緊急声明:日本政府への、平成23年度税制改正に向けた、地球温暖化対策税に関するNGOからの要望


共同記者発表資料 2010年11月19日

現政権が、「地球温暖化対策税/炭素税/環境税(以下、地球温暖化対策税)」の検討を進める中、効果的な地球温暖化対策税導入が望まれる。しかし、地球温暖化対策税の経産省案・環境省案は、環境・経済・社会の鼎立や信頼ある税制構築の観点から、大きな問題が残されている。さらに、現在議論を進めている民主党税制改正プロジェクトチーム地球温暖化対策税検討小委員会(以下、民主党PT)の検討状況にも、大きな危惧を抱いている。

そこで、現政権が納税者の信頼・納得を得られる制度設計の地球温暖化対策税を導入するために、本日、共同で要望書を菅首相、政府税制調査会メンバー、その他閣僚に対し送付した。

提出団体:
FoE Japan、Office Ecologist、オックスファム・ジャパン、環境エネルギー政策研究所(ISEP)、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、気候ネットワーク、グリーンピース・ジャパン、WWFジャパン、地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)

連絡先:「環境・持続社会」研究センター(担当:足立)
TEL:03-3556-7323、FAX:03-3556-7328、E-mail:adachi@jacses.org

要望

菅直人内閣総理大臣、野田佳彦財務大臣、片山善博総務大臣、玄葉光一郎国家戦略担当大臣、海江田万里内閣府特命担当大臣、松本龍環境大臣、大畠章宏経済産業大臣、馬淵澄夫国土交通大臣、鹿野道彦農林水産大臣、五十嵐文彦財務副大臣、鈴木克昌総務副大臣、尾立源幸財務大臣政務官、逢坂誠二総務大臣政務官、櫻井充財務副大臣、平岡秀夫総務副大臣、吉田泉財務大臣政務官、内山晃総務大臣政務官、平野達男内閣府副大臣、東祥三内閣府副大臣、末松義規内閣府副大臣、小川敏夫法務副大臣、伴野豊外務副大臣、笹木竜三文部科学副大臣、小宮山洋子厚生労働副大臣、篠原孝農林水産副大臣、池田元久経済産業副大臣、池口修次国土交通副大臣、近藤昭一環境副大臣、安住淳防衛副大臣、岡崎トミ子国家公安委員会委員長、城島光力民主党政策調査会長代理、中野寛成民主党税制改正PT座長、亀井亜紀子国民新党政務調査会長、峰崎直樹内閣官房参与

 

貴政権におかれましては、「地球温暖化対策税/炭素税/環境税(以下、地球温暖化対策税)」を含む温暖化政策構築に対し積極的に取り組まれていることに敬意を表します。

効果的な地球温暖化対策税導入が望まれますが、経産省案・環境省案は、環境・経済・社会の鼎立や信頼ある税制構築の観点から、大きな問題が残されています。さらに、現在議論を進めている民主党税制改正プロジェクトチーム地球温暖化対策税検討小委員会(以下、民主党PT)の検討状況にも、大きな危惧を抱いています。

そこで、私どもは、共同で次の要望を行うことと致しました。
貴政権が納税者の信頼・納得を得られる制度設計の地球温暖化対策税を導入することを強く要望するとともに、貴政権の掲げる政治主導の好事例となることに期待しております。

 

要旨

1.早期導入の必要性

  • 温暖化対策強化、経済・雇用活性化、エネルギー安全保障強化、日本の税金・資産の海外流出削減の観点から、地球温暖化対策税を早急に導入すべき。
  • 国内排出量取引制度・再生可能エネルギー買取制度も含む3施策によるポリシーミックス構築を視野に、まず、公平で実効性ある地球温暖化対策税の導入をされたい。

2.制度設計のあり方

  • 十分な価格効果のある税率で導入すべきである。
  • 最低限、自動車燃料税の現行水準を維持する必要がある。
  • 税収は、エネルギー対策特別会計に入れず、一般財源とすべきである。
  • 温暖化対策予算の精査の仕組み構築による、信頼ある税財政確立が必須である。
  • 低所得者や寒冷地・公共交通機関が不備な地域への配慮措置を実施すべきである。

 

要望事項

1.早期導入の必要性

1-1.地球温暖化対策税の必要性と効果

温暖化対策強化、フリーライダー防止
自主行動計画は、甘い目標設定をする業界や参加しない企業・個人に効果がない。国内排出量取引制度は、大規模排出者向けの政策。補助金や租税特別措置も、全ての排出源をカバーできない。地球温暖化対策税は、フリーライダーを防ぎ、他の政策ではインセンティブを与えることが難しい対象も含め、あらゆるCO2 排出者に価格インセンティブ効果で削減を促すことが可能な、極めて効果的な政策である。

