講演録:シンポジウム「地球温暖化の目撃者」


2011年11月8日に東京、10日に大阪で、WWF主催・毎日新聞共催のシンポジウム「地球温暖化の目撃者 ~世界に広がる温暖化の影響、生の証言~」を開催しました。強大化した台風、永久凍土の融解、氷河湖の決壊による土石流…。地球温暖化はすでに世界各地で異常気象や海面上昇などによる影響を及ぼし始めています。シンポジウムでは、モンゴル、ケニア、ネパールから3人の「目撃者」を日本に招いて生の証言をお話しいただきました。各講演の抄録を以下にご紹介いたします。

大阪会場メッセージ「日本と世界に広がる温暖化の現実」
德川恒孝(WWFジャパン会長)

世界の人口は70億に

2011年の今年、地球の人口が70億に達したというニュースがありました。確か大阪万博のころは40億人ぐらい。2050年には90億人を超えるといわれています。この人口増加の割合よりも、エネルギー消費は急速に伸びています。果たして地球が、それだけの人をどういう生活水準で受け止めることができるのかというのが、問題の根本にあると思います。

都市で生活する人は、日本では人口の3分の2、世界では今年50%になりました。都市は環境を人工的に作った巨大なモノです。冬は暖房で暖かく、夏は冷房で涼しい。肌では外の気候や環境の変化を感じにくい。そんな人が地球の半分になっているのが現実です。

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德川恒孝(WWFジャパン会長)

巨大タンカーはすぐには止められない

30万トン級の巨大なタンカーをすぐには止められないように、エネルギーも明日からすべてクリーンにはできません。私たちは産業革命以来、石炭や石油を燃やし続けてきました。今になって止めようとしても5年、10年とかかるでしょう。止まるまでの間をどうするか、私たちが抱えている一番の大きな問題だろうと思います。

エネルギーも含めて資源の消費は、既に地球1個分の再生可能な量を突破してから十数年たっています。世界の中でどうやって平和を守りながら、環境をよくしていくのか、ものすごく選択肢の多いパズルを解かなければなりません。

手遅れにしないために

今回のシンポジウムで地球温暖化の目撃者にお話をいただきますが、都市生活者ではあまり気づかないような変化が世界各地では起きていて、少しずつ着実に進んでいることをまず知って欲しいと思います。そして、その小さなことが、実は大きなことであることをわかっていただきたい。孫たちが生きていくために、大人には何ができるのか。みんなが気づいたときに手遅れになっていないようにというのが、私の切なる気持ちです。

東京会場メッセージ「温暖化が動かす21世紀の世界」 
末吉竹二郎氏(国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問)

シンポジウムの冒頭に、WWFジャパン評議員であり、国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問を務める 末吉竹二郎さんから、「温暖化が動かす21世紀の世界」と題して日本や世界をとりまく社会の動きと地球温暖化に関する動向の解説がありました。

世界が「ティッピング・ポイント」を迎えている

昨年の世界の二酸化炭素排出量は、18億8,000万トンと至上最高の増加率でした。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2007年に発表した、気候変動に関する最新の科学的な知見をまとめた第四次報告書によれば、最悪の場合2100年に世界の平均気温が4度上がるとしていますが、この増加量はそれを上回ります。

10月にアメリカで開催された、国連環境計画・金融イニシアチブの年次総会のテーマの一つは「ティッピング・ポイント(閾値(しきいち))」でした。そこを越えると予測不可能なことが起きる、ギリギリのポイントのことです。この会議では温暖化だけでなく、エネルギー、水、貧困など、世界のさまざまな問題がティッピング・ポイントを迎えつつあるという議論が行なわれたのです。私たちも危機感を持つべきではないでしょうか。

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末吉竹二郎氏
(国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問)

今日、私たちは右手に素晴らしい豊かさを手に入れた一方で、左手には深刻な地球規模の問題を手にしています。私たちがこうした問題を解決できないのは、経済の発展の仕方が間違っていたからです。経済発展のために環境が悪化しても構わない、自然資本は無限だと考えてきたわけです。WWFジャパンは、世界中の人々が日本人と同様の生活レベルを維持するためには、地球が2.3個必要になるといっています。たった一つの地球の中で、どうやって持続可能な経済を作り、成長させ、より多くの豊かさをもたらすか。これが、今我々が目指すべき方向性です。このままでは間違いなく破綻が来てしまうでしょう。

この20年間は失敗だった

2012年は、ブラジル・リオデジャネイロで開催された第一回地球サミットから20年という節目を迎え、再びリオで会議が予定されていますが、私は、この20年間は大失敗だったというところから議論が始まると思っています。もう二度と失敗を繰り返さないためにはどうすべきか、という議論が始まります。

私たちが豊かさと同時に大変な社会問題を持つことになった背景には、社会全体が衡平さや公正さ、正義を忘れていたからではと思います。温暖化だからCO2を減らせばいいという話ではなく、社会や国のあり方、個人の生き方までを含む問題を内包しているように思います。

私は、WWFジャパンを含む国内外のNGOのことを「世界の良心」と呼んでいます。世界にはたくさんの問題が起きていますが、それでも何とか地球がもっているのは、こうしたNGOの活動があってこそだと考えています。ぜひ、WWFジャパンや他のNGOの活動を応援していただくよう、お願いいたします。また同時に、今回刊行された書籍「地球温暖化の目撃者」を、皆様や、その周囲の方々の手に取っていただき、目撃者の証言を通して地球の現実の姿を知っていただければ、こんなに幸せなことはありません。

