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気候変動に関するCOP31会議について

この記事のポイント
気候変動問題の解決を目指し、ほぼ全ての国が参加して脱炭素化に取り組むことを約束した「パリ協定」。石油や石炭に依存した今のエネルギー社会を、大きく変える方針となったパリ協定は、今や世界経済をも動かす世界共通のルールとなっています。そのパリ協定に関する国連会議COP31がトルコ・アンタルヤで、2026年11月9日~20日まで開催されます。地球の平均気温上昇が1.5度を超えることが不可避となる中、「1.5度目標」を堅持しつつ、急速に脱炭素を進め甚大化する気候変動の悪影響への強靭性を高める気候アクションを加速することができるのか。不安定化する地政学の中で、多国間協力を保つことができるのかに注目が集まります。
目次

気候アクションを加速するための国際会議COP31

基本情報
会議名:国連気候変動枠組条約第31回締約国会議(COP31)
開催期間:2026年11月9日~20日
議長国:トルコ共和国
交渉議長国:オーストラリア連邦
開催地:トルコ・アンタルヤ

 2026年も、欧州における熱波や森林火災、ネパールにおける壊滅的な土砂災害、また日本でも各地で深刻な洪水被害など、気候危機は想定していた以上のスピードと深刻さで、世界各地を襲っています。

 2026年9月、国連環境計画(UNEP)は世界の平均気温の上昇が1.5度を超えることは避けられず、世界は数年以内にオーバーシュートの世界に突入するといった報告書を発表しました。オーバーシュートの世界では、気候変動による様々なリスクが非直線的に高まり、すでに「ティッピング・ポイント(転換点)」超えてしまったとされる温水域サンゴ礁生態系に加えて、他の重要なシステムもティッピング・ポイントを超えるリスクが高まると警鐘を鳴らしています。

 オーバーシュートの世界において、気候変動の悪影響を最小限に抑えるためには、ピーク気温を少しでも低く抑え、できるだけ早く1.5度以下に下げることができるかが重要になります。今後の1.5度目標は、「気温上昇1.5度が超えないようにする」から「気温を一刻も早く1.5度以下に戻す」と意味を変えながらも、世界の重要な目標水準であり続けます。今後、脱炭素を進めることと気候危機の悪影響への備えを進めることの両方をますます加速していかなければなりません。

 そんな中、地中海に面したトルコ南西部の都市アンタルヤで2026年 11月9日から20日までCOP31(国連気候変動枠組条約第31回締約国会議)が開催されます。

COP31が開催されるアンタルヤは、地中海に面した歴史溢れる都市。多国間協力のもと、気候アクションを加速するための土台を作れるかが問われる。
© Michel Gunther / WWF

COP31が開催されるアンタルヤは、地中海に面した歴史溢れる都市。多国間協力のもと、気候アクションを加速するための土台を作れるかが問われる。

COPとは

 気候危機を止めるには、世界中の国々が協力して対策を進めなければなりません。そのための世界共通のルールを決めているのがパリ協定であり、毎年11月頃に開催されるCOP(Conference of the Parties : 締約国会議、コップ)はそのルールを議論するための場としての重要な機能を果たしてきました。

 一方で、これまでの交渉により、パリ協定のルールの整備は相当程度進んでおり、近年のCOPの議論では、パリ協定で決められたことを、どのように実際のアクションに移していくか、そしてどのようにそういったアクションを加速していくかにより焦点があてられるようになっています。

 こうした役割の変化の中で、近年は、COPの場で締約国政府だけではなく民間企業や自治体、研究機関、NGOなどにより様々なイニシアティブ(先導的な誓約や取り組みなど)が発表されることも多くなっています。これらのイニシアティブは特定の課題に対して自主的かつ具体的な目標を掲げることが多く、難航しがちな交渉を後押しする推進力になるだけでなく、世界経済や人々の暮らしにも大きく関わってきます。

▼解説:国連気候変動会議 (国連気候変動枠組条約締約国会議(COP))のまとめ
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3527.html

COPでは締約国による交渉に加えて、さまざまな主体により多くのイニシアティブが発表されます。COPで発表されることの多くが経済活動や暮らしにも影響を及ぼします。
© WWF Japan

