【WWF声明】日本の国民と自然を守るために 高市新政権が地球温暖化対策を早急に強化することを求める


2025年10月21日、高市氏が臨時国会にて首班指名を受け、新内閣を発足させた。それに先立つ参議院選挙から、自民党総裁選挙、政権枠組みの合意に至るまでの議論ではエネルギー政策も俎上に載せられたが、地球温暖化の深刻さと対策の緊急性は必ずしも十分に考慮されていなかった。新政権による地球温暖化対策が既存の政策の延長線上に留まることが懸念される。
 WWFジャパンは、高市新政権が日本の国民と自然を守るために、地球温暖化対策を最優先事項に位置づけ、抜本的に強化することを求める。既に、地球温暖化は日本の絶滅危惧種の約4割に影響を与えている。また、2025年夏期の熱中症による搬送者数は現在の集計対象期間となって初めて10万人を超えたほか、野菜の価格高騰やコメの品質劣化など食卓にも夏の高温が影響し始めている。さらに、2025年7月下旬の猛暑は人間活動の影響が無ければ発生しなかったものだと報告されている。こうした状況を例にとっても、対策の強化には一刻の猶予もないことが明らかである。特に次の3点に早急に取り組むことが必要である。

(1)2035年のGHG排出削減目標として2013年比66%減を十分に上回る水準とするべき

 IPCC第6次評価報告書統合報告書によれば、パリ協定の掲げる1.5度目標の実現には、世界全体でのGHG排出量を2035年までに2019年比で60%以上削減する必要がある。これは日本の排出量で換算すると2035年までに2013年比で66%以上の削減となり、それに整合する目標の提出が日本には求められた。しかし、日本が2025年2月に提出した目標は、2013年比60%減と、世界全体の削減水準に及ばないものに留まった。
 他方、2025年7月の国際司法裁判所(ICJ)による勧告的意見では、GHG削減目標の設定は各国の裁量のみで決められるべきでないとしている。過去のGHG累積排出量や発展段階、各国の置かれた状況などを考慮しつつ、世界の1.5度目標の達成に十分貢献できるものにすることを求めている。このことを踏まえれば、先進国である日本は前述のIPCCの水準を優に上回る水準としなければならない。
 WWFジャパンの分析では、2035年までに約68%減(2013年比)が可能である。同様に、国内外の独立系シンクタンクも66%を超える水準の実現可能性を提示している。日本政府はこうした幅広い分析を加味し、早期にGHG削減目標の改定プロセスを開始するべきである。

(2)地域の自然・社会・経済と共生した再エネ設備容量を2030年までに国内で3倍にするべき

2023年のCOP28では、各国は1.5度目標の実現に向けて2030年までに必要なアクションに合意し、再エネ設備容量を世界全体で3倍にすることが盛り込まれた。日本もその水準での再エネ導入拡大を国内で目指していく必要がある。
 他方、地域の自然や社会・経済との共生が前提であることは言うまでもない。例えば太陽光発電協会によれば、太陽光発電は山林等の開発をせずとも荒廃農地や建築物の屋根などに導入するポテンシャルが現状の27倍あることが示されている。また、設置および保守管理をはじめとして、2050年の1年間に生産誘発額は約6.4兆円、雇用誘発数は約51.3万人の日本経済への波及効果があるとしている。したがって、「自然保護」か「再エネ導入」かの二項対立に傾くことなく、地域の利益と再エネ導入の両立を目指すべきである。
 そのためには、規制のみならず、ソーラーシェアリング推進に向けた制度的・経済的措置、屋根置き太陽光パネルの義務化、促進区域の設定支援などの取り組みを、政府は早期に実施するべきである。加えて、太陽光パネルのリサイクルは環境負荷の低減に必須であることから、その義務化方針を撤回することなく、法律の制定に向けて軌道修正を図るべきである。

(3)成長志向型カーボンプライシングは現行案を最低限として不断の強化を図るべき

2023年に制定されたGX推進法は、2026年度から排出量取引制度であるGX-ETSを、2028年度から化石燃料賦課金を、それぞれ導入すること、また2033年度には有償オークション制度の導入でGX-ETSを強化することを定めている。
 カーボンプライシングの導入に道筋がつけられたことは評価できる。そのうえで、排出削減効果を高めるために、絶えず制度の強化が図られる必要がある。特に、GX-ETSでは排出枠の総量が過剰にならないように、上限(キャップ)を設定するべきである。その検討の観点からも、審議会で制度詳細を一度整理した後、割当量の見込み、および1.5度目標や国のGHG削減目標との整合性を試算・公開するべきである。
 他方、現行のGX推進法での導入スケジュールや方向性は、地球温暖化対策の緊急性を考慮すると堅持されるべきである。家庭や企業の負担が過大になってはならないことは当然だが、その緩和は制度の弱体化ではなく、GX移行債などによる財政措置・再分配で対応することが必要である。そのためにも、将来の実現可能性と排出削減効果が不確かな技術開発に偏重せず、GX移行債による支援を柔軟に見直すことが求められる。
 以上の3点に、高市新政権は早急に着手するべきである。これらの取り組みは地球温暖化対策の観点から重要であるとともに、日本経済が再び成長するきっかけにもなる。現に、先進的な日本企業は機会として捉えており、例えばSBT認定を取得した日本企業は2,000社を超え、世界で最も多い。政策の実施によって、こうした流れを強く後押しするとともに、企業の取り組み全体の底上げを図ることが政府の役割である。WWFジャパンは、日本の国民と自然を守り、豊かさを実現するために、地球温暖化対策の抜本的強化に向けたリーダーシップを新政権に期待する。

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