/Enduse[Japan] モデルにおける分析では、一部、化石燃料輸入額減少によって対策に必要なコストが相殺され、対策ケースI(8%削減)および対策ケースII(15%削減) では、コストがマイナスになる可能性が示されています。こうした可能性については、上述のベネフィットを考慮する観点から、化石燃料価格の変動に関する感 度分析も含め、より詳細な算定が行われるべきです。

「低炭素社会づくり行動計画」に物申す(2008年7月30日)

2008年7月29日、日本政府は地球温暖化の防止に向けた「低炭素社会づくり行動計画」が閣議決定されました。これは、6月に発表された「福田ビジョン」や「地球温暖化問題に関する懇談会」の提言報告書の内容を実現するためのものです。しかしこの計画には、明確なCO2(二酸化炭素)の排出削減に向けた中期目標が欠けていたり、策定にあたって一般からの意見が全く募集されないなど、懸念される点が見受けられます。

発表された「低炭素社会づくり行動計画」

2008年7月29日、日本政府は地球温暖化の防止に向けた「低炭素社会づくり行動計画」を閣議決定しました。

これは、6月9日の「福田ビジョン」および19日に発表された「地球温暖化問題に関する懇談会」の提言報告書にまとめられた内容を実現するための計画です。

温暖化防止を具体的に進めようとするこの政府の姿勢は、評価に値するものといえます。しかし、その対象期間や、京都議定書の目標達成計画との関係もはっきりしないなど、行動計画自体には懸念される点も見受けられます。

個別の技術対策や施策を並べただけ! 中期目標も無し

そもそも、「低炭素社会づくり行動計画」は本来、日本が低炭素社会を作っていくための、大きな視野を備えたものでなければなりません。
しかし、計画の内容の多くは、他国の動向や、排出削減のための技術や施策の羅列で占められており、「いつまでに、何を、どのような方法で実現するか」といった、より重要な排出削減のための中期目標などは明記されませんでした。
中期目標については最近、南アフリカのように途上国の側からも目標を明らかにする国も出てきており、先進国である日本としては、率先して中期目標を掲げて世界に先駆け、前向きな姿勢を明らかにすることが望まれています。

計画作成に国民の参加なし

また、この国民全体の生活に影響を及ぼす行動計画が作成される過程において、国民の意見を聞く機会が全く設けられなかったことも、大きな問題です。
計画は、わずか1カ月半という極めて短い期間にとりまとめられましたが、その内容が示す通り、国民一人一人の取り組みが必要であるならば、議論を公開し、国民からの意見も集めるべきであったといえます。

さらに、計画に明記されている、日本の温暖化対策として有力な政策である「排出量取引制度」の試行についても、不十分な点が見受けられます。従来と同じように、参加企業などの自主行動計画に大きく依存する傾向が強く、温暖化の防止にどれくらい貢献したのか、検証できない可能性があるためです。

WWFは7月30日、今回の「低炭素社会づくり行動計画」を受けて声明を発表。三つの大きな問題点を指摘し、日本で低炭素社会を実現するため、より開かれた「実行計画」の実現を求めました。


声明 2008年7月30日

低炭素社会へ向けて、より開かれた「実行計画」を

昨日、日本政府は「低炭素社会づくり行動計画」(以下、行動計画)を閣議 決定した。この行動計画は、先頃発表された「福田ビジョン」(6月9日)および「地球温暖化問題に関する懇談会」提言報告書(6月19日)を具体的に実施 に移すための計画という位置付けになっている。ビジョンを展望のままで終わらせずに、気候変動対策を前に進めようという姿勢自体は歓迎したいが、今回の行 動計画に対し、大きく以下の3点について、WWFジャパンは大きな懸念を抱いている。

