特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(クマ編)令和7年度版(案)に関する意見
2026/03/18
このたび、「特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(クマ編)令和7年度版(案)」に対するパブリックコメントを環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室宛てに提出しました。
以下が提出した意見の内容です。
なお、本意見書内で使用する用語「管理」は「その生息数を適正な水準に減少させ、またはその生息地を適正な範囲に縮小させること」としています。
政府ガイドライン案およびクマと人との共存に関するWWFジャパンの考えを示した詳細記事はこちらをご参照ください。
「人とクマの未来をつくる ― 棲み分けを実現するための方法とは」
意見の概要:早急な全国統一の個体数調査と科学的管理の手法確立、広域連携と各主体の役割明確化、さらに生息環境管理と生物多様性政策の統合等を求めます。
意見1:全体「科学的知見にもとづいた保護管理とモニタリング強化」
<意見>国は全国統一手法による個体数調査を早期実施したうえで、調査結果に基づく保護管理ユニットの個体数水準の見直しを行うこと、なお、結果が得られるまでの暫定期間においては個体数水準2・3・4については順応的管理が担保されるよう、モニタリングの頻度・項目・計画見直しの方法を明記すること。
<理由>国は、クマ類の保護管理の基礎となる個体数を正確に把握することが必須であるが、現在、保護管理ユニット毎の包括的な個体数データは一部の地域でしか得られておらず、大部分は都道府県単位で手法を異にする推定にとどまっている。こうした状況は、保護管理ユニット間の比較や全国的な個体数推移の把握が困難であり、科学的根拠に基づく管理が十分に行えない状況にある。原案の保護管理ユニットの個体数水準やその考え方も暫定的であるため、個体数把握後、早急な見直しをすべきである。
また、全国調査の結果が得られるまでの間は、都道府県ごとのモニタリングデータに基づいて計画を策定する必要があると考える。しかし、個体数水準2・3・4のユニットにおいて、軋轢低減を名目とした管理を行う場合、特に個体数水準2の地域では過剰捕獲によって地域個体群の安定的存続が脅かされるリスクが高い。さらに、クマ類は繁殖率が低く、成獣雌の減少が個体群全体に与える影響が大きいことから、わずかな捕獲でも長期的な減少につながり得る。したがって、個体数のデータが入手できるまでには予防原則に基づき、慎重な管理を行うべきである。
意見2:全体「広域保護管理と都道府県の協働の重要性」
<意見>全国規模の視野をもったクマ類の保護管理の必要性、および広域ユニット間での情報や対策のノウハウの共有、実際の取り組みに対する都道府県の参画・協力の事例を、全国規模で活用するための情報ネットワークの構築と活用を記載すべきである。
<理由>クマ類は広域移動性が高く、その保護管理にはさまざまなパターンやノウハウが存在するため、異なる広域の保護管理ユニット間で対策の事例や情報を共有することが重要な知見となる。またこれらは、全国レベルで個体群全体の動態を把握し、連続したデータに基づいて管理を行なう上でも貢献が期待できる。こうした知見に基づき、クマ類の遺伝情報や行動範囲等の分析を行い、比較可能なデータに基づいた目標個体数や管理強度を調整できるよう、統一した評価方針、および項目を示すことが重要である。
意見3 全体「ガイドライン実施のための各主体の役割と責任」
<意見>:主管する環境省のみならず、関係省庁、広域協議会、都道府県、市町村が一体となって取り組む体制を構築するため、生息環境管理、およびゾーニング管理の運用において連携すべき組織とそれぞれの役割と責任を明記すべきである。
理由:クマ類の個体数増加と分布域拡大の要因である、人口減少・高齢化による中山間地域での人間活動の低下とそれに伴う里山の利用の縮小という根源的課題に対応するためには環境省単独ではなく、関係機関との連携が必須である。例えば、生息環境管理における人工林の針広混交林化や耕作放棄地の管理、農作物被害の防止といった対策には農林水産省(林野庁及び地方農政局・県拠点、森林管理局等の部局など)との連携が欠かせない。また、ゾーニング管理においては、都道府県の「広域的ゾーニング」と市町村の「集落レベルのゾーニング」が十分に連携されていない、あるいは市町村に十分なキャパシティがなく「集落レベルのゾーニング」が策定・運用できていない可能性が高い。これには国や都道府県の支援が必要不可欠であり、専門人材や予算をはじめとする地域別のリソース不足の現状と不足解消の目標年・数値を定めたうえで、目標達成のための国の役割と責任、各都道府県や市町村に求める役割と施策を明記し、実効性を担保する必要がある。
意見4:全体「空間計画において、自治体における生物多様性政策との連携・統合」
