COP21の「パリ合意」に向けた、各国の温暖化対策目標案の提出状況


2015年12月にフランス・パリで開催予定のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)において、国際社会は2020年以降の新しい温暖化対策の枠組みに合意しようとしています。この「パリ合意」にむけて、各国が2025年/2030年に向けた新たな温暖化対策の目標案を国連に提出しています。その概要を整理し、一覧表にしています。他国の目標案を参考にしつつも、日本も野心的かつ衡平な目標の提出を急がなければなりません。

将来へ向けての各国の温暖化対策目標

2015年12月のCOP21でのパリ合意にむけて、各国が2025年/2030年に向けた新たな温暖化対策の目標案を国連に提出しています。2013年にポーランド・ワルシャワで開催されたCOP19は、その目標案の提出期限の目途を、2015年3月末と定めました。これに従って、2015年3月末までの時点では、世界の排出量の約3分の1にあたる国々が目標案を提出しました。

下の一覧表はすでに提出した国の目標案の一覧です。原文は、国連気候変動枠組条約事務局のウェブサイトからご覧いただけます。

また、この表とは別途、各国が自国の目標案がなぜ「公平かつ野心的」なのかを説明した部分を抜粋した表もご覧いただけます。

2015年8月17日時点(提出順)

国名概要特記事項WWFからの声明
スイス ・2030年までに、1990年比で、温室効果ガス排出量を50%削減する。
・2025年までには、1990年比で、35%の削減が予期される。
・目標の達成は、国内削減が主としながらも、環境十全性の高い炭素クレジットの利用を想定している。
・森林・土地利用については、京都議定書の第2約束期間と同じアプローチを使用して算入するとしている。
WWF Switzerland (ドイツ語)
EU ・2030年までに、1990年比で、温室効果ガス排出量を国内で少なくとも40%削減する。 ・国際クレジットの使用は、この目標(40%削減)の中には見込まれていない。
・農業・森林・土地利用をどのように取り込むかについては、今後できるだけ早期に決定すると書かれている。
WWF EPO (英語)
ノルウェー ・2030年までに、1990年比で、温室効果ガス排出量を国内で少なくとも40%削減する。 ・40%削減目標から、2021~30年までの排出予算を作る。
・森林・土地利用分野の算入方法については、のちに決定する。
・40%削減には(EU ETS以外の)海外クレジットは原則含まない。ただし、市場メカニズムの存続は支持しており、EUとの共同目標実施が不可能になった場合や、パリ合意のために目標の引き上げが検討される場合には、その利用を示唆している。
メキシコ ・2030年までに、BAU比で、温室効果ガスおよび短期寿命気候汚染物質の排出量を合わせて25%削減(うち、GHGのみでは22%削減)。
・ただし、国際炭素価格、資金・技術支援等の条件次第では、同40%削減(うち、GHGのみでは36%削減)へ引き上げることを示唆。
・25%削減には海外クレジットを含まない。ただし、「40%削減の場合、海外クレジットは必要」とのことわりがある。また、気候変動の悪影響からのコミュニティの保護などを掲げる適応目標も記載。 WWF Mexico (英語) WWF International
アメリカ ・2025年までに、2005年比で、温室効果ガス排出量を26~28%削減する。28%削減へ向けて最大限の努力をする。 ・森林・土地利用等の吸収源については、ネット・ネットアプローチで算入する。
・国際市場メカニズムの利用は想定されていない。
・目標達成のための国内政策についての例示がある(例:発電所の排出規制等)。
WWF US(英語) WWF International
ロシア ・2030年までに、1990年の、70~75%に抑制する(※90年比20~25%削減)ということが、長期的な指標になりうる。
・ただし、森林による吸収量を最大限に算入できることが条件。
・同目標を達成するための法規制の準備をしている。
・最終決定は、2015年合意へ向けての交渉の中で、他の大量排出国の目標も考慮した上で行われる。
・目標達成のための国際市場メカニズムの利用は想定していない。
WWF International
ガボン ・2025年までに、BAU比で、温室効果ガス排出量を少なくとも50%削減する。 ・森林吸収源は目標には含まない(既に排出量の4倍を吸収している)。
・国内の計画に基づき、2010〜2025年を対象とするが、COP21までの検討の中で、2030年・2050年までの取り組みに拡大する予定。
・国際クレジットの使用はない。
・ガボンからのクレジットに割引率は適用しない。
・適応については、沿岸地域の適応国家戦略を中心とする。
・国際的な支援を含む、様々な財源を対策に振り向ける国内気候基金を設立する。
リヒテンシュタイン ・2030年までに、1990年比で、温室効果ガス排出量を40%削減する。 ・海外での削減を算入できることを想定。ただし、国内削減が主。
・目標の対象範囲には森林吸収源も含む。
アンドラ ・2030年までに、BAU比で、温室効果ガス排出量を37%削減する。 ・対象ガスは、CO2、CH4、N2O、SF6
・国際的なクレジットは想定していない。
・森林吸収は含まない。
カナダ ・2030年までに、2005年比で、温室効果ガス排出量を30%削減する。 ・真の削減につながり、検証された排出量削減であることを条件に、国際メカニズムを使用する可能性がある。
