熊本・荒尾干潟が「東アジア・オーストラリア地域フライウェイネットワーク」に参加


熊本県の荒尾干潟が、2013年6月3日、「東アジア・オーストラリア地域フライウェイネットワーク」の113番目の参加地として正式に承認されました。このネットワークは、主に渡り鳥の飛来地として、世界的にその重要性が認められた海岸を、国境を越えて結び、その保全を図るものです。日本でも屈指の渡り鳥の飛来数を誇る荒尾干潟は、国内では30番目のネットワーク参加地となります。

渡り鳥の「道」を守る取り組み

「フライウェイ」とは、文字通り「空の道」のこと。季節に応じて、北の繁殖地と、南の越冬地を、国境を越えて渡る、シギやチドリなどの渡り鳥のコースを示します。

今回、熊本県の荒尾干潟が参加したフライウェイネットワークは、国境を越えて各国が渡り鳥と、その生息地である干潟などの海岸の自然を守るため取り組んでいる、「東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップ」の活動の一つです。

これは、1996年に策定されたアジア・太平洋地域渡り性水鳥保全戦略のもと順次発足した、渡り鳥の3つのネットワーク、「シギ・チドリ類ネットワーク」、「ツル類ネットワーク」、「ガンカモ類ネットワーク」の拡大発展を目指し、2006年に再構築された国際的な保全の枠組みです。

現在、日本、オーストラリア、中国、韓国、ロシアをはじめとしたフライウェイ上の16か国の国政府、ならびにWWFやバードライフ、ラムサール条約事務局、FAOなど12の国際機関が参加。これまでに、合計113カ所の湿地や海岸がネットワークの登録地となっています。

世界に認められた荒尾の海

今回、参加が認められた熊本県の荒尾海岸は、日本国内では有数のシギ・チドリ類の渡来地で、環境省の「モニタリングサイト1000」の調査結果によれば、その飛来数の規模は、2012年度の冬期は全国第2位、同じく春期は全国第5位の記録を誇っています。

また、国際的にも絶滅が懸念される希少種ズグロカモメも、毎冬に数多く確認されており、推定される全個体数の約2%が、ここで越冬しているとみられています。

こうした荒尾海岸の重要性は、2012年7月にルーマニア・ブカレストで開催された、世界の湿地保全条約「ラムサール条約」の第11回締約国会議でも認められました。

この会議では、日本からは新たに9カ所の湿地が、国際的な保護湿地として条約の登録地となりましたが、荒尾海岸もこの一つに数えられています。

地域と世界の取り組みを結ぶ

こうした国際的な荒尾干潟に対する評価は、もともと存在した自然の豊かさのみならず、荒尾市の関係者や市民グループのメンバーをはじめとする、地域の方々の保全に向けた努力が、認められたことの証でもありました。

そして、その結果誕生した、ラムサール条約登録地のような、点として存在する保護区を、地球規模で結び守ってゆく取り組みが、フライウェイパートナーシップなのです。

こうした点と線を結び合わせた保全の取り組みは、渡り鳥のような移動性の生物を守ってゆく上で、相互に欠かせない車の両輪のような存在です。

また、フライウェイネットワークが結ぶのは、鳥や自然だけではありません。そこに携わる人々や、発信される情報も、このネットワークを通じて交流を重ねてゆきます。

そしてそのことが、各湿地にみられる保全上の課題などを解決してゆく際に役立ったり、相乗効果を高めることにつながります。

実際、フライウェイネットワークの各参加地は、環境の変化や汚染、地域住民との軋轢、調査や環境教育を担う人材の不足などに悩まされています。各地で活動する市民団体やNGOの人々が、自主的に活動に取り組むことで、実際の調査や、保全の現場は支えられていますが、そうした動きについても、ネットワークを通じた交流が、課題の改善に貢献することが期待されています。

荒尾海岸のこれから

今回の参加承認は、WWFジャパンにとっても大きな朗報となりました。
このフライウェイネットワークの取り組みについて、WWFジャパンでは「渡り性水鳥保全戦略」の策定時から日本国内での推進役を担い、とりわけシギ・チドリ類ネットワークの環境省の委任を受けた国内コーディネーターとして、既存の参加地間の情報交流の促進や、環境教育プログラムの開発と普及、参加地の拡大に向けた情報発信などを手掛けてきました。

そして荒尾海岸については、日本野鳥の会熊本県支部の要請を受けて、2008年からたびたび荒尾市を訪問。市や関係団体に対し、荒尾干潟の国際的な重要性と、ネットワークへの参加を粘り強く要望し続けてきたのです。

荒尾市はラムサール条約登録以前より市民への普及啓発に力を入れてきましたが、これからはネットワークを通じたより積極的な情報と人材の交流をすすめ、干潟の保全管理とワイズユース(賢明な利用)を進めていくことが求められます。

荒尾市では2013年6月30日に、ラムサール条約への登録1周年を記念したイベントを開催し、併せてフライウェイパートナーシップの参加証授与式等を執り行なうとともに、荒尾干潟の国際的な重要性について広く伝えていく予定です。

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