世界の目撃者からの証言

続いて、3カ国から招いたWWFの「温暖化の目撃者」からの証言に移りました。まずはネパールから、ユキヒョウ保護協会の会長であり、ネパールで農家とゲストハウスを経営しているチュンダ・シェルパ氏から、ヒマラヤの変化についてお聞きしました。

証言1:ネパール「変わりゆくヒマラヤの自然破壊と氷河」 チェンダ・シェルパ氏

私は、ネパール北東部のカンチェンジュンガという地域にある小さな村グンサの出身です。カンチェンジュンガは、世界で3番目に高い山です。私はゲストハウスを経営しており、小さな土地で自家用の作物もつくっています。カンチェンジュンガは美しさに恵まれたところです。その景色、人々、木々や川、そして、野生の生き物…あらゆるものの中に美が宿っています。

氷河湖の決壊による村の消失

しかし私は、このような美しさが、いつかすっかり色あせてしまうのではないかと危惧しています。温暖化によって、私の住む地域では既に生物多様性や生活が脅威にさらされています。1989年にナンガマの氷河湖が決壊して洪水が発生したとき、私は25歳でした。洪水は、私の住むグンサから歩いて1日の距離にある村々で人や家畜に大きな被害をもたらし、12以上の家屋と村1つが流されてしまいました。

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ネパール チュンダ・シェルパさん

私が若かった頃、カンチェンジュンガ氷河は巨大で、広大な面積を覆っていました。極域を除き、世界で最も広大な氷河の一つとされていましたが、現在は縮小してしまいました。氷河の融解が進み、新たに氷河湖が形成されています。それらが大きくなって決壊したら、洪水で私たちの命や家財を脅かす可能性があるのです。
今日、万年雪が存在し得る境界線の標高は以前よりはるかに上昇しています。以前は1.5~1.8mあった雪も、現在は0.9~1.2mまで減少しました。春になっても分厚かった氷が、今は薄くなっています。タンゴ山頂でも明らかに雪は減少し、ゴツゴツした岩肌がむき出しになっています。

農業や野生動物への影響

私の村では、人々は主に農業で生計を立てています。私自身も農業をしていますが、最近は雨の降り方が不規則になったと感じています。雨季にあまり降らなかったり、季節はずれに急に降ったりします。収穫時期に季節はずれの雨が降ると作物が台無しになってしまいます。十分な収穫がないと、私たちの日常の食糧が不足し、地元の市場で売る分も少なくなってしまいます。

ゲストハウスを始める前は放牧で生計を立てていましたが、雨季と乾季が不規則になって水源が枯渇することもあり、放牧地がやせ細って多くの家畜を失いました。私と同様に、村では約85%の人が放牧から仕事を変えざるを得ませんでした。

私は、ユキヒョウ保護協会の会長も務めており、2001年からWWFネパールの支援のもと、ヒマラヤ・カンチェンジュンガ保護地域において、ユキヒョウを科学的にモニタリングしています。ユキヒョウは、ヒマラヤアルプスの生態系の指標となる種です。モニタリングの結果、温暖化により、樹木の境界線や万年雪が存在し得る境界線が高くなるにつれ、ユキヒョウも高所に移動していることが分かりました。万年雪の減少で生息可能域が狭まっているため、高度の低いところではユキヒョウの観察はますます難しくなっています。

温暖化はヒマラヤの生物多様性や人々の暮らしに直接的な影響を及ぼしています。しかし、悲しいことに、私たちの地域社会は、温暖化に適応する術をほとんど持っていません。豊かな国々の協力を願っています。例えば、カンチェンジュンガ地域や氷河の後退に関する研究がもっと進めば、この地域の温暖化の影響の度合いを解明する手助けとなります。温暖化の悪影響の中でも、生計を維持できる方法を見出せるかもしれません。

証言2:モンゴル「干ばつ等異常気象の及ぼす伝統文化の消失」 スヒー・プレヴ氏

続いてのお話は、モンゴルの遊牧民であるスヒー・プレヴさんからです。季節にあわせて移動しながら生活する遊牧民の方々にとって、異常気象による環境の変化は、収入源である家畜の放牧や生活パターンそのものに大きな影響を及ぼすことを語ってくださいました。

季節の変化に合わせて生きる遊牧民の暮らし

私は、子どもの頃よりモンゴルのホブド県チャンドマニ村で、遊牧民として暮らしてきました。私は小学校4年まで学校教育を受けた後、3年間兵役につきました。この3年以外はずっと故郷で暮らしています。

農村の人々は、子どもの頃から数日後の天気を予測できます。年配の方は、より長い期間を予測できます。

人々は、季節ごとにどの地へ移動するか、気候と放牧地の状態で判断します。遊牧民は通常、環境に優しいライフスタイルを送り、放牧地の持続可能な利用に関して多くの知識を持っています。

物を運ぶにはラクダやヤクを使い、家畜の糞を燃料として使用し、次の住まいに移るときにはゴミを残しません。

伝統的な住居のゲルは、土地を傷つけないように設計され、風や雪にも強く、この地の厳しい環境に適しています。

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モンゴル スヒー・プレヴさん

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スヒー・プレヴさんからのメッセージ
(スライドより)

目に見えて現れはじめた自然の変化

しかし最近は、伝統的な文化が徐々に失われています。湧き水や川が干上がってきており、全体的に環境への意識も低くなって、遊牧地が急激に劣化しているのです。私の故郷は、多くの希少動物や鳥類のすむハルオス湖国立公園の一部です。

私の家族は冬の間、ジャルガラント山の上部の渓谷に位置するアギット地域で過ごします。ここはユキヒョウの生息地の中心でもあります。毎年、春にはハルオス湖の南側の岸辺に移動し、そこで若い家畜を世話して過ごします。夏の間は、ジャルガラント山麓に移動して過ごします。秋には、家畜を太らせるために、より良い場所へ移ります。私たちは、季節ごとに転々と移動し、川や山の精霊たちに祈り、崇拝しながら、家畜の世話をして生活の糧を得て、自分たちで管理をした生活を送っています。

