報告書『漁獲情報の消費者への提供とトレーサビリティ ~EUと日本のルールと実施状況の比較~』を発表 消費者の責任ある選択のために、EUの事例から日本への示唆


公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(東京都港区、会長:末吉竹二郎、以下WWFジャパン)は、本日2月5日(木)に、報告書『漁獲情報の消費者への提供とトレーサビリティ~EUと日本のルールと実施状況の比較~』(全51ページ)を発表しました。日本に輸入される水産物の約3割がIUU(違法・無報告・無規制)漁業由来ともいわれる中、WWFジャパンはEUの先行事例を踏まえながら、消費者の環境面や社会面に配慮した責任ある選択を後押しする仕組みづくりが日本でもなされることを提案しています。

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発表の背景と報告書の主旨

水産物の「漁獲域(どこで獲れたか)」や「漁具(どんな道具で獲ったか)」についての情報は、資源の状態やその管理、生態系への影響などに直結するため、持続可能性を検証する上で非常に重要です。消費者の責任ある選択のために、こうした情報の効果的な表示が求められます。
本報告書では、「消費者への正確な情報伝達」に焦点を当て、その情報の表示について制度設計や取り組みが先行する欧州の事例を整理し、日本の食品表示基準の現状と比較しました。日本でも消費者へ水産物の持続可能性に関する十分な情報提供をし、消費者がより多くの情報に基づいて、生態系への影響が少ない商品やIUUリスクが少ない水産物など、持続可能な消費の選択ができるために、制度づくりのヒントを示します。

報告書の構成(全51ページ)

はじめに ―背景と趣旨―
1 目的
2 欧州における漁獲域と漁具の消費者への伝達
3 日本の水産物における漁獲域等の表示ルールと実施
4 事業者間の情報伝達とトレーサビリティ
5 まとめ
参考文献
資料1 漁獲情報の伝達と表示に関わるEU規則の条文の対訳
資料2 欧州の消費者伝達の事例紹介
おわりに

2026年1月からのEUでの新制度について

2010年に施行されたEUの漁獲証明制度(EU Catch Certification Scheme)は、IUU漁業由来の水産物のEU市場への流入を防止することを目的として導入されました。漁獲証明書を通じて漁獲域・漁法などの漁船旗国当局によって検証された情報を輸入時に輸入国当局へ提出する仕組みで、消費者への表示情報の基盤ともなります。2026年1月10日からは、EUが運用する漁獲証明書のためのITシステム「CATCH」の使用が義務化され、完全電子化されました。漁獲から輸入、そして消費者までの流通過程における情報伝達の一貫性を確保し、トレーサビリティが強化されることが期待されています。本報告書で解説している、EU域内の事業者間の情報伝達の義務付けを含め「漁業コントロール規則1224/2009」の多くの条項もこれと連動し、2026年1月10日より改正・適用となり、デジタル形式での情報伝達が義務化されました。
https://oceans-and-fisheries.ec.europa.eu/fisheries/rules/illegal-fishing_en

執筆者のコメント

一般社団法人 食品需給研究センター 酒井 純氏(WWFジャパンの委託を受けて、本編と資料1を執筆)
「水産物の原産地表示は、陸揚げ地なら可能だが、漁獲水域の表示は困難」「牛肉や農産物ならともかく、水産物のトレーサビリティは難しい」。日本の関係者の一部には、そのような思い込みがあるように思います。
漁獲段階の情報を消費者まで正しく情報を伝達するには、漁業者をはじめとする事業者間の協力が必要なのは確かです。サプライチェーンを通じたトレーサビリティも同じです。EUはルールを定め漁業者や流通事業者に義務づけることで、消費者や外食店バイヤーが漁獲域・漁具を把握したうえで商品を選べる環境の実現を図ってきました。2026年1月10日からは事業者の規模に関わらず、情報伝達のデジタル化に踏み切りました。「水産物だから困難」「漁業者には難しい」という思い込みは捨て、情報伝達やトレーサビリティが求められている水産物にこそ必要なルールと仕組みを、日本でも構築できたらと思います。

b<>WWFジャパン 自然保護室 海洋水産グループ 滝本 麻耶(本報告書企画・編集ならびに資料2を執筆)
水産物が漁獲されてから、実際に最終消費者に購入されるまでを追跡できるようにする、生産・加工・流通・販売を通じた一貫したトレーサビリティが確保されることは、IUU漁業由来の水産物の排除だけでなく、食品安全性の確保、不正に対するコントロール、人権侵害のチェック、持続可能性に関連する消費者への情報提供など、サプライチェーンを通じた大きなメリットがあります。日本でもトレーサビリティ向上につながる望ましい制度や仕組みを、社会的に議論・検討するきっかけとなることを願い、消費者への正確な情報伝達に焦点をあてた本報告書を発行しました。
水産物の持続可能な市場を形成するために、サプライチェーンの最も川下にいる消費者も大きな役割を担っています。日本に輸入される水産物の約3割がIUU漁業由来ともいわれる中、先行事例も踏まえながら、消費者の環境面や社会面に配慮した責任ある選択を後押しする仕組みづくりがなされるよう、関係省庁への働きかけ、関係企業・団体との連携、また消費者への情報提供・発信を行なっていきます。

ご参考

・海を守るためのさかなの選び方と食べ方:WWFジャパン 「おさかなハンドブック」
・IUU漁業の基礎情報について:WWFジャパン ファクトシート『IUU(違法・無報告・無規制)漁業:水産資源の危機―世界の状況と日本の役割―』(2024年)
・漁獲から市場国の輸入までの漁獲情報の提出を求める規制について:EU IUU連合(訳:IUUフォーラムジャパン)『主要水産物市場における輸入管理制度〜欧州連合、アメリカ合衆国、日本、大韓民国の主要データ要素の比較調査研究〜』(2025年)

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