クマ保護活動関連 情報まとめ(2005年~2010年)
2010/12/31
- 四国ツキノワグマの森で、鳥獣保護区が拡大(2009年10月28日)
- 四国のツキノワグマを保護しよう!新たな保護管理政策を要望(2009年1月30日)
- 四国のツキノワグマ、独自の進化が明らかに(2008年4月11日)
- 高知県で、21年ぶりにツキノワグマを捕獲(2007年12月14日)
- 守れ!四国のツキノワグマ 環境省に保護策拡充を要望(2006年5月12日)
四国ツキノワグマの森で、鳥獣保護区が拡大(2009年10月28日)
絶滅寸前の危機にある四国のツキノワグマ。WWFジャパンは、NPO法人四国自然史科学研究センターによる、その生態調査を支援し、現在の保護区拡大を訴えてきました。この問題について環境省は、2009年11月より、新たに保護区を拡大する見解を発表。保護区の指定期間は20年間におよぶもので、四国のツキノワグマの保護活動にとっても、大きな前進をもたらすことが期待されます。
鳥獣保護区の拡大
環境省のレッドリストにも、絶滅のおそれのある地域個体群として掲載されている四国のツキノワグマ。現在、徳島県と高知県をまたがる剣山山系一帯に、十数頭から数十頭が生息するのみと推定されています。
その最も重要な生息地域の一部を占めている、「国指定剣山山系鳥獣保護区」が、2009年10月31日に指定期間が満了を迎えることになりました。 この更新に際して、環境省は11月1日より、鳥獣保護区の指定区域を、新たに拡大することを発表。四国のツキノワグマ存続に向けた取り組みに、新たな展開をもたらしました。
2005年4月以降、NPO法人四国自然史科学研究センターが取り組み、WWFジャパンが支援してきた、四国のツキノワグマの生態調査では、「国指定剣山山系鳥獣保護区」が、重要なツキノワグマの生息地ではあるものの、決してその全域を十分にカバーできてはいないことが明らかになっていました。
この調査結果を受け、2009年1月29日に、四国自然史科学研究センターとWWFジャパン、および日本クマネットワークは、連名で環境大臣、林野庁長官、徳島県知事、高知県知事、愛媛県知事に対し、鳥獣保護区の拡大などを求める要望書を提出。数は少ないながらも、繁殖が確認されているツキノワグマの保護を強化するよう、求めていました。
さらなる保護策の充実を!
今回、環境省が発表した鳥獣保護区の拡大案によれば、保護区の面積は、1万139ヘクタールから1万1,817ヘクタールに拡大。WWFと四国自然史科学研究センターが提供した、行動範囲に関する調査データも参考にされており、ツキノワグマの行動が認められ、WWFも保全を要望していた、従来の鳥獣保護区の東側のエリアが、ある程度カバーされています。
しかし、同時に提言していた、西側、南側への拡大は、今回は見送られており、長期的にツキノワグマを守ってゆくためには、まだまだ課題が多く残されていると言わざるを得ません。
今後は、2007年9月の調査において、21年ぶりにツキノワグマが捕獲された、高知県側の保護区拡大を含めた、さらなる保護策の充実が求められます。
記者発表資料 2009年10月28日
鳥獣保護区の拡大が実現!"四国のツキノワグマ"存続のために重要な一歩
四国のツキノワグマは徳島県と高知県をまたがる剣山山系一帯に、十数頭から数十頭が生息すると推定され、絶滅の危機に立たされている。環境省のレッドリストにも、絶滅のおそれのある地域個体群として掲載されている。
10月31日に指定期間満了を迎える現在の「国指定剣山山系鳥獣保護区」は、NPO法人四国自然史科学研究センターとWWFジャパンによる共同調査によって、ツキノワグマの生息地を十分にはカバーできていないことが判明している。
この本格的な生態調査は2005年4月に始められ、これまでに多くの科学的事実を明らかにしてきた。現在の鳥獣保護区から東側、西側、南側に外れたところにも広く行動範囲を持つこと、本州の個体群とは遺伝的に独立性の高い個体群であること、今もメスグマの出産が続いていること、などである。
