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要望書 モーリシャス島沿岸部の中長期的な環境の保全に向けて


株式会社 商船三井
代表取締役社長
池田 潤一郎 殿

(公財)世界自然保護基金ジャパン
事務局長 東梅貞義

WWFジャパンは、2020年7月にインド洋のモーリシャス島南東部の沿岸で、株式会社商船三井の傭船する貨物船WAKASHIOが座礁する事故が生じ、その後、重油の流出が認められたことを受け、これが周辺海域の自然環境に長期的な影響を及ぼすことを、深く憂慮してまいりました。
そうした中、御社として社会的責任を果たすべく、2020年9月11日に事故から1カ月あまりの短期間で、現地の環境回復に向けた中長期的な支援計画を、役員同席のもとで発表されたことを、心より歓迎いたします。
さらには御社が複数回にわたり、対話を尊重する姿勢のもと、WWFをはじめ、環境や社会など多分野の外部関係者に向けた情報公開を行なう機会を設け、積極的な意見交換に応じられていることに、あらためて敬意と謝意を表します。

しかしながら、直接対話の際にもお伝えしました通り、御社が発表されました現時点の計画では、前提とすべき、油汚染による自然への被害調査(アセスメント)の結果が踏まえられておらず、十分な成果が期待できない可能性があると懸念しております。
とりわけ、マングローブやサンゴ礁、海鳥といった、沿岸域の生態系や野生生物が、保全・回復計画の対象となっていますが、これらの計画は、どの程度将来にわたり被害の影響が予測されるのか、またどのようなレベルの回復を目指すものなのか、明示されていません。
 どのような主体と何をするかについては概要が示されていますが、具体的に生態系や生きものが、どのような状態になれば、環境が保全・回復できたといえるのか。その基礎となる科学的なデータが現時点で把握できていない以上、実施した計画がそもそも回復策として適切であったのか、本当に効果のあるものとなったのか、評価することもできません。
それでは、こうしたせっかくの取り組みが、ただ企業イメージを向上させるためのみに行なわれたものと誤解され、グリーンウォッシュであるとの国際的な批判を招いてしまう可能性もあります。

これまでの対話を通じ、御社の取り組みや意思に対する理解を深めさせていただき、上記の見解をふまえた上で、今後に向けた取り組みの在り方として今回、御社に対し、下記の要望を改めて行ないます。実際の計画の推進にあたりましても、多分野の専門家の助言に拠りつつ、進捗に関する定期的な情報公開を心がけ、科学的なデータを尊重する姿勢で御社が臨まれることを期待いたします。

要望1: 環境回復策は、必ず科学的な手法による生態系長期モニタリングと充分に連携した形で行なうこと

モーリシャス政府はすでに、日本政府の支援を受け、サンゴ礁とマングローブの長期モニタリング体制を構築しています。この長期モニタリングは、これからデータを収集するため、現段階では情報や結果は出ていませんが、御社の計画の推進にあたっては、モニタリング結果への理解を深めることが、何よりも重要と考えます。
そのために、モーリシャス・日本の関係者と定期的に情報共有を行ない、よりよい形での連携を実現し、まずは科学的モニタリング結果への理解を深めることを要望します。

要望2: 人為的な介入による回復手法は、必ず科学的な長期モニタリングの結果に基づき、かつその手法の妥当性を科学的に検証した上で行なうこと

回復計画の実施・支援にあたっては、サンゴ礁とマングローブの長期モニタリングの結果を評価し、科学的に検証された妥当な手法で行なう必要があります。
サンゴの養殖や移植、またマングローブ植林といった活動を、科学的なモニタリングの結果を踏まえずに実施することは、自然破壊につながることもある拙速な行為であり、避けるべきものと考えます。人の手による自然回復はあくまで、自然の力のみによる回復が難しいと専門家が判断した場合の代替措置とされるよう、要望いたします。

要望3: 環境回復活動に関する情報公開を、継続的かつ積極的に行なうこと

すでに御社が公式サイトを設置し、継続的に情報公開を行なっている点は、評価されるべきことと考えます。今後も継続的に、環境回復の計画、手法、進捗状況、結果報告を、積極的に行なうこと、さらにモーリシャスのNGO、CSO、地域住民といった方々に対しても、積極的に情報公開を行なっていることが伝わるよう努めることを要望します。

要望4: 油汚染事故対応により生計に影響を受けているコミュニティに対し、積極的に支援を行なうこと

特に、油汚染事故により、地域で漁業や観光などが行なえなくなり、生計に大きな影響を受けているコミュニティや小規模漁業者に対し、持続可能な自然資源の利用につながる能力開発などを、積極的に支援することを要望します。
また、すでに提示されている計画案でも触れられている通り、直接的に被害を受けた以外についても、より広い視野でモーリシャス政府や国際機関に対する支援を、継続的に行なうことも、非常に重要であり、真摯な取り組みを要望いたします。

以上の4点を、WWFジャパンとして要望いたします。
また、すでにご留意されていることながら、今回の事故の被害地域のような場所では、油汚染による被害調査や回復計画を専門とする、現地と海外両方の調査機関や専門家、学術機関の参画を得るべきことについても、併せて要望をいたします。

WWFジャパンも、長年にわたり環境保全を専門とする団体として、また過去に生じた油流出事故への対応経験のある組織として、本問題についても、解決に向け、可能な限りの支援と協力に取り組む所存です。
引き続き、御社の取り組みについても、その展開に期待をしつつ、注目してまいりたいと存じます。

以上

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