1950〜1960年代は、自然環境は本当に素晴らしいものでした。私の両親や祖父母、年配の方々が「もうすぐ雪が降る」と言うと、本当にそれから2、3日のうちに雪になり、かなり深く積もる雪も降ったものでした。

春の雪は溶けやすく、大地に潤いをもたらし、それからすぐに草が生えてきました。渓谷や山の裂け目は万年雪に覆われ、川や小川の力強い流れを支えていました。

今日では、山を覆う万年雪が溶け、流れが弱まり消滅した川もあります。2007年には、ジャルガラント山の万年雪は、ほぼ完全に溶けてしまいました。

過放牧による土地の劣化と収入への影響

山頂から水が流れて来なくなった結果、多くの遊牧民が、夏の間にこの地域で放牧できず、その場に留まるか川沿いに移動するしかなくなりました。川の土手に遊牧民が集中して過放牧になり、牧草地の状況が悪くなりました。家畜を十分に太らせることが出来ず、遊牧民の収入は減少しました。そこで、家畜の頭数を増やしたが、今度は家畜が増え過ぎて牧草地がなくなり、水不足も起きて家畜が減ってしまいました。私の家では、以前は600〜700頭ほど飼育していた家畜が、今では300頭ほどしかいません。

故郷の周りには野原がなくなり、真夏でも風が強く砂嵐が起こるようになりました。ハルオス湖の岸辺はこの5、6年で10mも後退しています。かつて密集して生えていたアシは干上がりました。家畜は、放牧中に頻繁に岸辺の沼にはまってしまい、そのまま動けず死んでしまうこともあります。

最近では、過放牧を防ぐために、家畜の数を減らす遊牧民も出て来ました。互いに放牧地を順番に使うことに決め、ルールをきちんと守っています。遊牧民たちは地域社会の一員になり、地域の人々と共により良い暮らしをすることを目指しています。ヒツジやラクダの毛糸から製品を作り、地元の市場で販売しています。

私たちは、変わり行く気候に合わせて生きていくしかありません。モンゴルのこの伝統的な文化を、いつまでも営み続けることが出来ることを、切に願っています。

証言3:ケニア「予測不能な天候とマラリアの出現」 ジョセフ・コネス氏

3人目の目撃者は、ケニアのジョセフ・コネスさんです。長年、農業を営んできた中で実感した、天候の変化による農作物への影響や、地域で徐々に増え始めたマラリアについて証言してくださいました。

雨期の変化と食糧不足

今日は、私の住む村とマサイマラ鳥獣保護区とその周辺の環境が、どれだけ温暖化による影響を受けているかをお話ししに来ました。

ケニアは、かつては自立した農業国でした。しかし過去10年間、温暖化が原因で海外から食糧の援助を頼まなくてはなりませんでした。

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ケニア ジョセフ・コネスさん

最大の懸念は雨季の変化です。雨季が変わるといつ作物を栽培すればいいか分からなくなります。1980年代ごろまでは、雨季は規則正しくありました。しかし今では雨季が2ヵ月もずれ込むことがあります。このため、作物の収穫量は大幅に減少しました。かつて1エーカー当たり40袋収穫できたトウモロコシが、今では5袋収穫できれば良い方です。豆類は、1エーカー当たり2袋の収穫が、1~2袋に減っています。ジャガイモは80袋の収穫が3袋にまで減りました。今年は小麦の大規模農場でも、全体的に不作でした。銀行から借り入れた資金を返済するため、農場の一部を売った農家もいます。私たちは、作物を植える時期をもう予測できません。もはや農業はギャンブルです。育つも育たないも運次第です。

予期せぬ時期の大雨は鉄砲水を引き起こします。今年はトウモロコシと小麦の収穫期である8月に激しい鉄砲水が起き、大打撃を受けました。温かい季節に洪水が起きると水溜まりができて蚊が繁殖します。私が若い頃は、村でマラリアにかかる人はいませんでしたが、ここ10年余りで、マラリアは一番やっかいな病気となっています。

干ばつによる野生動物への悪影響

今年、草が生える4月~6月にかけて、雨が充分に降りませんでした。野生のヌーは、通常6月の終わりにケニアに移動してきて10月の終わりまで過ごしますが、今年は草がなく、9月にはタンザニアに戻らなければなりませんでした。また数年前、この地域の川や池の水量が少なすぎたため、たくさんのカバが死んでしまいました。カバの皮膚は繊細で、一日のほとんどを水の中で過ごす必要があります。さもないと、日焼けして死んでしまうのです。

水不足も問題です。乾季の真っただ中には、人々は給水所で長い行列を作ります。時には、地域間で水を巡った争いも起きます。私はマラ川の近くに住んでいますが、この数年、水量が減っています。この川はケニアのマサイマラ国立保護区とタンザニアのセレンゲティ国立公園に流れ込みます。干ばつが続けば、何万という野生動物が死ぬでしょう。野生動物は、観光を通した主な収入源です。何千という人々が、職を失うことになります。

地域の取り組みには限界が

マラ川水資源使用協会は、地域に根ざした活動を行なっている環境保護団体で、温暖化に関する意識を高めるための活動をしています。短い雨季にも備えられるような、育ちの早い穀物の開発などの適応策も含んでいます。森林の再生や、農場での植林、土壌や水資源の適切な保全対策のための整備、雨水の貯留の問題などにも取り組んでいます。これらは、気候変動の中で生き残るための適応策のほんの一部です。