こうした事実から、本年1月29日に、四国自然史科学研究センターとWWFジャパンおよび日本クマネットワークは連名で環境大臣、林野庁長官、徳島県知事、高知県知事、愛媛県知事に保護区拡大などを求める要望書を提出した。
環境省では、行動範囲に関する調査データを参考に、このほど保護区を拡大する意図を表明した。それは、われわれが要望していた東側の行動範囲をある程度カバーするものとなっている。新たな保護区の指定期間は11月1日から20年間におよぶので、四国のツキノワグマの存続にとって大きな意味を持つ。
同省は、生物多様性基本法(平成20年法律第58号)の理念を実現する施策を講じたと受け止めることができる。具体的には、保護区の拡大は、第15条第1項にうたわれた「絶滅のおそれがある...野生生物の種が置かれている状況に応じて、生息環境又は生育環境の保全...その他の必要な措置を講ずるものとする」にもっともよく響く(生息地の保全)。あるいは、第21条第1項の「地方公共団体...国民、民間の団体...多様な主体と連携し、及び協働するよう努めるものとする」を想起してもよいかもしれない(多様な主体との連携)。
同省自身では、該当する調査データの持ち合わせが少ないので、鳥獣保護区指定計画書にある「これまでの鳥獣保護区の区域を越えて広範囲に生息していることが明らかになったことから、これらの区域についても国指定鳥獣保護区として保護する必要があるため、区域を拡大して指定を行うものである」という文言は、四国自然史科学研究センターとWWFジャパンの生態調査の結果が参考になっていることは言うまでもないであろう。
ただし、残念ながら今回の措置には不足もある。なぜなら、保護区の拡大は東側についてだけ行われ、われわれが同時に提言していた西側、南側への拡大は見送られてしまったからである。西側、南側についてはシカの食害がひどく、有効な食害対策が模索されている現段階では、鳥獣保護区の拡大は優先順位が後回しになってしまった。2007年9月の調査において、高知県では21年ぶりとなるツキノワグマの捕獲を記録したことから、高知県側でも何らかの保護施策が期待されるところである。
何はともあれ、鳥獣保護区の指定更新にともない11月1日から、部分的にでも東側への保護区拡大がなされることは、四国のツキノワグマ個体群存続のために望みをつなぐものであり、歓迎すべきことと言える。
四国のツキノワグマを保護しよう!新たな保護管理政策を要望(2009年1月30日)
その数、わずか十数頭といわれる、四国のツキノワグマ個体群。謎に包まれていたその生態が、今少しずつ明らかになろうとしています。絶滅寸前の危機にあるこのツキノワグマ個体群を守るため、WWFは調査により明らかになったデータを基に、国と自治体に対し、新たな保護政策の実施を要望しました。
絶滅寸前!四国のツキノワグマ
ツキノワグマは日本ではもともと、本州、四国、九州の山林に生息していましたが、九州の個体群はすでに絶滅したとみられており、四国の個体群も徳島と高知の県境に位置する剣山山系に、10数頭から多くても数10頭が生息しているのみと推測されています。
すでに個体数が激減し、くわしいことが分かっていなかった四国のツキノワグマについて、NPO法人四国自然史科学研究センターが生息調査を開始したのは、2005年のことでした。
同センターではWWFの支援のもと、クマの生態を明らかにするため、剣山山系で5頭のツキノワグマを捕獲し、発信機をつけて追跡調査を実施。クマがどのように食物を確保し、越冬・繁殖しているかを調べました。
この結果、現在、国によって指定されている国指定鳥獣保護区や緑の回廊区域は、わずかに生き残っているツキノワグマの生息地を、十分にカバーしていないことが明らかになりました。
現存するツキノワグマの個体数の少なさや、現行の保護政策、法体制のもとで、四国のツキノワグマが将来にわたり安心して生き続けることは、非常に困難であると考えられます。
長期的な保護管理政策を!
