次期海洋基本計画に盛り込むべき施策および総合的に推進する体制について(意見)


共同意見書 2012年6月27日

2007年7月に「海洋基本法」が制定され、これを受けて総合海洋政策本部において「海洋基本計画」が策定されました。爾来5年が経過し、現在、該計画の見直しに関する議論が関係各所で進められています。

「海洋基本法」第2条に明記されているように、「海洋の生物多様性が確保されることその他の良好な海洋環境が保全されることが人類の存続の基盤」であることから、計画におけるあらゆる段階での生物多様性の保全、海洋環境の保全が担保されなくてはならないと考えます。特に海洋環境保全に取り組む主体の声を積極的に計画に反映させるべきであると考えます。

先頃開催されたリオ+20においても、海洋環境の悪化が強く懸念され、多様な海洋関係者によって行われたオーシャンズ・デイ・アットリオでは、エコシステム・マネージメント(生態系の賢明な管理)を土台とした海域の統合的なガバナンスの必要性や気候変動問題への統合的な対応、生物多様性保全のための海洋保護区ネットワークや、島嶼国や沿岸地域に面した途上国が気候変動に立ち向かい、海の恵みを受け続けられるためのキャパシティ・ビルディング(能力強化・向上)の必要性などが盛り込まれました。

国内に目を向ければ、前回の海洋基本計画策定・審議過程では、市民やNGO、特に自然環境保全など、地域等で活動を担っている多様な主体の参加は十分とは言いがたいものでしたが、5年を経過した現在、沿岸・海洋をめぐる状況は改善されたとはいえません。

しかし、2010年10月、日本が生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-COP10)の議長国として、新たな生物多様性の目標である「愛知目標」を採択し、すべての分野における生物多様性の主流化を宣言しました。その後、2011年3月には環境省により「海洋生物多様性保全戦略」が策定され、海洋環境の保全についての指針が示され、健全な海洋環境を維持するための道筋が整いました。

「環境と開発に関するリオ宣言」にあるように「環境問題は関心あるすべての市民が適時、参加することで、最も良く対処され」、また国連海洋法条約の趣旨に沿い海洋の多面的な機能を多くの市民が将来にわたって享受できることを願わずにはおれません。

草刈秀紀 WWFジャパン事務局長付
安村茂樹 WWFジャパン海洋グループ長
葉山政治 日本野鳥の会自然保護室長
倉澤七生 イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク
日比保史 コンサベーション・インターナショナル・ジャパン代表理事

本件の連絡先:WWFジャパン 草刈秀紀 TEL:03-3769-1711/FAX:03-3769-1717

第Ⅰ部 総合海洋政策本部の見直し海洋基本法推進体制の整備に関する意見

[要望] 海洋基本計画の実効性を確保するための体制の強化について

~参加型の海洋計画で管理の実効性を高める~

海洋基本計画の運用に当たり、計画内容と実施の定期的な点検、評価を行い、その実効性を高めるとともに、計画の進行などあらゆる段階での透明性を確保するための運営委員会(検討委員会)を事務局の上位に組織するべきである。

委員会は、海洋の多面的な機能に鑑み、政策決定者のみならず、地方公共団体、専門家、市民など、幅広い人材により構成することが望ましい。

沿岸域の各自治体に、「海洋地域計画」の策定を促し、海洋基本計画のもと、統合的な管理を自主的に行うことにより、海域の統合的な管理を進める。関係自治体は、地域協議会等を組織し、地域の多様な主体による実効性の高い管理計画を策定すること。

第Ⅱ部 改定海洋基本計画に対する意見

[要望1] 海洋保護区について

地域主導型の海洋保護区の導入:海洋保護区の設置手続きを明確化する。海洋管理と資源保護の側面を与えるとともに、海洋保護区を位置づけ罰則規定を導入する。
自然公園法、鳥獣保護法「等」に基づく各種保護区域等とあるが、2011年に内閣府の試算に含まれた保護水面も含め、海洋保護区は省庁横断的な取り組みであることを明示すること。また天然記念物については、設定情報が不足していることから整備を図るとともに、生物多様性(例えば、海鳥の繁殖地)保全のための具体的な法改正や施策の見直しを行うこと。

  • ※対象項目:第2部 2.海洋環境の保全等(1)生物多様性の確保等のための取組(18頁)