もし、温暖化の問題が今後も続くことになれば、私たちは物乞いにならなければなりませんが、そうしたくはありません。しかし、私たちは今後どのように生きていけばいいのでしょうか?地域に根付いた生活をしている私たちは、雨に頼って生きているので、他に何もできることがないのです。

映像報告「地球温暖化が及ぼすさまざまな日本への影響」 
小西雅子(WWFジャパン)

続いて、WWFジャパン気候変動・エネルギープロジェクトリーダーである小西雅子より、地球温暖化による日本国内への影響について、国内の目撃者の証言VTRを交えながら解説しました。

日本にはどんな影響が出るのか

過去100年の日本の平均気温は、世界の平均気温上昇を上回って1度以上も上昇しています。夏は最高気温が35度以上になる猛暑日や、25度を下回らない熱帯夜が増え、冬は氷点下になる冬日が減り続けています。農業や漁業など自然と向き合う業種では、既に農作物の被害や漁獲高の減少といった影響が出始めています。

日本の平均気温は今後もこのペースで上昇することが予想されます。1度上がれば広範囲でサンゴの白化が起きるでしょう。2度上がればコメの収穫量の減少や、高潮による3.5兆円もの被害が発生し、熱中症の死亡リスクも現在の2.2倍が予測されています。3度上がれば、桜の開花時期は2週間も早まり、夏の真夏日は、現在より半月も多くなるでしょう。4度上がれば真夏日は40日も増え、夏が現在よりも一ヵ月半も長くなり、熱中症の死亡リスクは3.7倍になると見られます。植生にも多大な影響を及ぼし、特にブナが激減して森林生態系に大打撃を与える可能性があります。

日本の目撃者の証言については、詳しくはこちらをご覧ください。

パネル討論「今こそ低炭素型の社会を目指して」

シンポジウム後半は、イケア・グループのマティアス・ハマーさん、WWFジャパン小西雅子に加え、東京会場では環境ジャーナリストの枝廣淳子さんをコーディネーターに、末吉竹二郎さん、国立環境研究所の藤野純一さん、大阪会場では毎日新聞社の田中康義さんをコーディネーターに、枝廣淳子さん、システム技術研究所の槌屋治紀さんをパネリストに迎え、パネル討論を行ないました。討論に先立ち、藤野さん、小西、ハマーさん、枝廣さん、土屋さんより、それぞれプレゼンテーションが行なわれました。

温暖化の目撃者シンポジウム 枝廣淳子(環境ジャーナリスト)

温暖化により、今、食糧生産に大きな影響が出始めています。輸出国の食糧生産量が落ちてきていることから、将来を見据えている輸入国の多くは、生産国の土地を買い、自国のための食糧を生産させるという手段に出ています。このため、貧しい国では食糧をめぐる暴動が起きています。エネルギー、温暖化、食糧、私たちの幸せ、世界の安定、これらはみな緊密につながっているのです。

日本は従来、化石燃料への依存が大きい国ですが、特に3.11以降は石炭火力発電が増えています。これは温暖化だけでなく経済的にも問題です。今、石油の生産量がピークを迎え、その後は減少に転じる「ピークオイル」が話題になっています。

ピークオイルを越えると石油の値段の上昇が予想されますが、既に石油価格は上がってきており、ピークオイルは来年か再来年にも来るといわれています。日本の化石燃料の輸入代金は、1998年には5兆円だったのが、2008年には23兆円にまで増加しました。このままでは2050年には100兆円近くの負担が発生すると言われています。日本の経済にとっても、化石エネルギーは持続不可能です。

その代替として原発が推進されてきましたが、現実には事故が起き、コストも安くないことがわかりました。もちろん、自然エネルギーの導入にもコストはかかります。どれを選んでもコストがかかるなら、今どこにコストをかけて、どういう未来を創りだしたいのかという話をする必要があると思います。

市民の声を届けよう

現在、エネルギー基本計画の改定に向け、総合資源エネルギー調査会の中に基本問題委員会が設けられ、さまざまな議論をしています。これはインターネット中継で全て中継しています。25人の委員が何を言い、政府がどう対応しているのかがわかり、感想を送ることもできますので、ぜひ参加してください。

皆で議論していくことが必要です。委員会では、コストの話になりがちですが、エネルギーはコストや経済性だけの問題ではありません。放射能の恐れがなく、CO2も出さず、海外情勢に左右されず、地域振興につながり、将来へのつけを残さず、世界にも役にたてる。そんなエネルギーを使い、日本を回してゆければと思います。

これまで、自然エネルギーは贅沢品、趣味といわれてきましたが、もうそういう時代ではありません。今年の前半を見れば、スペインでは発電量の34%、ドイツでは21%が自然エネルギーでした。「火力発電が補助電源」という考え方に変わってきています。

エネルギー政策というと、これまでは政府が作って国民に示すという形でした。しかし、これからはもっとオープンな場で政策を作っていく必要があります。菅総理の時には「自然エネルギーに関する総理・有識者オープン懇談会」が開かれ、オープンな場も少しずつできています。

私も発起人の一人として「みんなのエネルギー環境会議」を立ち上げ、オープンな議論をしています。これまで市民は、エネルギー対策に関して、政府や企業に任せて、何かあった時に文句をいうスタンスでしたが、私たち一人ひとりがエネルギー政策を引き受けて考える形にしてゆきたいと思っています。

地球温暖化問題の基礎と、国際交渉について 
小西雅子 (WWFジャパン 気候変動・エネルギー プロジェクトリーダー)

