2,000名の調査員が参加!シベリアトラ調査はじまる


※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。

2015年2月1日から、極東ロシアの沿海地方およびハバロフスク地方南部を中心とした15万平方キロにおよぶ地域で、10年ぶりとなるシベリアトラ(アムールトラ)の総個体数調査が始まりました。参加する調査員の総数はおよそ2,000名。雪上に残された足跡を追跡し、その大きさなどからトラの生息数はもちろん、年齢や仔トラの数などまで算定します。また、この調査では、沿海地方南部に50頭ほどが生息するアムールヒョウについても、生息状況のデータが収集されます。

極東ロシアの自然に君臨するシベリアトラ

アジア北東部に生息するトラの亜種シベリアトラ(アムールトラ)は、トラ亜種の中で最大の体躯を持つ、世界最大のネコ科の野生動物です。

森林破壊や密猟により、絶滅が懸念されているこのシベリアトラの総個体数調査が、2015年2月1日、極東ロシアの沿海地方、およびハバロフスク地方南部とその周辺で始まりました。

調査の主体となっているのは、ロシア連邦の天然資源省。さらにロシア科学アカデミー極東支部の太平洋地理研究所やWWFロシア、アムールトラセンターといった民間団体が、科学的、資金的な支援を提供します。

これは、1996年から10年に一度行なわれてきた大規模な調査活動で、調査対象となるエリアの広さは、実に15万平方キロ以上。北海道の面積の実に倍近くに相当します。

前回2005年の調査よりも拡大された今回の調査の対象地域は、シベリアトラの全生息エリアの95%を占めると考えられています。

シベリアトラ

1996年には415~476頭、2005年には428~502頭と推定されたシベリアトラの個体数が、今回どのように変化するのか。分布域や生息状況の確認と併せ、注目されています。

調査の行方を左右する「雪」

今回の調査に参加する調査員の総数は、のべ2,000名となる見込みです。これらの調査員は、15万平方キロの調査エリアに散って、雪上に残されたトラの足跡を追います。

重要な点は、この調査が冬、しかも雪の降る季節に行なわれる、ということ。雪に残る足跡を追跡するのは、確実な方法ですが、断続的に雪が降ったり、時に雨が降ったりすると、新しい足跡が消えてしまいます。

このため、新たに雪が降った後は5日間、動物が足跡を残すのを待たなければならず、その後3日間、定められた区域内で調査を実施します。このように、今回の調査では、新雪の後少なくとも8日の間、連続で晴れた日が続くことが求められています。この8日間に雪が降れば、調査はまた一からやり直しです。

調査員たちは、天気に左右される上に、雪深く、自動車やスノーバイクでも動けなくなってしまうような過酷な現場で、調査活動に挑むことになります。

それでも、彼らによって収集された足跡のデータは、驚くほどにさまざまな知見を与えてくれます。

トラは各個体が縄張りを持っているため、足跡からその地域にトラが何頭生息しているかわかるためです。

さらに、足跡のサイズから、その個体が何歳くらいなのか、オスなのか、メスなのか。また連れている仔トラの数などについても、情報が得られます。

また、同じ大きさの足跡が複数地域で記録された場合は、互いの足跡の距離、トラの1日の移動可能距離、縄張りの平均的な大きさ、トラの移動の妨げとなる地形の有無などを考慮して、個体の判別を行ないます。

こうして得られたサンプル個体数をモデル解析して、極東ロシアに生息するシベリアトラの総個体数を推定します。

さらに、今回の調査では、トラが獲物としている草食動物についても、同時にデータの収集が行なわれます。こうした情報は、各生息地の環境がトラにとって、どのような状況にあるのかを考察する一助となるものです。

アムールヒョウの調査も

また、今回の調査では、トラと同じく極東ロシアの生態系の頂点に立つアムールヒョウについても、同様にデータを収集することになっています。

アムールヒョウはロシア沿海地方南部に生息するヒョウの亜種で、その数わずかに50頭ほどといわれ、より高い絶滅の危険性が指摘されています。

活動歴30年を誇るベテランで、最も困難とされるこの沿海地方南部の調査現場を引き受けるWWFロシアのパベル・フォメンコは、アムールヒョウが今回の調査の「もう一つの主役」であるとし、得られる情報の重要性を指摘します。

実際に、得られた調査の結果は、政府機関やWWFのような民間の環境団体が、今後シベリアトラやアムールヒョウなどの保護を進めてゆく際に、どのエリアで、どのような努力が必要とされるのかを、教えてくれるものとなるでしょう。

今も豊かな自然がのこる極東ロシアの生態系が秘めた、さまざまな側面を明らかにするこの調査が持つ意味は、きわめて大きいといえます。

いまだに密猟が続くシベリアトラの総個体数が、10年前と比べ、どのように変化しているのか。

調査員たちが集めた全てのデータは、一つのデータベースに集約されて解析され、2015年5月に暫定的な結果が、10月に最終的な報告が発表される予定です。

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