COPでは締約国による交渉に加えて、さまざまな主体により多くのイニシアティブが発表されます。COPで発表されることの多くが経済活動や暮らしにも影響を及ぼします。

議長国トルコと交渉議長国オーストラリア

2国によるリーダーシップは新方式、連携できるかが鍵

 通常、COPは議長国が会議を開催し、交渉をリードします。議長国の力量はCOPの成否を左右するため、非常に重要です。
 ただ今回のCOP31はやや特殊です。開催国は議長国トルコですが、交渉議長国はオーストラリアが務め、2つの国が役割を分担して会議をリードすることになっているためです。実はこれまでにも、様々な事情で議長国と別の場所でCOPが開催されたことありましたが、今回のように明確に2カ国が役割分担をしてリーダーシップを発揮するCOPは初めてとなります。

議長国:トルコ共和国

交渉議長国:オーストラリア連邦

ムラト・クルム
環境・都市・気候変動大臣

クリス・ボーウェン
気候変動・エネルギー大臣

主な役割
COP31、リーダーズサミットの開催
COP31アクションアジェンダ
国連ハイレベルチャンピオンの指名
豪州が提案する若者チャンピオンの指名
など 注力するトピック
電化、廃棄物ゼロなど

主な役割
プレCOPの開催(太平洋島しょ国にて)
交渉議題のリード、交渉テキストの作成
各議題のファシリテーターの選出
交渉結果の推進
など 注力するトピック
島しょ国との連携など

出典:COP31ウェブサイト、トルコ・オーストラリアパートナーシップモダリティより 写真:©UNFCCC
 

 先進国であるオーストラリアと新興国であるトルコがお互いの異なる立場を活かして連携し、先進国と途上国の溝を埋める橋渡しができれば、交渉を大きく前進させる可能性があります。

 一方で、それぞれが連携せずに、バラバラに動くような形になってしまえば、交渉はかえって停滞するリスクもあります。両国がどのような連携・協議・相互尊重・責任共有を見せることができるかが、COP31の成否を握ります。

今回のCOPは議長国と交渉議長国という2か国によるリーダーシップ構造。過去にもCOP23(議長国フィジー、開催地ボン)やCOP26(議長国ペルー、開催地マドリード)などのように議長国と開催地が異なる例はあったが、2か国がリーダーシップを役割分担するのは初めて。トルコとオーストラリアが連携できるかどうかがCOP31成功の鍵となる。(左:サイモン・スティルUNFCCC事務局長、中央:ムラト・クルム環境・都市・気候変動大臣、右:クリス・ボーウェン気候変動・エネルギー大臣)
© UNFCCC

今回のCOPは議長国と交渉議長国という2か国によるリーダーシップ構造。過去にもCOP23(議長国フィジー、開催地ボン)やCOP26(議長国ペルー、開催地マドリード)などのように議長国と開催地が異なる例はあったが、2か国がリーダーシップを役割分担するのは初めて。トルコとオーストラリアが連携できるかどうかがCOP31成功の鍵となる。(左:サイモン・スティルUNFCCC事務局長、中央:ムラト・クルム環境・都市・気候変動大臣、右:クリス・ボーウェン気候変動・エネルギー大臣)

COP31の注目ポイントは

 議長国トルコと交渉議長国オーストラリアは、COP31を「実施のCOP」そして「未来のCOP」と位置付けています。つまり、これまで交渉で決まったことを具体的なアクションに繋げることを重視しています。以下ではWWFジャパンがCOP31で特に注目している4つの点についてご紹介します。

注目点【1】 緩和と適応両面を加速するための土台に合意できるか
注目点【2】 電化イニシアティブ
注目点【3】 「実施」のカギを握る非国家アクター
注目点【4】 化石燃料からの転換(脱却)・森林破壊の停止に関する動きは