2009年1月29日、国内でクマの保護問題に取り組んでいる、日本クマネットワーク、WWFジャパン、四国自然史科学研究センターは、連名で、環境大臣、林野庁長官、徳島県知事、高知県知事、愛媛県知事に対し、要望書を提出しました。
この要望書は、現在の「国指定剣山山系鳥獣保護区」を、明らかになったツキノワグマの行動範囲を考慮して拡大し、国と地方自治体が連携して、長期的な視野に立った計画的な保護管理施策を立案、実施することを求めるものです。
もとより、ツキノワグマは県境を越え、広い範囲を生息地として移動しながら生きる野生動物。その具体的な保護対策の実施には、国と各自治体の連携が不可欠です。
これまでに行なってきた調査により、四国のツキノワグマ個体群は、本州や大陸のツキノワグマと異なった遺伝的特性をもった、希少な個体群であることも明らかになりました。
2008年に施行された「生物多様性基本法」でも、生物多様性保全のため絶滅危機種の保護に取り組むことが謳われています。WWFはこれを実現する上でも、今回の要望書の実現が重要な一歩になると考え、国や自治体に対する働きかけを継続してゆきます。
記者発表資料 2009年1月30日
国指定剣山山系鳥獣保護区の拡大と国と地方自治体が連携した保護管理施策の実施を要望
四国のツキノワグマは、徳島県と高知県をまたがる剣山山系に10数頭から多くても数10頭が生息していると推測され、絶滅の危険性がきわめて高い状況におかれている。
そ の生態を明らかにするために、2005年から5頭のツキノワグマを捕獲し、追跡調査を行った。食物を確保し、越冬・繁殖するための環境を調べたところ、現 在、指定されている国指定鳥獣保護区や緑の回廊区域は、ツキノワグマの生息地を十分にカバーしていないことが示された。この捕獲個体の遺伝子解析では、四 国のツキノワグマが独自の遺伝的特性をもっており、その希少性が裏付けられた。しかしながら、ここ数年以内に剣山山系で確認された残存個体は10頭程度に とどまっており、現在、国や地方自治体が取り組んでいる対策は、四国のツキノワグマを将来にわたって安定的に維持するには不十分であると言える。
そこで、平成21年1月29日付けで、日本クマネットワーク、WWFジャパン、四国自然史科学研究センターの3者連名にて、環境大臣、林野庁長官、徳島県知事、高知県知事、愛媛県知事に対して、(1)「国指定剣山山系鳥獣保護区」をツキノワグマの行動範囲にもとづいて見直し、拡大を求める要望書を提出した。平成21年10月には現在、指定されている国指定剣山山系鳥獣保護区の存続期間が終了する。新たに保護区を指定するにあたり、これまでに蓄積した生態情報をもとに保護区指定区域を見直すことが求められる。
また、要望書の中では、(2)国と地方自治体が連携して長期的な視野に立った計画的な保護管理施策を立案し、実施することも求めている。鳥 獣保護法では、増加が著しいもしくは減少が著しい野生鳥獣に対して「特定鳥獣保護管理計画」を任意で策定することができるが、四国のツキノワグマについて 特定鳥獣保護管理計画は策定されていない。昨年、施行された生物多様性基本法においても、種の多様性の保全の観点から絶滅のおそれのある種の保護及び増殖 等に必要な措置を講ずるとしている。ツキノワグマは県境を越えて広い範囲を生息地として利用していることから、生息地保全や具体的な保護対策の実施には、 国と各自治体の連携が不可欠となる。この要望書が、具体的な四国のツキノワグマの保護対策へとつながることを強く願う次第である。
関連資料: 共同要望書
四国地域のツキノワグマ保護のための国指定剣山山系鳥獣保護区
指定区域の拡大と保護管理計画の策定を求める要望書
平成21年1月29日
環境大臣、林野庁長官、徳島県知事、高知県知事、愛媛県知事 殿
日本クマネットワーク 代表 山崎晃司(押印省略)
財団法人世界自然保護基金ジャパン 事務局長 樋口隆昌(押印省略)
NPO法人四国自然史科学研究センター 理事長 町田吉彦(押印省略)
四 国におけるツキノワグマ地域個体群は、かつては四国の東西にわたって分布していましたが、1980年代には東部の剣山山系を中心とする範囲に分布域が縮小 しました。これは、狩猟や有害獣とみなされての無制限な捕獲、人工林の増加による生息地の減少などが主な原因と考えられています。現在、生息頭数は10数 頭から数10頭と推定されており、環境省が「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定しているように、九州地方に次いで絶滅の可能性が高い状況にあります。
