海洋生物多様性保全戦略の策定にむけて


今、世界中で海洋の生物多様性の現状が悪化していると指摘されています。海に囲まれた日本にとっても、これは非常に大きな問題です。この問題への対処の一環として、環境省では現在、2007年に制定された「海洋基本法」と「海洋基本計画」、および2010年3月に改訂された「生物多様性国家戦略」に基づき、「海洋生物多様性保全戦略」の策定をすすめています。この内容について、WWFでは2011年2月10日、特に海洋保護区の課題と改善すべき点をまとめたパブリックコメントを環境省に提出しました。

日本の海洋保護区、目標への道のりは遠く

失われゆく世界の海洋と沿岸域の自然を保全するため、2010年10月に、名古屋で開かれた生物多様性条約第10回締約国会議(CBD・COP10)では、「2020年までに、少なくとも沿岸と海洋の10%を保護区や他の有効な保全手段によって保全する」ことを、各国に求める決議が採択されました。

しかし、現状の日本の海洋保護区の指定面積は、この決議が求める「10%」という目標に遠く及びません。

2009年にWWFジャパンが行なった試算では、鳥獣保護区特別保護地区や海域公園地区、保護水面など、法律によって開発の原則禁止と生物の採取が制限されている、国内の保護区域は約4万8,000ヘクタールで、これは日本の領海のわずか0.1%に相当するに過ぎません。

WWFがこの試算で考慮した地域以外にも、日本国内には海洋保護区に相当する区域があることは報告されていますが、それらを全て合わせても「保護区10%」という目標達成にはほど遠く、今後新たな保護区の拡大が必要不可欠な状況です。

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問われる保護管理のあり方と進まない海洋保護区への理解

また、保護管理のあり方についても、行政、NGO、市民団体等により、各地でさまざまな取り組みがなされているものの、問題点も多く指摘されています。 法律によって指定された海洋保護区でさえ、

  1. 保全管理計画が策定されていない、もしくは利用計画が中心である
  2. 現状に対する十分な科学的な知見が得られていない、関係者に周知されていない
  3. 実効的な対策が実施されていない(資金の不足、人材の不足)

といった問題が浮きぼりになっています。 生物多様性の保全や持続的な資源利用のためには、保護区指定後の管理向上にも力をいれていく必要があります。

こうした現状の中で、保護区の実効的な管理を推進するためには、地方自治体や地域住民の理解と協力が欠かせません。それは、国が指定した海洋護区であっても、同じです。

しかし、海洋保護区に対する地域の理解は、まだ高いとは言えず、「利用や立ち入りが制限されるのではないか」といった誤解や懸念、また「管理には大の費用や人材が必要になる」といった認識が強くあり、こうした保護区の指定や実効的な管理の実行に対して、消極的な姿勢もみられます。

海洋保護区を拡大し、保全管理を向上させるためには、海洋保護区の意義や役割、管理方法について、地域の人たちに対して理解を広げるための取り組みが、まず必要なのです。

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まだ不十分だが、重要な「海洋生物多様性保全戦略」

干潟をはじめとする国内各地の海洋生態系は、さまざまな人為的な要因によって、過去数十年の間に大きく損なわれてきました。

その対応として求められる海域での保護区の設定と管理は、陸域での取り組みと比較すると、大きく遅れています。 こうした現状を深刻に受け止め、日本の海洋の生物多様性を保全するための戦略を策定することは国の重要な役割です。

現在、環境省が策定を進めている「海洋生物多様性保全戦略」は、そのための新たな戦略ですが、現時点で公表されたその内容は、まだ案の域を出ておらず、また不備も多く見受けられ、大幅な改善が求められます。特に

  1. 過去日本が生物多様性を損失してきた経緯と要因が正しく評価、記述されていない
  2. 海洋保護区の設置と保全活動の実施に対して具体的な記述が少なく、地域社会や市民に対しどのように理解を求め、主体的な参加を促していくのかといったビジョンが欠けている

といった点が、大きな問題点として見受けられます。

WWFジャパンはこうした内容を、強く改善を求めるポイントとして、環境省に提出したパブリックコメントの中で指摘しました。

2012年の生物多様性条約第11回締約国会議(CBD・COP11)開催まで、同条約の議長国を務めることになっている日本政府は、海洋保全についても、リーダーシップを発揮することが強く期待されます。

「海洋生物多様性保全戦略」が実効的なものとして機能するためには、縦割り行政と揶揄される省庁間の壁を取り払うことが必要となるでしょう。 併せて、国は地方自治体や関係機関と連携して、保全施策の展開と、海洋資源の持続的な利用をめざす社会作りを進めていく必要があります。

環境省では、今回の戦略案に対するパブリックコメントを収集し、2011年3月までに「海洋生物多様性保全戦略」を策定する予定です。

関連資料

WWFジャパンによるパブリックコメント(PDF形式)

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