気象予測を使った制御が、再エネ導入コストを下げる!


地球温暖化を防ぐため更なる導入拡大が求められる、再生可能エネルギー。太陽の光や風の強さ等、自然の力を利用して発電するため、CO2の大幅な排出削減が期待される一方、日々の気候条件により変動する幅をいかに正確に予測するかが、運用拡大の大きな鍵とされてきました。海外に比べて再エネ導入が遅れている日本でも、精度の高い風力予測システムを開発している企業を、WWFジャパンが取材しました。

再エネ予測精度の向上とコスト削減

風や天気まかせで発電量が当てにならない上に、火力発電に比べて料金が高いと言われることがある、風力発電や太陽光発電等の再生可能エネルギー。

発電は、刻一刻と変動する電力需要を正確に予測して継続できなければ、大規模な停電が生じることもあり、その運用には、細心の注意が必要とされます。

そうした発電事業の中で、再エネの導入拡大の鍵は、常に変化する自然を相手に、いかに安定した運用ができるか。そして、運用コストを抑えられるのか、という課題でした。

それが近年では、気象の予測技術を使って、天候の変化に応じた発電量の増減を予測する技術が向上。

火力や水力などさまざまな方法を適切に組み合わせ、効率的に利用することで、低コストで、より多くの再生可能エネルギー発電を、電力運用に組み込むコントロールが容易になってきたのです。

そもそも電気の需要は一日の間だけでも大きく変動します。
朝、社会が動き出し、電気を使い始めると、一気に電力需要が増加。多くの人々が働く昼間にかけて最も電気需要が増えます。

夕方になると、需要は急速に減りますが、夕食の支度時にはまた少し増加するなど、電気の需要は刻一刻と変化していきます。

この電力需要の変化に対して、太陽光や風力などの再エネがまだ無かったころは、主に火力発電所の出力を調整することで対応し、電気を供給していました。

ガスなどを燃やして行なわれる火力発電は、その燃焼を増やしたり抑えたりすることで、出力のコントロールが比較的容易だったからです。

しかし、風力や太陽光などの再エネ発電は、人が出力をコントロールできません。

これが入ってくると、変化する需要に合わせ、安定した電力を供給するのに、より複雑なコントロールが必要となります。

万一、風車が止まってしまった場合に備え、火力などの発電を待機させておかねばならないためです。

気象データに基づき、風力や太陽光の発電量を予測する。先ず翌日以降の気象データに基づき、風力や太陽光の発電量を予測します(予測例(1)参照)。それを、電力需要の予測分から差し引いて、残りの不足分だけを火力発電で賄うよう準備しておきます。 (出典:新エネルギー財団 http://www.nef.or.jp/award/kako/h24/p04.html)

このことは、かつて「再エネは自然まかせで当てにならない」と日本で敬遠される理由にも使われていました。

しかし、精度の高い気象予測を用いれば、風力や太陽光による出力は十分に予測できます。

そして、これにより、燃料費のいらない再エネを最大限に使う一方、残余需要(需要予測に対して不足する発電量)を最小限の火力発電で補い、さらに待機させておく火力発電も減らすことが可能になります。

つまり、化石燃料分の費用が浮き、その分のCO2排出量も削減することができるのです。

予測の正確性が鍵

再エネ先進国では当たり前となっている、この気象予測を使った再エネの出力予測システム。

しかし、軸となるデータが気象の「予測」である限り、出力予測システムにも誤差はつきものです。

そのため再エネ先進国は、気象予測を使った出力予測システムの精度改善を進めてきました。

特にスペインやドイツ、アメリカ・カリフォルニア州など、特に再エネ導入が特に進んでいる国や地域においては、この気象予測を使った出力予測システムはすでに10年近い開発の歴史があり、年々精度が高くなっています。

例えばスペインでは、今では当日の予測では誤差が3~4%にまで下がっています。これは電気の安定供給の意味からも、全体的な費用を下げる意味でもとても意義があります。

再エネ後発国の日本では、この気象予測を使った出力予測システム開発も遅れましたが、2012年の再エネの固定価格買い取り制度の導入以来、再エネが急増。

それに伴って、電力システム側も整備が進んで、気象予測を使った出力予測システムも改善が進んでいます。

WWFジャパンでは2017年9月、その気象予測を使った自然変動電源(風力発電・太陽光発電)の出力予測システムを開発している、伊藤忠テクノソリューションズ(以降CTC)を取材しました。

