2013年 国連気候変動ボン会議報告(ADP2.2/SB38)


2013年2回目の国連気候変動会議が、ドイツ・ボンにおいて6月3日~14日の日程で開催されました。今回の会議は、2013年11月にポーランド・ワルシャワで開催されるCOP19・COP/MOP9へ向けての準備会合の位置づけであり、大きな決定が期待されていたわけではありませんが、ワルシャワにおいてきちんと成果を出す上では重要な会議でした。一部の議事の進行がストップするなどの事態も生じましたが、会議全体の雰囲気は建設的でした。しかし、ワルシャワにおいては、2015年合意と、その合意が効力を持つ2020年までの取組み強化についての具体的な成果を、合意文書の形で結実させることが重要です。

1.ダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)報告

1.1. 「議論」は前進したが、「成果」に結びつくか?

現在の交渉の主な舞台は、ダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)となっています。ADPの議論は2つに分かれています。

ワークストリーム1(WS1)とよばれる分野では、2020年から始まる新しい法的な国際枠組みを2015年に合意するための交渉がおこなわれています。現在、多くの国が、京都議定書の第2約束期間(2013~2020年)に参加、もしくはカンクン合意の下で自主的な排出量削減目標・計画(~2020年)を誓約していますが、この新しい国際枠組みは、その後に、全ての締約国が参加する枠組みとして誕生することが期待されています。

ワークストリーム2(WS2)とよばれる分野では、2020年「まで」の排出量削減の取組みの底上げが議論されています。国連環境計画(UNEP)が出したThe Emission Gap Report 2012によれば、現在、各国が掲げている排出量削減目標・計画と、気候変動による気温上昇を「2℃未満」におさえるために必要な削減量との間に、2020年時点で80~130億トンもの差があることがわかっているため、その差を埋めるために何ができるかが議論されています。

ADPの交渉は去年から始まっていますが、まだ序盤ということもあり、前回に引き続き、「ラウンド・テーブル」や「ワークショップ」という形式をとった、「交渉」ではない「意見交換」を中心に進められました。

このため、結論から言えば、今回の会議において、重要な決定は合意されていません。今回のADP会合の結論として採択された文書(*1)に記載されている主な事項は、以下通りです。

  • 2014年に、通常であれば2回開催される会合に加えて、最低もう1回開催することに合意し、さらに必要かどうかは今後また検討すること
  • WS1・WS2それぞれについて、各国は意見を条約事務局に9月1日までに提出すること
  • 次回から交代する共同議長に、バランスのとれた、焦点のある、より公式な作業の形式を、次回のワルシャワ会合の際に提案することを求めること
  • 2種類のテクニカル・ペーパー(緩和行動等の効果に関するペーパー/各国が提出する情報をまとめた適応に関わるペーパー)を事務局が準備すること
  • 条約下の制度・メカニズムのマンデート(権限)の範囲の全体概要を事務局に作らせること

これらも見ても分かるように、今回の決定は、実質的な中身の決定というよりも、概ね、今後のプロセスやその中で準備するものに関する決定するものであったといえます。

ただし、会期中に行なわれた議論の中で特筆するべき点はいくつかありました。NGOのようなオブザーバーに対しては非公開の会合が多かったため、全容が見えない部分も多くありますが、環境NGOとしての観点から特筆するべき点は3つありました。

1.2. 削減目標の「事前の明確さ(ex-ante clarity)」と交渉スケジュール

1つ目は、2015年合意の中に入る、各国の2020年以降の排出量削減目標が提示されるべきタイミングが、徐々に話題になりはじめたことです。上述の通り、2015年合意は、2020年「から」効力を持つことが想定されています。このため、当然ながら、この合意の中に盛り込まれるべき各国の排出量削減目標は、2020年以降の目標ということになります。おそらく、2030年やそれ以降の目標ということになるでしょう。

この目標について、前回の4~5月の会議でアメリカが、目標はあくまで各国が独自に考えたものを提案することが重要だが、お互いの目標について、それぞれがどういう意味を持つのかどうかを確認する「討議期間(consultative period)」を3ヶ月ないし6ヶ月持つことが必要だ、と提案しました。

