「わいるどアカデミー+(ぷらす)」第6回 開催報告


さまざまな自然環境の保全に取り組むWWFが、どのような活動に取り組んでいるのか。現場の担当スタッフからサポーターの皆さまに報告し、また直接交流することを目的とした会員のつどい「わいるどアカデミー+(ぷらす)」。2014年6月5日、6回目となるこのつどいを、東京港区のWWFジャパン事務局で開催しました。今回は沖縄の石垣島・白保地区での、サンゴ礁の海を守る持続可能な地域づくりの取り組みについて報告しました。

南西諸島におけるWWFの活動の歴史

九州南端から台湾にかけて連なる南西諸島。そこには、奄美群島や沖縄諸島、そして石垣島や西表島といった先島諸島の島々が浮かび、世界でも他に例を見ない、固有性の高い、貴重な自然が息づいています。

特に、石垣島の東海岸に位置する白保(しらほ)集落の沖合に見られる、大規模なアオサンゴの群落は、世界でも屈指の規模と豊かさを誇ります。

白保の海をはじめとする、この南西諸島の自然保護に、WWFジャパンが取り組み始めたのは、1971年のWWFジャパン設立直後からでした。

研究者や現地の関係者との協力のもと、アマミノクロウサギやイリオモテヤマネコといった、希少な固有の野生動物の保護・調査活動への支援や、在来の生態系を脅かすマングースなどの外来生物の調査などに取り組んだのです。

サンゴ礁の保全活動のきっかけとなったのは、1979年に発表された、新石垣島空港の建設計画でした。

WWFジャパンは、アオサンゴを含めた白保のサンゴ礁の埋め立てを予定していたこの空港建設計画に対して、自然保護の観点から中止を申し入れるとともに、サンゴ礁の調査を開始。

1987年にIUCN(世界自然保護連合)が実施した大規模なサンゴ礁調査も支援し、白保の海が世界的にも貴重であることを明らかにしました。

その後、地元の反対運動やさまざまな調査の結果を受けて、海の埋立てを伴う建設計画は中止。空港を内陸に建設するよう計画が変更されました。

この一連の取り組みは、貴重なサンゴ礁を開発から救い、世界的にも貴重な海洋環境を保全するうえでの、大きな成果となったのです。

地域主体の環境保全活動をリードする「夏花」の誕生

しかし、サンゴ礁を脅かす要因は、大規模な開発計画だけではありません。

陸域からの排水や、赤土の流入。海水温の上昇によるサンゴの白化など、日常的に生じるおそれのある懸念は、積み重なれば自然にとって大きな打撃となります。

こうした問題に取り組むためには、その地域で生活する方々が、地元の自然の大切さを理解し、自主的に活動を続けてゆく必要があります。

WWFでは、早い段階からそうした取り組みの重要性を意識したプロジェクトに重点を置いてきました。 特に、WWFサンゴ礁保護研究センター「しらほサンゴ村」を、2000年に白保で設立以降、地域の人たちと協力した活動を展開。その中で、住民のリーダーとなれる組織を育て、活動の主役を地域に移してゆく必要性を考えてきました。

そして、2012年11月、WWFの支援のもと、その役割を担う団体が、白保集落の有志により設立されました。この団体は、2013年5月に法人認可を取得。NPO法人「夏花」(なつぱな)として、活動をスタートさせたのです。

2014年6月5日に、東京港区のWWFジャパン事務局で開催された、第6回目となる「わいるどアカデミー+(ぷらす)」では、21名の会員の方にご参加をいただき、この「夏花」の活動をご報告させていただきました。

お話をさせていただいたのは、「しらほサンゴ村」センター長、上村真仁(かみむらまさひと)と「夏花」のスタッフ、池間大斗(いけまひろと)さんです。 地域主体の自然保護、といっても、それほど簡単なことではありません。自然を守ることが、その地域の自立につながる何らかの利点、たとえば仕事や収益をもたらすものでなければ、持続させてゆくことができないからです。

そうした課題に挑みながら、白保の風土の中で育まれてきた、島のくらしや伝統文化を伝え、どのように地域の豊かな自然を守り、地元を活性化させてゆくのか。

今、「夏花」がWWFと取り組むその内容をご報告しました。

赤土の流出によって濁った海

サンゴが呼吸したりエサをとることがむずかしくなり、白化し死んでしまうこともあります

来訪者との交流から着手!始まった夏花の活動

まず、報告があったのは、島外から白保を初めて訪れる観光客などの方々に、その自然環境や、伝統的なくらし、文化について知ってもらうための普及活動についてでした。

「夏花」では、そのためのクイズや講義を実施。この日の「わいるどアカデミー+(ぷらす)」の場でも、白保への来訪者に見ていただくレクチャーのプログラムをご紹介しました。