・森林・土地利用部門をネット・ネット・アプローチで算入する。伐採木材製品(HWP)については生産方式で算入する。自然撹乱の影響は除外する。
モロッコ ・無条件で実施する目標として、2030年までに、BAU比で、温室効果ガス排出量を13%削減する。
・国際的な支援の存在を条件とした目標として、2030年までに、BAU比で、温室効果ガス排出量を32%削減する。
・必要な投資額は、期間合計で450億ドルに相当すると試算しており、そのうちの350億ドルについて、国際的な支援を期待している。
・2020年・2025年という途中経過年での目安は、それぞれ、無条件の目標ではBAU比で7%削減・10%削減、条件付き目標ではBAU比で16%削減・27%削減。
・対象ガスはCO2、CH4、N2Oで、Fガスの割合が低いため含めていない。
・森林・土地利用部門も含む。
・国際的な市場メカニズムの使用を通じての目標達成の可能性を排除しない。
・適応について、2005~2010年の間の国内投資予算の9%が適応に関するものであったが、将来はこれが少なくとも15%以上になることを見込む。
エチオピア ・2030年時点での、正味の温室効果ガス排出量を1億4500万トン(CO2換算)に抑制する。 ・左記目標は、2030年までに、BAU比で2億5500万トン(CO2換算)の削減、つまり、BAU比で64%削減に相当する。
・適応についても、国内戦略に基づき、気候変動の悪影響に対する脆弱性を減らす取り組みを実施していく。長期的には、全ての開発活動において、適応対策が完全に組み込まれることを目指す。
・対象ガスは、CO2、CH4、N2O。
・森林・土地利用部門を含む。
・国際的な市場メカニズムを活用して、炭素クレジットを売却する予定。
・この目標の完全な実施には、予測可能で、持続可能で、信頼のできる、資金・能力開発・技術移転支援が必要。
セルビア ・2030年までに、1990年比で、温室効果ガス排出量を9.8%削減する。 ・2000~2015年の期間での極端現象による「損失と被害」の総額は、50億ユーロを超える。
・同じ期間について、適応対策としてみなせる対策への投資額は、約6800万ドルであった。
アイスランド ・欧州全体の目標(2030年までに、1990年比で、温室効果ガス排出量を40%削減する)の共同達成に貢献する。
・その中でのアイスランドとしての目標は未決定で、今後のEUおよびその加盟国との合意に依る。
・森林・土地利用部門を取り組みの一部に含む。
・EU排出量取引制度に引き続き参加するとともに、ヨーロッパの他の排出クレジット市場を活用する可能性もあるが、対策は主として国内努力による。
中国 ・2030年ごろにCO2排出量がピークを迎えることを達成し、より早期にピークを迎えるように最大限の努力を行う。
・2030年までに、2005年比で、GDP当たりのCO2排出量を、60~65%削減する。
・2030年までに、一次エネルギー消費に占める非化石燃料(エネルギー)の割合を20%に増やす。
・2030年までに、2005年比で、森林ストック容量を約45億㎥増加させる。
・適応についても、農業、森林、水資源、都市、沿岸地、生態学的に脆弱な地域などを主として、積極的に対策を強化していく。
・国レベル、地域レベルでの具体的な政策を通じて、気候変動対策を強化していく。たとえば、新規の石炭火力発電所からの排出量を300g石炭換算/kWhに下げていくことなどを含む。
WWF中国(中国語) WWF International
韓国 ・2030年までに、BAU比で、温室効果ガス排出量を37%削減する。 ・森林吸収源を含むかどうかについての決定は、後に行う。
・国際的な市場メカニズムからの炭素クレジットを部分的に使用する。
・適応については、国レベルで2010年に国内気候変動適応計画を設立しており、2015年までに地方政府・自治体がそれぞれの行動計画を定めることになっている。
シンガポール ・2030年までに、2005年比で、GDP当たりの温室効果ガス排出量を、36%削減する。
・さらに、2030年ごろに排出量がピークすることを目標に、温室効果ガス排出量を安定化させる。  
 ・目標の達成は、国内努力によって達成する予定だが、国際的な市場メカニズムの利用については引き続き検討する。
・対象部門として、森林・土地利用部門は含むが、民間林業やプランテーションを持たないので、影響は大きくない。  
ニュージーランド ・2030年までに、2005年比で、温室効果ガス排出量を30%削減する。    ・目標は、森林・土地利用・農業部門算定のアプローチと炭素市場の利用の確認ができるまでは確定ではない。
・1990年比にすると、11%削減となる。
・森林・土地利用・農業部門については、IPCCガイダンスに沿った算定方法論が採用されること等を前提としている。
・国際的な市場メカニズムについては、環境十全性等の基準を満たした上で、無制限の利用が可能であることを前提としている。  
WWF New Zealand (英語)
日本 ・2030年までに、2013年比で、温室効果ガス排出量を26%削減する(2005年比では、25.4%削減)。 ・森林・土地利用部門での吸収量を3700万トン(2013年度排出量の2.6%相当)見込んでいる。京都議定書と同じ方式で算定する。
・JCMについては、削減目標の試算には含まれていないが、JCMの下での削減量や吸収量は、適切な方法でカウントする。

