国連気候変動ボン会議Iの報告~ADPの第2回前半~


2013年初のダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)が4月29日~5月3日の日程で、ドイツ・ボンにおいて開催されました。今回の会合は、ワークショップとラウンドテーブルという、正式な「交渉」ではない形で、各国代表同士の率直かつ自由な意見交換が期待されましたが、やはり国々が従来通りの議論を繰り返した部分もありました。しかし、そのような中でも、「約束のスペクトラム」や「ボトムアップかトップダウンか」のように、論点として定着してきたポイントもあり、次回以降の交渉の下地作りとしてはまずまずの成果であったといえます。

1.「交渉」ではない「議論」のためのセッション

1-1. 2つのワークストリーム(WS)

今回のADP会合は、昨年末のCOP18・COP/MOP8でドーハ気候ゲートウェイが採択され、将来の国際体制に向けての主な交渉の場がADPに絞られてから初の会合でした(ADP自体は昨年から開催されています)。

ADPの議論は、2011年のCOP17・ダーバン合意をふまえ、現在は2つの「ワークストリーム(WS)」と呼ばれる分野に分けて交渉がされています。

WS1は、2020年以降の新しい国際枠組みに関する合意を、2015年までに作るための交渉です。この分野は、一般的に「2015年合意」と呼ばれるようになってきています。

現在、京都議定書に第2約束期間について削減目標を持っている国(EU等)は2020年までその目標をこれまでと同様に実施することが期待される一方、それ以外の国々(日本やアメリカ、そして途上国)は、2010年のCOP16・カンクン合意において自主的に誓約した温室効果ガス排出量の削減目標・削減行動計画を実施し、その国際的なレビューを受けるという状態になっています。WS1で作られる「2015年合意」は、これらの流れを引き継ぎつつ、新しく「全ての国々に適用される」国際枠組みを作ることが目的です。それが一体どんな形になるのかについて、今回の会合でも意見が交わされました。

WS2は、「地球の平均気温上昇を産業革命前と比較して『2℃未満』におさえる」という国際目標を達成するために必要な排出量削減量と、現状、各国が誓約している自主的な削減目標・削減行動計画の総量との間に、甚大な差(ギャップ)があるため、それをいかにして埋めるかの方策について話しあうことを目的としています。2012年に国連環境計画が発表した報告書によれば(UNEP 2012)、その差は、2020年時点で80~130億トンに上ります。

今回の会合も、基本、これら2つのWSを区分とした議論が展開されました。

1-2. なかなか公式な立場を離れない議論

今回の会合は、それぞれのWSについて、冒頭に、国際機関関係者や研究者等からのプレゼンテーションとパネリストによるディスカッションを含むワークショップが開催され、その後に、ラウンドテーブルと呼ばれる締約国同士の意見交換が行われました。「ワークショップ」も「ラウンドテーブル」も、いずれも正式な「交渉」ではなく、「意見交換」や「議論」に重点が置かれていることが特徴です。これは、2015年へ向けて、まずは自由な意見交換で創造的な雰囲気を作っていこうという意図がありました。

ただ、実際には、各国がワークショップやラウンドテーブルで言っていた意見は、これまでもそれぞれが述べてきた意見が多く、自由闊達な意見交換がなされたとは言い難い状態でした。

ただし、会合全体の雰囲気はいつもと比較すると随分と和やかであり、意見交換の雰囲気は決して悪いものではありませんでした。これは1つには、今回は会議体がADPのみの開催で、しかも並行した会合が一切開催されず、基本、1つの時間に1つの会合のみという、気候変動の国連会議としては異例の会合で、各国とも少しリラックスしていたことがあると考えられます。

会場の外観と、会場の様子
国際機関関係者や研究者等からのプレゼンテーションとパネリストによるディスカッションを含む「ワークショップ」や「ラウンドテーブル」と呼ばれる締約国同士の意見交換も行われました。

2.定着してきた論点

今回の会合は、形式上は次回、6月に再びドイツ・ボンで開催されるADP・SB(Subsidiary Bodies;補助機関)会合と地続きで、1つの会合として開催されました。このため、今回の会合そのものでは結論のようなものは採択されませんでした。そもそも、上述のような「意見交換」に重点が置かれた会合であったため、結論文書のようなものの交渉そのものがありませんでした。