その際、彼らが使い始めた言葉が、「事前の明確さ(ex-ante clarity)」と言う言葉でした。アメリカの意図は、どちらかといえば、目標は各国が独自に決めるものであって、国際的な枠組みの中で定めるべきではないというところにポイントがありますが、それでも、ある程度、各国の目標をお互いに高めあう手法として、お互いの目標が本当に厳しいものかどうかを確かめ合うために、こうした過程を経ることが重要だと考えているようです。

こうした提案が出てくる背景には、1997年に京都議定書が合意された際、目標に関係するルール(特に柔軟性メカニズムや森林吸収源等)が完全に決まっておらず、それらが後から決まったことで、数値目標が各国にとって持つ実質的な意味が後になって決まったという事情があります。それはやはり避けるべきではないかという(アメリカだけではない)一般的な意識があります。

こうした傾向を反映して、EUも、今回の会議の直前に書面で意見を提出し、その中で「事前の明確さ」を確保するためにも、各国は目標案を2014年までに提示するべきだ、と述べました。

このように、「事前の明確さ(ex-ante clarity)」という言葉が1つのキーワードとなると共に、いよいよ2015年合意に盛り込まれるべき排出量削減目標を提示するタイミングが、議論されるようになりました。

これらの国以外にも、公式・非公式に、「いつの時点で目標を出すべきなのか。目標に関連するルールと一緒に決めることはできるか」という問題が、議論されるようになったようです。日本は、こうした議論の中では、「事前の明確さ(ex-ante clarity)」よりも、「事後の明確さ(ex-post clarity)」に重点をおいて主張しています。目標がその国にとって、本当に野心的なものであったのか、あるいはちゃんと実施されているのかを事後に確認することの重要さを訴えています。

温室効果ガスの削減目標の本当の厳しさは、その目標が持つ前提によって随分変わりえます。森林の役割をどれくらい見込むのか、柔軟性メカニズム(海外でのオフセット)をどれくらい利用しようとしているのか、対象ガスはどこまでカバーしているのか、基準年はいつなのか、その他、目標そのものの実施に条件を付けているのかなど、目標を左右する前提やルールは多くあります。

現在の議論の流れでは、京都議定書の時よりも、各国の目標設定の形式に関する自由度が高くなる方向で議論が進んでいるので、そうであれば尚更、目標が実際にはどういう意味をその国にとっては持つのかを理解するには時間がかかります。その意味では、2014年内に最初の目標案を各国が提示して、それらと合わせて、2015年にその他の部分のルールも含めて交渉を進める、というのは、1つの順当な方式でしょう。

2015年末のタイムリミット直前になって目標を各国が出して、バタバタと交渉をしようとすれば、2009年のコペンハーゲン会議の二の舞いになりかねません。

2013年のワルシャワ会議の時点で、「2014年内に目標案を提示する」ということが本当に合意できるかどうかは未知数です。しかし、各国が掲げている目標が本当にそれぞれにとって野心的であり、互いにとって衡平なものであるかどうかを確認する時間を持つという意味では、最初の案の提示と最終合意までに一定期間を設けることは重要です。

2014年秋には、バンキムン国連事務総長の呼びかけで、気候変動に関する首脳級の会合を持つことも提案されています。こうした政治的なタイミングも活かし、2015年の合意に結びつけていくためには、2014年目標案提示は検討されてしかるべきです。

ただし、日本は、国内での気候変動対策の目標・計画の議論が遅れているので、今後の議論の趨勢によっては、苦しい立場に立たされるでしょう。2030年の目標どころか、既に実施の段階に入っていなければならない2020年の目標の見直しですら、2013年のワルシャワ会合に間に合うのかどうかという状態です。

こうした状態が続けば、日本は2015年合意の中での交渉において、出遅れる可能性もあります。自らが、合意の中でどれだけ貢献できるかを提示できない国は、アメリカや中国のように合意に不可欠な国でない限り、交渉の中での影響力も低下します。