こ れまでに保護施策として、環境省は剣山山系を中心に国指定剣山山系鳥獣保護区(面積10,139ha、H1年更新、H21年期間終了)を、林野庁は四国山 地緑の回廊剣山地区(面積10,142ha、H15年設定)を指定しています。また、徳島県、高知県および愛媛県では全面的な捕獲禁止措置を実施、継続し ています。高知県はさらに、平成20年10月に本種を高知県希少野生動植物種に指定しました。しかしながら、以下に述べるように、上記の対策ではこの絶滅 のおそれの高い地域個体群を将来にわたり安定的に維持するには不十分と考えられます。現時点では、個体群管理に不可欠な個体群のモニタリングも実施されて おらず、保護施策における各関係機関の役割分担や責任を明確にした上で、それに取り組むことが求められます。
4年間にわたり実施された生態 調査により、国指定鳥獣保護区および緑の回廊の指定区域には、ツキノワグマが採食や越冬のために利用している空間が一部含まれていないなど、個体群を将来 にわたって維持するために必要な広さを有していないことが判明しました。最近、遺伝子分析により、四国のツキノワグマは独自の遺伝的特性を持つことが明ら かになっています。四国の森林の象徴種であるツキノワグマを保護していくことは、四国の生物多様性を将来にわたって保全していくことにつながり、昨年施行 された生物多様性基本法(平成20年法律第58号)の理念を実現する上においても、この個体群の絶滅の回避に緊急の措置が必要です。
この地 域個体群の絶滅を回避するためには、1.良好な生息地を確保するとともに、その周辺地域において生息地の改善を図ること、2.長期的な視野に立ち、保護管 理計画を検討し、策定すること、3.人身被害や林業被害を防止するための対応策を検討することが急務と考えられます。そのため、以下の事項について、国が 地方自治体と連携し、四国のツキノワグマ地域個体群の保護管理について検討し、実施していただけるよう要望いたします。
記
1.国指定剣山山系鳥獣保護区および特別保護地区の指定区域について、ツキノワグマの行動範囲にもとづいて見直し、拡大を検討すること
2005 年からWWFジャパンとNPO法人四国自然史科学研究センターが実施した生態調査により、5頭のツキノワグマの行動範囲が明らかになりました。その結果か ら、現行の国指定鳥獣保護区から外れた東側(折宇谷から六郎山にかけて)、西側(綱附森から京柱峠、高板山にかけて)、南側(中東山から赤城尾山にかけ て)が活動域として広く利用されていることが新たに立証されました。また、越冬場所として国指定鳥獣保護区から外れた地域(中東山から石立山、折宇谷から 六郎山にかけて)が利用されていることも確認されました。これらの地域は、ツキノワグマが食物を確保し、越冬・繁殖するための環境を有しており、その保護 を図るための重要な地域になります。
2.国、地方自治体が連携して保護管理計画について検討し、策定・実施すること
保 護管理計画は、個体群のモニタリングの結果にもとづき個体数管理、生息地管理、被害対策を中心として長期的な視野で立案する必要があります。絶滅を回避で きるツキノワグマの個体数(存続可能最小個体数)は100頭以上と考えられていますが、過去数年間の生態調査により剣山山系にて確認できたツキノワグマは 10頭程度です。愛媛県と高知県の県境付近においては、毎年、ツキノワグマの目撃情報が寄せられています。四国西部を含め、残存個体の生息状況、個体数を 正確に把握するための調査が求められます。
さらに、生物多様性の保全の観点からツキノワグマの生息地保全の取り組みが求められます。多様な生態系を再生し、維持することは、ツキノワグマをはじめとする多くの野生鳥獣に良好な生息環境を提供し、四国の豊かな自然環境の保全へとつながります。
四 国では幸いにして、ツキノワグマによる人身被害の報告はありませんが、今後、人身被害と林業被害を含めた対策を検討することも必要です。個体数が減少した 要因として、過去に林業被害防止のために報奨金を出し、多数のツキノワグマを駆除したことがあげられます。人間とツキノワグマが共存するためには、これら の被害対策も同時に講ずる必要があります。