[要望2] 海洋保護区に関する法制度の整備および保護区のネットワークとエコツーリズムの明記が必要である。

海洋生物多様性保全戦略において定義された海洋保護区の推進のため、また、これまでの法制度の範疇に外れた沖合(排他的経済水域内)における保護区の設定を可能にするための法制度の必要性を書き込むべきです。
海洋保護区とそのネットワークの構築による沿岸漁業の再生、エコツーリズムの振興を重要な柱とすることを明記するよう要望します。

  • ※対象項目:総論 目標2、第1部 1 海洋の開発及び利用と海洋環境の保全との調和、第1部 3 科学的知見の充実、第1部 5 海洋の総合的管理、第1部 6 海洋に関する国際的協調、第2部 2 海洋環境の保全等(18頁)、第2部 10 離島の保全等、第2部 11 国際的な連携の確保及び国際協力の推進、など

[要望3] バラスト水の規制・管理について

バラスト水による生態系攪乱防止のため、国内法を整備と、バラスト水管理条約への批准を実施すること。また、関連する技術の開発と普及に積極的な役割を果たすこと。日本は輸出入の90%以上を海上輸送に頼っており、日本の果たす責任は大きい
注)バラスト水管理条約は批准国数が基準に達しておらず発効されていない。

  • ※対象項目:第1部 2.海洋の安全の確保(7頁)

[要望4] 海洋の利用について、環境影響評価を行うことを明記すべきである。

第1部海洋に関する施策についての基本的な指針には「環境に与える影響を事前に評価し影響をできる限り軽減する技術を含め」とあるが、環境影響評価の実施は開発と保全の両立を目差す上で重要である。
海洋の開発と保全のバランスを図ることが、海洋基本法の目的の一つであり、これを達成するためには、開発にともなうアセスメントの規定が必須である。また、広範囲の開発に際しては戦略アセスの導入が必要であるが、海洋の場合は知見が少ないため、戦略アセスに対しての資金導入の制度が必要である。

  • ※対象項目:第1部の4.海洋産業の健全な発展(10頁)、第2部 1.海洋資源の開発及び利用の推進(15頁)、2(2)環境負荷の低減のための取組(18頁)、第3部(42頁)など

[要望5] 水産動植物の生育環境の保全について

漁礁の設置や漁場整備の推進に際しては、周辺の環境および生物多様性への影響を考慮すること。特定の水産動植物の増殖を目的とした漁場整備は、しばしば本来の環境を改変し、また生物多様性を低下させることがある

  • ※対象項目:第2部 1.海洋資源の開発及び利用の推進(15頁)

[要望6] 海洋情報の一元的管理と提供について 

海洋情報の集積と一元管理は好ましいが、一般市民が気軽に閲覧・引用できるシステムにまで成熟していない。沿岸域の保全管理に、一般市民が果たす役割は大きく、手軽に閲覧引用するシステムを構築すべきである。例えば、ポータルページにおいて、分かりやすい検索システムを導入する、活用事例を紹介する、など

  • ※対象項目:第2部 6.海洋調査の推進(26頁)

[要望7] 土砂の管理について

耐用年数や利用目的が事実上失われたダム等の河川設備は、土砂供給や流域の水環境管理のために、撤去も含め検討すること

  • ※対象項目:第2部 9.沿岸域の総合的管理(33頁)

[要望8] 自然災害への対策について

  1. 漁業をはじめ多様な生態系サービスを持続的に享受できるよう、防災・減災のための海岸構造物の建造、強化、補修に際しては、周辺の生物多様性や自然景観に も十分な配慮すること。先の東日本大震災では、世界最大の湾港防波堤(岩手県釜石市)も倒壊し、大規模な自然災害に対しては、人工構造物による防災は十分 な効力を果たさなかったことの反省を活かすべきである。
  2. 防災、減災、災害復興における生態系の役割や配慮について記述を加えるべきである。
    現在の基本計画には「沿岸域が陸域と海域を一体的に扱うべき区域であること、多様な用途に供される区域であること、様々な事象が相互に関連するため全体 を一体的に捉える視点に立った上で適切な状態を保つよう管理すべき区域である」と記述されているが現実には沿岸域に巨大な堤防が作られている。例えば「国 連世界防災白書2011」の中でも災害リスク管理の成功事例について主な要素の一つに「生態系の保護」が位置づけられている。

  • ※対象項目:第2部 9.沿岸域総合管理(33頁)