震災があったとはいえ、既に2年以上が経つ中、それを理由にいつまでも議論を先送りにしていては、気候変動に対する国際的な取組みに貢献できないだけでなく、2015年における本格的な交渉で自国にとって不利な状況を招く可能性もあります。

1.3. AOSIS提案の行方

2つ目は、2020年までの排出削減へ向けての取組みの底上げを議論するWS2に関する、AOSIS(小島嶼国連合)の提案が少しずつ支持を集めていることです。

前回の4~5月のボンでの会議の際に、AOSISが、1つの提案として、省エネルギーと再生可能エネルギー分野に着目して、各国の経験を共有したり、国連の内外のイニシアティブを活用したりすることで、排出量削減の取組みの底上げをはかっていこうという提案を提示しました。具体的に何によって排出量削減の取組みを引き上げていくのかに関する提案というよりは、そうした底上げを行っていくための「過程(プロセス)」もしくは「仕組み」の提案です。

AOSIS提案のポイント(*2)は、以下の通りとなります(図 1参照)。

  • 再生可能エネルギーと省エネルギーという分野に焦点を当てること
  • 最良事例(ベストプラクティス)の共有などを通じて、具体的に各国の取組みを底上げしていくこと
  • 再生可能エネルギーや省エネルギー分野の専門家、企業、市民社会等、重要なステークホルダーからの知見・経験をきちんと取り入れること
  • 政治レベルの意思決定者にそうした情報を直接インプットできるようにすること
  • ワークショップの開催→各国・機関からの意見提出→事務局によるテクニカル・ペーパーのとりまとめ→再度のワークショップ→閣僚級の会合の開催を通じて底上げのイニシアティブを打ち出す、という流れで底上げを図ること

図 1:AOSIS提案のイメージ図(*3)

(出所) AOSIS代表団のプレゼンより。

  • *3:2013年6月11日時点の内容。AOSIS代表団は、各国からのインプットを受けて内容を継続的にアップデートしているため、必ずしもこの内容が現時点で最新とは限らない。

省エネルギーや再生可能エネルギー分野は、エネルギー起源のCO2排出量を削減する上では本丸とも言える分野であり、この分野なら、どの国も合意できるであろうという狙いがあったと考えられます。

その狙い通り、ほとんどの国が、AOSIS提案の概要については肯定的な評価をしており、実際、今回の会合でもエネルギーをテーマとするワークショップが開催されました。

日本政府も、全体としては評価していますが、細部には懸念もあるようです。
たとえば、新しい何らかの機関やグループをわざわざ打ち立てることを想定しているのか("Technical experts")。また、既存の機関やイニシアティブをまとめるとなると、巨大な権限を持つようなものを打ち立てることになるのか、現時点で閣僚級会合をこの分野で開催するのは本当に効果的なのか、等です。

こうした日本政府の懸念にも表れているように、AOSIS提案は、まだ細部でははっきりと詰められておらず、各国がそれぞれのイメージを持って支持している部分もあります。AOSISも、会合の場だけではなく、各国やNGOと個別対話を通じて、自分たちの提案自体を練り上げていく意図があるようで、継続的に話し合いをしています。

WWFのような環境NGOの立場からしても、再生可能エネルギーや省エネルギーという2大分野に焦点を当てて底上げをしていくことには異論があるはずもなく、AOSIS提案がより多くの支持を得てくれることに期待を持っています。

日本の文脈でも、こうした国際的な気候変動の取組みの観点から、やはり再生可能エネルギーや省エネルギーの取組みを強化することが重要だというメッセージが発せられれば、停滞している日本国内のエネルギー政策にも勢いをつけることになりえます。

1つ懸念材料としてあるのは、会議の終盤、「共有志向途上国グループ(LMDC;Like-Minded Developing Countries on Climate Change)」と呼ばれるグループ(*4)が、AOSIS提案に対して、直接的には否定をしないものの、「他の提案と同様に扱うべきだ」「特定の分野に焦点を当てるべきではない」といった発言で、やんわりと否定的な見解を示し出し始めたことです。

