ホウロクシギなど渡り鳥の絶滅危機のレベルが上昇
2015/11/29
2015年10月29日、IUCN(国際自然保護連合)は発表した最新版のレッドリスト「絶滅のおそれのある野生生物のリスト」の中で、24種の鳥類について絶滅危機のレベルが上がったことを明らかにしました。この中には、日本の沿岸や東アジアを代表する大陸棚の海、黄海を「渡り」の中継地として利用している複数のシギ、チドリ類も含まれています。
日本に飛来する渡り鳥も
以前から危機が指摘されていたホウロクシギとオバシギについては、これまで「VU(危急種:絶滅危惧Ⅱ)」とされてきましたが、危機レベルが一つ上がったことで、「EN(絶滅危惧種:絶滅危惧ⅠB)」となりました。
また、オオソリハシシギ、トウネン、コオバシギ、サルハマシギ、ミヤコドリ、タゲリの6種も、「LC(低危急種:軽度懸念)」から、危機レベルが一つ上がり、「NT(準絶滅危機種)」に分類されました。
こうしたシギやチドリなどの渡り鳥は、5,000万羽にのぼるといわれ、毎年、東南アジア、オーストラリアなどの越冬地から、日本、中国、朝鮮半島、モンゴルなど経由して、ロシア、アラスカなどの繁殖地の間を行き来しています。
実際、22の国と地域をまたいだ地球規模の渡り鳥のルートは、「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ」と呼ばれ、世界に9つあることが知られる渡りルートの中で、もっとも種の多様性が高い一方、鳥の個体数が著しく減少しているエリアでもあります。
求められる東アジアの干潟の保全
下の図は、東アジア・オーストラリア地域フライウェイを利用している20種の絶滅の危機に瀕する渡り鳥が飛来する場所(繁殖地、中継地、越冬地)のうち、「国際基準を満たしている個体群(※推定個体数の1%/中継地の場合は0.25%)」が確認もしくは推測された場所を調査し、色別に表記したものです。
15個体群以上が確認された場所は、いずれも中国、韓国の黄海沿岸であることが分かります。日本も広範囲にわたって4-10個体群が確認されており、重要な渡り鳥にとって場所となっています。
こうした渡り鳥の保全を進める上でも、東アジア各地の湿地を国際的な知見から保全していくことは、急務といえるでしょう。
今回、一部の渡り鳥の危機のレベルが上がったことは、危惧すべきことですが、裏返して考えれば、これは個体数調査が継続的に実施され、現状を適切に把握できるようになったことの証でもあります。
現場での調査や保護に向けた精力的な取り組みと、国境をまたいだ情報の共有、連携の成果でもあるといえるでしょう。
黄海をはじめ、東アジアの湿地保全に現在取り組んでいるWWFも、今回の発表を受け、より活動に力を入れていきます。
東アジア・オーストラリア地域フライウェイ重要地域マップ
重要生息地の国際基準を満たした重要種の個体群が飛来した地域を色別に表示
※空欄の格子は、20種以外の渡り鳥の重要生息地を示しています。
出典
ホウロクシギ
【英名】Far Eastern Curlew
【学名】Numenius madagascariensis
【個体数】32,000羽
【個体数の変動】著しい減少
【絶滅危惧レベル】EN(絶滅危惧種/絶滅危惧IB類)
ホウロクシギは、IUCNのレッドリストで「VU(危急種/絶滅危惧Ⅱ類)」から「EN(絶滅危惧種/絶滅危惧IB類)」分類されました。世界的な減少傾向、特に重要な中継地である黄海の干潟の埋め立て、汚染による生息地の消失や劣化が深刻な脅威となっています。
【分類】東アジア、オーストラリア地域だけに生息する単型種。
【分布と渡り】
モンゴル北東部、中国北東部、シベリアからカムチャツカにかけての極東域で繁殖します。70%以上がオーストラリアで、小規模の個体群がニュージーランド、インドネシア、パプアニューギニア、中国南東部で越冬します。メスは、オスよりも、より南方で観察されています。生後3年は年間を通じて越冬地で過ごした後に渡りを始めます。
通常の渡りでは、上述の越冬地からノンストップで中国東部や黄海へ向かいます。繁殖地から越冬地に戻る南への渡りでは、多くが大陸を避け、日本を経由します。
日本では、鹿児島県吹上浜海岸(254羽、1997年5月)、長崎県諫早干潟(120羽、1996年9月)などで国際基準を満たすホウロクシギ個体群が記録されています。
オオソリハシシギ
【英名】Bar-tailed Godwit
【学名】Limosa lapponica
【個体数】133,000羽(L.l.baueri)、146,000羽(L.l.menzbieri)
【個体数の変動】著しい減少
【絶滅危惧レベル】NT(準絶滅危機種)