四国の地域個体群は県境をまたがって分布しているため、国のリーダーシップのもとに各地方自治体が連携して検討会を設置し、保護管理計画を策定するなど、保護管理施策を実施することが望まれます。
四国のツキノワグマ、独自の進化が明らかに(2008年4月11日)
絶滅寸前の危機にある四国のツキノワグマは、現在、徳島県と高知県をまたがる剣山山系一帯に、わずか十数頭から数十頭しかいないと見られています。NPO法人四国自然史科学研究センターとWWFジャパンは、四国のツキノワグマの保全を目指し、現地で調査活動を行なってきました。このたび、九州大学大学院の小池裕子教授による遺伝子解析の結果、四国のツキノワグマは本州のものとは異なる進化を遂げていることが判明。その希少性が、科学的な観点からも裏付けられました。
絶滅寸前の四国のツキノワグマ
高知県と徳島県に位置する剣山山系。ここは、四国におけるツキノワグマの最後の生息地にあたります。ツキノワグマが健全に存続できる頭数(最少存続可能個体数)は100頭と考えられていますが、四国のツキノワグマは残りわずか十数頭から数十頭しかいないと見られ、絶滅寸前の状態にあります。
高知を拠点に活動するNPO法人四国自然史科学研究センターとWWFジャパンは、四国のツキノワグマと生息地の保全のため、2005年から剣山山系で5頭のツキノワグマを捕獲・放獣を実施。この内4頭に電波発信機を装着し、生息頭数や生態を明らかにするための調査を行なっています。
遺伝子レベルで違いを比較
WWFジャパンはこの研究の一環として、ツキノワグマの進化系統や集団が持つ遺伝的特性に詳しい九州大学大学院自然保全研究室の小池裕子教授に協力を依頼し、四国のツキノワグマの遺伝子解析を行ないました。
今回、4頭の血液サンプル、および過去に捕獲・狩猟した7頭から採取した組織片から、ミトコンドリアに含まれるミトコンドリアDNAを抽出し、その一部の遺伝子タイプについて本州のツキノワグマと四国のツキノワグマの比較を行なったところ、四国のツキノワグマには本州のツキノワグマには見られない、独自の遺伝的特徴を確認。
四国のツキノワグマ個体群が、早い段階で本州のツキノワグマ個体群から分かれ、独自性の強い進化を遂げてきた可能性が高いことが明らかになりました。
これまで、四国のツキノワグマが固有の遺伝的形質を持つ可能性は考えられていたものの、裏づけとなる遺伝子レベルでの研究は十分に行われていませんでした。この研究成果は、現存する四国の個体群が遺伝的に独立性の高い、希少な個体群であることを裏づける科学的根拠となります。
一方、四国のツキノワグマは、頭数の少なさから近親交配や遺伝的劣化が進んでいる恐れがあります。今後は、更なる解析により、遺伝的な多様性の状況を調査するほか、未だ十分に保護されているとはいえない生息地の保護強化を目指し、活動をしてゆきます。
記者発表資料 2008年4月11日
四国のツキノワグマ、希少性を遺伝子解析で裏づけ! 遺伝子のさらなる解析と保護増殖策の検討が求められる
現在、四国のツキノワグマは徳島県と高知県をまたがる剣山山系一帯に十数頭から数十頭が生息すると推定され、九州地方に次いで絶滅の危機に立たされている。九州地方では、ここ十数年はツキノワグマの生息を示す証拠が得られず、既に絶滅したとも考えられている。科学的な研究により、ツキノワグマが絶滅を免れ、健全に存続できる頭数(最少存続可能個体数)は100頭と考えられているが、四国ではその頭数を大きく下回り、絶滅の危険性が極めて高い。その保護を目的として、2005年よりWWFジャパン(東京都港区)とNPO法人四国自然史科学研究センター(高知県須崎市)は剣山山系に生息するツキノワグマを5頭捕獲・放獣し、その内4頭に電波発信機を装着して、生息頭数や生態を明らかにするための調査研究を継続してきた。
その調査の一環として九州大学大学院比較社会文化研究院自然保全研究室小池裕子教授に協力を求め、捕獲、採取したツキノワグマ4頭の血液サンプルを対象に遺伝子解析を行った。四国のツキノワグマは四国固有の遺伝的形質を持つ可能性が考えられていたが、その生物学的な希少性を裏づける遺伝子レベルでの研究は十分に行われてこなかった。九州大学自然保全研究室では、以前よりツキノワグマの進化系統や集団が持つ遺伝的特性について研究を進めており、今回、四国で現存する4個体の血液サンプルを含め、過去の捕獲・狩猟個体の組織片7個体の計11個体からDNAを抽出し、その希少性についてDNAレベルでの解析を行った。その結果、本州では見られない四国独自の遺伝子タイプを確認することができた。