世界のCO2排出量の8割は20カ国で占められ、残り170カ国で2割を排出しています。人口一人当たりの排出量が一番多いのはアメリカとオーストラリアで約19トン、日本はその約半分です。

国レベルでは急速に排出量が増えている中国は一人当たり5トン、インドは1トンです。彼らの立場からすれば、自分たちが先進国と同じ削減努力を強いられるのは納得できないでしょう。貧困や飢餓に苦しまずに豊かな生活をしたいというのが、彼らの一番の願いであるのは想像に難くありません。こうした南北格差の問題の解決のために、国際交渉が必要になります。

温暖化の国際交渉「京都議定書」の意義とCOP17

京都議定書は、世界初の法的拘束力がある削減目標を持つ条約です。2012年までの「第一約束期間」内に、世界全体で5%削減するのが目標です。京都議定書の一番の功績は、世界共通のルールを作り、各国の削減努力を比較できるようにしたことです。

また、温暖化対策には温暖化の影響に対処する「適応」も必要ですが、途上国には資金も技術もありません。京都議定書では、途上国の適応に資金的・技術的な援助を定めている点でも非常に意義があります。現在、行なわれている2013年以降の国際条約交渉の重要な3つのポイントは、京都議定書を離脱したアメリカを次の約束に入れること、中国など主要な途上国の削減行動の確保、途上国の適応や排出削減に対する資金的・技術的援助の仕組みを立ち上げることです。

新しい国際条約は2009年のコペンハーゲンの会議で合意するはずが失敗しました。しかし、昨年メキシコで開催された会議では、「カンクン合意」にこぎつけることができました。自主的な約束ではあるものの、アメリカを含む先進国、中国・インドを始めとする振興途上国など130カ国が合意し、日本の25%削減という目標も含まれました。

ところが、カンクン合意の削減目標を合わせても、世界の平均気温は100年後に3.5度の上昇が見込まれます。南アフリカのダーバンで開かれる会議では、もっと野心的な目標を持ち、世界が合意できるのかが注目されます。

「2050年世界で100%自然エネルギー社会は可能」WWFエネルギーシナリオ

WWFでは、実際にどのように安全で持続可能なエネルギーで温暖化対策も両立していけるかを示すために、2011年2月に「WWFエネルギーシナリオ:2050年世界で100%自然エネルギー社会は可能」を発表しました。

これは2050年に90億人に膨れ上がる人口のすべてにエネルギーを供給できる100%自然エネルギー社会を描いたシナリオです。そのカギは大規模な省エネと急速な自然エネルギーの普及です。現在日本で「100%自然エネルギー社会」を可能とするシナリオ作成をシステム技術研究所の槌屋治紀先生に研究委託しています。

今こそ低炭素型の社会を目指して<100%自然エネルギーによる供給> 
槌屋治紀(株式会社システム技術研究所 所長)

エネルギー需要は半分に

WWFの「2050年までに全てのエネルギーを自然エネルギーでまかなう社会」グローバルシナリオを受けて、その日本版をWWFジャパンの委託を受けて、可能性を検討しています。その達成には、まずは省エネです。発光ダイオードや電球型蛍光灯、電気自動車などの効率の高い機器や製品を組み合わせて、ライフスタイルをそれほど変えずに、エネルギー需要量を減らします。自然エネルギーの開発を進めると同時に需要が減れば、自然エネルギーでまかなうことも可能です。そうすれば、CO2排出量をグンと少なくすることができるのです。

まず、エネルギーが最終的にどう使われているか(最終用途)を調べ、それがどのくらい効率を上げられるかをひとつひとつ調べたところ、2050年までに、2008年比でエネルギー需要を48%に減らすことが可能だということが分かりました。日本は今後、人口も減り、鉄鋼生産等の材料資源の生産も減ります。そこに効率の良い技術を組み合わせるとエネルギー消費量を半分くらいにできそうだということがわかりました。

電力も燃料も自然エネルギーで

水力、太陽光、風力、地熱、バイオマスといった自然エネルギーによる発電で、照明、モーター、エアコン、情報通信などを動かします。ガス、灯油、ガソリンなど燃料の分野は、太陽熱やバイオマスを用い、自動車のガソリンの代わりに一部はソーラーアシスト・カー(*1)で補助します。また自然エネルギーによる電力の余剰分で水素を作って、ボイラー、キッチン、冷暖房、自動車、船舶などに使用します。

主要な自然エネルギーの試算

太陽光発電については、国内842地点の気象データを使い、全ての地点で太陽光発電を行なったらどうなるかを計算し、2050年にどれくらい太陽光発電で供給可能かをシミュレーションしました。緯度、経度、方位角(真南)、最適パネル傾斜角(緯度-5度)を設定し、1時間ごとの気象データからパネル傾斜面上の輻射量を計算し、一年間の発電量を計算しました。

風力発電については、既に国内に220万kWの風力発電が稼動しています。日本国内の各地の1時間ごとの風速データを利用し、2,000kW機をひとつのユニットとして、風車のプロペラの中心の位置の高さの風速を求めて発電量を計算しました。

ソーラーアシスト・カーとは、燃料電池車、電気自動車、ハイブリッド車に太陽電池を搭載し、捕獲した電力をバッテリーに貯蔵して利用するものです。ルーフとボンネットに設置した3㎡の太陽光パネルから年間に600kWhの発電をします。電気自動車は従来のガソリン車の1/3ぐらいのエネルギーで走行できますので、わずかなエネルギーでも有効に利用できます。走行に必要なエネルギーの20~30%を太陽光でまかなうことができるでしょう。