1.作成プロセスが極めて不透明

行動計 画は、福田ビジョンおよび懇談会報告書が発表されてから、わずか1ヶ月半という極めて短い期間にとりまとめられた。その対象期間や、京都議定書目標達成計 画との関係・位置付も不明だが、福田ビジョンの実現を目指すのであれば、2050年までを見据えた計画となる。長期を見据え、かつ国民全体に影響を及ぼす 計画であるにもかかわらず、作成プロセスにおいて国民の意見を聞く機会もなければ公開すらされず閣議決定まで至ったことは、議論の透明性に大きな問題があ ると言わねばならない。行動計画が示す通り、国民一人一人の取り組みが必要であるなら、なおさら、議論のプロセスを公開し、国民からの意見も集めるべきで あった。

2.行動計画にある「排出量取引制度の試行」では同制度の環境保全効果を検証できない

今後、日本を低炭素社会へ変革 していくための有力な政策である「排出量取引制度」の試行の概要とスケジュールが示されている。ここには「参加企業等が排出量や原単位についての目標を設 定」し、本年10月からの試行開始とあり、実質的には、自主行動計画をベースとし、環境省・自主参加型排出量取引制度、経済産業省・国内クレジット制度を 組み合わせた内容となることが予想される。しかし、現状の自主行動計画をベースとするのでは、キャップ&トレード型の排出量取引制度の試行とはいえず、排 出量取引制度が持つ環境保全効果を十分に検証できない可能性がある。クレジットの扱いなど、実務的面では有用な知見が得られるかもしれないが、ノウハウの 蓄積が不可欠であるキャップ設定・排出枠配分などの知見は限定されると考えられる。9月中に予定される制度設計の議論では、その点を踏まえ、環境保全効果 の高い排出量取引制度の設計につながる議論が望まれる。また、そのプロセスをできる限り公開し、国民の意見を集めるべきである。

3.中期目標を明示せずに、個別の技術対策・施策を羅列

行 動計画の全体構成にも問題がある。本来、日本が低炭素社会を作っていくためのステップを示すべきであるにもかかわらず、他国の動向や、個別の技術・施策に 重点が置かれすぎている。即ち、目標(中期排出削減目標)が欠けている上に、達成方策(個別の技術・施策)だけが羅列され、さらに方策を実施するための 「仕組み」も明記されていない。たとえば、再生可能エネルギーの支援については、その個別技術の支援もさりながら、固定価格買取制度のような仕組み作りに 重点がおかれるべきである。
途上国の側から、南アフリカのように中期目標を示している国が出てくる中、日本としてももはや議論をこれ以上遅らせるべきではない。


地球温暖化を緩和する道は? 問われる日本の政策(2007年5月25日)

2007年5月、タイのバンコクでIPCC(気候変動に関する政府間パネル)により、地球温暖化の影響を食い止めるための道筋を示した報告書が採択されました。深刻化する温暖化の現状が次々と明らかになる一方で、日本はどのような取り組みを目指すべきなのでしょうか?

2050年までに排出量を半分に!

2007年に入り、気候変動問題に関する諸問題を評価・研究する組織であるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の3つの作業部会から、相次いで第4次評価報告書が発表されました。 温暖化が進んでいる「根拠」を示した第1作業部会報告書、その「影響」を明らかにした第2作業部会報告書に続き、5月4日に公開された第3作業部会報告書で、IPCCは温暖化への「対策」をまとめました。

これらの報告書では、今すぐ温室効果ガス排出量の削減に取り組みはじめれば、2015年までに排出は減少傾向に転じること、そして、2050年までに現在の排出量の半分まで削減ができれば、地球温暖化の脅威を防ぐことは可能であることが示されています。これを実現させるためには、2008年から始まる京都議定書の第1約束期間を第一歩とし、その後も、大幅な排出削減を実現していくことが必要になります。

ところが一方で、カナダは4月末に、京都議定書で定められた温室効果ガス削減目標を達成できないことを明らかにしました。先進国のこうした態度は、気候変動の被害を最も受けている途上国の不信を招き、第1約束期間が終了した後の2013年以降の地球規模の取り組みを難しくするものです。

日本は脱温暖化社会に転換できるか?