注目点【1】 緩和と適応両面を加速するための土台に合意できるか

 2026年のCOP交渉は、大きな話題を呼ぶような目玉議題は予定されていません。それでも今回のCOPでは、いくつかの重要な論点が議論されます。これらの議論は、温室効果ガス削減(緩和)と、気候変動の悪影響への備え(適応)を加速し、1.5度目標を堅持するための土台を作るものです。交渉議長国オーストラリアが主導して、トルコと協力しながら進めていく必要があります。

排出削減を深堀することができるか

 世界の平均気温上昇は数年以内にパリ協定が目指す1.5度を超過してしまうと国連報告書は指摘しています。この、「1.5度オーバーシュート」の期間を少しでも短く抑えるには、今この瞬間に排出削減を早急に進めることが何よりも重要です。

 そういった中、COPの交渉で唯一、「緩和」に焦点を当てている議題が「緩和作業計画」です。これは2030年までの緩和を少しでも加速するための仕組みとして、2022年からスタートしました。緩和作業計画は、現在の予定ではCOP31で役割を終えることになっています。

 もし緩和作業計画が終了してしまうと、気候変動対策の両輪の一つである緩和を議論する議題がなくなります。2030年そして次の目標期間である2035年に向け、排出削減を深堀するために、緩和作業計画をより実効性を保てるような仕組みに進化させながら継続することが期待されていますが、これをめぐっては各国の思惑が一致しません。合意ができるのかどうかが注目です。

適応の実施体制を具体化できるか

 COP28では、パリ協定第7条1項が定める世界全体の適応目標(Global Goal on Adaptation:GGA)の達成を具体化するための枠組みが採択され、水資源、食料・農業、健康などの分野別の2030年目標が定められました。そして、COP30では、その進捗を測る59の「ベレン適応指標」が採択されています。

 さらに、それらの指標を実際に運用できるようにするための2年間の検討プロセス「適応に関するベレン‐アディスビジョン(The Belém–Addis Vision on Adaptation)」の設置が決定しました。

 COP31では、これらの指標を実際に運用できるようにするための環境整備が焦点となります。特に、COP30で合意した2035年までの適応資金3倍化の目標とどのように連動させるのかや、「適応に関するベレン‐アディスビジョン」におけるタスクフォースの構成や役割の決定、ガイダンス策定などに合意できるかが重要です。

 これまでのところ、適応資金3倍化の位置づけやタスクフォースの性質をめぐり、GGAについては、途上国と先進国の間で依然として隔たりが残っています。気候変動の影響が深刻化するなか、COP31では対立を乗り越え、各国による適応計画の策定・実施の後押しにつながる具体的な合意が求められます。

© WWF-India

交渉の成否を握るのは「資金」

 途上国と先進国の溝を埋め、交渉を前進させる上で、双方が信頼を醸成する鍵の一つとなるのが、資金や技術的な支援の供与に関する議論です。

 2024年にアゼルバイジャンで行なわれたCOP29では、先進国が主導して、途上国への資金支援を民間資金・公的資金を合わせて、2035年までに年間3000億ドル以上に増やしていく新たな目標が決まりました。
 また、政府に限らぬ全ての主体に対して、途上国への資金の流れを2035年までに総額で年間1.3兆ドルに増やすよう呼びかけることにも合意しました。
 しかし、この「3000億ドル目標」は、世界中で必要とされる気候資金の額には到底足りておらず、特に途上国の大きな不満が残る合意でした。

 さらに、2025年のCOP30では、気候変動の悪影響に準備していくための適応資金を2035年までに3倍に増額する努力目標が決まりましたが、どのように具体化するかは明確になっていません。そして、気候変動により既に発生している損失と損害に対する支援の仕組みである「損失と損害基金」については、現在、最初の支援案件の採択が進められていますが、当初予定されていた配分額の10倍以上の申請が、100を超える国から提出されており、資金の補充が大きな課題となっています。その一方で、最近では、先進国の間で国連への拠出や途上国支援の予算を削減する動きもあり、途上国の不信感が高まっています。

 このため途上国グループは先進国の公的資金拠出に関するパリ協定第9条1項に焦点をあてた議論をCOP31で実施することを要求しています。一方、先進国は、先進国以外の国からの貢献や民間資金なども踏まえた9条全体の議論を求めており、意見が鋭く対立しています。

