日本の海の生物多様性をどう守る? フォーラムを開催


日本の生物多様性を保全するための要ともいうべき、「生物多様性国家戦略」の改訂作業が現在、環境省に設けられた中央環境審議会の生物多様性国家戦略小委員会で進められています。2012年5月19日、WWFジャパンなど3つの環境団体は、日本の海の現状について考えるフォーラムを都内で開催しました。これは、新しい生物多様性国家戦略の改訂案がまとまるに先立ち、日本の海の生物多様性を保全するための施策が強化されることを目指したものです。

国の法定計画「生物多様性国家戦略」の改訂作業

日本が国として取り組むべき生物多様性保全のための施策をまとめた「生物多様性国家戦略」は、1995年に策定されて以来、3度の改訂を経て、充実したものとなってきました。

当初は生物多様性条約にもとづく任意の計画でしたが、WWFジャパンもその成立に大きく貢献した「生物多様性基本法」が2008年に制定されてからは、生物多様性国家戦略は“国の法定計画”という性格を持つようになっています。

つまり国として、その内容を達成し、実現させていくべき強い計画となったのです。

現行の「生物多様性国家戦略」が改訂されたのは2010年。その次の改訂作業が現在、環境省に設けられた中央環境審議会の生物多様性国家戦略小委員会で進められています。

これは、2010年10月に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(CBD・COP10)の結果を受けて、同会議で採択された「愛知目標(愛知ターゲット)」などに沿った戦略へと改める作業です。

この小委員会は2012年5月中旬までに4回開催されています。WWFジャパンも4月5日付で意見書を政府に提出し、また小委員会のヒアリングにも招聘されて意見を述べました。

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海の保全戦略の強化のためにフォーラムを開催

こうした一連の改訂作業は、非常に大きな意味を持っています。
2020年までに達成するべき「愛知目標」の内容を組み入れた、次期の「生物多様性国家戦略」は、文字通り日本の未来に向けた、生物多様性の取り組みのあり方を、決めるものになるからです。

特に、2011年3月の東日本大震災は、台風や津波といった災害と自然攪乱の中で、いかに生物多様性を守りながら、豊かな自然からの恵み(生態系サービス)を受け、持続可能な社会を築いてゆくのかを問う、一つの大きなきっかけにもなりました。

そこで、この戦略見直しの機会に、WWFジャパンは日本自然保護協会、日本野鳥の会と共に、特に沿岸・海洋の生物多様性に注目したフォーラムを開催しました。

これは現状の課題と関係省庁の政策を振り返り、新しい生物多様性国家戦略のあり方を、市民・行政・専門家・マスメディアなどの関係者を集えて話し合う、というものです。

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日本の海の保全戦略の課題

日本の海の生物多様性の保全については、海洋基本法と海洋基本計画に基づいた、「海洋生物多様性国家戦略」が2011年3月に閣議決定されています。

しかし、あらゆる生物多様性保全の施策の根本である「生物多様性国家戦略」においても、海の保全に関する記述を充実させることは大切です。

たとえば、海洋保護区を広げること、絶滅のおそれのある種のリストを海の生物に関しても作成すること、持続可能な漁業を推進すること、震災の影響をふまえた沿岸域の保全・復興施策を講じること、など、こうした点についての施策強化が期待されています。

そこで、今回のフォーラムでは、東北の津波被災地における復興や、水産資源の管理のあり方、海洋保護区の設定の妥当性についても、議論を深めました。行政からも水産庁、国土交通省、環境省から複数の担当者の登壇を得た、貴重な機会となりました。

WWFジャパンからも水産担当者が、宮城・福島で展開している「暮らしと自然の復興プロジェクト」について発表。さらに、水産資源の管理の重要性について述べ、MSC(海洋管理協議会)やASC(水産養殖管理協議会)といった持続可能な漁業認証制度を紹介しました。こうした海の環境に配慮した水産物につけられるエコラベル制度の促進は、経済的インセンティブを生み、すぐれた漁業の事例拡大につながることを指摘しました。

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東日本大震災の折、津波で被災した沿岸部。茨城県大洗町にて

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被災地で再開されつつある漁業。その復興には自然の持つ生命力が欠かせない

また、最後の総合討論では、複数の参加者から、多くの利害関係者(ステークホルダー)が意見を出し合い、合意点を見つける場(プラットフォーム)が、今後とも増えていくことを求める声が出されました。

海の生物多様性保全の今後にむけて

海の生物は、漁業の対象となる水産資源ばかりではなく、その命のつながりの中で、豊かな生物の多様性を生み出しています。

実効性のある法制度の整備と実施は、その減少や劣化に歯止めをかけることのできる、確かな施策の一つといえます。これまで、海の生物については、絶滅のおそれのある野生生物であっても、その大半は環境省の「レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)」には名前が記載されてきませんでした。「海の生き物は資源である」という認識のもと、こうした生物は水産庁の管轄下に置かれ、生き物の「区分け」がなされてきたのです。

しかし、海の生物多様性を、より広い視野のもとで、長期的な展望をもって守ってゆくには、こうした行政的な区分を超えたところで、希少な種の保護や、環境の保全、その賢明な利用につながる施策を考えてゆかねばなりません。

今回はそうした生物多様性の保全をめぐって、海がかつてないほど注目を集めるようになったことが実感されるフォーラムとなりました。

また、今回のフォーラムには、生物多様性国家戦略のとりまとめにあたる省庁の担当者および生物多様性国家戦略小委員会の委員が複数出席していたことから、この日聞かれた数々の論点や意見が、今後出てくる新しい生物多様性国家戦略の案に反映されるものと、主催した各団体では期待しています。

【開催概要】

名称 海の生物多様性フォーラム「日本の海の今を考える」新たな生物多様性国家戦略に向けて
日時 2012年5月19日(土)
内容

1部:講演 「日本の海洋生物多様性をどう考えるか」
白山義久(海洋研究開発機構理事・海洋生物学 メイオベントス学)

2部:パネルデスカション
NGO/研究者から問題提起。各省庁から政策上の展開の解説。ディスカション。

セッション1:東北
「津波被災地の沿岸域、生物多様性と復興・復旧を考える」
セッション2:生物
「回遊する生物の減少、水産資源の管理を考える」
セッション3:空間
「日本の海洋保護区8.3%、その内容を考える」  

3部:総合討論 「新たな生物多様性国家戦略に向けて」 

場所 フォーラムエイト 8階クィーンズスクエア
東京都渋谷区道玄坂2-10-7 新大宗ビル 
参加者 約150名
主催 日本自然保護協会、WWFジャパン、日本野鳥の会
共催 生物多様性保全・法制度ネットワーク
備考 平成24年度の地球環境基金の助成によって開催

 

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