生物多様性条約「ポスト2010年目標」について


2010年目標の教訓

生物多様性条約(CBD)事務局では、地球の生物多様性保全をはかるための「目標」をかかげ、その実施を世界の各締約国に求めています。

しかし、2010年までの実現をめざしていた、「生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という「2010年目標」は、評価の結果、残念ながら達成されずに終わりました。

この「2010年目標」、生物の多様性が損なわれることについて関心を喚起し、取り組みの意味や評価を行なったという意味では、価値があるといえますが、そもそも、目標自体が大まかで、計測しづらいものであったという反省があります。

「2010年目標」では、21の個別目標が設けられたり、15の指標が設けられたりしましたが、これを決定するプロセス自体に、各国が大きな労力を割く結果になったため、根本原因にしっかりと取り組むのが後回しになった感は否めません。

「ポスト2010年目標」について

これを受けて、生物多様性条約事務局や、条約加盟国、国際機関、環境NGOなどは、2010年以降に実現するための、次期目標の設定作業を加速させています。
この次期目標は一般に「ポスト2010年目標」と呼ばれており、WWFも事務局案に対して意見を示し、少しでも意欲的かつ現実的な目標となるよう努力を続けています。

「ポスト2010年目標」の条約事務局案

この「ポスト2010年目標」の条約事務局による最初の案が、2010年2月に公表されました。
これは、2009年から条約事務局が、加盟各国に対して時期目標に対する提案を募集し、その内容を元に練った、2011年から2020年までの新戦略計画案です。

日本政府も国内の研究者やNGOなどの意見を聞きながら日本政府案をとりまとめ、2010年1月初旬に条約事務局に提出しました。

この事務局案では、まず使命(Mission)が掲げられ、それを達成するために、5つの戦略目的(Strategic Goal)が立てられています。そして、さらに細かく20の目標(Target)が示されるという構造です。

使命

  • 生物多様性条約の理念と3つの目的を次の方法で達成する
  • 生物多様性の損失を食い止めるための緊急の行動をとる
  • 2020年までに、生物多様性にかかる圧力を軽減し、絶滅を防ぎ、生態系を回復させ、生態系サービスを高め、そこから得られる利益を衡平に分かち合う。それにより、人類の福祉と貧困の削減に貢献する。また、これらを実行するための手段を締約国に提供する

5つの戦略目的

A 政府と社会における生物多様性の主流化により、生物多様性損失の原因に対処する
B 生物多様性への圧力を減少させ、持続可能な利用を促進する
C 生態系、種、遺伝的多様性を保護する
D 生物多様性および生態系からの恩恵を高める
E 計画立案、知識管理および能力育成を通じて実施能力を高め、また、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を行なう

このA~Eの5つの戦略目的のもとに、20の目標が設定されています。

2020年までの20の目標

  1. 生物多様性の価値と保全のための行動をすべての人が理解する
  2. 生物多様性の価値の国家戦略、ビジネスへの組み込み
  3. 生物多様性に有害な補助金の廃止と正のインセンティブの策定と適用
  4. 持続可能性計画を作成、実施
  5. 森林やその他の生息地の損失や劣化の半減
  6. 過剰漁獲、破壊的な漁業の撤廃
  7. 農林水産業を行うすべての地域が持続的に管理
  8. 汚染物質が生態系限界負荷量を下回る
  9. 外来種の管理、根絶
  10. サンゴ礁等の脆弱生態系での気候変動等の悪影響の管理
  11. 陸地、海洋面積の少なくとも15%を保護
  12. 既知の種の絶滅を回避
  13. 作物や家畜の遺伝的多様性の改善
  14. 生態系サービスの保護・回復
  15. 劣化した森林の少なくとも15%の回復等を通じ、気候変動の緩和と適応、砂漠化対処への貢献
  16. 各締約国が効果的な国家戦略を実施
  17. ABSのアクセス改善と利益配分
  18. 伝統的知識等の保護
  19. 生物多様性に係る知識、技術の向上、共有
  20. 条約実施のための人的資源や資金を10倍に増加
    (いずれも仮訳です)

事務局案に対するWWFの意見

WWFでは、この事務局案に対して、2010年5月6日に意見を公表しました。
主なものは次の通りです。

  • 生物多様性損失の根本原因に取り組むこと
  • 持続可能な利用の事例を増やすこと
  • 気候変動枠組み条約など関連性の大きい条約との連携改善を図ること
  • 保護区のプログラムと海洋沿岸のプログラムの関係強化を図ること
  • 生物多様性保全のための資金を政府部門・民間部門ともに増やすこと
  • 金融と開発のようなカギとなる社会部門に、生物多様性と生態系サービスの要素を組み込むこと

WWFはほかにも、2020年までに森林減少が正味ゼロ(net zero)になることや、過剰漁獲や破壊的な漁業慣行をなくすことなどを求めています。

しかし、何より肝心なのは、2020年に至るまでの毎回のCOP(締約国会議)で、「ポスト2010年目標」の進捗状況が確認できるようにすることです。

そのためには、ポスト2010年目標はSMARTであることが求められます。

  • Specific 明確で
  • Measurable 測定可能で
  • Ambitious 意欲的で
  • Realistic 現実的で
  • Time-bound 時間的に区切られていること

生物多様性に関しては、その概念がきわめて幅広いため、何をもって「生物多様性が保全されている」と見なすのか、あるいは失われていると考えるのか、これまでは議論の整理が容易ではありませんでした。
次期目標では、生物多様性の構成要素ごとに、しっかりと目標を立てることが求められます。

特集「生物多様性」生物多様性とはなにか?今起こっている生物多様性の危機とは?

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