  • *4:ボリビア、中国、キューバ、ドミニカ、エクアドル、エジプト、エルサルバドル、インド、イラン、イラク、マレーシア、マリ、ニカラグア、フィリピン、サウジアラビア、スリランカ、スーダン、ベネズエラ

LMDCは、先進国の歴史的責任を強く追及することに主眼をおいているため、その立場から、この提案が先進国よりも途上国における削減努力の底上げに焦点が当たる結果となることに懸念を持っているものと推測されます。

そもそも、どこの国も反対がしないであろう分野で、建設的に削減努力を底上げしていきたいというのが、AOSISを始めとする脆弱な国々の希望であるので、この提案をめぐる議論が、いつもの不毛な「先進国vs途上国」議論に陥ってしまわないかが懸念されます。

1.4. 衡平性(equity)の評価

3つ目は、衡平性(equity)について、きちんと評価することと、そのための枠組みを準備することの重要性をいくつかの締約国が言及しはじめたことです。

WWFを含む気候変動系のNGOの国際的ネットワークCAN(Climate Action Network)が、前回から特に力を入れて主張している事項の1つに、衡平性参照フレームワーク(Equity Reference Framework)という概念があります。

これは、要するに、新しい合意における各国の削減目標や資金支援に関する約束等が、「衡平性(equity)」の観点からどのように評価できるかを定める枠組みです。この枠組みで想定されているのは、「共通だが差異のある責任原則」をその核となる原則を維持しながらも、柔軟性を持って、時代の流れに合わせて「衡平性」を評価していく仕組みです。

このためには、その評価のために使用する指標も必要です。それも1つの指標ではなく、複数の指標を使うことになるでしょう。「世界全体の排出量の状況と2℃未満達成のために残された炭素予算」といったグローバルな指標から、国毎の「一人当たりの排出量」や「一人当たり所得」等の、より各国状況を物語る指標も必要になると考えられます。
そのような指標を集めた集合体(a bascket of indicators)を作ることも必要です(*5)。

  • *5:より詳しくは、CANによるディスカッション・ペーパーをご覧下さい。 http://climatenetwork.org/publication/cans-equity-reference-framework-discussion-paper

「衡平性をどのように評価するべきか」という問題は、ともすれば非生産的な非難の応酬に繋がり得るトピックで、気候変動交渉の歴史の中では、長い間合意が難しいものとして認識されてきました。

今回の2015年合意へ向けての交渉の中でも、それは変わらないでしょう。他方で、この議論に一定の合意を得られないと、真の意味で意義のある合意ができるのかどうか分かりません。

今回の会議では、6月8日の土曜日の会合において、南アフリカ、ケニア、ガンビア(後発開発途上国グループを代表して)といった国々が、こうした「衡平性参照フレームワークの必要性や衡平性議論の重要性について言及し始めました。CANだけでなく、国々の中でも、こうした「衡平性」議論をきちんと取り扱うことの重要性に支持が出始めたことは心強いことです。

2.SBI・SBSTA(補助機関会合)

2.1. SBI(実施に関する補助機関)におけるロシア等の妨害

会議初日から、ロシア、ウクライナ、ベラルーシが、2012年末のカタール・ドーハでのCOP18・COP/MOP8における最終的な合意文書採択のやり方に不服があるとして、この会議全般に関する議決の仕方を決めることを議題の1つとして主張し、議論全体をストップしました。

国連の会議では、手順として、最初に議題に合意しないと、議事に移ることができません。そして、その合意のためには「コンセンサス」、すなわち、強く反対する国がいないことが必要です。しかし今回は、ロシア等の提案に対して他のほぼ全ての国々が反発し、議長が妥協点を見いだそうと努力したにもかかわらず、ロシア等が引き下がらなかったため、議論がストップしたままになってしまったのです。