WWFジャパン

マーシャル諸島共和国 ・2025年までに、2010年比で、温室効果ガス排出量を32%削減する。
・目安の目標として、2030年までに、2010年比で、温室効果ガス排出量を45%削減する。
・森林・土地利用部門は含まない。
・国際市場メカニズムの利用は想定していない。
・これらの目標は、2050年までに、もしくはそれより早期に、正味で排出量ゼロ(net zero)を達成することを念頭においている。
・適応については、国家気候変動政策枠組(NCCPF)や気候変動適応のための共同国家行動計画(JNAP)、災害リスク管理国家計画(DRM NAP)などを整備している。
・目標達成に前提条件は付けないが、現在、国の重要部門のキャパシティ(能力)や資金源について、海外からの支援に大きく依存している。
ケニア ・2030年までに、BAU(143百万トンCO2換算)比で、温室効果ガスを30%削減する。 ・目標は、持続可能な開発に関する目的とも整合性を持って実施する。
・目標は資金、投資、技術開発・移転およびキャパシティビルディングという形での国際支援を前提ととしている。
・農業・森林・土地利用部門を含む。
・合意された算入手法の下での国際的な市場メカニズムの使用は否定しない。
・適応対策については、2013年に定めた国家気候変動行動計画(NCCAP)および国家適応行動計画(NAP)に含まれていると同時に、中期計画の中にも取り込んでいく。
モナコ ・2030年までに、1990年比で、温室効果ガス排出量を50%削減する。     ・この目標が、京都議定書と同様にして、10年もしくは5年の約束期間の目標として約束されることを想定している。
・10年間の約束期間であった場合、目標は、2021~2030年の期間に基準年から40%の削減となる。
・5年間の約束期間が2回続く形式の場合、目標は、2021~2025年の期間に基準年から35%削減、2026~2030年の期間に基準年から45%削減となる。この時、2025年単年の目標年に対する削減目標は、40%削減(90年比)となる。
・森林・土地利用部門については、都市化された性質より、「公園および庭園」というカテゴリーに含まれるもののみを算入する。
・目標は、国内施策の実施によって達成するが、国内施策による達成が不十分であった場合の排出削減クレジットの使用は否定しない。
・適応に関しては、国の脆弱性を評価する研究を2014年に開始した。
マセドニア ・2030年までに、BAU比で、化石燃料消費起源のCO2排出量を、30%削減する。より野心の高い目標として、同36%削減も掲げる。