太陽光・風力に他の自然エネルギーを組み合わせて変動を吸収

自然エネルギーは不安定だという話があります。実際にはそうでない面もあります。季節ごとの発電量を見ると、太陽光は春から夏にかけて大きく、冬は小さくなります。一方、風力発電は風が吹けば24時間発電可能ですが、発電量は夏が小さく、冬に大きくなります。この二つを組み合わせれば供給の変動を小さくできます。また、地熱発電は年間を通して常に一定の電力を供給できますし、水力発電からの供給を午後から夜間のピーク時に充てるなど、太陽光と風力に他のエネルギー源を適切に組み合わせることで、変動を吸収することができます。

100%自然エネルギーとCO2排出ゼロは可能

これらの対策を進めることによって、日本の燃料供給の構成は、ガス、石油、石炭が2050年に向かって減少していき、太陽熱、バイオマス、余剰電力からの水素、ソーラーアシスト・カーで供給されることになります。電力供給については、2050年には原子力、石炭、石油、ガス発電の代わりに、風力、太陽光、水力、地熱などを増やすことで供給が可能です。

簡単に計算すると、およそ、太陽光発電が2億~4億kW、風力発電が5,000万~1億kWあれば良いという計算になります。こんな数字を数年前に口にすると笑われたものでしたが、現在、環境省が出しているエネルギーのポテンシャル調査結果を見ると、太陽光発電のポテンシャルが3億5,000万kW、風力発電のポテンシャルが15億kWあるという数字が発表されています。私の計算結果は、今はもう誰も驚かないようなものだと思います。

このように、2050年までに石炭、石油、ガスの消費をゼロにして、100%自然エネルギーで供給すれば、CO2排出はゼロにできます。一点だけ、(WWFジャパンの)シナリオでは、鉄鋼業への石炭供給を水素に代替するとしましたが、この技術は未知数なので、5%くらいは従来の化石エネルギーの使用が残るかもしれません。しかし、その他については既知の技術で実現可能だと考えています。

現在、これらの計算を取りまとめていますので、報告書が出来上がり次第、皆さんにご覧いただければと思います。

低炭素社会に必然はあるのか? 
藤野純一氏 (国立環境研究所 社会環境システム研究センター 主任研究員)

3.11以降、私たちは目撃者となって、原発の事故による放射性物質の問題に直面し、電力不足による節電を迫られました。東京電力管内と関西電力管内の電力需要を見ると、東京電力管内では4月に前年比で平均18%、夏も15%の節電になりました。

一方、関西電力管内は、ピーク時の電力需要が前年比でわずか1%減に終わっています。原発は点検のために定期的に停止しますが、このままでは来年の5月には関西電力管内の原発は全部止まることになります。関西電力はより原発に大きく依存しているため、今後は関西の方の供給が厳しくなるかもしれません。私たちの次の課題は、「我慢の節電・省エネ」から「体質改善の節電・省エネ」にできるかどうかです。極端なダイエットは短期間しかできません。末永く続けてゆくために、社会システムとして考える必要があるのではないかと思います。

自然エネルギーの普及を目指すため

我々が自然環境にもう少し優しいエネルギーを使うためには、国、地域などでさまざまな決断が必要になります。特に市町村レベルの決断が大事で、福島でも、地域の人々が原子力に替わる自然エネルギーを作れないかという活動を進めています。

国立環境研究所は「低炭素社会に向けた12の方策」として、節電しても快適さを逃さない住まいやオフィス、歩いて暮らせる街づくりの方法を提案していますが、これは誰かがやってくれるのを待つのではなく、その地域のことをよく知っている人々が真剣に考える必要があります。原子力が危ないからといって、すぐに再生可能エネルギーに全て移行できるかというと、そこにもリスクがあります。

福島で風力発電を作りませんかというお話をした時には、低周波やバードストライクを心配する声や、新たに別の原発を建てるのかと誤解して非難される方もいました。こうした課題を地域の方と話し合いながら、折り合いをつけることが必要です。また、どうやれば地域に雇用を生み出せるかも考えなくてはなりません。

イケア・グループにおける再生可能エネルギー マティアス・ストールハマー氏 (イケアグループ エンジニアリングマネージャー)

IKEAは世界39カ国に展開しており、このうち日本も含む20カ国がIKEAの直営です。世界328店舗中289店舗が直営で、日本国内には5店舗あります。従業員数は世界で約12万7,000人です。

持続可能性、サステナビリティーは、IKEAの長期戦略の中でも重要な位置を占めています。サステナビリティーは、IKEAの基本理念の4番目に掲げられており、これは経営陣レベルから店舗に至るまで、我々にとって重要な要素です。

店舗では、認識の向上に力を入れています。スタッフ一人一人がエネルギー管理を意識するようでなければ投資する意味がありません。また日常生活でも、ドアを閉め、照明や機器の電源は不要時に消すなど、エネルギー利用の節減行動を習慣化するようにしています。そして、空調や照明の調整がしやすいよう、さまざまな技術を投入し、建物の機密性を高めるなどしています。日本では、昨夏と比較して36%節電できたのは、非常に良い成果だと考えています。

世界で毎年10~15店舗ほど新規店を展開していますが、既存店舗の良い例をなるべく広く取り入れ、その店舗に合った新技術を採用するようにしているほか、社内の「エナジー モデル」を用いた設計をしています。

IKEAエナジー モデル

IKEAエナジーモデルは動的なシュミレーションツールで、約26カ国45店舗ほどで活用しています。設備、断熱、技術といった色々な要因が作用してエネルギー消費につながっていますが、天候以外の要素については影響を及ぼすことができ、適切な判断につながるという考え方です。