解析を行った九州大学自然保全研究室安河内氏によると、現存する4個体全ておよび過去に捕獲された2個体から本州産とは異なる遺伝子タイプが共通して検出され、現存個体は四国固有のツキノワグマであることが示されたとしている。さらに、本州のツキノワグマの解析結果との比較により、四国の個体群は早い段階で独立し、独自の遺伝的特徴を保持してきたと示唆している。解析に用いた遺伝子はミトコンドリアという細胞小器官に含まれるミトコンドリアDNAで、その一部の遺伝子タイプについて本州のツキノワグマと四国のツキノワグマの比較を行ったものである。この研究成果は、現存する四国の個体群が日本の中で遺伝的に独立性の高い希少な個体群であることを裏づける科学的根拠となる。
生息頭数の減少による近親交配や遺伝的劣化なども考えられ、さらなる遺伝解析を早急に進め、四国のツキノワグマの遺伝的多様性やどの程度危機的な状況であるかを調べる必要がある。また、それに応じた保護策の強化も図りたいところである。現行の鳥獣保護区や緑の回廊では、生息域を十分にカバーしきれていないからである。
日本のツキノワグマの遺伝子タイプによる近隣結合樹
九州大学自然保全研究室は、最も遺伝的な距離が小さい遺伝子タイプ(ハプロタイプ)を組み合わせて結合していくことにより東日本から西日本までのツキノワグマの遺伝的な系統樹を作成した。共通祖先の分岐点を推定するために、比較グループとしてユーラシア大陸産のツキノワグマの遺伝配列を用いている。
この系統樹から、国内のツキノワグマから検出されたほとんどの遺伝子タイプは連続性が非常に高いことが示される。その一方で、四国のツキノワグマのみで検出された遺伝子タイプJ1は80%以上の確率でそれらとは異なる単系統のグループを形成し、独立性の高いグループであることがわかった。このことから、国内のツキノワグマの分散過程で四国の集団が比較的早い段階に分岐したことを示唆する。
高知県で、21年ぶりにツキノワグマを捕獲(2007年12月14日)
2007年9月4日、高知県大豊町で1頭のツキノワグマが捕獲されました。これは、NPO法人四国自然史科学研究センターとWWFが2005年から実施している四国のツキノワグマの保護活動の一環として行なわれたもので、高知県でツキノワグマが捕獲されたのは、実に21年ぶりのことです。
絶滅寸前 四国のツキノワグマ
現在、高知県と徳島県をまたがる剣山山系に、わずか十数頭から多くても数十頭しか生息していないと見られている、四国のツキノワグマ。その絶滅を回避するため、NPO法人四国自然史科学研究センターとWWFは、2005年から剣山山系で野生のツキノワグマを捕獲・追跡する調査を行なっています。
これまで、剣山山系で調査・研究のために捕獲されたツキノワグマは4頭いますが、いずれも捕獲場所は徳島県側でした。そこで、2006年から高知県大豊町の山中で捕獲を試みていたところ、2007年9月4日に1頭のオスの捕獲に成功しました。高知県側での捕獲は、21年ぶりの記録となります。
複数の個体の生存を確認!
このたび捕獲されたツキノワグマは、推定で体重50キロ程度と、やや小柄の個体でした。左手の先が欠損していましたが、先天的な異常によるものか、くくり罠などの人為的な影響によるものか、原因はわかりませんでした。なお、この個体は麻酔から早く覚醒したために発信機を着けることができなかったため、放した後の行動については不明のままです。
2006年10月に、このオスが捕獲された地点から500メートルほど離れた場所で、大柄のツキノワグマが無人カメラで撮影されていましたが、今回捕獲されたものとは別の個体だと考えられます。これらのことから、剣山西部(高知県側)でも、複数のツキノワグマが生存していることが確認されました。
今回ツキノワグマが捕獲された付近は林業が盛んで、シカやイノシシを捕らえるために設置された「くくり罠」にツキノワグマがかかってしまう可能性があります。NPO法人四国自然史科学研究センターやWWFは、くくり罠の規制や、罠にかかったツキノワグマを安易に殺処分しない体制作りを求めて、今後も活動を継続してゆきます。
共同記者発表資料 2007年12月12日
高知県大豊町にてツキノワグマ捕獲 高知県では21年ぶりの記録!!