[要望9] 沿岸域管理に関する連携体系の構築について

地方自治体における連携だけではなく、国省庁間の連携もより強化すること。

  • ※対象項目:第2部 9.沿岸域の総合的管理(33頁)

[要望10] 沖縄等における赤土流出防止対策の推進について

現在の記述にある"沈砂池の整備による農地等の発生源対策の強化"とあるが、沈砂池の設置は、農地の発生源対策にはならない。発生源となる農地そのものからの流出を防ぐための面的な対策をとらなければ赤土の流出防止は出来ない。具体的には、マルチングや不耕起栽培、サトウキビの春植え、株出しへの転換などを進める必要がある。

赤土流出防止対策は非常に重要である。是非、現場での研究や保全に取り組んでいる関係者の意見を吸い上げて効果的な対策の絞込みと重点的な予算配分による対策に取り組んでいただきたい。また「ウ 栄養塩類及び汚濁負荷の適正管理と循環の回復・促進」の項目にも関連するが、沖縄等のサンゴ礁への影響は赤土だけではなく、栄養塩類や化学物質の複合的な影響が懸念されている。そのため赤土等流出防止対策としてサンゴ礁の問題として「イ 沖縄等における赤土流出防止対策の推進」の項目に栄養塩類等の問題も追記するべきである。

理由:サンゴ礁の荒廃は、赤土の中でも非常に細かな粒子の海域への流出とイノーの中での滞留である。沈砂池は畑から出た水を排水路で集めて粒子の大きな赤土の沈降させるものであり、沖縄等の特有の集中豪雨など雨量の多い場合、すぐにあふれ出してしまい水に溶けた赤土を留めることは出来ない。

サンゴ礁海域は、貧栄養の海であり、全国一律の表記を行なうことで誤解を招く可能性がある。サンゴ礁域の保全を進めるためにはその問題点を明記すべきである。

  • ※対象項目:第2部 9.沿岸域の総合的管理(1)陸域と一体的に行う沿岸域管(33頁)

[要望11] 栄養塩類及び汚濁負荷の適正管理と循環の回復・促進について

下水道の高度処理の推進等は非常に重要であり、是非その促進を望むが、インフラの整備だけでは効果が現れないケースがある。重点的に保全の必要な地域の生活排水や畜舎排水などの処理についても国等の資金で行なえる仕組みを構築する必要がある。
理由:沖縄県下等で下水道接続率が極めて低いなど、個人の負担では保全が進まないケースがある。

  • ※対象項目:第2部 9.沿岸域の総合的管理(1)陸域と一体的に行う沿岸域管理(33頁)

[要望12] 離島の保全等について

  1. 離島地域をモデル地区として海域保全の主体をつくる。
    地域協議会等、海域の環境保全を実行するために、市町村・NGO・NPO・漁協・観光協会等の多様な主体が参画する主体をつくり、海洋保護区の設定や適切な環境保全と海域振興のルールづくりを実施すべきである。
    • ※対象項目:第2部 10.離島の保全(35頁)

  2. 財源確保について。
    地域協議会で保全管理する海域に対して国、県、市町村により投資できる仕組みをつくる。
    • ※対象項目:第2部 10.離島の保全(35頁)

[要望13] 離島の振興について

離島の振興は、離島で暮らす人々にとって切実な課題である。しかし、貴重な自然環境の保全と経済的な振興の両立は非常に難しく、自然環境の保全を進めるのであれば、その維持・保全を担う離島住民への直接補償などの検討が必要である。

理由:ここで示されたような産業基盤整備等を進めても効果が無いことは沖縄復帰以降の振興開発計画による開発が持続的な沖縄の発展につながっていないことからも明らかである。

  • ※対象項目:第2部 10.離島の保全等(2)離島の振興(36頁)

[要望14] 生物多様性センターの設置について

自然資源の保全から持続的利用までを視野に入れた離島地域での諸活動を効果的に推進するためには、現在の地方自治体の組織体制では人材、財政面で十分な状況とはいえず、組織横断的、包括的な取り組みが必要となってくる。対応する推進母体として『生物多様性センター』(以下、センター)を、その下部組織として『地域ステーション』の新規設置が望ましい。『センター』は、海洋基本法ならびに生物多様性基本法に基づく、海洋基本計画・生物多様性地域戦略の推進に関わる諸活動(情報収集・管理・解析、人材育成など)を担い、『地域ステーション』は、地域の自然・文化の多様性、固有性に対応できるように、主要な離島に設置し、専門家やNPOとの協働モニタリング、地域の利害関係者との調整、教育普及などに携わる専門官を配置することが望ましい。

