「黄海エコリージョン支援プロジェクト・エクスチェンジフォーラム」を開催


2012年11月28日~29日、中国の上海市で、「黄海エコリージョン支援プロジェクト・エクスチェンジフォーラム」を開催しました。中国、韓国、日本から、黄海の生物多様性保全に関わる人たちが集まり、黄海沿岸域を、より持続的な形で利用し、効果的に保全していくための取り組みについて、成果を発表し、意見を交換しました。その様子をご報告します。

3年目となるエクスチェンジフォーラム

中国と朝鮮半島に囲まれた黄海は、太平洋・インド洋を代表する大陸棚を持った、豊富な漁業資源に恵まれた漁場であり、日本もそこに産する多くの水産物を輸入しています。WWFは、この黄海および渤海を含めた海域を「黄海エコリージョン」として、その保全をめざす「黄海エコリージョン支援プロジェクト」に取り組んでいます。

このプロジェクトは、日本、中国、韓国の三つの国のNGOと研究機関と企業、そして沿岸域それぞれの地域の自治体や研究者、教育関係者などが協力し、海の環境保全と、その持続可能な利用をめざす取り組みです。2009年からは、取り組みを推進するため関係者が定期的に集まり、意見交換を行なう「エクスチェンジフォーラム」が毎年開催しています。

2009年および2010年のフォーラムでは、黄海プロジェクトの初期に行なった中国、韓国の市民団体や大学の関係者を主な活動主体とした、普及教育活動の成果と課題を発表・共有するために開催されました。

また、2011年のフォーラムは、2010年に中国と韓国それぞれの国内からプロジェクトの「モデル地区」として選んだ、黄海沿岸の各一地域から、地区関係者を日本に招き、水産資源の持続可能な利用や、地域の活性化を視野に入れた干潟保全の事例を学んでもらう、ワークショップ形式で実施しました。

そして、2012年の交流会は、3つの国が集まっての会議となりました。
事例発表、グループ討論、フィールド視察の3部構成で進められた今回のフォーラムのテーマは、「生態系に配慮した形での黄海沿岸湿地の持続可能な利用と管理」です。

2007年から黄海プロジェクトを支援しているパナソニック株式会社と、プロジェクトを推進するWWFとKIOST(韓国海洋科学技術院)により開催され、中国、韓国から、地方政府、研究者、市民グループなど、30名以上の保全関係者が参加しました。

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フォーラムの会場は、長江のほとり。

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フォーラム開催にあたり、挨拶するKIOST(韓国海洋科学技術院)のキム・ウンソ副代表(写真)

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第1部 事例発表

初日の事例発表は、「生態系サービス」とは何かについて、おさらいをするセッションからスタートしました。

中国の復旦大学の馬志軍さんと遼寧省海洋水産科学研究院の宋倫さんから、生態系サービスがもたらす野生生物や私たちの暮らしへの恩恵や関わりについて、それぞれ、黄海沿岸域全体の生産性の高さや、鴨緑江河口干潟での渡り鳥、底生生物、漁業者との関係など、具体的にデータを示してもらいながら、説明を受けました。

続いて、「持続可能な利用と管理」において鍵となる、沿岸開発の歴史や、伝統的にどのような形で干潟が生活の一部として利用されてきたかについて、中国の華東師範大学の張利杈さん、韓国の全羅南道発展研究院のキム・ジュンさんから発表をしてもらいました。

また、韓国の全北大学校チュ・ヨンギさんからは、約30kmに及ぶ防潮堤で締め切られた韓国・セマングム干拓事業による自然環境の変化について報告してもらいました。

午後のセッションは、フォーラムのテーマである「生態系に配慮した形での黄海沿岸湿地の持続的な利用と管理」に向けた取り組みについての発表。黄海プロジェクトの韓国、中国モデル地区の発表を、それぞれ生態地平研究所のイ・スンファさん、遼寧省海洋水産科学研究院の宋倫さんが行なってくれました。

韓国モデル地区のムアン干潟では、地域住民、地方政府、研究者が、干潟の環境モニタリング、環境教育、エコツアーなどの取り組みを開発、試行しています。生態地平研究がコーディネーターとなり、関係者間の連携を促し、個々の活動を一体化させていくことで、科学的知見に基づいた管理計画の策定、地域活性化と環境保全の両立が実現しつつあります。