 資金に関する議題は、緩和や適応、その他さまざまな議題の「実施」の裏付けともなる議題であるため、資金に関する交渉が難航すると、その他の議題も合意ができなくなります。また上述の世界全体の適応目標(GGA)のように、技術的な議論であっても資金に関する論点が盛り込まれ、交渉が紛糾するような例もあります。

 財政状況が苦しくなる先進国にとって、途上国を支援するための気候資金を拠出するのは容易なことではありません。しかし、先進国にはこれまでの排出してきたGHGに対する歴史的な責任があります。また、気候変動の影響に脆弱な途上国にとっては、気候変動に適応し脱炭素を進めていくための資金支援は必要不可欠です。

 加えて途上国の気候変動への適応を支援することは、グローバル化した経済における複雑なサプライチェーンを気候変動の影響から守ることにもつながります。ひいては先進国の経済や消費者にとっても大きなメリットがあることを忘れてはいけません。

2021年記録的な洪水に見舞われたブラジルの村の様子。途上国は気候変動の悪影響に脆弱と言われる。世界各地で起きる災害は、グローバル化したサプライチェーンを混乱させ、日本経済にも大きな影響がある。
© Marcio James / WWF-Brazil

2021年記録的な洪水に見舞われたブラジルの村の様子。途上国は気候変動の悪影響に脆弱と言われる。世界各地で起きる災害は、グローバル化したサプライチェーンを混乱させ、日本経済にも大きな影響がある。

交渉における、もう一つの注目は「科学の役割」

 気候変動に関する国際交渉は、各国の国益や経済・安全保障・文化など様々な要素が複雑に作用しあうために本来的に非常に政治的なものです。しかしながら、気候変動の原因やその影響・対策は、自然科学・社会科学による裏付けが示されています。

 各国の様々な思惑がありつつも、気候交渉の大きな方向性を導くのは常に科学でなければいけません。IPCCは気候変動交渉における科学的裏付けを支えてきた重要な機関・報告書です。しかし、近年、一部の国々により科学の役割を軽視する動きがみられています。

 2026年から2028年にかけて、パリ協定のPDCAサイクルである「グローバル・ストックテイク」の第2回目が行なわれます。
 このプロセスに並行し、気候変動に関する最新の科学的知見であるIPCCの第7次統合報告書の作成が進みます。最新の科学的知見を、第2回グローバル・ストックテイクにどのように反映できるか、今後の動向が注目されています。

© ESA / T. Reiter

注目点【2】 電化イニシアティブ

 パリ協定採択から10年以上がたち、これまで各国が約束してきた目標を、具体的な行動へと移行する必要性はますます高まっています。そのため近年のCOPでは、政府間交渉に加え、企業や自治体、金融機関、NGOなどが自発的なイニシアティブやパートナーシップを立ち上げることが増えており、「アクションアジェンダ」として重視されています。

 アクションアジェンダは、排出削減や適応に向けた具体的な行動を加速し、実質的な成果を生み出すだけではなく、政治的な機運を高めることで交渉を前進させる役割も担っています。このため、交渉とアクションアジェンダは相互補完的な役割を果たしています。

 今回の議長国トルコも、アクションアジェンダのもとに、10の優先テーマを発表しています。その中でもクリーンエネルギー移行における重点分野の一つとして取り組んでいるのが「電化」に関するイニシアティブが特に注目を集めています。

議長国トルコが提示する10の優先テーマ
ゼロ・ウェイスト(廃棄物削減) 海洋
食料安全保障 気候変動に強靭な都市
若者と教育 グリーン産業
クリーンエネルギー移行 強靭な保健システム
環境条約の連携(リオ・シナジー) 実施のための橋渡し
出典:COP31ウェブサイトより

なぜ今、「電化」なのか

 2024年の世界の温室効果ガス排出量では、化石燃料の使用に由来する二酸化炭素が約69%を占めました。日本でも、2024年度の温室効果ガス総排出量に占めるエネルギー起源CO2の割合は約87%です。気温上昇を抑えるには、省エネでエネルギー需要を減らすとともに、石炭、石油、ガスといった化石燃料の利用を段階的に減らす必要があります。

