「二国間クレジット制度」についてWWFが持つ懸念


はじめに

経済産業省や環境省は、日本の低炭素技術・製品の普及を通じた排出削減量を、二国間協定な どを通じて日本の削減量として独自に認定する新たな仕組みを構築し、鳩山イニシアティブを具体化するものとして、二国間クレジット制度を推進している (*)。2010年8月からは制度実現に向けたFS(実証実験プロジェクト)も始まった。その内容は原子力、石炭火力、鉄鋼、セメント、省エネ製品の普及 などである。
また、この二国間クレジット制度が、コペンハーゲン合意などの国際合意で認められたスキームであるとの認識が広まっている。
WWFは、この二国間クレジット制度(二国間オフセットメカニズムとも呼ばれる)について、以下の6点について懸念を表明する。

(*)経済産業省 京都メカニズムと新たなクレジット

 

1)二国間クレジット制度は、国際合意の中で認められたものではない。

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経済産業省 地球環境小委員会政策手法ワーキンググループ 平成22年10月25日資料
http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004672/007_05_00.pdf

二国間クレジット制度について、経済産業省の資料には、「現行京都議定書では認められない仕組みだが、コペンハーゲン合意によって各国独自の制度設計に可能性が開かれた(平成22年10月 25日資料(**) )」とし、国際的な合意を得ているがごとく書かれている。また一部大手メディアなどでは、「コペンハーゲン合意により、2国間の合意のみで排出枠をやり取りすることが可能になった」と報道されている。

(**)経済産業省 地球環境小委員会政策手法ワーキンググループ 平成22年10月25日資料

 

日経新聞(2010年8月8日)
「低炭素型事業9カ国で、インフラ輸出、経産省が協定 排出枠を日本が取得」から一部引用 「経産省が打ち出すのは「2国間オフセットメカニズム」と呼ぶ枠組み。昨年12月にデンマークで開かれた第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)での「コペンハーゲン合意」により、2国間の合意のみで排出枠をやり取りすることが可能になったため、今回初めて活用する。

しかし、「コペンハーゲン合意によって」二国間クレジットが認められたと解釈するのは乱暴であり、それを報道などで一般に広めるのは誤解を招く行動である。

も ともと、国際的な合意の枠外で、独立した2つの国が何らかの合意を結ぶこと自体に制約があるわけではない(ただし、既存の合意内容によっては制約もあり得 る)。したがって、「二国間クレジット」のような仕組みに関する合意を、国際的な合意の「枠外」で自主的な取組みとして結ぶことは理論的には(コペンハー ゲン合意があろうがなかろうが)可能である。しかし、それが既存の国際合意に矛盾する内容であれば、たとえ2国間であっても結ぶことは難しいし、まして や、それがあたかも国際的な合意(コペンハーゲン合意)の中で認められたと解釈するのは無理がある。

そもそもコペンハーゲン合意の中で は、第4項で先進国の削減について「先進国による削減の実施および資金の提供については、既存のおよび締約国会議によって採択される追加的な指針に従っ て、測定され、報告され、及び検証されるとともに、このような目標及び資金の計算方法が厳密な、強固なかつ透明性のあるものであることを確保する。」と なっており、自国の単独のルールで目標達成のクレジットルールが決められることが認められているとは解釈できない。

また第7項の「我々は、緩和のための行動の費用対効果を高め、及びこれを促進するため、市場を活用する機会を含む種々の方法を追及することを決定する」という大枠の表現をも持って、2国間が認められたとするのも無理がある。

第 11項「我々は、技術の開発及び移転のための行動を強化するため、各国の主導による手法を指針として、かつ、自国の事情及び優先順位に基づいてとられる適 応及び緩和のための行動を支援するための技術の開発及び移転を促進する技術メカニズムを設立することを決定する。」を拠り所とするのも強引である。

いずれにしても、コペンハーゲン合意を持って、二国間オフセット制度が認められた、とするのは、国際社会に通用する考え方ではない。

2)国連の気候変動枠組み条約及び京都議定書における多国間交渉から背を向けるととられる危険性が高く、今の国際交渉への負の影響が大きい。

国 連の気候変動に関する会議において、京都議定書の第2約束期間や新しい枠組みが議論されている。その交渉の只中で、日本が京都議定書の議論の前進を強硬に 拒んでいるのは、世界の国々によく知られていることである。日本がこの時期に2国間による協定を推進するのは、次期枠組みのための多国間交渉を避けて通る 道を探していると見られる恐れが高い。これはそれでなくても滞っている国連による交渉の進展を、大きく妨げてしまう。

また、二国間クレ ジット制度を進める理由として、京都議定書による多国間合意の下のCDMの手続きの煩雑さをあげ、原子力など国連で認められていないプロジェクトを推進す るためとしている。しかし多国間で合意されていないのは環境十全性などの問題があるためであり、それを一国独自の都合のよいルールによって「環境保護事 業」とラベリングして推進しても、国際的に認められる制度にはなりえない。むしろ、多国間の枠組みの中で他の諸国の理解が得られないからといって、その枠 外において原子力等を2国間で進めるという姿勢は、多国間の枠組みの明確な軽視と解釈されうる。