経済・雇用活性化、エネルギー安全保障強化、日本の資産の海外流出削減
地球温暖化対策税は、制度的工夫をこらすことで、日本企業の温暖化対策技術・製品力を高め、日本の経済と雇用にプラスを与えつつ、地球規模での気候変動対策に貢献しうる。さらに、化石燃料輸入量を削減し、日本のエネルギー安全保障も強化できる。国内CO2削減が進むことで、海外の排出枠購入による日本の税金・資産の海外流出を防ぐ効果もある。

1-2.地球温暖化対策税と他の気候変動政策との関係

他の気候変動政策と同時が無理な場合は、まず地球温暖化対策税導入を
他の温暖化政策も含めた総合的な検討が必要との意見もあるが、ポリシーミックス構築は時間を要する可能性がある。地球温暖化対策税は、税率の調整や税収使途の工夫等により柔軟な運用が可能であることや、温暖化対策の緊急性を鑑み、国内排出量取引制度・再生可能エネルギー買取制度も含む3施策によるポリシーミックス構築を視野に、まず、公平で実効性ある地球温暖化対策税の導入をされたい。

 

2.制度設計のあり方

2-1.課税のあり方

十分な価格効果のある税率で導入すべき
地球温暖化対策税・エネルギー課税の税率は、温暖化対策に資する技術開発・普及や消費行動を促すインセンティブとなりうる税率が望ましい(その際、炭素集約度や国際競争力に配慮し、別途減免措置や税収使途を工夫することもできる)。

最低限自動車燃料税の現行水準を維持する必要
民主党PTでは、ガソリン税の引下げを有力な案としている。もしこれが実施されれば、公共交通機関から自動車利用へのシフトを促し、CO2排出増を招く可能性が高い。既に、日本のガソリン税をはじめとする自動車燃料税の税率は、多くのOECD諸国よりかなり低い。温暖化対策強化のため、ガソリン税の税率は、引き上げていくべきであり、最低でも現行負担水準は維持する必要がある。

2-2.税収活用のあり方

特別会計に入れず、一般財源とすべき
経産省案及び環境省案は、石油石炭税を増税し、それを全てエネルギー対策特別会計(以下、エネ特会)に繰り入れ、自らが管理する、としている。民主党PTも、そうした方向での素案作成が進んでいる。必要な温暖化対策予算を確保し、有効な技術・製品の開発・普及を推進することは重要である。しかし、特定財源化し、税収をエネ特会へ繰り入れることによる、非効率な予算増加、使途の硬直化・既得権益化が大いに懸念される。一般会計に充当し、その中から必要な温暖化対策予算だけを捻出すべきである。

温暖化対策予算精査の仕組み構築による、信頼ある税財政確立が不可欠
現在の日本の温暖化対策予算は年間約1.2兆円だが、昨年の事業仕分けでは「廃止」「見直し」とされたものもある。温暖化対策予算・租税特別措置精査の仕組み確立が必須であるが、両省の案はその仕組みを明示しておらず、その点が不十分である。政府は、各省庁からの予算確保の要望を勘案するだけでなく、新たな温暖化対策予算・租税特別措置精査の仕組みを示す等、納税者の理解が得られる税収の管理・活用を行う必要がある。

低所得者や地域社会への配慮措置を実施されたい
所得格差問題等が顕在化する中、地球温暖化対策税導入に際し、逆進性(低所得者層の負担増)への対応が課題となる。しかし、経産省案や環境省案は、そうした点の配慮が乏しい。政府のこれまでの税金の使い方に対し、納税者の大きな不信感は、払拭できていない。そうした中、もし余裕のない生活を営む方々に配慮しない形で追加的に税金を徴収し、省庁・政府の予算・権限を拡大すれば、省庁および「国民生活第一」を掲げる民主党政権の信用を損なうことが危惧される。そうした観点を鑑みても、税収を活用した低所得者への配慮措置を実施することが必要である。また、「寒冷地で化石燃料利用が他の地域と比較して多くなってしまわざるを得ない地域」及び「公共交通機関が不備で自動車に依拠せざるを得ない地域」の居住者(地球温暖化対策税負担が重くならざるを得ない)への配慮措置にも地球温暖化対策税の税収を活用すべきである。「最小不幸社会」の実現を掲げる菅政権に期待したい。

以上

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