「絶滅のおそれのある野生生物の保全につき今後講ずべき措置」に意見を提出


絶滅のおそれのある野生生物を保全するために、国は「種の保存法」(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)を制定しています。1992年に成立した同法は、20年以上が経過し、時代の求めに合わない法律となりつつあります。かねてよりWWFジャパンはトラフィック イーストアジア ジャパンとともに、種の保存法を抜本的に改正し、我が国の内外において種の絶滅が生じる可能性を減らすように法制度を強化すべきと繰り返し主張してきました。2013年1月18日まで募集された「絶滅のおそれのある野生生物の保全につき今後講ずべき措置」に関するパブリックコメントにも、WWFジャパンとして環境省に意見書を提出しました。

種の保存法は抜本的改正が必要

種の保存法は、野生動植物種の絶滅を回避するために1992年に我が国で制定されました。同年6月のブラジル・リオデジャネイロでの「地球サミット」開催や、このサミットで各国の署名が始まった「生物多様性条約」に日本としても対応する必要が生じたからです。

しかしながら、種の絶滅を回避するという目的にかなう法律としては物足りない内容のまま成立してしまいました。それでも、当時としては国際社会へ向けて、生物種の絶滅を防ぐ我が国の立場を示し、今後の取り組みの方向性を示す意味合いがありました。

ただ、法律の不十分な点を補い、その目的に十分かなうものへと大きく改正する動きは、法律の制定後、今日に至るまで残念ながら見られませんでした。WWFジャパンのみならず、国内の多数のNGOや研究者などが法律の物足りなさを指摘してきたにもかかわらず、抜本的な改正はなされていません。

日本の絶滅のおそれのある種を守るという点からも、国際的に希少とされる生物の国内流通を適切に規制するという点からも、実効性のある法律へと生まれ変わらなければならないはずです。

ちなみに、種の保存法では、国内に生息・生育する種のうち、絶滅のおそれが高いと判断されるものを「国内希少野生動植物種」として国が政令で指定することになっています。また、ワシントン条約附属書1に掲載されている種を「国際希少野生動植物種」に指定して、国際的に協力して種の保存を図ることになっています。

生物多様性基本法や国際的議論に沿う法律に

1992年の種の保存法の制定後、1993年に環境基本法という環境分野の根本となる法律が制定されました。ここには、環境を守るために日本がなすべきことの基本理念が盛り込まれています。したがって、種の保存法は、環境基本法という上位法に整合する内容を備えていなければなりません。

そして、2008年には生物多様性基本法が制定されて、環境基本法のもとに置かれました。それにともない、種の保存法をはじめとして、鳥獣保護法、外来生物法などの生物の多様性に関わる個別の法律は、生物多様性基本法とも整合する内容をもっていなければならなくなりました。

実際、2000年代に改正された鳥獣保護法(2002年)や新たに制定された外来生物法(2004年)などには、「生物の多様性の確保」という文言が第一条の(目的)に加えられています。1993年に発効した生物多様性条約のもとでの国際的な議論を受け、生物多様性基本法が成立するのに先行して、この文言がつけ加えられていったのです。

ところが、種の保存法には「生物の多様性」という文言は見当たりません。つまり、上位法と内容的にそぐわないものになっています。法改正をして、この文言を第一条の(目的)に加えるべきなのです。

そして、生物の多様性とならんで近年の国際的な議論で注目すべき視点に、「予防的アプローチ」があります。1992年の地球サミットで合意されたリオ宣言に第15原則として「予防的方策」が取り上げられています。すべての事象が科学的に解明されていないからといって何も対策が講じられないことを国際社会は肯定していません。この考えは、生物多様性条約前文や気候変動枠組条約第3条3項にも見受けられます。

法改正をして、種の保存法でも種の絶滅を防ぐために「予防的アプローチ」をとることを、第一条の(目的)で取り上げるべきと考えます。種の個体数が大きく減少している、生息地が急激に失われていっているといったことがわかった時点で、早期に対策を講じる必要があります。「一度損なわれた生物の多様性を再生させることが困難である」(生物多様性基本法第3条3項)ことに留意しなくてはなりません。

ここまで述べた、種の保存法の目的条項(第一条)を中心とした改正の提言以外にも、個別に以下のような提言も出しています。

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国内希少野生動植物種に指定されている生物。上からウミガラス、タンチョウ、オジロワシ、アマミノクロウサギ(C)WWF Japan

政策形成に民意が反映される仕組みを設ける

生物多様性基本法では、第21条で「多様な主体の連携及び協働並びに自発的な活動の促進」をうたっており、その2項には「政策形成に民意を反映し、その過程の公正性及び透明性を確保するため、事業者、民間の団体、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関し専門的な知識を有する者等の多様な主体の意見を求め、これを十分考慮した上で政策形成を行う仕組みの活用等を図るものとする」と明記されています。

現行の種の保存法では、絶滅のおそれがあるとして「国内希少野生動植物種」の指定がなされる際に、その決定プロセスはすべて行政手続きの中にあり、市民をはじめとする外部の者にはうかがい知ることはできません。科学的な情報をもとにして、公開された場で種の指定がなされるというようにしなくては、生物多様性基本法第21条が言う「民意の反映」は望むべくもありません。