最終的には、この状態が2週間続くこととなり、ついにSBIは、具体的な議論をすることができませんでした。

ロシア・ウクライナ・ベラルーシが、議題項目として提案した事項の中身そのものは、一定の意義のある中身です。

法的に言えば、国連気候変動枠組条約の最高意思決定機関である「締約国会議(COP)」と、京都議定書の最高意志決定機関である「締約国会合として機能する締約国会議(COP/MOP)」は、いずれも(一部を除き)合意のための手続きが最終決定できないままこれまで来ています。(*6)

  • *6:国連気候変動枠組条約では、その第7条2項(k)および第7条3項において、第1回締約国会議(COP1)において、意思決定の方法を含む「手続き規則(rules of procedures)」を採択すると定められています。このため、手続き規則の草稿は作られましたが、議決に関する規則42(Rule 42)について合意を得ることができなかったため、規則42を除く「手続き規則」の草稿を(FCCC/CP/1996/2)、暫定的に適用するということになりました。この場合、意思決定の方法は、国連での一般的な意思決定方法であるコンセンサス方式(合意案等に強く反対する国がなければ合意が成立する)が、適用されることとなり、現在まで、これが慣行となっています。

ではどうしているのかというと、国連での意思決定ルールの慣例にのっとり、コンセンサスをもって決定するということが原則として行なわれています。

この状態を是正し、きちんと意思決定のルールを定めるべきで、そのための議題案をSBIの議題に盛り込め、というのが今回のロシア等の主張でした。

しかし、問題は、それを主張した動機にあります。2012年のドーハ会議で彼らが不服を持った主な理由は、彼らが、ドーハ会議の決定の中で、彼らが得られたはずの利益を消してしまう決定が含まれていたからでした。

本稿では細部に立ち入ることはしませんが、端的に言えば、ホットエアと呼ばれる大量の余剰排出割当量をキャンセルする文言が合意文書の中に含まれていたからです。彼らは、これに対して不服をもっていましたが、会議終盤、彼らの反対を押し切る形で合意が採択されたことに、不満を持っていました。

文言1つで、実質的な削減を伴わない何億トンもの既得権益を得られなかったことに不服があったから、意思決定の方法について話し合おうというロシア等の主張には、途上国グループはもちろん、先進国の中でも支持を表明するところはほぼ皆無でした。

しかし、ロシア等は最後まで自分たちの主張を変えなかったため、今回の会合では、結局SBIの会合は開くことができませんでした。

2.2. SBIが止まったことの影響

SBIの議論が進まなかったことによって、SBIの下で予定されていたいくつかの議題が影響を受けました。

一番大きな影響を受けたのは、おそらく、気候変動影響による「損失と被害(loss and damage)」に関する制度構築の議論です。

この論点は、2012年末のドーハ会議でも、最後まで交渉が紛糾した議題の1つでした。気候変動の影響が発生し、「適応」できる範囲を超えて「損失と被害」が発生した場合、それをどのように救済するべきかという論点です。

一般的に、途上国、特に気候変動による影響に脆弱な島嶼国や後発開発途上国(LDCs)がこのためのメカニズム(仕組み)を作ることを主張する一方で、先進国が、そうした普遍的なメカニズムを作ってしまうと、資金支援の範囲が広くなりすぎてしまうこと(例:一体どこまでを気候変動の影響による「損失と被害」と定義するのか、等)を懸念して反対しています。

2012年のドーハの決定では、「国際的なメカニズムを含む」制度的取り決めを作るという合意がされており、2013年のワルシャワ会議では一定の成果を出すことが予定されています。

それだけに、準備段階である今回の会合において一切議論ができなかったことは、ただでさえ合意に時間がかかる問題を更に厳しい状況に追いやったことになります。

もう1つ、影響があったのは、クリーン開発メカニズム(CDM)および共同実施(JI)の見直しでした。CDM・JIそれぞれについて、2013年、制度全体の見直し作業が予定されています。

この議論をSBIにおいてやる予定であったので、今回、できませんでした。複雑な論点を含む分野だけに、今回の会議で議論できなかったことが引き起こした作業の遅れは後に響くかもしれません。

ただし、CDMに関しては、前回の会議の時点ですでに開催が決まっていたワークショップは予定通り開催されました。ただし、こちらは交渉ではないので、議論としては有益ではあるものの、交渉が遅れたことには変わりはありません。