プログラムでは、一般にはあまり知られていないサンゴの生態や、サンゴ礁が天然の防波堤の役割を果たし、魚にすみかを提供していること、さらに、地域住民が石垣や住宅の建材としてもサンゴを伝統的に利用してきたことなどが、理解できるようになっています。

また、プログラムでは、海の水温が上がり過ぎることで発生するサンゴの白化現象や死滅、開発などによって露出した土地から、川をつたって海に流入する赤土が、サンゴ礁の海を汚染する深刻な問題などにも言及。

貴重なサンゴ礁が損なわれている現状や原因についても紹介しています。

こうした問題に配慮しながら、環境を損なわない形で観光業を振興させ、地域が自然と共生しながら実現する「産業づくり」も、重要な取り組みです。

その一環として、すでに「夏花」がWWFから引き継いだ活動があります。

それが、毎週末に、WWFサンゴ礁保護研究センター「しらほサンゴ村」で開かれている物産市「白保日曜市」の運営。地元の産品を活かした、この地域ならではの商品開発にも取り組んでおり、毎回地元の方々や観光客でにぎわい、活況を呈しています。

新たに開発された商品の中には、月桃(げっとう)を利用した消臭剤もあります。

この月桃は、赤土の海への流出を防ぐため、「グリーンベルト」として植え付けた月桃を利用したもので、商品の販売による収益の一部を、夏花が取り組むサンゴ礁保全活動に充てることで、環境保全と地域産業の振興を同時に進める試みです。

夏花によるクイズ。サンゴは植物、動物、石のどの仲間でしょう?答えは・・動物!(正確には刺胞動物門)

月桃(げっとう)を利用した消臭剤

「スタディツアー」の始まりとこれからの活動

もう一つ、2014年から「夏花」が新たな試みとして行なっているのが、「スタディツアー」の受け入れ。

これは、白保の民家に宿泊(ホームステイ)し、サンゴ礁の海を実際に見てもらいながら、伝統的な仕事や、グリーンベルトの整備などを体験するツアーです。

旅行会社が運営するこのツアーの受け入れ先となって、その内容を来訪者の普及活動や、地域の活性化、さらにサンゴ礁の保全につながるものになるよう、「夏花」では現在工夫を重ねており、定期的な実施を目指しています。

また、ツアー実施による収益の一部を「夏花」の活動資金に充てることも、重要なポイント。

これまで、WWFが「夏花」の活動のコーディネートや、資金のサポートを行なってきましたが、地域主体の自立性を高めるためには、人材を育て、ゆくゆくはこうしたツアーの実施や、寄付集めなどを自主的に行ない、活動を自らの手で支えてゆく必要があります。

まだ設立されて日の浅い「夏花」は、まだこうした「人づくり」「組織づくり」にかかわる課題を多く抱えていますが、WWFは今後2年間にわたり、「夏花」の支援を継続すると共に、今後は新たに、南西諸島の他の島々へ活動を広げ、白保での経験を応用した、「持続可能な地域づくり」に取り組むことにしています。

この白保での取り組みもそうですが、地域における環境保全活動の成否を握るのは、人をつなぎ、活動をリードできる「人」に尽きるといっても過言ではありません。

WWFが今後めざす、地域主体の取り組みもまた、「人づくり」をカギとした活動となるでしょう。そのための、人材育成や、地域主体の活動を支援する制度の立ち上げも、重要な取り組みとなります。

赤土防除のための月桃植え

夕食・交流会の様子

嬉しいイベント!伝統の歌と踊りを披露

なお今回、東京で実施された「わいるどアカデミー+(ぷらす)」では、嬉しいおまけがありました。石垣島出身で、今は関東に在住する6名の皆さんによる三線の演奏と踊りです。

30分ほどの演奏の後、最後は参加者の皆さんも踊りに参加。なごやかな雰囲気のうち、散会となりました。

WWFジャパンにとって、長年のフィールドである白保からの密度の高い報告に接し、また南国の歌と踊りにも触れた今回のつどい。ご参加くださった方からは、次のようなご意見をいただきました。

「わくわくしながら、お話を聞けました。また地域住民の方がいずれ自分たちの力で、環境保全から経済を発展されるような活動やエネルギー(気持ち)がすばらしく、今後の様子が楽しみです」

「白保からの具体的な報告を続けてください。自然環境を守るとはコミュニケーションと人間、社会を守ることだということを今後も発信してください」

「わいるどアカデミー+(ぷらす)」は、WWFの活動をテーマに、今後も継続してゆきます。皆さまの、次回のご参加をお待ちしています!

東京で実施された「わいるどアカデミー+(ぷらす)」での三線の演奏と踊り。最後は参加者の皆さんも踊りに参加しました

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