 ・化石燃料消費起源のCO2排出量は、温室効果ガス全部の排出量の80%を占める。
・モデルを使用した試算では、2030年時点でのBAU排出量は、現状の900万トンから2倍の約1800万トンとなる。
・目標達成のために、2015~2030年までに追加的に必要となる投資は42億ユーロとなる。36%削減を達成するためには、同45億ユーロとなる。また、目標達成は、民間資金の流入と、GCF等の国際的資金へのアクセスに依存する。
・現在交渉されている「新しい市場メカニズム(NMM)」と、国内の排出量削減対策とのリンクを検討する。
トリニダード・トバゴ ・無条件に実施する目標として、2030年までに、BAU比で、運輸部門の温室効果ガス排出量を、30%削減する。
・国際的資金支援が得られた場合の条件付きの目標として、2030年までに、BAU比で、温室効果ガス排出量を15%削減する。  
 ・「15%削減」目標における対象部門は、運輸、電力および産業部門。
・「15%削減」目標におけるBAU比での削減量は、103百万トンに相当する。
・「15%削減」目標を達成するのに必要な費用は、20億ドルになると試算されている。この費用は、主として国内でまかなわれるものの、GCFからの国際的な支援に頼ることを条件としている。
・森林・土地利用部門についても、対策の強化が行われているが、INDCには含んでいない。
・産業部門において、炭素取引のスキームを開発している。
ベニン ・2020~2030年の期間に、BAU比で、CO2排出量を累積1億2千万トン削減する。このうち、500万トンがエネルギー部門からの排出削減で、1億1500万トンが森林・土地用部門での吸収。

 ・2016~2030年までの気候変動対策(緩和・適応)のために、300億ドルが必要であり、このうち、20億ドルまでは、政府の予算として拠出する予定。
オーストラリア ・2030年までに、2005年比で、温室効果ガス排出量を6~28%削減する。     

 ・農業・森林・土地利用部門を含む。ネット・ネット・アプローチを使用し、IPCCガイダンスに沿って、自然攪乱を算入する。
・新しい国際合意の下でのルールが、目標設定の前提と異なった場合に、目標を変更する権利を留保する。
WWFオーストラリア(英語)
ジブチ ・2030年までに、BAU比で、温室効果ガス排出量を40%削減する。これは、200万トンCO2換算の削減量に相当する。
国際的な支援が得られれば、さらに20%追加で削減をする。  
 ・目標達成のためには、38億USドルの投資が必要となる。これに、さらに16億ドルの追加的な支援が、GCFや他の国際支援として得られれば(左記の)追加での20%削減ができる。
・適応に関しても、干ばつに対する脆弱性を減らすこと等を目的として数多くの計画およびプログラムがある。 
  • ※上記の一覧表は、WWFジャパンが独自にまとめたものです。正確な表現・詳細については、原文をご参照ください。

日本の環境NGOの集まりであるCAN-Japan のウェブサイトでも、同様の表を作成しています。

何を提出することが求められているのか?

各国が提出するべき目標案は、英語ではINDC(Intended Nationally Determined Contributions)と呼ばれ、日本語では「国別目標案」「約束草案」等と訳されています。国別目標案には、2020年以降の温室効果ガス排出量削減目標(一般的には、2025年もしくは2030年が目標年)と、それに関わる情報の提示が期待されています。

2014年12月のCOP20の合意によれば、「関わる情報」とは、たとえば、削減の対象となっている温室効果ガスにどのガスが含まれるのかという情報や、森林・土地利用による吸収源をどのように扱っているのかという情報など、目標の中身や性質を正しく理解するために必要な情報項目が含まれます。

さらに、自国の目標が、なぜ「公平で野心的」なのかの説明も、盛り込むことが期待されています。「なぜ、自国の目標が、自国の文脈だけでなく、国際社会の文脈で見たときに公平であると言えるのか」、そして、「なぜ、自国の目標が、危険な気候変動を防ぐ上で十分に野心的である/意欲的であると言えるのか」の説明が求められているのです。

WWFジャパンでは、この点に注目し、各国がどのような説明をしているかについても、一覧表を作成しています。

このほか、COP20の合意には明記されませんでしたが、市場メカニズムを目標に含むのかどうかについても、一般的に記載が期待されています。

また、国別目標案には、温室効果ガス排出量削減目標だけでなく、温暖化の影響にどのように対応していくのかという「適応」対策についても盛り込むことが奨励されています。

日本はどのような目標を掲げるべきか

WWFジャパンは、温暖化問題に取り組んでいる他のNGOと合同で、日本が掲げるべき目標案についての提言を作成しました。同提言では、日本として、2030年までに1990年比で温室効果ガス排出量を40~50%削減することを提言しています。詳しくは下記をぜひご覧ください。

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