 その手段の一つが「電化」です。電化とは、最終用途での化石燃料の直接燃焼を電力へ置き換えることを指します。例えば、ガソリン車を電気自動車に、化石燃料ボイラーをヒートポンプに替えることのほか、製鉄方法を高炉から電炉に転換することも含まれます。「国際再生可能エネルギー機関(IRENA)」によれば、1.5度目標に整合的なシナリオにおいて、世界の最終エネルギー消費量に占める電力の割合は、2050年に54%となる必要があるとされます。

 もちろん、すべての用途を直ちに電化できるわけではありません。高温の産業熱や運輸の一部などでは、再生可能エネルギーを活用しつつ、持続可能な燃料やグリーン水素の使用も選択肢となりえます。それでも、電化は化石燃料からの転換を図るうえで、不可欠の取り組みだと言えます。

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2035年までに35%の電化目標

 議長国トルコは、2026年6月、世界の最終エネルギー消費量に占める電化率を2035年までに35%へ高める目標を発表し、同9月には ”35-by-35 Global Electrification Pledge” (35-by-35世界電化誓約)を公表。そのなかでは、運輸・建築物・産業など経済全体での電化を推進すること、送配電網の整備や柔軟性の確保を通じてレジリエンスの高い電力システムを構築すること、特に後発発展途上国や島嶼国などにおける資金供給や投資を拡大すること、などが示されています。

 同じく2026年6月には、住宅・産業・運輸部門でクリーンエネルギーによる電化を加速させるための国際プラットフォームとして、“Electrify Now”が立ち上げられました。ここには、COP30議長国ブラジル、COP31共同議長国トルコ・オーストラリア、COP32議長国エチオピアのほか、カナダや欧州委員会、韓国などを含む15か国・地域と、50を超える企業連合やシンクタンク、市民団体が参加しています。
 その取り組みの柱としては、世界各地域における電化の取り組みと目標を拡大するとともに、電化・再エネ・蓄電池・送電網の普及を阻害する制度・投資上の障壁を解消し、特に新興国・途上国のエネルギー強靱化と経済発展を支援することが挙げられています。

 COP31では、これらの動きで、今後の国際交渉や各国の気候変動対策の後押しが期待されます。現状、2035年の電化目標は、拘束力のある国際目標ではありません。しかし、機運の醸成を通じて、議論・対策がいっそう加速させる役割を担いうるのです。

電化は再エネ拡大と両輪で

 以上のように、電化については目標の設定やイニシアティブの立ち上げなど、盛んな動きが見られます。重要なのは、電化の取り組みの強化が、再エネ導入をはじめとした既存の気候変動対策を妨げるのではなく、相乗効果を発揮できるようにすることです。

 電化は、化石燃料を燃焼する従来機器と比べるとエネルギー効率が良いため、省エネとしての効果が期待できます。その一方で、電化の効果を最大限に発揮し、さらなる排出削減をするには、供給される電力がグリーンな方法で発電される必要があります。
 例えば2024年度の日本では、発電電力量の67.5%を火力発電が占めており、この状況を放置したまま電化のみ進めても、効果は限定的です。そのため電化は、省エネや再エネの拡大、送配電網の整備、蓄電や需要側のディマンドレスポンスなどの普及と一体で進めなければなりません。

 現に、世界の市民社会からは、上述の2035年電化目標を歓迎しつつ、電化に用いる電力は再生可能エネルギーで賄われなければならないことなどを主張するオープンレターが公表されています。こうした声に耳を傾けて、実効性ある形で、電化が推進されることが望まれます。

 具体的には、国際社会はCOP28において、2030年までに世界全体で、再生可能エネルギーの設備容量を3倍、エネルギー効率の改善率を2倍にすること、そして化石燃料からの転換に向けた努力を加速させることなどに合意しました。
 これらと一体的に進められるような形で、上述の議長国イニシアティブが、COP決定のなかに明確に位置づけられることが求められます。加えて、各国の削減目標(NDC)や後述する化石燃料からの転換ロードマップなど、既存の政策枠組みと統合的に実施していくことも重要な論点です。COP31では、これらについて、どこまで議論を深められるかが注目されます。

