冬眠穴を探せ!四国ツキノワグマ追跡調査 続報


その数、十数頭から数十頭と推定さる四国のツキノワグマ。国内で最も絶滅が危惧される地域個体群です。WWFジャパンとNPO法人四国自然史科学研究センターでは、その保護調査のため、2012年の9月から徳島と高知にまたがる剣山(つるぎさん)山系で、3頭のツキノワグマにGPS付き首輪を付け、追跡調査を実施。まだ謎の多い四国のツキノワグマの生態を探っています。今回、その調査報告が現地より届きました。

GPS首輪を付けた3頭の行動

四国のツキノワグマ個体群は、徳島県と高知県にまたがる剣山山系に、十数頭から数十頭が生息するのみと推定され、環境省により「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定されています。

WWFジャパンとNPO法人四国自然史科学研究センターでは、この四国のツキノワグマ個体群を調査するため、2012年の9月から3頭のメスのツキノワグマ(愛称:クルミ、ミズキ、ショウコ)にGPSのついた首輪をつけて、追跡調査を実施してきました。

その3頭のクマの現在の状況について、調査活動の中心人物である、四国自然史科学研究センターの山田孝樹さんより報告がありました。

それによると、「クルミ」と「ミズキ」は、それぞれ2012年10月6日と11月2日にGPS位置情報、つまり山中のどこにいるか、おおよその場所について情報を入手することに成功。

剣山山系でドングリの実りが良かった2012年の秋、9月から10月まで約2カ月間に、2頭が共にドングリを集中的に食べている行動パターンが伺えました。

ところが、もう一頭の「ショウコ」については、その行動がよくわからないままでした。

「ショウコ」はどこに?調査の困難

今回のクマ調査で使っているGPS首輪には、「GPSロガー」と呼ばれる機能が付いています。これは、人工衛星からの電波を一定の時間ごとに受信し、その位置情報を自動的に発信器内に蓄積する装置です。

クマの足取りを知るためには、GPSロガーに蓄積された位置データを取り出さなければなりません。そのためにはGPS首輪を付けたクマに数キロまで接近し、専用の受信機を使って、直接GPSロガーから情報を取り出す作業が必要になるのです。

したがって、今回のクマの行動調査では、3頭のクマがどの地域で行動しているかを、常に把握しておく必要があります。そして、定期的に山奥の現場まで足を運んで、クマに接近し、GPS情報を取り出さなくてはなりません。

一頭だけ残された「ショウコ」の行動が分からなかった理由も、「ショウコ」に接近できなかったことにありました。「ショウコ」は、GPS首輪の装着後、通行止めとなっている林道の先に行ってしまったため、調査隊がなかなか近づくことができなかったのです。

道なき山を踏査し、クマを追う。調査は、研究室でパソコンのモニターを眺めていればできる、というような簡単なものではなく、本当に手間がかかる体力勝負の世界なのです。

調査開始!今日の調査は、山頂付近まで車で移動し、そこから山を降りる「変則」的なルートです。車の背後に見える山の頂は標高1,769m。

電波受信機を使ってGPS首輪を付けているクマを探します。何度もこの作業を繰り返し、少しずつ方向と距離を確定していきます。

冬眠穴の絞り込み

2013年11月29日、ようやく「ショウコ」の首輪から、GPS情報を取り出すことに成功しました。

その情報によると、「ショウコ」は11月8日前後からほとんど動いていないことがわかりました。時期や場所からして、冬眠に入っていた模様です。

今までの四国自然史科学研究センターの調査から、四国のメスグマは、岩穴や土穴そして木の根が盛り上がって根の下にできた隙間「根上がり」を冬眠穴としてよく使うことがわかっていますが、このような冬眠穴では電波が通りにくく、その場所を特定することが難しくなります。

事実、一度GPS情報の取出しに成功した「クルミ」と「ミズキ」も、その後は足取りが途絶えたことから、こちらも冬眠に入ったのではないかと考えられます。

山田さんは、今までのGPS情報から、「クルミ」と「ミズキ」が冬眠していそうな場所に「当たりをつけて」探してみましたが、とうとう首輪からの電波を拾うことはできませんでした。

これにより、追跡調査をしている3頭のうち、冬眠穴の場所が特定できそうなのは、ショウコだけとなりました。推定場所は剣山山中、標高1,300メートル付近の斜面です。

11月末の剣山山系の様子。今年の冬は11月から12月にかけて急に寒くなったそう。 その頃、山々はすっかり雪に覆われました。

謎に包まれた四国のクマの冬眠

ツキノワグマが普通に冬眠、あるいは冬籠りするのは、一般的によく知られています。しかし、温暖な地方や暖冬の年には、クマの冬眠期間が短かったり、冬の間も姿を見せたりすることがあります。

東北などと比べると、確実に温暖な四国のクマは、どうなのか。
実は、四国のツキノワグマについては、極端に数が減るまで本格的な調査が行なわれず、その生態が謎に包まれていたため、実際に「冬眠」することが確かめられたのは、つい最近のことでした。