NPO法人四国自然史科学研究センター/WWFジャパン
四国のツキノワグマは、現在、高知県と徳島県をまたがる 剣山山系にわずか十数頭から多くても数十頭が生息しているのみと推測され、絶滅のおそれが高い状況にある。NPO法人四国自然史科学研究センター(高知県 須崎市)とWWFジャパン(東京都港区)は、その保護を目的に、2005年から剣山山系にて野生のツキノワグマを捕獲・追跡する調査を継続している。調査 研究を目的として2006年までに剣山山系にて捕獲したツキノワグマは4頭で、いずれも捕獲場所は徳島県側(徳島県那賀郡那賀町)であった。剣山西部にお けるツキノワグマの生息状況を調べるため、昨年から高知県長岡郡大豊町の山中において捕獲を試みていたところ、今年9月4日にツキノワグマ1頭の捕獲に成 功した。高知県側でのツキノワグマの捕獲は、1986年2月香美市物部町別府(旧物部村別府)でのメスグマの狩猟記録以来21年ぶりとなる。高知県では 1986年11月から捕獲禁止措置をとり、1986年以降は捕獲記録がなかった。
捕獲したツキノワグマはオスの成獣で、推定体重50kg 程度とやや小柄の個体であった。捕獲地点から500mほど離れた場所で、昨年10月26日に無人カメラにて大柄のツキノワグマ(推定体重70kg以上)を撮影している。今回捕獲したツキノワグマは、体の大きさから撮影した個体とは別の個体と判断され、剣山西部においても複数のツキノワグマが生息しているこ とがわかった。また、捕獲個体は左手首から先端部分が欠如していることを確認した。左手が欠如している理由としては、先天的な異常、物理的な事故、人為的 なワナ等によるものが考えられるが、確かな理由は確認できなかった。この個体については麻酔の覚醒が早まり、発信機を装着せずに放逐したため、放逐後の移 動経路や行動圏は分かっていない。
今回ツキノワグマが捕獲された付近は林業が盛んな地域である。農林業に大きな被害をもたらしているシカ やイノシシなども多く生息しており、周辺ではツキノワグマの錯誤捕獲をまねく「ククリワナ」が使用されることもある。剣山西部でのツキノワグマの生息状況 を引き続き調査するとともに、錯誤捕獲時の人身被害を未然に防ぎ、速やかにツキノワグマを放逐できる体制整備について県や各行政機関に要望していきたいと 考えている。
守れ!四国のツキノワグマ 環境省に保護策拡充を要望(2006年5月12日)
NPO法人四国自然史科学研究センターとWWFジャパンは、2006年5月12日、環境省に対し、四国のツキノワグマ保護を求める要望書を提出しました。四国のツキノワグマは、狩猟や有害駆除、人工林の拡大などによって、現在は10数頭~数10頭がわずかに生き残っているのみといわれています。
絶滅寸前!四国のツキノワグマ
四国にはかつて、剣山、石鎚山系を中心に、ツキノワグマが広く生息していましたが、狩猟や有害駆除による無制限な捕獲、人工林の拡大による生息環境(ブナ林など)の減少により、激減。現在は東部の剣山山系に10数頭から数10頭と推定される個体群が、わずかに生き残っています。
2005年度、NPO法人四国自然史科学研究センターは、剣山系のツキノワグマの行動範囲などを調査。WWFもこれを支援しました。この調査結果によって、現在、剣山周辺に設定されている、保護区の面積、配置は、絶滅寸前に追い込まれているツキノワグマを、将来にわたって保護するためには、必ずしも十分でないことが明らかになりました。
絶滅を回避するためには、剣山などの高地に残るブナ林のような、クマにとっての良好な生息地を確保し、その周辺でも生息環境の改善を図ることが必要です。また、長期的な保護管理施策の実施や、クマによる人身被害や林業被害を防止する対応策の検討も必要です。
四国のクマと森の保全を!