© Shutterstock / DR Travel Photo and Video / WWF

注目点【3】: 「実施」のカギを握る非国家アクター

 COP31では、企業や都市・自治体、市民団体などの「非国家アクター」が、議長国が提案した電化をはじめとするアクションアジェンダの「実施」にいかに貢献できるかにも注目です。

 近年のCOPでは、政府間交渉に加え、こうした非国家アクターの取り組みを推進する自主的なイニシアティブやパートナーシップが存在感を増し続けてきました。国際情勢の不確実性が高まる中でも、多くの企業や都市、地域コミュニティが脱炭素化や気候レジリエンス強化に向けた行動を継続しています。その取り組みはときに政府間交渉を後押しする役割を果たし、各国政府が政策を強化するシグナルにもなっています。

アクションアジェンダにおける非国家アクターの役割

 ブラジル議長国の下で開催されたCOP30では、パリ協定成立以降に蓄積された非国家アクターの自発的な取り組みを集結させ、世界全体でさらなる行動の加速に結び付けるため、「アクションアジェンダ」が新たな枠組みとして推進されました。

 これは、 COP28で合意された第一回グローバル・ストックテイク(各締約国が掲げる目標や対策の進捗を5年ごとに世界全体で確認し、世界全体でパリ協定の実施強化につなげる仕組み)から明らかになった課題の解決に向けて、政府と非国家アクターが一体的に取り組み、パリ協定の実現につなげることを目的としています。

 COP30におけるアクションアジェンダを議長国ブラジルと共に推進した国連気候ハイレベルチャンピオン(以下「ハイレベルチャンピオン」)は、この枠組みを単年で終わらせることなく2030年にかけて継続するための5か年ビジョンを COP30期間中に発表しました。

 この5か年ビジョンを基盤とし、前述のとおり、COP31では議長国トルコが優先する、エネルギー、産業、都市、物流など10の課題がアクションアジェンダとして策定されました。非国家アクターは、政府だけでは実現できないそれらの課題を、企業の投資や自治体の施策、市場の変化につなげる「橋渡し役」であり、アクションアジェンダの実施を担う中心的な存在です。

COP31に向けて加速する非国家アクターの取り組み

 9月、アメリカ・ニューヨーク市で開催された恒例のClimate Week NYCでは、アクションアジェンダの流れを受け、非国家アクターたちが気候変動対策の具体的な実践や連携を相次いで発表しました。中でも特に、議長国トルコが掲げる電化目標「35 by 35」の実現に向け、輸送・建物・産業分野の電化を加速する取り組みが注目を集めました。

 例えばブラジルでは、トラックメーカーや物流事業者、金融機関などが連携し、サンパウロとリオデジャネイロを結ぶ物流ルートの電動化を進めるゼロエミッション貨物回廊「e-Dutra」が展開されています。こうした取り組みは今後、他地域への展開も期待されています。

 こうした動向は、非国家アクターの役割が単なる先進事例の共有を超えて、解決策を実際に社会に広げる段階に入りつつあることを示しています。アクションアジェンダが目指す「実施の加速」が、すでに具体的なプロジェクトとして動き始めていると言えるでしょう。

日本も見逃せない非国家アクターの潮流

 気候変動対策を推進する非国家アクターの取り組みは、国際情勢に左右されることなく世界各地で続いています。
 パリ協定を離脱したアメリカでは、州政府や自治体などが気候変動対策を引き続きリードしており、化石燃料からのエネルギー転換への投資も伸び続けています。
 また、Under2 CoalitionやC40といった都市・地方政府の国際ネットワークでは、脱炭素化や気候レジリエンス強化に向けた取り組みが進められており、We Mean Business Coalitionなどの企業の国際ネットワークも再生可能エネルギー調達や電化の拡大を後押ししています。

 こうした動きは、日本企業にとっても重要な意味を持ちます。多くの日本企業はグローバルなサプライチェーンや国際市場を通じて世界とつながっており、再生可能エネルギーの導入や電化、排出削減に対する期待は今後も続くと考えられます。
 政治環境の変化に注目が集まりがちですが、企業や自治体、金融機関などの非国家アクターが生み出す市場や投資の流れもまた、世界の脱炭素化の方向性を左右する重要な要素です。