<意見>「生息環境管理」に含まれる管理強化エリアや排除エリアにおける緑地の樹木伐採等施策の運用については、都道府県が策定する生物多様性地域戦略など関係する行政計画との相互連携の必要性を明記すべきである。【明記すべき箇所:p.31 15-22】
理由:管理強化エリアおよび排除エリアで行われる樹木伐採や植生改変は、生態系機能や種の多様性に直接的な影響を与える可能性がある。そのため、生息環境管理を進める際には、生物多様性保全を目的とした行政計画と整合性を図りながら実施しなければ、重要生息地の劣化や自然共生サイト/OECMの拡大方針と矛盾するおそれがある。また、生物多様性地域戦略を策定していない自治体では、空間利用に関する判断材料が十分ではなく、重要地域の保全と管理施策の両立を図るための基礎情報が不足している可能性が高い。したがって、国がガイドラインの中で、生物多様性関連計画との連携方針や「生物多様性見える化マップ」などの空間情報の活用方法を明示することは、自治体が生態学的に重要な地域に十分配慮しながら管理を実施するために不可欠であり、生息環境管理と生物多様性保全の両立を制度的に担保する上でも重要である。
意見5:P.22「表Ⅲ-1 保護管理ユニット及び個体数水準」について
<意見>環境省のレッドリスト(2020)に「絶滅のおそれのある地域個体群(LP)」として掲載されているヒグマ、ツキノワグマが属する保護管理ユニットである、積丹・恵庭地域、天塩・増毛地方、東中国地域および西中国地域は、本ガイドラインと第5次レッドリストにおいて個体群評価と保護管理政策を統一すべき。
<理由>石狩西部及び天塩・増毛地方のエゾヒグマ、東中国地域及び西中国地域のツキノワグマについては、第4次レッドリストにおいてLPに掲載されているが、本ガイドラインでは個体数水準が3または4として捕獲による個体数管理を目指すことは、保全の観点から矛盾する。また、西中国地域個体群の島根県・広島県・山口県は、ツキノワグマの狩猟による捕獲を禁止していることから、保護管理政策との不一致が生じる。現在進められている第5次レッドリストの評価作業と本ガイドラインにおいて 、個体群評価と保護管理政策を統一すべきである。
意見6:P.23 表Ⅲ-2内の「個体数水準2の個体群管理の方針「狩猟は、鳥獣保護管理法施行規則第10条において捕獲等が禁止されていない限り可能であるが、狩猟と許可捕獲等の総数は捕獲上限割合の範囲内に収めるように努める。」について
<意見>総数を捕獲上限割合の範囲内に収めることは努力目標「努める」ではなく、遵守義務「収めなければならない」にすべきである。
<理由>個体数水準2の個体群は基本的に保護に重点を置き、捕獲上限割合は厳格に守られなければならない。そのため、総数の考え方は現行ガイドラインの「総捕獲数」の定義を踏襲すべきである
意見7:P.24 9-12 「当該地域を保護管理の対象とするのか、クマが生息すべき場所ではないとするのか等の方針は、都道府県が関係市町村と十分に協議した上で決定する事項であり、分布の拡大地域が複数の都道府県にまたがっている場合には、都道府県で連携して整合の取れる方針を決定するよう調整を行う。」について
<意見>当該地域を保護管理の対象とするか等については、環境省や隣接する広域協議会、専門家も参加し、生態学的観点も取り入れるべき。
<理由>拡大地域の中には個体数水準が低位の個体群と隣接する場所もあり、科学的、専門的なデータを基にした慎重な判断が求められるため。
意見8:P.45 セクション①広域的なゾーニングと集落レベルでのゾーニング 内「都道府県は集落ゾーニングが設定されるよう支援する。」について
<意見>都道府県は、集落・市町村ごとの個別具体的な条件を鑑み、広範囲を移動する野生生物に対して弱点の無い一律的なゾーニング管理計画が作成されることを確保するため、必要に応じて技術支援に留まらず財政的支援を行うことを記載すべきである。
<理由>市町村が主体となって集落単位のゾーニングを導入し、クマ類の保護管理の対策を行う重要性が示されているが、集落ゾーニングは、既存データの整理や現地調査、リスクマップおよびゾーン区分案の作成、住民との意見交換など、多段階かつ長期的なプロセスを要し、市町村単独では実施・継続が困難と考える。したがって、知見、技術だけでなく、財政措置まで伴う支援制度を明確に位置づけ、実効性を担保すべきである。
<参考文献>
- 環境省. (2025). 生物多様性国家戦略2023-2030.
- 環境省. (2025). クマ類の出没対応構築事業の成果報告集.
- 日本哺乳類学会. (2024). 今後のクマ類の管理に関する意見書.
- 日置佳之,須田真一,百瀬浩,田中隆,松林健一,裏戸秀幸,中野隆雄,宮畑貴之,&大澤浩一. (2000). ランドスケープの変化が種多様性に及ぼす影響に関する研究―東京都立石神井公園周辺を事例として―. 保全生態学研究, 5, 43–89.
- 山崎, 晃司. (2017). ツキノワグマ すぐそこにいる野生動物. 東京大学出版会.
- 山戸美智子,服部保, &稲垣昇. (2001). 面積の縮小や管理方法の違いが大阪平野南部の半自然草原の種多様性に及ぼす影響. JILA, 64(5), 561–564.