その根拠になったのも、四国自然史科学研究センターによる調査の結果です。
同センターでは、WWFなどの支援によって、2005年から本格的なクマの追跡調査を実施。当時追跡した5頭のうち、冬季まで追跡に成功した4頭について、すべて冬眠したことを確認したのです。

四国自然史科学研究センターではその後も、クマの冬眠調査を継続する中で、四国のツキノワグマが冬眠穴を毎年変えていること、メスが利用する冬眠穴は岩穴や土穴そして根上がりが多いこと、オスは大木にできた洞(うろ)が多いこと、などを確認。

さらに、2006年の冬季には、「ショウコ」が冬眠穴で仔グマを出産していることも確認しました。これは、四国でツキノワグマが確実に繁殖していることを、科学的に調べ、確認した、初の事例となったのです。

オスグマが冬眠に利用するのは、このような大木の洞(うろ)。その幹周りは3メートルを越える。大人二人が手をつないで囲むことができる大きさです。

発見!「ショウコ」の冬眠穴

その後、山田さんたちは、2007年と2009年の夏にも 、自動撮影カメラを使った調査で、2頭の仔グマを連れた「ショウコ」の姿をとらえましたが、こうしたクマの繁殖において、冬眠が大きな役割を果たしていることは、言うまでもありません。

その意味もあり、2012年から2013年にかけての冬季にかけて行なわれた、「ショウコ」の冬眠穴を探す調査は、大きな期待がかかるものとして始められました。

しかし、現場への接近は困難をきわめました。
まず、2013年1月中旬に山田さんが行なった予備調査では、大雪の中、GPS首輪の微弱な電波を追って山中に入るも、大規模な崩落斜面に前途をふさがれ、ここで打ち切り。

さらに、この予備調査を基に2月上旬に行なわれた本調査も、あと一歩、というところで、「ショウコ」に届きませんでした。前回行き詰った崩落斜面を迂回し、山を下りながら冬眠穴を探したのですが、首輪の電波が微弱だったため、調査隊は一つ隣の尾根を降りてしまったのです。

しかし、この調査は無駄にはなりませんでした。
その帰途、ショウコからの電波を確実に受信できるポイントを発見したのです。

そこで、山田さんは、今度は電波の方向や強さから、高い確率で冬眠穴の位置を推測することができるとみて、三度目の調査を敢行。ようやく、ショウコの冬眠穴を発見しました。

傾斜が厳しい南東向きの斜面、標高約1,020mの場所、森の中の枯木の根上がりです。事前に推測した場所と全く同じとまではいきませんでしたが、ほぼ推定通りの場所でした。

四国のツキノワグマのこれから

ようやっと見つけた冬眠穴。しかし、山田さんたちは、この「ショウコ」の巣穴に近づくことに慎重です。
冬眠中のクマに近づくことは、余計な刺激を与えることになり、クマが覚醒してしまうと人身事故にも繋がりかねないからです。

また、クマが人の気配を嫌がって、冬眠穴を移動してしまうこともあるそうです。保護すべきクマにとって、これはよいことではありません。

「ショウコ」はすでに推定年齢12歳。野生のツキノワグマは、寿命がおよそ20歳といわれている ので、「ショウコ」はもうかなりの高齢です。

今回の冬眠では、かつてのように、仔グマを産み育てている可能性は低いかもしれませんが、それでも、「ショウコ」がわずか十数頭ともいわれる四国のツキノワグマの個体群を支えてきた立派な母グマであり、大切な存在であることに変わりはありません。

慎重に冬眠穴を調査した山田さんによると、今回の冬眠穴の内部は水はけが悪く、決して居心地が良さそうではなかったとのことです。

それでも、一つよいこともありました。今回の冬眠穴は、見通しが良い斜面にあるため、反対側の斜面から、冬眠明けのショウコの様子が観察できるかもしれない、というのです。

そこで今後の調査では、可能であれば、動画や静止画などの撮影にも挑戦する予定です。四国のクマの冬眠明けの貴重なデータを、また取得できるかもしれません。

「ショウコ」の冬眠明けは、例年4月下旬とのこと。2013年もその頃ではないかと、山田さんたちは予想しています。冬眠明けには元気な姿を見せてほしいものです。

2006年の冬季にショウコが使った冬眠穴。木の根がつくった空間、根上がりを利用している。

2006年4月27日、冬眠穴の近くに設置した自動撮影カメラに写った仔グマ。

2月の本調査。出発は標高1,550メールの山の上。

とうとう、標高850メートルの谷底まで降りて来てしまいましたが、「ショウコ」の冬眠穴は見つからず...

ショウコの冬眠穴があった南東斜面、標高1,020m付近。

そこは急斜面。近づくのも一苦労。

ショウコの冬眠穴は、この枯木の根上がりでした。

木の根が盛り上がり、地面との間に隙間ができるのが「根上がり」です。

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