 COP31では、アクションアジェンダを通じてこうした取り組みをどこまで拡大できるのかに注目が集まります。非国家アクターによる行動が各国政府の政策や市場にどれだけ大きな影響を与え、世界全体の実施強化につながっていくのか。その成果が問われることになりそうです。

COP30ではアメリカの非国家アクターネットワーク「America Is All In」が存在感を発揮。主催したイベントには、会場に入りきれないほどの人が集まり、大きな注目を浴びた。
© WWF-Japan

COP30ではアメリカの非国家アクターネットワーク「America Is All In」が存在感を発揮。主催したイベントには、会場に入りきれないほどの人が集まり、大きな注目を浴びた。

注目点【4】 化石燃料からの転換(脱却)・森林破壊の停止に関する動きは

 温室効果排出削減のために、最も重要となるのが、一刻も早くエネルギーシステムにおいて化石燃料依存から転換(脱却)していくことです。また、森林破壊を2030年までにゼロにすることも、気候変動対策・生物多様性保全の観点から最も効果が高い対策の一つとされています。これらは、2023年COP28の第1回グローバル・ストックテイク(GST1)でも、各国が達成すべき目標として合意がされています。

 この二つの重要な論点を具体化していくために、COP30の議長国ブラジルは議長国イニシアティブとして、ロードマップをCOP31に向けて示していくことを発表しています。

交渉の外で化石燃料からの転換の機運を高めることができるか

 これまでのところCOP31議長国のトルコからは、化石燃料からの転換に関する強い発信はありません。また交渉議長を務めるオーストラリアは、クリーンエネルギーへの転換を重点課題に掲げていますが、化石燃料からの転換そのものを前面に打ち出しているわけではありません。

 このようにCOP31の正式な交渉や議長国イニシアティブの中で、化石燃料からの転換が大きなテーマとなるかは、現時点では不透明です。一方で、交渉や議長国イニシアティブの外では、化石燃料からの転換に向けた動きが着実に進んでいます。

 その一つが、2026年4月にコロンビアのサンタマルタで開催された、化石燃料からの転換をテーマとする初の国際会議です。各国政府や市民社会などが参加し、脱却に向けた国際協力や資金調達などについて議論が行われました。また、各国のロードマップ策定を後押しする取り組みが進められており、COP31では関連イベントや新たな動きの発表も期待されます。

 既にロードマップは、フランス、オランダ、ドイツなどが発表。COP31でも非公式なイベントやロードマップの追加発表を通じて、取り組みがさらに広がることが期待されます。

 化石燃料脱却というテーマは正式な交渉プロセスで扱うのは、非常に政治的で困難な論点ですが、こうした動きで議論の機運を高め、将来的に機が満ちた際には、交渉プロセスを後押しする力になる可能性があります。

森林破壊停止の議論は

 森林破壊・森林劣化を2030年までに停止・反転させることは、温室効果ガスの排出削減と生物多様性の保全の両面で重要です。FAOの「世界森林資源評価2025」によると、世界では2015~2025年に年間約1,090万ヘクタールの森林が失われています。また、森林破壊・森林劣化は世界のCO₂排出量の約11%を占めると推計されており、森林保全は気候変動対策においても重要な課題です。

 2023年のCOP28で採択された第1回グローバル・ストックテイク(GST)でも、森林破壊・森林劣化の停止・反転に向けた取り組みの強化と、そのための資金・技術・能力構築支援の重要性が確認されました。一方で、その実現に向けた具体的な行動の道筋や資金動員の方法は十分には示されていませんでした。このギャップを埋める取り組みの一つとして、COP30議長国ブラジルは、2030年までの目標達成に向けた「森林破壊・森林劣化の停止・反転に関するロードマップ」の策定を掲げ、検討を進めています。
 
 このロードマップは、熱帯林だけでなく、温帯林や北方林、マングローブ、泥炭地なども対象に、各国が既存の政策や資金メカニズムを活用しながら森林保全を進めるための行動の道筋を示すものです。