そのような中でも、各国が述べていた意見や議論の中では、論点として定着してきたポイントが見てとることができました。以下でとりあげるものがそうです。これらは、今回初めて出てきたものもあれば、以前からあったものもあります。

2-1. 約束のスペクトラム

今回の会合で、先進国各国の中で、しきりに出ていた言葉が「約束のスペクトラム(spectrum of commitments)」という言葉です。ここでいう「スペクトラム」とは、いわゆる光のスペクトラムと同様、色々な形式の約束が並立しているイメージで、次期枠組みにおける、排出量削減約束のあり方には、国々の事情によって、その形式(総量目標か、原単位目標か等)や厳しさについて、様々なものがありえるとの意図で使われています。

アメリカは、このキーワードを使う時には、あえて「貢献(contributions)のスペクトラム」という言葉を使います。これは、「約束(commitments)」という言葉を使うと、「先進国=約束(commitment)」「途上国=行動(action)」という二分論に陥ることを忌避してのことであるそうです。これを反映する形で、アメリカ、オーストラリア、日本等を含む「アンブレラ・グループ」でも、「貢献のスペクトラム」ということがありました。

現段階で統一された定義があるわけではありませんが、次期枠組みにおける約束のあり方に、多様な考え方がありうるということが論点として定着しつつあることを示唆するキーワードでした。

2-2. 衡平性(equity)

国連気候変動枠組条約が作られる時からキーワードであり、次期枠組みの交渉でも荘であり続けるものとして、衡平性があります。特に、条約に書き込まれた「共通だが差異のある責任原則」を、時代の変化と共にどのように解釈するのかについては、大きな意見の隔たりがあります。

一方では、アメリカのように、COP17・ダーバン合意の決定では、次期枠組みは「全ての国々に適用される(applicable to all)」と言っているのだから、共通だが差異のある責任原則を踏まえて、具体的な削減目標等の誓約の仕方には「スペクトラム」を持たせるとしても、その法的性質は先進国であろうが途上国であろうが同じでなければならないと主張する国があります。

他方では、中国・インドのように、条約の「書き換え」や「再解釈」をするべきではないと主張する国々もあります。条約の「書き換え」を望んでいる国はほとんどありませんが、「再解釈」をするべきでないというのは、条約における先進国・途上国の区分(附属書Iに表現されている区分)をそのまま維持せよとの意見も暗示するので、これについては先進国側からの反発も大きいです。

その中間では、AILAC(Association of Independent Latin American and Caribbean States)のように、「共通だが差異のある責任原則」は、「行動をしないためではなく、行動のための指針である」と述べて積極的な姿勢を見せる国々もありました。AILACは、コロンビア、コスタリカ、ペルーなどのラテンアメリカ諸国からなる新しい交渉グループ(COP18の時に形成)であり、新しい枠組みの中での自国の地位を積極的に確保していこうという姿勢が見て取れます。

2-3. ボトムアップか、トップダウンか

上記「約束のスペクトラム」とも関連して、今回の会合の中で議論として出ていたのが、次期枠組みにおける各国の排出量削減約束は、トップダウンで決められるべきか、それとボトムアップで決められるべきかという議論でした。

何をもって「トップダウン」と呼び、何を持って「ボトムアップ」と呼んでいるかは、発言をした国や交渉担当者によって随分と違うようでしたが、おおよそ、京都議定書のように国際条約の中に目標を書き込むものを「トップダウン」とし、カンクン合意のように各国が自主的に誓約するものを「ボトムアップ」と呼んでいるようです。次期枠組みは、必ずしもトップダウン、ボトムアップのどちらかとなる必要もなく、そのハイブリッドだとする意見もありました。