日本では現在、経済産業省と環境省による合同審議会で「京都議定書目標達成計画(以下「目達計画」)」の見直しが行なわれています。
しかし4月中旬にまとめられた「論点整理」では、日本全体の排出量が2005年度で基準年より8.1%も増大しているにもかかわらず、今の「目達計画」の延長線上での追加対策しか検討されていません。

カナダ同様、日本も京都議定書の目標である-6%の達成は、はなはだ危うく、委員の中には、京都議定書の目標を達成しない可能性を語る人も出始めています。 政府や産業界の、温暖化問題に対する危機感、責任感は極めて希薄であり、また温暖化を引き起こし、すでに世界中の多くの人々や生態系に被害を与えているという意識が低いといわざるを得ません。

最大の問題は、エネルギー・産業部門が日本の温室効果ガス排出量の64%を占めているにもかかわらず、この部門への対策が、日本経団連の「自主行動計画」に全面的に依存していることです。

この 「自主行動計画」には、排出量の削減目標が業界単位で定められていますが、企業単位での目標は設定されていません。各企業の削減目標は明らかにされていないばかりか、「計画」としての削減目標が達成できなかった場合も、その責任の所在が決められていないのです。

さらに、ほとんどの業界が、排出量の総量規制ではなく「原単位(生産量や売上高あたりのCO2排出量あるいはエネルギー消費量)」目標を選択しているため、全体の削減量は保証されていません。

排出量が急速に伸びているオフィスビル・店舗・家庭などの民生部門、運輸部門が最大の問題、という点ばかりが、業界によって強調されているにもかかわらず、これらの部門に対して、削減をするとこれだけ得をするというような政策の導入が検討されていないことも大きな問題です。

今求められている対策

今、地球温暖化対策に必要とされる抜本的な政策は、CO2排出に値段をつけ、削減することがメリットとなるような経済的仕組みを作ることです。

WWFは大規模排出者には、排出枠を売買する国内排出量取引制度を、その他の部門には排出に応じて支払う炭素税や、中小事業者がエネルギー効率の良い設備を導入することで、削減できた排出分を売ることのできる制度を組み合わせたポリシーミックスなど、経済的手法を導入すべきだと主張しています。

そのためにはまず、日本が国としてどのくらい削減する意思があるのかを示す、2050年、2030年の中長期目標を持つことが欠かせません。そして、そのような制度を導入する政治を、国民が自ら求め、作ってゆくことが必要です。
いよいよ近づいてきた参議院選挙においても、温暖化問題について、候補者や政党がどのような理解と主張、具体的な提案を持っているか、投票の際の判断材料にしてゆくことが、日本を脱温暖化社会へと転換させるために個人ができる一つの重要な行動になるでしょう。 

関連資料

  日本の産業界に、これ以上のCO2排出削減の余地があるかを考察した資料はこちら。

   ▼「乾いた雑巾は本当か」(PDF形式:858kb) 

   ▼「乾いた雑巾は本当か(参考資料)」(PDF形式:1.3Mb)

   (WWFジャパン/気候ネットワーク作成 2007年5月16日)


環境NGO合同声明 2007年5月25日

中・長期目標のもとに、抜本的な政策導入で京都議定書目標達成を!

環境エネルギー政策研究所(ISEP)

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
グリーンピース・ジャパン
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)
CAN JAPAN
FoE Japan
(財)世界自然保護基金(WWF)ジャパン

私たち環境NGOは、日本政府に対し、今行われている「京都議定書目標達成計画(以下「目達計画」)」の見直し方では京都議定書の目標が達成できないことを指摘せざるを得ない。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次評価報告書は、地球温暖化が加速的に進行しており、予想されるその影響が極めて深刻であることを明らかに している。しかし、来年から始まる京都議定書を第一歩とし、その後さらに温室効果ガスの大幅削減を続け、2015年までに世界全体の排出を減少方向へ転 じ、2050年までに2000年レベルから50-85%まで削減ができれば、地球温暖化の脅威を防ぐことが可能となることを示した。政府は、日本における 2030年・2050年の中・長期の削減目標を定め、国民に明確なメッセージを発するとともに、産業界に対してリーダーシップを発揮する責任がある。