太陽光発電は現在欧米7カ国での実例があり、日本を含めた3カ国で準備中です。設置場所は店舗や駐車場の屋根や店舗の外壁で、36店舗で稼働しており、2012年中には56店舗で運用が可能になる見込みです。そして、更に23カ国では地元自治体の許認可待ちです。容量は年間およそ10万MWhで、これはIKEA全体の電気使用量の5%、約20店舗分の使用電力に相当します。

風力発電については、今のところヨーロッパ5カ国のみの導入ですが、できれば他の地域にも広げていきたいと考えています。現在74ヵ所で稼働中、さらに22ヵ所でも導入される見込みです。容量は45万MWhで、IKEAの電力使用量の22%、90店舗分をまかなえている計算になります。

IKEAは省エネには非常に取り組んでいて、再生可能エネルギーも店舗内外で採用しています。基本設計も適切で、あらゆるレベルできちんとした理解が進んでいます。エネルギーの管理と環境負荷の削減は、通常のビジネスの一部になってきたと感じています。

ディスカッション

東京会場でのディスカッションをご紹介します。

―温暖化問題について、「このままではダメだ」ということは皆がある程度わかっていても、なかなか実際の状況を変えるまでには至っていません。変化を阻むものは何でしょうか。

藤野:低炭素社会になった際にどんな雇用や社会になるのかビジョンを皆で共有できず、今の社会の延長線上をイメージしてしまうと、既得権益者や現状に不満がない人たちには、低炭素社会が余計なものに思えてしまうのではないでしょうか。

小西:不安という要素も大きいと思います。どうなるのかと思いながら現状を変えるより、快適な生活を維持するほうが楽で安心ですから。産業界も、現状維持を重視していると思います。ただ、この夏のように必要に迫られれば目標を上回る節電もできるので、これが「やればできる」という自信につながれば良いと思います。

ストールハマー:建設業界はかなり保守的です。グローバルな企業であれば、うまくいった国のノウハウを他国で応用することができます。企業は当局からの指示のもと、建設法に関し明確なガイドラインなどを立てることもできますし、太陽光であれば買取制度といった補助金も役に立つと思います。

末吉:国民がだらしないから変化が起きないのです。次に、日本のリーダーたちがだらしないからだと思います。皆さんの生活の中で経済に関係ないものはありません。世界を見渡すと、経済の中にも大きな変化が始まっているのに、日本ではやろうとしていない。そして、アカデミズムや宗教界はこの問題をどう考えているのでしょうか。これは、人間の生き方に非常に深く関わる問題です。
この50~100年の間、私たちは社会のあらゆる層で、地球の限界を越える生き方を刷り込まれてきました。社会の全ての分野で同じ方向を向いた革命的な変革が必要です。あらゆる分野のリーダーにも、リーダーたちを許している皆さんにも、深刻に考えてもらいたいです。皆さんには力があります。賢い消費者になることはもちろん、選挙の投票を通して政策決定者の顔ぶれをガラリと変えることもできます。

―既に対策が進んでいる国とそうでない国では、何が違うのでしょう。国民の意識の違いだけではない、何かがあるのですか。

ストールハマー:例えば建物を建てる際に、8年、9年といった短いスパンで見返りがあるかといった、短期的な視点しかもたない国や企業があります。しかし、もっと長期的な視点を持つべきだと考えます。再生可能エネルギーを導入したりすると同時に、コスト効率が高い投資をしていくこともできると思います。

小西;日本では環境に何かしたいと思っても、なかなか「政策が必要だ」という風には動きません。例えばドイツでは、ティーン向けの雑誌でも、ファッションなどの話題に混じって政策の話がなされています。これまで、日本の「エネルギー基本計画」は経産省の審議会で決められてきました。原発を2020年までに9基新設する、それが温暖化対策だと言われていました。しかし、それを知る人は多くありません。私たちが声を上げてエネルギー基本計画を変える必要がありますし、そういう形の環境保護があることも知ってもらいたいです。

末吉;僕は民主主義の問題だと思います。今の日本の議論の中で、多数意見を良くする少数意見は尊重されているのでしょうか。力を持つ人たちだけの意見が王道を進むのでは、変革が起きようがありません。新しいことは周辺部、或いは地域から生まれるのは歴史が証明しています。我々が本当に民主主義を手に入れるのが非常に重要だと思います。そして、そもそも温暖化はなぜ起きていて、どうすれば良いのかという議論がない。皆さんがそこに立ち返り、言論の自由の高い中で議論できれば、日本は世界のお手本になれると思います。

藤野:日本でも、先進的な取り組みをしている所には理由があると感じます。公害などに直面して、自分の問題として原理・原則まで立ち返って考えている所です。ヨーロッパのように、森を全部切ってしまい、生活が立ち行かなくなった国々もそういう傾向はあります。しかし、地球には、アジアの国々が同じ道を辿るだけの資源の容量はありません。自らは体験せずに、先進的な取り組みをできるようになるかがポイントです。スウェーデンでは、燃料の種類を低炭素にするだけでなく、それに関連して雇用や快適な環境を作り出すなどの知恵を働かせています。日本でも温暖化は関心事ですが、他につながっていません。エネルギーの自給率が4%程度しかない日本にとって、温暖化はエネルギーに直結しているのに、食糧自給率のような話題にならない。

―3.11以降は、短期的な視点で「原発が止まったから石炭・火力発電を増やそう」「ピークシフトを進めよう」といった話に傾きがちですが、本来、こうした短期的なエネルギーの問題と、長期的な温暖化対策は同時に進めてゆくべきだと思います。日本や世界の現状をどう思われますか。