新たな国際交渉や法的義務を設けるのではなく、各国の政策、資金、技術協力などを結びつけ、既存の合意を実際の行動につなげることを目指しています。森林破壊・森林劣化の停止・反転に向けた取り組みは、もはや森林分野だけの課題ではなく、気候変動、生物多様性、持続可能な開発を同時に達成するための重要な鍵となっています。

COP31では、このロードマップを具体的な政策や国際協力にどう結びつけ、2030年までの森林保全を加速できるかが注目されます。
 
 森林保全を実際に進めるには、継続的な資金の確保も欠かせません。その手段として注目されているのが、熱帯林を保全する国々に対し、森林の保全実績に応じて長期的な資金を提供する「トロピカル・フォレスト・フォーエバー・ファシリティ(TFFF)」です。

 TFFFはCOP30で立ち上げられ、森林を守ることが経済的な利益にもつながる画期的な仕組みとして注目されました。2026年9月には英国が4億ポンドの投資意向を表明し、発表済みの出資・投資意向は約73億米ドルとなりました。一方、当初の資金調達目標や運営体制の確立に向けては課題も残っています。COP31では、森林ロードマップによる政策面の後押しと、TFFFなどの資金メカニズムを通じた支援の拡大が、森林保全の実効性を高められるかに注目です。

COP30においてブラジル政府はTFFFの創設、およびそれに先駆けて最初の出資国として10億米ドルの出資を発表した
© Jacqueline Lisboa / WWF-Brazil

COP30においてブラジル政府はTFFFの創設、およびそれに先駆けて最初の出資国として10億米ドルの出資を発表した

COP31は多国間協力の試金石

 近年、世界の地政学が急速に不安定化しています。自国第一主義や国連システムへの批判も強まっています。しかし、市場の失敗によりもたらされる気候変動や環境問題といった地球規模の課題は、外交努力と多国間協力なしに解決することはできません。

 実際にパリ協定は、世界の気温上昇抑制に非常に大きな成果を挙げています。パリ協定がなければ、世界の平均気温は今世紀末に4度も上昇すると予測されていましたが、パリ協定のもと各国が掲げるNDCや政策を考慮すると、現在の気温上昇予測は、2.3~2.5度とされています。これは、気候変動の悪影響を最小限に抑えるための1.5度目標にはまだ足りないものですが、確実に世界を正しい方向に軌道修正していることも間違いありません。

 パリ協定は、外交努力・多国間協力が確実に機能し得るということを示しています。不確実性を増す現在において、気候変動問題を超えて、COPの意義はますます大きくなっています。

WWFはCOP31に以下を期待

WWFは、COP31で特に以下の点が達成されるよう、期待しています。

  1. 気候アクションの実施の加速
    ・COP31を、パリ協定1.5度目標に整合したGST成果の「実施」を具体化する会議とすること。
    ・NDC、産業脱炭素化、化石燃料からの移行、公正な移行(Just Transition)を具体的な行動につなげる。

  2. 気候資金の大幅拡大
    • 先進国から途上国への気候資金を強化する。
    • 2035年までに適応資金を少なくとも3倍にするための具体的な道筋を示す。
    • 損失と損害基金への予見可能な資金拠出を確保する。
     
  3. 資金の流れ全体をパリ協定に整合させる
    • 資金の流れをパリ協定に整合させる議論を前進させ、政府・金融機関・企業が1.5℃目標に沿って投資判断を行うための実践的な指針を示す。
    • 化石燃料補助金の段階的廃止や、再生可能エネルギーや公正な移行への投資拡大を促進する。
     
  4. 実社会での行動加速
    • 交渉だけでなく、アクションアジェンダやロードマップを通じて実装を加速する。
    • 化石燃料からの移行、森林減少の停止などの具体的な取り組みを前進させる。
    • 先住民族や脆弱なコミュニティの参加と権利保護を強化する。

WWFジャパンでは、COP31 の開催期間中、専門家を派遣し様々な議論やイベントに参加します。会議の様子や議論の重要なポイントを、本サイトやSNSを通じて発信する予定です。ぜひご注目ください。

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