そこで、5月12日、NPO法人四国自然史科学研究センターとWWFジャパンは、今回実施した調査の結果に基づき、国が地方自治体と協力して、四国地方のツキノワグマ地域個体群の保護対策および被害対策を検討し、実施するよう、要望を行ないました。
わずか10数頭ともいわれるツキノワグマを守ることは、今、残されている四国の貴重な自然の森を保全することでもあります。WWFでは今後も、ツキノワグマを含めた四国の自然環境を保全する取り組みを、支援してゆきます。
要望書 2006年5月12日
四国地域のツキノワグマを保護するための国設鳥獣保護区設定区域の見直しと包括的な保護管理対策を求める要望書
環境大臣 小池 百合子 殿
NPO法人四国自然史科学研究センター
理事長 町田 吉彦
(押印省略)
財団法人世界自然保護基金ジャパン
事務局長 樋口 隆昌
(押印省略)
四国地域のツキノワグマを保護するための国設鳥獣保護区
設定区域の見直しと包括的な保護管理対策を求める要望書
四 国地方におけるツキノワグマ地域個体群は、かつては四国の東西にわたって分布していましたが、1980年代には東部の剣山山系を中心とする範囲に分布域が 縮小しました。これは、狩猟や有害駆除による無制限な捕獲、人工林の増加による生息地の減少などがおもな原因と考えられています。現在、その生息頭数は 10数頭から数10頭と推定されており、環境省レッドデータブックでは「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定され、九州地方に次いで絶滅の可能性が高い 状況にあります。九州では既に絶滅したと一般的に考えられています。
これまでに保護施策として、環境省は剣山山系を中心に剣山山系国設鳥獣 保護区(面積10,139ha、H1年更新、H21年期間終了)を、林野庁は四国山地緑の回廊剣山地区(面積10,142ha、H15年設定)を設定して います。また、徳島県、高知県および愛媛県では全面的な捕獲禁止措置を実施、継続しています。しかしながら、この絶滅のおそれの高い地域個体群を将来にわ たり安定的に維持することを目的とした保護管理や被害対策などの具体的な施策は行われていないのが現状です。
昨年度、NPO法人四国自然史科学研究センターが実施した生態調査によって、国設鳥獣保護区および緑の回廊の設定面積および設定区域は、四国地方のツキノワグマ地域個体群を将来にわたって保護するために必ずしも十分でないことが判明しました。
こ の地域個体群の絶滅を回避するためには、1.良好な生息地を確保するとともに、その周辺地域において生息地の改善を図ること、2.長期的な視野に立った、 計画的な保護管理施策を検討し、実施すること、3.人身被害や林業被害を防止するための対応策を検討することが急務と考えられます。そのため、以下の事項 について、国が地方自治体と連携し、四国地方のツキノワグマ地域個体群の保護対策および被害対策を検討し、実施されるよう要望いたします。
記
1. 剣山山系国設鳥獣保護区の設定区域の見直しと拡大更新について
剣山山系国設鳥獣保護区および特別保護区の設定区域を見直し、現在設定されている区域から東南方面への拡大更新を検討すること。
補足説明;
平成13年以降、環境省が実施したツキノワグマ等保護監視事業において、剣山山系東南方面(旧木沢村、旧木頭村境)の重要性は指摘されていた。昨年度、 NPO法人四国自然史科学研究センターが実施したツキノワグマの行動圏調査においても、保護区から外れた東南方面を活動域として利用していることが明らか になった。また、調査個体3頭のうちの1頭は、同じく保護区から外れた東南方面の地域で越冬穴を利用し、越冬していることが確認された。
2. 包括的な保護管理施策の検討と実施について
国、地方自治体が連携して包括的かつ計画的な保護管理施策を検討し、実施すること。
補足説明;
四国地方のツキノワグマは徳島県と高知県にまたがって分布しており、地域個体群の保護管理を実施する上では、国のリーダーシップのもとに徳島県と高知県が連携することが望まれる。
保護管理計画は、生態調査の実施結果にもとづき、個体数管理、生息地管理、被害対策を中心として、長期的な視野で作成する必要がある。絶滅を回避できるツ キノワグマの個体数(存続可能最少個体数:MVP)は100頭以上と考えられているが、特に四国では生息頭数が10数頭から数10頭と推定値に幅があるた め、その推定値の精度を高める調査を実施すること。生息地管理のために、季節的な生息環境の利用や越冬環境を把握すること。また、平成16年に北陸地方を 中心にツキノワグマの大量出没がみられたのと同じくして、徳島県においても三好市(旧池田町)の人家周辺に親子と思われる2頭のクマが出没した。幸いにし て、四国地方ではツキノワグマによる人身被害の報告はない。しかし、今後、人身被害をはじめ、農林業被害を含めた被害対策を検討することも必要である。