中国モデル地区の鴨緑江河口干潟では、近年の経済発展に伴う沿岸域汚染のために、渡り鳥のエサ資源が減少し、沿岸漁業との軋轢が生じています。遼寧省海洋水産科学研究院では、2年間、こうした事象の関係を調査。科学的なデータに基づき、干潟環境の機能を回復させるための提言をまとめているところです。

さらに、中国の崇明東灘国家級自然保護区の鈕棟梁さんから、保護区における外来植物の効果的な駆除・管理の取り組みについて、韓国側からは、シナン郡チュンド干潟生態センターのチュン・ヨンジンさんと全羅南道国際干潟研究センターのキム・ヘソンさんから、それぞれムアン郡と同様の視点での取り組み、持続的な養殖業の推進に向けた取り組みについて、紹介してもらいました。

最後のセッションは、黄海沿岸域の保全・持続利用に向けた、国際的な取り組み、黄海プロジェクトの取り組みについて、紹介するものです。

国連開発計画/GEF黄海プロジェクトは、中国、韓国の政府レベルの関係者が関わる黄海の環境保全政策に関する取り組みです。このフォーラムの直前になって、その第2フェーズの計画が承認されました。
今後4年間、第1フェーズで策定した各国の戦略計画に基づいた保全活動が展開されます。所用であいにく欠席となった担当者に代わり、WWFジャパンのインターン生、黄晨さんが発表を行ないました。

また、WWFのこれからの取り組みとして、北京、上海、香港にある、WWF中国の各オフィスが共同で策定した、今後5カ年の黄海沿岸の保全戦略を、WWF上海オフィスの付興華が紹介しました。

日本は黄海沿岸からアサリなどの魚介類を多く輸入していますが、WWFジャパンも、黄海プロジェクトならびにこの5カ年戦略の一環として、環境負荷の少ない沿岸漁業の推進に協力をしてゆきます。その一歩として、中国における干潟の水産業の現状について、遼寧省海洋水産科学研究院の冷传慧さんに解説をしてもらいました。 

第2部 グループ討論

続くグループ討論のセッションでは、生態系サービスを損なうことなく、より持続的な形で資源を利用しながら、黄海沿岸域を効果的に保全していくためには、何を手掛ける必要があるのか、議論しました。

フォーラムのテーマ、事例発表の内容を踏まえながら、それぞれ、中国、韓国のグループに分かれて、意見を交換。その討論結果の概要について、以下に紹介します。

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写真左上から時計回りに、 発表者の馬志軍さん、キム・ジュンさん、 チュ・ヨンギさん、張利杈さん

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生態地平研究所イ・スンファさん(上)
遼寧省海洋水産科学研究院宋倫さん(下)

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鈕栋梁さん(上)
チュン・ヨンジンさん(左下)
キム・ヘソンさん(右下)

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上から、黄晨さん、冷传慧さん、WWF上海オフィス 付興華

中国の討論結果の概要
(遼寧省海洋水産科学研究院の王年斌さんが代表発表)

環境保全とくらしの両立を図るうえで、解決すべき3つの課題を確認した。

  1. 政府主体の開発事業、政策決定において、国民の利益が軽視されている
  2. 長期的視野のない、短期的な利益追求による干潟沿岸域の機能喪失
  3. 科学的知見に基づいた環境保全と開発の適切な妥協点の確認

これら課題に取り組むために、意見交換をした結果、4つの措置に整理された。

  1. 開発事業に対するモニタリングと保護担保措置を事業評価の指標に加えること
    (埋め立て行為の際の聴聞会の開催と、聴聞会への国民の参加)
    (遼寧省では、海洋資源開発時の汚染物質の排出基準値が設定されている)
  2. 政策決定者、企業経営者の海洋保全および、持続可能な開発に対する理解向上。
    (違う立場、多様な視点での認識の強化)
  3. 科学的な調査研究の推進と、保全施策・管理への基盤的な貢献
    (政府や地域コミュニティとの協力を、研究従事の根拠の一つとする)
  4. 生態系保護に関する立法の推進
    (渤海の例のように、保護区面積、保護/建築指標を制定した法が必要)

韓国の討論結果の概要
(生態地平研究所のチャン・ジヨンさんが代表発表)

社会科学、自然科学といった研究分野間の統合、そして、研究者と地域住民の意思疎通が必要。また、中央政府、地方政府の保全関係の予算と、人材が適切に配分させることが重要だ、と政策決定者に伝えていく必要がある。

