スマトラ島の火災が原因 シンガポールの煙害問題


今年6月、シンガポールやマレーシアで大きな問題となった煙害。その原因であるインドネシアスマトラ島の火災の約90%が、スマトラ島中部のリアウ州で起きていることが分かりました。火災の多くは、熱帯林等を伐採した後の土地で発生しており、その多くが炭素を大量に含んだ泥炭地で起こったため、自然環境の悪化のみならず、地球温暖化の視点からも大きな問題となっています。WWFはインドネシア政府に対し、「森林火災ゼロ法」の実行を求めるとともに、火災の発生・拡大に深く関係しているとみられる、製紙・パーム油産業に対し、注意を喚起しています。

毎年問題となる煙害

シンガポールやマレーシアでは、毎年6月~10月頃まで、煙害と呼ばれる大気汚染に悩まされています。今年の煙害は、観測史上最悪と言われ、日本のニュースでも大きく報道されました。

その主な原因となっているのが火災による煙です。

インドネシアのスマトラ島などで行なわれている野焼き等により発生した煙は、季節風に乗って、シンガポールやマレーシアへと運ばれ煙害を引き起こしています。

野焼きが行なわれる主な目的は、パーム油を採るためのアブラヤシ農園を拡大する際の開墾、紙の原料となる木の植林場所を造成するといった「土地転換」のためです。

インドネシア政府は、このような火の使用を法律で禁じていますが、こうした違法な野焼きによる土地転換は、機材による開墾よりコストがかからないため、後を絶ちません。最近の自然林伐採は、その多くが泥炭地で起こっているため、その後に起こる火災は地中にある泥炭をも燃やし、火を消すのは困難なため、深刻な煙害を引き起こす原因になっています。

明らかになった煙害と製紙・パーム油産業の関連性

この煙害の原因である火災の発生地点について2013年6月、スマトラで森林減少・違法伐採などを監視するNGOの連合体、アイズ・オン・ザ・フォレストが、分析結果を発表しました。

この分析は、NASA(アメリカ航空宇宙局)の人工衛星により観測された、火災地点についての情報をまとめたものです。それによると、2013年6月1日から24日までに、9,000カ所以上の火災地点がスマトラ島にあり、うち8,000カ所以上が、中部のリアウ州に集中していることがわかりました。

さらに、アイズ・オン・ザ・フォレストは、その8,000カ所のうち、約30%が製紙用木材の伐採許可地に、9%が大規模アブラヤシ農園にあり、こうした製紙産業やパーム油産業と、煙害の間に、強い関連性があることを指摘。火災発生の責任をよりはっきりさせるためにも、実地検証の必要性を訴えました。

スマトラ中部での火災

森を伐採してつくられるプランテーション

絶滅が懸念されるスマトラトラ。個体数は400頭ほどといわれる

スマトラ島の火災発生地点(アイズ・オン・ザ・フォレストのサイトより)

なお、約30%を占める製紙用木材の伐採許可地で認められた火災地点のうち、1,075カ所はAPRIL社、1,027カ所はアジア・パルプ・アンド・ペーパー社(APP社)のそれぞれの原料供給企業の伐採許可地にありました。この2つの製紙会社は、長年スマトラ島で原料調達を行い、熱帯林の急激な減少に関与してきた企業です。

また、リアウ州にあるテッソ・ニロ国立公園と、それに隣接した2つの伐採許可地も煙害の原因となっていることが、分析によって明らかになっており、ここだけで449ヵ所の火災地点が記録されています。

テッソ・ニロ国立公園内での火災については、2013年6月下旬にWWFインドネシアが発表した詳細な報告書でも指摘されている通り、公園内で違法なアブラヤシ栽培が行なわれていることから、こうしたパーム油の生産も、煙害発生の原因に深くかかわっていると考えられます。

「森林火災ゼロ法」の実行を要請

こうした一連の火災と煙害は、生物多様性や人の健康を害するのみならず、地球温暖化をも促進させる大きな問題です。

実際、火災地点の約90%は、泥炭地と呼ばれる大量の炭素を含む泥炭地に広がる湿地で確認されており、ここでの泥炭の燃焼によって、炭素を空気中に排出する要因になっているからです。

WWFではこれらの問題について、インドネシア政府に対し、2つの改善を求めています。

一つは、アブラヤシ農園用の土地配分を管理すること。
リアウ州では、特に個人が所有する小規模なアブラヤシ農園を中心に、国立公園などの保護区を含めた土地が許可なく使用される例が、よく発生しています。この徹底した管理が、まず必要とされます。

もう一つは、「森林火災ゼロ法」の実行です。
「森林火災ゼロ法」は、ASEAN(東南アジア諸国連合)の「ヘイズ行動計画」と、最近承認された法的拘束力のある「越境煙害に関する協定」においても重要視されている規定で、土地転換や産業用の樹木・農作物の植え替えに際して、火の使用を制限するものです。

この法律が守られれば、煙害と森林の生態系に及ぶ悪影響は、軽減されることが期待されます。

WWFシンガポールのエレイン・タン事務局長は、この煙害と森林火災の問題について、次のようにコメントしています。

「私たちは今回明らかになった情報を基に、国境を超えて政府と関係機関を支援する準備があります。特にリアウ州における火災は、深刻な炭素排出を引き起こすことから全ての人々に影響する地球規模の問題です」。

WWFは製紙・パーム油産業に対し、伐採許可地で火を使用しないこと、そして伐採許可地を守るというライセンス所有者の法的責任を果たすため、その原因が何であれ、発生した火災の全てに対して適正な対処を求めると同時に、特にパーム油産業にかかわる企業に対しては、パーム油の調達に責任を持ち、自社の購入しているパーム油が、煙害の原因となっていないことを、しっかりと確認するよう求めています。

関連情報

現地NGOアイズ・オン・ザ・フォレストが作成した地図

火災と煙害の情報については、アイズ・オン・ザ・フォレストとグーグルアース・アウトリーチの共同プロジェクトで作成されたオンライン地図で、火災地点の位置、煙害の衛星写真、またアイズ・オン・ザ・フォレストによる現地調査によって撮影された写真等を見ることができます。赤い点が2013年6月の火災地点を示しており、スマトラ島中部のリアウ州に集中していることが分かります。

記者発表資料(仮訳)

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