  • ※対象項目:第2部 10.離島の保全等(1)離島の保全・管理(36頁)

[要望15] 国際的な連携の確保および国際協力の推進について

世界有数の海洋国家として、海洋環境保護・保全における国際協調と具体的施策における国際的リーダーシップの発揮について明記すべきである。

  1. 1)【公開を含めた国際的取組みへの参画と貢献】「海洋における全人類的課題への先導的挑戦」を具現化すべく、公海を含め地球規模での海洋環境の保全と海洋/水産資源の持続可能な利用を両立させうる国際的な取り組みを、広く国際社会からの支持を得られる形で具体的に推進すること。特に、海洋生物多様性の保全を通した健全に機能する海洋生態系の維持が、科学的にも国際関係上もわが国による海洋・水産資源の持続可能な管理と利用に資することを認識し、リオ+20で合意された公海での生物多様性の保全と持続可能な利用に関する2014年国連総会での決議にも寄与する形で、世界銀行が提唱するGlobal Partnership for Oceansへの参画を含めて、多角的に取り組みを進めることを明記すること。
  2. 【国際連携による開かれた海洋調査の推進】海洋調査における国際連携については、国際的枠組みへの積極的参画や調査結果の公開はもちろんのこと、我が国調査への他国研究者の参加、多国間調査などの積極的拡大による国際協調と知見やデータの相互共有を推進すること。特に、海洋 自然資本に立脚した「ブルー・エコノミー」の確立に向けた国際的な調査・研究を主導すること。
  3. 【太平洋の海洋環境における国際連携への参画および国際協力の推進】国際的な海洋環境の連携について、現行計画では、黄海、日本海での取り組みのみに言及しているが、わが国にとって極めて重要な意味を持つ太平洋における連携を強化する。そのため、APECの枠組みをはじめとした国際的な枠組みやネットワークを通じて、またAPECパラカス宣言および行動計画の推進において、国際的なリーダーシップを発揮する。また、わが国の持続的な海洋・水産資源の利用や地域の信頼醸成、小島嶼国の持続可能な開発にも貢献すべく、太平洋地域における多国間による総合的な海洋管理・保全・開発イニシアチブであるコーラル・トライアングル・イニシアティブ(CTI)やパシフィック・オーシャンスケープ(Pacific Oceanscape)計画への参加と技術的・財政的支援を実施すること。

  • ※対象項目:第2部 11.国際的な連携の確保および国際協力の推進について(37頁)

[要望16] 海洋環境の保全の為の法整備について 

海洋の利用と保全については、海洋基本法の第18条で「海洋環境等の保全等」での定めがあり、この規程のもとでの法整備を行うことを海洋基本計画に盛り込むべきである。

海洋のうち、沿岸域に関しては総合的管理の視点で各省庁の取り組みが、海洋基本法のもとで行われている。海洋基本法でも第6条に「海洋の総合的管理」が記述されており、基本的な施策として第25条で「沿岸域の総合的管理」に触れているが、我が国における海の面積の大部分を占める外洋域についての総合的管理については、何らの取り組みも行われていない。海洋においては海洋エネルギーの活用、地下鉱物資源の利用促進、水産資源の利用などが進められている。一方で日本の近海での生物多様性の豊かさが明らかになっており、日本の海洋における生物多様性の保全は国際的責務といえる。昨今我が国における海洋保護区の現状が8.3%とされたが、その法的根拠を見ると、鳥獣保護法では哺乳類、鳥類とが対象、水産関係の法律や制度では水産資源と位置づけられる生物群のみが対象であり、唯一総合的な生態系を対象とした自然公園法でも陸上景観の延長でしかない。海洋の生物多様性を構成する多様な分類群の生物種を対象とする根拠法が無いのが現状である。そこで海洋基本法の元の個別法としての海洋保護区に関する法の整備が必要である。

なお、この法律の所管官庁としては、現在、海洋生物多様性基本戦略を策定し、重要海域の選定を行なっている環境省が妥当と考える。海洋資源の利用を担う水産庁、経済産業省、国土交通省と保全を担う環境省とでの強調が、我が国の海洋の利用と保全のバランスを担うことを期待することを期待する。

以上

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