各地に整備された干潟センターを、保全活動の拠点としてさらに活用し、センタースタッフの地位も安定保証させていくこと。そして、センター活動や観光の評価基準も、単純に訪問者数だけでなく、多様化させる。センターが果たす環境保全への役割を適切に評価して、政策に活かしていくことが大切である。

干潟を訪れる人々と地域住民の間に葛藤が生じないように調整する仕組みを構築した上で、エコツアーを活性化し、収益が地域に還元されるようにして、住民たちが干潟保全活動に積極的に参加するようにしなければならない。

自治体、研究者、地域住民等、各機関で役割分担できる内容を検討し、保全活動を事業化する。全羅南道で集中的にできる事業を中央政府に上げていくように積極的に推進しなければならない。干潟の保護地域では、干潟機能に応じたゾーニングを実施する。

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遼寧省海洋水産科学研究院の王年斌さん

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生態地平研究所のチャン・ジヨンさん

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第3部 フィールド視察

フォーラム2日目は、フィールド視察のセッションです。
一行は、上海の中心部から車で一時間ほどの距離にある崇明島(チョンミンダオ)を訪問しました。崇明島は、上海市と江蘇省の間に位置し、長江が運ぶ土砂が堆積して出来た島です。今でも、海側に向かって島が成長を続けているそうです。

1998年、この島の最東端に「崇明東灘国家級自然保護区」が設立されました。
見渡す限り一面にアシが生い茂り、入り組んだ澪筋(みおすじ)は、鳥類、魚類、両生類、哺乳類など多様な生き物の生息環境となっています。

特に、越冬シーズン中に数百万羽が飛来する渡り鳥にとっては、重要な中継地のひとつ。2002年には、ラムサール条約の登録湿地にも指定されました。

自然保護区内は、干潟に人が降りることが出来ないようになっており、かわりに遊歩道が整備されています。遊歩道を進んでいくと、自然環境の解説パネルや生物標本が展示している建物、保全管理の取り組みを紹介する視聴覚設備が整った建物が、ところどころに併設されています。

前日の事例発表の中で、保護区での取り組みとして、外来植物をどのような方法で駆除してゆくのが良いのかを、科学的知見に基づいて実験、検証している取り組みを紹介してもらいましたが、その一端を直接見ることもできました。

また、この地域では、生業の一つとして、野鳥を捕獲、販売することが行なわれていたそうですが、保護区設立後に禁止されました。

しかし、渡り鳥の行動生態を熟知し、生きたまま捕獲する伝統的な知恵と技術は、科学者のフィールド調査にとっては欠かせないものでもあります。デコイ(模型)や生きたオトリ、鳴き声をまねた笛、仕掛け網などを駆使した捕獲技術を紹介し、科学的見地から分析・検証した紹介ビデオに、参加者一行は興味津々でした。

フィールド視察の合間には、国際的にも絶滅が危惧されているクロツラヘラサギを観察することもできました。このクロツラヘラサギは絶滅が心配される水鳥の一種で、日本や韓国の沿岸にも渡ってきます。国境を越えて日中韓が連携し、沿岸湿地の保全を進めていくことの重要性を改めて実感する視察となりました。

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黄海沿岸の生物多様性の保全に向けて

今回のフォーラムに参加した、中国側の参加者は、主に研究者、保護区管理者が中心でした。一方の韓国は、地方政府、研究者、地域住民、ジャーナリストなど、バランスよく参加していました。

グループ討論では、中国側の、科学的視点での生態系に配慮した形での保護区管理のあり方について、韓国側の多様な主体が連携強化による持続可能な利用と保全について、有意義な議論を交わすことが出来ました。

黄海エコリージョン支援プロジェクトは、2013年春に中国・鴨緑江、韓国・ムアン地区でのモデル活動を完了させ、プロジェクトの最終ステージに移ります。モデル地区での活動成果を活動に携わった人たちと共に評価を行ない、その成果をまとめる上で、今回のエクスチェンジフォーラムは、そのよい契機となりました。

東アジアを代表する恵みの海「黄海」の保全と、それを推し進める人のネットワークの取り組みのゆくえが、この最終ステージで問われることになります。

 

黄海エコリージョンについて

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会議は、基本的に、参加者の母国語である中国語、韓国語が用いられました。通訳も大活躍していただきました。

懇親会では、英語、日本語、身振り手振り、自動翻訳機も駆使しての、楽しいコミュニケーションとなりました。

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