IT技術で精度の高い風力予測が可能に

CTCでは、気象状況データに加え、実際の再エネ発電実績データ、更に日本独自の地形や風の動き等を組み合わせた膨大なデータを解析し、向こう数日分の風力発電量を予測するシステムを開発しています。

その精度は高く、2010年11月~2011年1月の間にCTCが東北エリアで実施した出力予測システムの予測と結果を見ると、再エネ発電量の予測と実際に発電した量が、おおむね一致しています。(予測例(2)参照)

更に細かく見ていくと、NEDO電力系統出力変動対応技術研究開発事業のベンチマークテストで検証された、翌日予測(前日時点での予測)で誤差は7.5%前後、そして当日予測では3.5%まで誤差は縮まっているのが分かります。後発ながら、短期間の間に日本の出力予測システムもかなり高い精度の予測が可能になって来ているのです。

図中の赤のラインが出力予測システムの当日予測、黄色が翌日予測、黒が発電量の実績で、大体において、予測通りに発電されていることがわかる。さらに当日予測のほうが翌日予測よりももっと精度が高いことも分かる。(出典:新エネルギー財団 http://www.nef.or.jp/award/kako/h24/p04.html)

誤差が3%前後まで下がるとした場合、単純に考えれば、それに合わせて前日に準備しておくべき火力発電の量も減らすことができます。つまり、この精度は上がれば上がるほど、CO2の排出量を減らし、再エネの運用費用も安くなってゆく、ということです。

再エネ後発国であっても短期間の間にここまで出力予測システムの精度を改善できたのは、日本の技術力のおかげです。

CTCの担当者も、「日本は再エネの運用に関しては後発組だが、だからこそ再エネ先進国に学ぶことができる。学んだことを活かして一気に技術力を高めていくことができる」と力強く話していました。

風力発電の導入量が少ない日本でも...

また、この精度をさらに上げる重要な点として、CTCの担当者は次のことも指摘していました。

そもそもの風力発電の在り方です。

風力発電は、限られた場所で行なうと、地域的な突風や地形の影響によって、発電量が極端に変化するため、正確な予測が難しくなります。

しかし、なるべく広いエリアに、なるべく多く、分散して風車を配置すれば、そうした変動の波は滑らかになり(平滑化効果)、予測精度も高まります。

気象予測を使った出力予測システムの説明のために、日本付近の風の流れを説明するCTCの早﨑宣之氏

かつてスペインで、風力発電の予測技術が急速に向上したのも、風力発電所が広い地域に大幅に導入されたためだったのです。

現在の風力発電の導入量は、ドイツでは1300万kW、スペインでは2300万kW。一方、日本の東北地方は93万kWにすぎませんが、それでも日本の出力予測システム(翌日予測)の精度は7.5%程度まであがっており、ドイツ(4%前後)やスペイン(3%前後)に近づいています!

まさに、日本の技術力の高さを物語る点といえるでしょう。

横軸が風力発電の設備容量、縦軸が出力予測システムの精度。(出典:CTC提供資料:NEDO電力系統出力変動対応技術研究開発事業の成果)

つまり今後、日本でも分散した風力発電の導入が進み、発電所の設備容量も数千万kW規模に成長すれば、更なる予測精度の向上と、調整コストの削減が見込まれるのです。

地球温暖化を防ぐために、今後大幅な導入が必要とされる、再生エネルギー。

世界的な再エネの普及により、運用コストも加速度的に低下しており、今や欧州やアメリカの再エネ先進地域では、風力発電は最も安いと言われる石炭火力をも下回るようなコストになっています(1kW当たり)。

さらなる導入の実現性を高め、さらに技術力を進歩させていけるように、より多くの企業や自治体、そして消費者が、再生可能エネルギーの導入を選択することが求められています。

伊藤忠テクノソリューションズの皆様とともに。取材に伺ったWWFジャパンの小西雅子を含めてこのうち3人が気象予報士です!

※このWWFによるCTCへの取材報告については、日報ビジネス社「地球温暖化」1月15日発売号~3月15日発売号に連載しております。ぜひご覧ください。

関連情報

※なお、調整するための電源としては、火力発電だけではなく、日本ではまず揚水発電(電気が余るときに、水を上池にポンプで上げておき、電気がたりないときに水を下池に落とすことで発電する水力発電のこと)が使えます。調整するための方法の詳細は、下記をご覧ください。

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