実際のところ、種の保存法に指定されている、国内の絶滅のおそれのある種の数はわずか90種にとどまっており、環境省が作成するレッドリストに記載されている3,574種のうち、3%にも満たない状況となっています。この状況は一向に改善される気配がなく、なおかつ改善させるために市民ができることは現行の種の保存法のなかでは何もありません。 *種の保存法の指定種数、第四次レッドリスト種数とも2012年8月28日現在。

一方、米国の絶滅危惧種法(The Endangered Species Act of 1973)には、市民訴訟条項があり、絶滅のおそれある生物種に関して、適切な方策が講じられていない場合には、市民が科学的な情報などをもとに申し立てることができるようになっています。そのような申し立てがあった場合には、行政は適切な方策について検討をしなくてはなりません。

京都府の「絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例」には、府民からの提案制度が盛り込まれていて、過去に実際に府民の提案で種の指定が実現した実績もあります。自治体の条例で可能な制度は、種の保存法という国の法律においても可能とすべきでしょう。

レッドリストは改訂が重ねられ、第四次リストにまで進められながら、これが種の保存法という法律の保全措置につながらないのは、あまりにもったいないことです。国民からの申し立てを制度化し、種を指定する過程に透明性を持たせることが、種の保存法を活かし、国内の種の保全に大きく寄与することは想像に難くありません。

今回の「絶滅のおそれのある野生生物の保全につき今後講ずべき措置」が諮問された2012年12月13日の中央環境審議会野生生物部会では、一人の委員が、「今日傍聴に来ている人たちの力を借りてはどうか?
これほどたくさんの人たちが熱心に話を聞きに来ている委員会はほかにはない」という趣旨の発言をされました。政策形成に民意を反映する仕組みを設ける機は熟していると思われます。

登録票の管理方法を改善する

ワシントン条約が日本国内で適用される以前に入手された個体や加工品などは、所持する人が国の指定する登録機関に申請し、登録票を公布されることで、譲り渡しや陳列をおこなうことができるようになっています。しかし、これが抜け道となってしまい、違法な個体や加工品が流通する問題を生じさせています。

例えば、登録票を交付されていた生きた動物が死んだ場合は、返納の義務がありますが、返納されずに、登録されていないほかの個体に添付されて流通してしまうという問題点がトラフィック イーストアジア ジャパンなどから指摘されています。登録されていない個体が、あたかも合法であるかのように流通するのですから、制度上の抜け道としては大きなものです。

このような問題に対しては、個体と登録票をきちんと一対一対応させることで解決を図ることができると考えます。そのためには、個体にICチップを装着するなどの適用できる技術の探索が求められます。個体と登録票が一致していることの確認ができるようにしておけば、違法な流通を防ぐことができます。

さらに、登録票を定期的に更新する制度の導入を図るべきです。現在の制度では、一度登録したら、それがいつまでも有効であるために、状態の変化する生きた個体については、古い登録情報では意味をなさなくなっていきます。不正な利用を防ぐことはもちろん、このように状態の変化する生きもののケースも想定して、登録票の更新制は法改正をして導入を図るべきと考えます。

罰則を大幅に強化する

種の保存法の流通に関わる罰則は、最高でも「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」となっており、甘いと言わざるを得ません。これは、個人の場合も、営利目的で野生生物を扱う法人の場合でも同じとなっています。

野生生物の違法な取引には1件でゆうに100万円を超える高額なものもあるため、ここから大きな利益をあげている悪質な業者には、この程度の罰則では再犯を防ぐほどの抑止効果がありません。

同じ野生生物に関する法律である外来生物法(2004年)の場合、罰則の最高は「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」となっています。なおかつ、それが法人の場合、罰金の最高額は「1億円以下」となります。

比較的近年に制定された外来生物法と比べてみても、種の保存法の罰則規定には引き上げの余地が大きいことが分かります。前述の登録票についても、罰則を強化することで、違法な使用例を減らし、なくしていくことが期待できます。

そして、違法な野生生物の取引は、国際的な視点で捉えると、麻薬、武器、人身売買などと並ぶ深刻な問題のひとつとなっています。組織的犯罪の色も帯びることを考慮すれば、こうしたブラックマーケットへの対処という観点からも、より一層の厳正な対処が求められます。

2013年の通常国会に法改正案は出てくるか

このように種の保存法は、大幅な改正が必要な法律となっていますが、果たして2013年の通常国会にどのような法改正案が出されてくるか、WWFジャパンとトラフィック イーストアジア ジャパンでは、事態を注視しています。

2010年10月に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(CBD・COP10)で採択された生物多様性保全のための世界目標である「愛知目標(愛知ターゲット)」の12番は、「既知の絶滅危惧種の絶滅を防止する。とくに減少している種の保全状況を改善する。」となっています。この世界目標に貢献するためにも、日本は種の保存法を抜本的に改正する必要があります。

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