しかし、こうした区分けは、より詳しく考えるとそれほどはっきりしたものではありません。たとえば、京都議定書がトップダウンと呼べるかというと、そうでもないのです。京都議定書の中で定められている目標は、各国がもともと提案したものをベースに交渉して決まったものであり、決して、「危険な気候変動を防ぐにはどれくらいの排出量削減が必要か」をベースとして「トップダウン」で決めたものではないからです。何をもって「トップダウン」「ボトムアップ」とするのかは、現在のところ曖昧に使われていますが、より議論を深め、一体どのような要素をそれぞれの国が重要と考えているのかに着目した議論が必要になりそうです。

2-4. 「参加か、野心か」

会合冒頭で、ニュージーランドが、「参加」と「野心」を対比させた発言を行いました。「2015年合意」に基づく次期枠組みは、全ての国の参加(universal participation)できるようなものとなることができるが、中に含まれる約束を厳しくしすぎてしまうと(「野心(ambition)」が高すぎると)、その参加が得られない可能性があるというのです。これは、暗に京都議定書の採択後、アメリカが2001年に離脱宣言をしたことを指していると考えられますが、これは場合によっては「参加」を得るために「野心」を落とすべきという主張との解釈も可能で、危険な議論のフレーミングの仕方でした。

2-5. アフリカ・グループの提案「適応目標」

今回の会合の中で提示された数少ない具体的な提案の1つとして、アフリカ・グループからの適応に関する提案があった。

アフリカ・グループは、1)気温上昇のシナリオ(2℃、3℃、4℃・・・)に応じた適応対策に必要とされる費用の試算を事務局に対してテクニカル・ペーパーとして作成することを要請し、2)それに基づいて適応に関する目標を設定する、という提案を述べました。

これは、適応をより明確に次期枠組みの中で位置づけると同時に、適応目標と緩和(排出量削減)目標を関連付けることで、より包括的な体制を目指したいとの意図があるようです。
会議内では、同じように気候変動に対して脆弱性を持つ途上国以外からは特に賛同の声も出ませんでしたが、今後、この提案がどのように扱われるかも重要です。

2-6. 具体的な「野心の引き上げ」に向けてのAOSIS提案

WS2の議論は、今回、やや具体性を欠いた議論が多かったのですが、中でもAOSISが行った提案は、プロセスに関するものとして、具体性がありました 。

AOSIS提案の要点は、WS2において、具体的な成果を出すために、エネルギー効率の改善と再生可能エネルギーに焦点を当てたワークショップを開催し、そこから、「野心の引き上げ」へ向けての議論を、具体的に発展させていこうという内容です。

これら2つの分野をあえてAOSISが選んだのは、この分野が最も重要であることに異論の少ない、コンセンサスのとりやすい分野であるからとのことです。

AOSISとしては、現状、様々な提案は出ていつつも決して具体的な結論につながっていないWS2について、なんとか具体性を持たせたいという意図があると考えられます。

3.ワルシャワでのCOPに向けて


今回の会議は、当初の予想通り、あまり大きな紛糾もありませんでしたが、同時に、各国の立場もこれまでから大きく変化も見られませんでした。他方、議論の雰囲気は決して悪くはなく、次回の6月会合の良い下地にはなりました。

9月のADP会合は予算が出ていないので、現在(5月中旬)の段階では、開催がされない予定です。ワルシャワでのCOP19・COP/MOP9の段階では、来年の議論へ向けてしっかりとした成果を出すことが必要です。たとえば「衡平性」のような重要な問題について、どのように扱うのか。また、各国は、新しい枠組みの中で持つ削減目標・削減行動計画をいつまでに発表するべきなのか。そして、ギャップを埋めるために、具体的かつ実行可能な方策を打ち出せるか。こうした諸点について、ワルシャワへ向けて、結論を出さなければなりません。

次回6月会合は、「交渉」で具体的な進展が求められます。次回会合の冒頭では、まず、ADPの下に具体的な交渉の場としてコンタクト・グループをいくつ作るのかが議論されることになっています。これまでの経緯を考えると、こうした手続き的事項で既に議論が紛糾してしまう可能性もあります。そうしたことを乗り越えて、実質的な議論に早くたどり着けるかも課題です。

国内の議論の遅れが目立つ日本は、果たしてその中で積極的な役割を果たすことができるか。厳しい会合となっていくと予想されます。

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