門前クリーンパーク建設事業に係る自然・環境の保全に関する意見書


共同意見書 2017年8月17日

石川県知事 谷本正憲 殿

公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
公益財団法人 日本自然保護協会
公益財団法人 日本野鳥の会

平素より、石川県下での生物多様性の保全にご尽力を頂き敬意を表します。

さて、門前クリーンパーク建設事業については、環境影響評価書の縦覧が終了し、石川県による開発許可の段階に進んでいます。地域住民による反対の署名活動がなされるなど、地域との合意形成が十分とはいえない状況であるとも認識しております。私共自然保護3団体は、以下に示す理由により、当該事業の認可はするべきではないと考えます。
なにとぞご高配の上、慎重にご判断いただきたくお願い致します。

能登半島に広がる豊かな自然には、様々な生物がおりなす豊かな生物多様性が認められ、里には、里山の恵みを受けた暮らしと、人々が受け継ぎ守ってきた日本の原風景が残されています。また、能登の里山里海は、棚田やため池等で形成される里山の景観と、海女(あま)漁、揚げ浜式製塩や里海の資源を活用した伝統技術が受け継がれていることから、世界的に重要な農林水産業の仕組みとして世界農業遺産に指定されています。

更に富山県にまたがる能登半島国定公園は、日本海側最大の半島である能登半島の変化に富んだ長い海岸線を主体とする公園となっており、優れた海岸景観や温泉等の豊かな自然環境は観光資源として大変重要なものです。

石川県が策定した「石川県生物多様性戦略ビジョン」では、この自然環境の特徴を踏まえ、里山里海に人を呼び戻し、適切に利用することが同県の生物多様性の保全につながるとの認識のもと「7つの重点戦略」に基づき、幅広い分野で生物多様性の保全に向けて取り組むとしています。里山里海における新たな価値の創造は、過疎高齢化が進行し荒廃しつつある里山里海に人の手を戻し、活用することで、新たな価値や魅力を創造するとしています。そして、その価値や魅力が更に人を呼び戻すという好循環を形成する、新しい里山里海づくりを推進していくとしています。

しかしながら、門前クリーンパーク建設事業においては、生物多様性が豊かな里山を破壊するのみならず、古来より聖なる山として崇められ、日本海の荒波に削られて形づくられた能登金剛、厳門の景勝地のある旧富来町大福寺地区に能登では一つしかないふるさとの富士とされる「能登富士」(正式名:高爪山)の山腹を破壊するものです。

さらに、建設事業地周辺の住民から建設事業反対の意見書が提出されているなど、地域住民との合意が得られないままに建設許可の申請が進められています。

以上のような背景を踏まえ、自然保護3団体は、当該事業の許可をすべきでない理由を次のように申し述べます。

1)事業対象地域の生物多様性は豊かであり保全すべきであるため

能登半島の自然・環境は、前述した通り、世界からも評価された豊かな生物多様性であり、当該事業の環境影響評価の手続きの中でも明らかにされています。現地での環境調査の結果、生態系の上位種である、ミゾゴイ、サンコウチョウ、ミサゴ、ハチクマ、サシバの5種が確認されています。いずれも里地・里山を生息環境として依存する種です。

それぞれが単独で生息していても豊かな自然のつながりが現存する証左ですが、それが5種確認されるという事は、当該地域が、如何に自然度の高い生物多様性豊かな地域であるかを表しています。言い換えれば、こうした種が依存する餌資源である両生類や甲殻類、小型鳥類、昆虫類といった様々な種が、とても密度高く存在していることでもあります。

日本の中でもこうした場所は非常に希少になっています。水路の人工化などの圃場整備が行われると有意に両生類などの生息数が減少し、これらに依拠する猛禽類の生息数が減少することが知られています。

したがって、このような場所に産業廃棄物処理場を建設することは、世界から評価された農業遺産の価値を失うことになります。この観点から、建設を認可することは許容することができません。石川県が策定した「石川県生物多様性戦略ビジョン」とも整合をとることができないと考えます。

参考:環境省のサイト

2)国際的に希少であるミゾゴイの生息域内保全が最も重要であるため

ミゾゴイは、世界でも日本の山林でのみ繁殖する、固有種に準じた渡り鳥の一種であり、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで「EN(絶滅危惧種)」に指定されている国際的に希少な鳥類の一種です。従って、同種の生息域内保全が最も重要です。

ミゾゴイの生息環境の適地は、高い広葉樹に覆われた湿潤な谷地であり繁殖に不可欠な環境です。能登半島の中で大釜地区は山岳信仰の対象であった高爪山に守られる形で、なだらか谷地形にケヤキ、スダジイ、ホオノキ等の広葉樹の巨木の影が湿潤で土壌生物の豊富な環境を形成しています。

従って、ミゾゴイの生息・繁殖環境としては極めて好適な環境を保ってきたと考えられます。(平成29年輪島市大釜地区におけるミゾゴイ調査、日本鳥類保護連盟・田谷樹)

3)当該地域は、過疎高齢化が進行し、荒廃しつつある里山であるが、人の手を戻し、活用し、新たな価値や魅力を創造すべき場所であるため

「里山創成ファンド(仮称)」を活用し、里山里海資源の掘り起こし、持続可能な形で利活用する新たな取組の創出をすべきです。

4)ふるさと石川の環境を守り育てる条例は、適切に運用すべきであるため

開発許可の根拠条例として「ふるさと石川の環境を守り育てる条例」を上げているが、前文の「私たちは、今、様々な環境問題に直面している。廃棄物の処理、生物の多様性の維持への懸念、地球温暖化やオゾン層の破壊など生活環境、自然環境そして地球環境の問題などである。以下省略。」
廃棄物処理で生物多様性を破壊しながら、生物の多様性の維持をうたうのは本末転倒です。

5)伝統的な景観の破壊は慎むべきであるため

古来より聖なる山として崇められ、日本海の荒波に削られ、形づくられた能登金剛、厳門の景勝地のある旧富来町大福寺地区に能登では一つしかないふるさとの富士とされる「能登富士」(正式名:高爪山)の山腹を破壊してはならない。

6)石川県は、特に生物多様性の保全について高い意識をもつべきであるため

2010年に生物多様性条約第10回締約国会議(CBD・COP10)が愛知県名古屋市で開催されました。同年以降、国内の生物多様性の意識が高まりつつあります。同年は、国際生物多様性年であり、そのクロージングイベントを開催した石川県は、生物多様性の保全を他の都道府県よりも強く意識した施策を講じるべきです。

以上のことから、計画されている廃棄物処分場は、当該地域において相応しくないと考えます。自然保護3団体は、石川県の生物多様性保全に対する真摯な対応を強く求めます。

関連情報

本件に関する問い合わせ先

(公財)世界自然保護基金ジャパン 自然保護室 草刈秀紀 (kusakari@wwf.or.jp/03-3769-1713)
(公財)日本自然保護協会 自然保護室 辻村千尋(tsujimura@nacsj.or.jp/03-3553-4103)
(公財)日本野鳥の会 自然保護室 葉山政治(hayama@wbsj.org/03-5436-2633)

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