日本政府は、京都議定書が1997年に採択されて以来、「地球温暖化対策推進大綱」(1998年)、改正「地球温暖化対策推進大綱」(2002年)、「京 都議定書目標達成計画」(2005年)と対策を進めてきたが、その内容はほとんど既存の施策の寄せ集めに過ぎず、10年一日のごとく自主的な取り組みと啓 発中心で、排出削減を担保する政策と呼べるものはほとんど取り入れられてこなかった。そのことは2005年段階で、90年比で温室効果ガス排出量が 8.1%増えてしまったことで明らかである。にもかかわらず、4月半ばにまとめられた、環境省と経済産業省の審議会合同会議における「目達計画」の見直し についての「排出量および取り組みの状況等に関する論点整理」(案)では、相変わらず、経団連の自主行動計画を中心とし、国民運動を広げるという現「目達 計画」の延長線上での「追加」対策しか検討されていない。今回の見直しで、削減量が担保できる新しい強固な政策が導入されなければ、京都議定書の約束を守 れる道筋は見えてこない。

最大の問題は、最も排出量の多いエネルギー転換部門と産業部門が、直接排出では日本のCO2排出量の64%を占 めているにもかかわらず、日本経団連の「自主行動計画」に全面的に依存していることである。「自主行動計画」で掲げられている自主目標とは、目標指標もそ の目標数値も業界が任意に設定したものであり、多くの業界が原単位目標しか設定していない。そのため、生産量や売上高が増加すると、総量としての削減が担 保されない。
日本の産業部門は「乾いた雑巾」で、これ以上削減の余地がない、と主張している。しかし、産業部門における燃料構成を石炭からバイオマス混焼やCO2排出 の少ない燃料へ転換したり、個々の工場や事業所の効率を、最も効率の良い工場などに合わせるような投資を行い、効率の悪い工場や事業所をなくすことによ り、まだまだ削減の余地は充分ある。
排出量が増加しているオフィスビル・店舗などの民生業務部門や民生家庭部門、運輸部門での削減のためには、活動量の伸びとその背景の分析に基づく削減を促 すインセンティブのある仕組みを設けたり、石炭から原子力以外のCO2の少ない燃料や自然エネルギーなどへのエネルギー源の転換により、電力の排出原単位 を改善することが不可欠である。排出量の基準年からの増加だけを強調し、「国民運動」という表現のもとにライフスタイルの変革を求めるあいまいな対策に終 始してはならない。

6%削減のためには、今回の見直しで、実効性のある国内政策の導入が必須である。まずCO2排出に価格をつけ、削減した人が得をするような経済的仕組みを作ることである。
それは、全ての主体・部門にCO2排出に応じて支払う炭素税、大規模排出部門に排出の上限を設けた国内排出量取引制度、中小事業者に効率の良い設備導入等 を促進する制度、建築物の省エネ基準の強制化や「エネルギー効率コミットメント」(EEC)のような既存建物の省エネ改修を促す制度の導入などである。
また、自然エネルギー導入促進を省エネルギーとともに温暖化対策の2大柱とし、大胆なエネルギー政策転換を行うべきである。
国内での排出削減によって京都議定書の目標達成をはかることは、長期的には今後必要となる大幅削減に向けて、社会経済構造を変革し、日本を脱温暖化社会へと導くことになる。

 産業界は、今なお、京都議定書は不平等条約だと批判し、京都議定書の「総量削減」に強く抵抗している。また、2013年以降の国際的取組の枠組みについ て、京都議定書とはまったく異なる制度や、総量削減ではなく、原単位目標などを主張している。こうした主張は、地球温暖化の深刻な影響や緊急性に対する認 識が極めて希薄といわざるを得ない。

京都議定書の最初の約束を確実に実行することが、ささやかであっても重要な一歩である。私たちは、日本政府や産業界に対し、経済効率的で、抜本的な新しい国内政策の導入を強く求める。それなくして、日本政府が来年のG8で、議長国としての役割を果たすことはありえない。

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