この他、「2013-15レビュー」の作業も遅れが生じています。「2013-15レビュー」とは、今年から来年に向けて発表されるIPCC第5次評価報告書等を基に、「2℃未満達成のために大幅な温室効果ガス排出量削減をする」という長期目標を定期的に見直す(レビュー)、というCOP16およびCOP17における合意を指しています。この具体的な作業の詳細について、SBSTAおよびSBIの合同コンタクト・グループで議論を進める予定でしたが、片方のSBIが進まなかったため、以前の決定で予定されていたワークショップの開催のみとなりました。

最終日のスピーチでツバルが発言したように、皮肉にも、「意思決定の方式を決めようという議題を主張しているまさにその当事国が、既存の意思決定の仕組み(=コンセンサスでないと合意できない)を悪用して会議の進展を止めた」形になります。

最終日は、一部、ふたたびロシアが会議を長引かせるのではないかとの懸念もありましたが、何事もなく終わりました。しかし、次回ワルシャワにおいても、同様の問題が発生する可能性は残っており、これをどのようにするのかについて、注意が必要です。

2.3. SBSTAの議論は一部は進展

SBIでの議論がストップする一方で、SBSTAの議題は一定の進展がみられました。
特に、途上国における森林減少および劣化に関する排出量削減(REDD+)の分野については、7つも議論しなければならないトピックがあったにもかかわらず、議論が進展しました。7つとは、MRV、レファレンス・レベル(森林減少等を「どれくらい防止できたのか」を測る基準となる水準)の技術的評価、セーフガード、報告のタイミング・頻度、森林減少および劣化を招く主因(ドライバー)、二酸化炭素排出削減以外の便益、非市場アプローチです。

全てのトピックについて、問題が解決されたわけではありませんが、少なくとも次回の会合に期待がもてる程度には、議論と論点の整理が進みました。

皮肉なことに、その1つの理由は、SBIが個別議題に関する会合が開かれなかったことによって、空いた時間のスロットでREDDに関する議論に割けた時間が多かったということがあるようです。

ただし、REDD+については、他の分野と同様に、先進国から途上国への資金支援が大きな課題として残っています。資金支援の内容が具体化しなければ、上記のようなテクニカルな議論がいくら進展しても、対策の多くが実施されない可能性もあります。このため、REDD+でのテクニカルな議論の進展が、現場での対策の進展に繋がっていくかどうかはまだ確定ではありません。

2.4. 「メカニズム」をめぐる議論

SBSTAで議論される予定であった議論の他の議題としては、市場メカニズムをめぐる議論があります(*7)。

この分野では、現在、3つのトピックについて交渉が進められています。

1つ目が、クリーン開発メカニズム(CDM)等の既存の市場メカニズムに加えて、「新しい市場メカニズム(NMM; New Market-based Mechanism)」を作ることと、その設計。

2つ目が、日本の2国間オフセット・クレジット制度(JCM; Joint Crediting Mechanism)のように、各国が独自に作り始めている制度を国際的にどのように管理もしくは調整していくのかを決める「様々な手法のフレームワーク(FVA; Framework for Various Approaches)」と呼ばれるトピック。

そして3つ目が、削減量(クレジット)の売買を伴わない仕組みを検討する「非市場アプローチ(non-market-based approach)」というトピックです。

今回の議論はその多くが非公開の会合で行われたため、その議論の全容は分かりませんが、基本的な対立点は残ったままのようです。

第1の対立点は、FVAと呼ばれるものの役割についての対立です。環境十全性を最重視する島嶼国や後発開発途上国を中心とする一部の途上国のグループは、原則として、全ての市場・非市場メカニズムに共通する原則やルールを定める議論から始めるべきだと主張しています。

そして、共通原則やルールに合致しないメカニズムは、その使用を認められるべきではないと主張しています。そのような共通原則やルールを作る場が、FVAであると捉え、COP(締約国会議)の下に、メカニズム全体を俯瞰する機関の設置を想定しているようです。これに対し、オーストラリア、日本、アメリカ等の先進国は、あくまで各国が独自の環境を踏まえてそれぞれのメカニズムを設計することを奨励するべきだと主張しています。

