始まった『祝島自然エネルギー100%プロジェクト』


上関原発の建設計画に反対している、瀬戸内海の小さな島、祝島で、暮らしに必要なエネルギーを100%、自然エネルギーでまかなうことを目指す、新しいプロジェクトが立ち上がりました。反対運動に取り組む「島民の会」が中心となり、「祝島自然エネルギー100%構想」の支援と運動の輪を拡げていこう、というものです。2011年1月17日には、衆議院の議員会館でその院内報告会が開催されました。

原発計画との30年にわたる戦い

祝島は、山口県熊毛郡上関市にある瀬戸内海に浮かぶ、人口約500人の小さな島です。島の産業の中心は、豊かな海のめぐみに支えられた漁業です。

この島の沖合わずか数キロメートルの対岸に位置する長島の田ノ浦に、中国電力による上関原子力発電所の建設計画が持ち上がったのは1982年のことでした。これに対し、祝島の住民の90%が反対。以降、約30年もの間、反対運動を繰り広げてきました。

祝島は国内の他の過疎地域と同様、高齢化が進み、若者が次々と島を出て行っています。しかし、島は豊かな自然に恵まれ、中でも対岸の長島と祝島の複雑な地形は、絶滅が心配される貴重な野生生物たちの、良好な生息地となってきました。

ここには、海生哺乳類のスナメリや、また世界で日本近海でしか繁殖せず、個体数も5,000~6,000羽といわれる国際的な危急種カンムリウミスズメの生息も確認されています。

しかし、原発が建設されれば、長島の海岸線は半分が埋め立てられ、生態系にも悪影響が及ぶことが懸念されます。
原子炉を冷却するため取り込まれる大量の海水には、海中の小さな生物も含まれることになり、これを食物とする魚類をはじめ、さまざまな生物や食物連鎖に影響が出る可能性があるからです。

また、冷却水のとおるパイプ内や取水口、排水口にフジツボや貝類が着かないようにするため、冷却水には、次亜塩素酸ソーダが混入されます。これが常時排水されることになれば、内海に作られる原発周辺の海で、生物が悪影響を受ける可能性が高いとみられています。

 

「自然エネルギー100%の島」を目指す

島の豊かな自然を壊して原発を作り、補助金で豊かさを得るのではない。昔から離島という場所で1000年続いてきた暮らしの支えである豊かな自然を、次の世代に残したい。30年におよぶ反対運動が、疲労を大きくしてゆく中で、祝島の人たちはそう願い続けてきました。

そして、その願いを形にする一つの取り組みが、新たに始まりました。島の暮らしを、全て自然エネルギーでまかなうことをめざす、『祝島自然エネルギー100%プロジェクト』です。

このプロジェクトでは、原発建設反対運動の中心となっている「島民の会」が中心となり、島の自然を活かした自立的な経済に向けて、まずはエネルギーから着手していこう、というもの。

島外からも支援を得ることができる「1% for 祝島」という寄付プログラムを開始し、その受け皿となる一般社団法人を立ち上げて(現在申請中)、「祝島自然エネルギー100%構想」の支援と運動の輪を拡げていく主旨です。

祝島の人たちの電力使用量は、日本の世帯平均の約3分の1。すでに島の一部の家屋では、屋根にソーラー発電機を設置し始めており、余剰電力の買い取り制度も活用しながら、その普及と施工を徐々に広げていこうとしています。

また、このプロジェクトでは集まった支援金を基に、今後エコツーリズムや、食品、アートといった分野にかかわる事業もあわせて手がけていくとのこと。他の国内の過疎や高齢化で悩む地域にとっても、新しい可能性を開くことが期待されます。

注目される先駆的な取り組み

この取り組みを紹介する報告会が、2011年1月17日、衆議院の議員会館で開催されました。 報告会には、祝島の活動を支援する約60名の方々が参加。まず、新たに設立される法人の代表となる山戸孝さんから、プロジェクトの経緯が説明されました。

山戸さんは、高齢化が進む島の中の数少ない若人で、この活動の中心人物です。
山戸さんの話には、長年原発を巡って続いてきた対立から脱却し、明るい未来に向けた生活を目指してゆきたい、という強い思いとともに、島民の間でも目標がきちんと共有できるように、無理のない範囲でこのプロジェクトを進めていきたい、と希望がこめられていました。

また、環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏からは、このプロジェクトを支援する仕組みの「1% for 祝島」について、詳細な説明がありました。
この売り上げの1%を寄付するという手法は、アウトドアメーカーのパタゴニアが1% for the Planetとして先駆的に導入している仕組みで、楽しみながら、日本だけではなく世界中にひろげていこうというものです。
また、飯田さんは、現実的に寄附だけでは賄えない部分は、国の助成金をとるなどしていくことを説明しました。

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原発の建設が計画されている上関町田ノ浦

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田ノ浦から見た祝島

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院内集会の様子

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プロジェクトを説明する山戸孝さん

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環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也さん

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「長島の自然を守る会」の高島みどりさん

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映画「ミツバチの羽音と地球の回転」の
鎌仲ひとみ監督

 

議員も支持する祝島の取り組み

原発が建設されようとしている長島からも、お話がありました。 「長島の自然を守る会」の高島みどりさんは、豊かな島の自然の映像とともに、島が希少な生物が生息する自然豊かな場所であること、また、貝類では新種が発見されていることを説明。

近く「奇跡の海を守ろう“カンムリウミスズメと上関(瀬戸内海)の生物多様性”国際シンポジウム」を開催する案内がありました。

そして最後に、長島、祝島の海を舞台としたドキュメンタリー映画「ミツバチの羽音と地球の回転」の鎌仲ひとみ監督が挨拶をされました。この映画は、上関原発に向き合う祝島の人々の島の思いを綴り、また自然エネルギーを活用したスウエーデンの人々の暮らしを紹介した作品で、近く東京渋谷でも上映されます。

また、この院内報告会は本来、議員へ向けた説明会の場です。会には、参議院の平山誠議員、衆議院の石田三示議員や山崎誠議員、社民党の福島みずほ党首らが出席。長島、祝島の未来には、原発ではなく自然を残すことが大切であるなど、活発な意見が述べられました。

今回のプロジェクトの推進を応援するため、WWFジャパンもパンダショップでの祝島の産品販売などを通じて、島の活動を支援する取り組みを続けていきます。

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