小西:再生可能エネルギーの普及というと、どうしても、非現実的だとか、高いとか、不安定だとかいう「神話」がついてまわります。しかし、それらはさまざまなルール作りによって十分にカバーできます。再生可能エネルギーにかかるコストを使用者全員で負担することで、普及を後押しする固定価格買取制度が、日本でも来年の夏から導入されることになりました。これが始まればコスト高は克服できます。現在、日本の送電網は9電力体制に分かれているため、一つの狭い地域に再生可能エネルギーを導入しても、不安定さはなかなか吸収できませんが、これを一つにして母体を大きくできれば、十分吸収することができます。こうして「神話」を解きほぐし、可能だと皆が理解することで、実現に近づいてゆくのではないかと思います。

末吉:今、経済性に合う採掘可能な石油は残りあと40年分ほどしかありません。また、中国では国内の油田はあと18年ほどしかもちません。近い将来、13億人の暮らす国の経済が高度成長するための化石エネルギーが全て輸入になるのです。答えはおのずから、再生可能エネルギー100%になるのです。
我々はいかにして、自然エネルギーを本気で育てるかが問題です。今、原発は安くて1kwhあたり5~6円で、太陽光は40~50円もするといわれますが、これまで、原発には何十年、何兆円とつぎこまれてきたのです。同様の資金と期間を太陽光にも注いだ後に評価すべきではないでしょうか。

―自然エネルギー賛成派は、どうやって実現するかロードマップを示すべきだと思います。方向性や「べき」論だけではなくて、どう考えてゆけば良いでしょうか。

末吉:再生可能エネルギーへの移行には、ある程度の時間はかかるでしょう。しかし、原発依存を減らすという論調は理解できません。日本は原爆による世界唯一の被爆国です。被爆二世の方々がおられる、被害が続いている現状を日本人が忘れてよいのでしょうか。既に世界は動きはじめています。ドイツは、北アフリカで太陽熱発電をしてEUの15%の電気を供給しようとしています。イギリスでは、海上風力発電機を6,300~6,400基つくり、イギリス国内の需要の1/4をまかなおうとしています。オーストラリアではCO2にお金をつける法律が可決される見込みです。このプロジェクトで、新たに1,600万の雇用が生まれるそうです。日本が、世界と今後どう伍していくかを考えると、新しい思想で新しいエネルギーソースを求める中で未来への活路を拓いていくというのは、極めて現実的なアプローチだと思います。

ストールハマー:EUでは、2020年に新しい建築物は排出量ゼロにするようにという指令が発令されました。これはEU全ての国で実施され、今より遥かに省エネすることになります。法規制は極めて厳しく、企業の観点からすると、新しい建物を建築するのは非常に厳しいというのが現状です。日本も、再生可能エネルギーにすぐに切り替えるのは難しいと思いますが、節電はすぐにできることだと思います。この夏、20%削減できたというのは良い例だと思います。省エネをしつつ、新しい再生可能エネルギーに切り替えてゆくことが大切だと思います。

―最後に、COP17について見解をお願いします。

小西:COP17で何も決まらなければ、世界の温暖化対策の歩みを止めてしまうことになります。今までの日本は、原発が温暖化対策だと言っていましたので、原発の新増設ができなくなると25%削減の目標達成は無理だという声が聞かれますが、十分実現可能です。移行期間を設け、その間に再生可能エネルギーを普及させると同時に、省エネを強力に進めることで、25%は十分射程距離内に入ってきます。日本ではよく「京都議定書は世界の排出量の28%しかカバーしないから意味がない」といわれますが、途上国からは、やはり先進国のリードが大事だと見られています。先進国がリードして、かつ、技術・資金的援助を受けることで、途上国も低炭素型の開発をして、皆で温暖化対策を行なってゆくことを目指すのが現在の国際交渉です。日本が目標を維持し、国際交渉に前向きになるよう、市民の皆さんからも支持していただきたいです。

シンポジウム詳細

シンポジウム「地球温暖化の目撃者」~世界に広がる温暖化の影響、生の証言~

東京都・星陵会館東京都・星陵会館

日時 2011年11月8日(火) 13:30~17:30
参加者数 263名
内容

 メッセージ
「温暖化が動かす21世紀の世界」末吉竹二郎氏
(国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問、WWFジャパン評議員)

世界の目撃者
ネパール「変わりゆくヒマラヤの自然環境と氷河」チュンダ・シェルパ氏
モンゴル「干ばつ等異常気象の及ぼす伝統文化の消失」スヒー・プレヴ氏
ケニア 「予測不能な天候とマラリアの出現」ジョセフ・コネス氏

映像報告:「地球温暖化が及ぼす様々な日本への影響」小西雅子(WWFジャパン)

パネル討論:「今こそ低炭素型の社会を目指して」
末吉竹二郎氏(国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問)
藤野純一氏(国立環境研究所社会環境システム研究センター 主任研究員)
マティアス・ストールハマー氏(イケアグループ・エンジニアリングマネージャー)
小西雅子(WWFジャパン気候変動・エネルギーグループ プロジェクトリーダー)
コーディネーター 枝廣淳子氏(環境ジャーナリスト)

大阪市・オーバルホール

日時 2011年11月11日(木) 13:30~17:30
参加者数 245名
内容

 メッセージ
「日本と世界に広がる温暖化の現実」德川恒孝(WWFジャパン会長)

世界の目撃者/映像報告:東京会場に同じ

パネル討論:「今こそ低炭素型の社会を目指して」
枝廣淳子氏(環境ジャーナリスト)
槌屋治紀氏(株式会社システム技術研究所所長)
マティアス・ストールハマー氏(イケアグループ・エンジニアリングマネージャー)
小西雅子(WWFジャパン気候変動・エネルギーグループ プロジェクトリーダー)
コーディネーター 田中泰義氏(毎日新聞科学環境部副部長)

 

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