たとえば、日本が作ったメカニズムと、オーストラリアが作ったメカニズムが、お互いにどう連携が可能なのか(もしくは可能でないのか)、どこかの途上国で、2つの違うメカニズムのプロジェクトが重なってしまう場合はどうするのか、などの調整の機能を主に想定しているようです。

第2の対立点は、新しい「市場」メカニズムの設立の必要性です。
新しい市場メカニズム(NMM)の設立自体は、すでに過去のCOP決定で打ち出されています。NMMの設立を特に強く主張して、具体的な制度案も提案しているのはEUですが、制度設計の議論は遅れています。

その理由は、1つには、そもそも「市場」メカニズムの設立自体に否定的な見解を持つボリビアやエクアドル等の国々が反対をし、「非市場」アプローチを設立するべきだと主張しているからです。

ただし、非市場アプローチとは一体何をさすのかについては、まだ明確な定義はありません。また、島嶼国なども、前述の通り全てのメカニズム共通のルールをちゃんと作るべきだと主張しており、それは、国連の下で作られるNMMでも、それ以外の二国間のメカニズムでも、共通であるべきだと考えているので、NMMの細かい制度設計を急ぐことに積極的ではありません。

唯一、多くの国々が合意しているのが、メカニズムから生じるクレジットと、その他の削減努力や、もしくは別のメカニズムのクレジットとの間での「ダブルカウント」を防ぐべきだという論点です。これについては、ワルシャワでは多少は議論の収斂が見られるかもしれません。

メカニズム分野についても明確な結論は得られず、ワルシャワ会議へ向けて引き続き議論を継続することとなり、各国にさらなる意見提出を条約事務局に対してすることを呼びかける文書が採択されました。また、予算の都合がつけばという条件付きですが、今回からワルシャワ会議までの間に、ワークショップを開催する可能性が示唆されています。

3.ワルシャワへ向けて

今回が、ワルシャワでのCOP19・COP/MOP9へ向けての最後の公式な交渉の機会となります。

一部の分野については、交渉ではなく、専門家等を招いてプレゼンをした後に自由な意見交換をするワークショップの開催が企図されていますが、これらは、多くの場合、予算が付けばという限定になっており、今のところ、どこでいつやるのかもはっきりとはしていません。

今回の会議は、全体として見れば、SBIが止まったという事実はありつつも、議論の雰囲気は決して悪くはありませんでした。ADPの議論も、決して何かが具体的に合意を示すものが出来始めたというわけではありませんが、各国の意見交換を通じて、論点や解決しなければならない対立点の整理が進んだように感じられます。

しかし、ワルシャワでは、この議論を確実に、具体的な成果へと結実させて行かねばなりません。2015年に合意を達成するための時間は、決してたくさんあるわけではなく、ワルシャワ会議の段階において明確な前進を見せることができなければ、2015年合意への見通しに陰を落とすことになってしまいます。

WWFの観点からは、ADPのWS1では、新しい排出量削減目標を提示するタイムラインに合意できるか、「衡平性参照フレームワーク」のような衡平性を評価する枠組みの構築ができるかどうかなどが重要なポイントとなってきます。

また、WS2では、AOSIS提案を通じて、2020年までの排出量削減取組みについて、具体的な底上げができるプロセスを生み出せるかがポイントとなります。さらに、本稿では詳しく言及できませんでしたが、HFCや短期寿命気候強制物質に関する取組みを強化するなど、CO2の排出量削減以外の分野での取組みの活用について具体的な成果を出すことも重要です。

そして、日本が、こうした国際的な取組みで積極的に貢献していくためには、日本国内での気候変動・エネルギー政策の議論をきちんと行い、強化していくことが不可欠です。しかし、現状では、気候変動問題の位置づけは大きく下がっており、エネルギー政策の議論も遅れが目立ちます。今一度、日本の議論を活性化していく必要があります。

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