オオソリハシシギは、IUCNのレッドリストで「軽度懸念(LC)」に分類されていましたが、2015年の改訂で「準絶滅危惧(NT)」にランクが上げられました。中継地である黄海の干潟の埋め立て、汚染による生息地の消失や劣化が深刻な脅威となっています。
【分類】世界に6亜種が生息。そのうち、L. l. menzbieriとbaueriが東アジア、オーストラリア地域だけに生息しています。極東ロシアの繁殖個体群は独立した亜種L.l anadyrensisとの提案もあります。これがEAAFの第3の亜種と見なされれば、絶滅危惧レベルは、その小さい個体群サイズから「準絶滅危惧」もしくは「絶滅危惧Ⅱ類」と見なされるでしょう。
【分布と渡り】
亜種L.l. baueriは、アラスカの北岸、西岸で繁殖します。60-65%がニュージーランドで、残りがオーストラリア北部、東部で越冬します。ほぼ確実に同じ場所で越冬します。生後2-3年で繁殖可能となります。10%ほどが繁殖期にも越冬地に残ります(ほとんどが若鳥)。
北へ向かう渡りと、南へ向かう渡りのルートが全く異なっています。北への渡りでは、通常は、越冬地からノンストップで黄海へ向かい、そこで1ヶ月ほど過ごします。
亜種L. l. menzbieriは、シベリア北部のコリマ川東岸で繁殖します。大半がオーストラリア北西部で、一部は中国南部、台湾、東南アジア、インドネシアで越冬します。
日本では、熊本県荒尾海岸(900羽、2002年5月)、福岡県曽根干潟(781羽、2002年4月)で国際基準を満たすオオソリハシシギ個体群が記録されています。
ヘラシギ
【英名】Spoon-billed Sandpiper
【学名】Eurynorhynchus pygmeus
【個体数】140~480羽
【個体数の変動】顕著な減少
【絶滅危惧レベル】CR(近絶滅種/絶滅危惧ⅠA類)
ヘラシギは、地球上で最も絶滅の危機に瀕している渡り鳥です。東アジア・オーストラリア地域フライウェイに固有の渡り鳥です。2008年に絶滅危惧ランクは「CR(近絶滅種/絶滅危惧ⅠA類)」に上げられました。飼育繁殖プログラムも含めた最も保全が必要な鳥です。国際基準値を満たす個体数は、「1羽」です。
【分類】東アジア・オーストラリア地域フライウェイに固有
【分布と渡り】
極東ロシアのチチュク自治区から北カムチャツカの沿岸域で繁殖し、バングラデシュ、タイ、ミャンマー等で主に越冬します。
渡りの時には、カムチャツカ、サハリン、韓国、中国から東アジアの海岸を利用しますが、北へ向かう際には香港で、南へ下る際には日本で、よく観測されます。中国江蘇省の如東干潟でほとんどの個体が利用します。
日本では、東京湾(5羽、2003年9月)、博多湾(4羽、2007年8月)、佐賀県大授搦/北海道コムケ湖(いづれも2羽、2010年9月)、大阪北港南地区(2羽、2005年9月)、徳島県吉野川下流域(2003年9月)などで国際基準を満たすヘラシギが記録されています。
コオバシギ
【英名】Red knot
【学名】Calidris canutus
【個体数】50,500~62,000羽(C.c. rogersi)48,500~60,000羽(C.c. piersmai)
【個体数の変動】著しい減少
【絶滅危惧レベル】NT(準絶滅危機種)
コオバシギは、IUCNのレッドリストで「LC(低危急種/軽度懸念)」に分類されていましたが、世界的な減少傾向から判断し、「NT(準絶滅危機種)」にランクが上げられました。中継地である黄海の干潟の埋め立て、汚染による生息地の消失や劣化が深刻な脅威となっています。特に黄海につながる渤海では、6割以上の生息地が失われ、ごく限られた場所が残されるのみです。
【分類】世界に6亜種が生息。そのうち、C.c. rogersiとpiersmaiが東アジア・オーストラリア地域だけに生息しています。C.c. roselaariはアラスカと北極海に浮かぶウランゲリ島で繁殖しますが、アメリカ・太平洋フライウェイを利用します。
【分布と渡り】
亜種C.c. rogersiは、極東ロシア、チュクチで繁殖します。75%がニュージーランドで、残りがオーストラリアで越冬します。未成熟の若鳥は、年間を通じて越冬地にとどまります。
一方、piersmaiは、極東ロシア沖のノヴォシビルスク諸島で繁殖します。75%がオーストラリアで、残りがニュージーランドで越冬します。
北へ向かう渡りでは、基本的に越冬地からノンストップで黄海へ向かいます。ただ、ニュージーランドを発つ個体群の一部は、オーストラリア北部のカーペンタリアか、アジアのどこかを経由し、一方のオーストラリアを発つ個体群の一部は、インドネシア、フィリピンに立ち寄ります。
日本では、三番瀬、矢作川河口、大阪北港南、吉野川下流域、大授搦で数羽~十数羽が2014年秋の調査で確認されています。いずれも中継地の国際基準(推定個体数の0.25%)を満たす120羽以上は飛来していません。