EUも同じ種類の提案をしているとしてい るが、EUの提案は、国際交渉の将来枠組みを見据えて、主要途上国に多国間合意への参加を促す手法の一つとして、国全体で目標を持つことが難しくても、あ るセクターで目標を持つことは可能ではないかという提案である。日本の提案は基本的にプロジェクトベースであるので、途上国へ将来枠組みにおいて参加を促 し、目標を設定させるスキームではなく、EU提案とは目的そのものが違うと考えられる。

3) ルールが都合よく作られ(追加性の問題)、地球規模での削減にはつながらない恐れ。

現行のCDMには、厳格な追加性の審査がある。それはオフセットは基本的には地球規模の排出削減にはならないからである。それでも、非追加的なプロジェクト(CDMがなくても実施されたはずのプロジェクト)の存在が問題視されている。

二 国間オフセット制度は、それぞれの国が自国に都合のよいルールを設定するものであるから、BAU(現状のまま)で行うビジネス活動に対し、クレジットを与 えることにつながる。たとえば原子力や高効率の石炭火力発電所、環境型製鉄所などの途上国への売り込みは、現在のBAUでも官民上げて行われていることか ら見ても、通常のビジネス活動である。それにさらにクレジットを付与するというのは、国際的なルール上では追加性は全く認められない。

ま た、消費ベースによる排出量削減を算定することを前提に、省エネ製品などの普及プロジェクトもあげている。多くの途上国にとっては、国際的に統一された基 準で、排出量を算定し、検証することはいまだ困難であるのに、ましてや統一された基準もない消費ベースの算定でクレジットを発生させるというのは、あまり にも不確実な排出削減クレジット創出となる。

もともと、CDMにおける手続きの猥雑さが、二国間クレジットの提案につながった要因であることを考えると、「手続きをなるべく簡略化してしまおう」という圧力は強くかかると予想される。

こ れらのクレジットを日本の目標達成に使うというならば、結果としてその分の日本の国内努力は必要ないことになり、確実な排出減少にはつながらない。また、 これが通用するなら、日本に続いて他の先進国も自国に都合のよいルール展開をすることを招き、結果として世界全体の排出増加になってしまう。

国連の下で多国間交渉に基づくメカニズムのルール合意に真摯に取り組み、追加的で環境十全性の高い国際的な共通ルール作りに貢献する姿勢を示すべきである。

4)国内における削減努力からの逃げ(補完性の問題)になりうる。

日本が公約した25%削減のうち、国内で達成する割合はまだ示していない。その中で、自国に都合がよいルールで持って、BAUのビジネス活動から生まれるクレジットでもって、目標達成を図るのは、国内における削減努力からの逃げになりうる。

ま ず25%の大部分を国内削減で達成する努力をするべきであり、その上で海外クレジットを使用するにしても、厳格な環境十全性を満たしたクレジットを設定し た上で、定められた上限内で活用するのがあるべき姿である。国際的合意に基づかない安易なクレジット使用でもって目標達成を宣言しても、国際的に認められ るものではない。

5)排出量と資金援助のダブルカウントになり、真の排出削減とならない:

  1. 先進国の排出削減と途上国の排出削減のダブルカウント
  2. 先進国の目標達成のためのオフセットを途上国への資金援助としてダブルカウント

二 国間クレジットは、鳩山イニシアティブの資金の受け皿となるスキームとして活用されると思われる。ということは、途上国への資金援助が、先進国の目標達成 のためのクレジット創出を兼ねることになる。しかし、資金援助によって達成された途上国での削減は、途上国自身が、自国の削減量としてカウントするであろ う。他方で、その削減量をクレジットとして先進国が自国の削減貢献としてカウントすれば、排出削減量のダブルカウントとなる。排出削減量のダブルカウント では、地球規模での排出削減とはならないため、温暖化を緩和するために必要な排出量の確保ができないことになる。

また資金援助として約束された資金が、先進国の目標達成のために使われることになり、資金のダブルカウントともなり、もはや途上国の緩和・適応を援助するためのものではない。これは途上国への資金拠出を宣言した公約の反故にもなる。

財源はどこからか。単なる企業に対する貿易補助金になるのではないか。公平性はどうなるのか

特 定の事業に二国間クレジット(売買可能なら)を与えるということは、日本政府がその企業に対して貿易補助金を与えるのに等しくなる。ならば、特定の企業の 事業にだけ与える恩恵となり、公平性に欠ける。また国際的に見て、WTOルールに抵触する可能性が高いだろう。 またその補助金の原資をどう調達するのか 示されていない。

終わりに

今の段階では、多国間の枠組み合意が遅れている中、合意を待つ だけではなく、できることから前へ進めていき、交渉を補完していこうという意図であると聞く。途上国の緩和行動のあり方や、算定、報告、検証の手法などを 実証実験する中で、知見を積み上げ、国連の交渉の場の議論に具体的に貢献していくのが純粋な意図であるなら望ましい。

それならば、実証事業の内容は吟味するべきで、原子力やCCSなど国連ルールで認められていない事業や、確実な排出量算定が困難な消費ベースの算定を目指す事業を、鳩山イニシアティブの名目で二国間クレジット制度として実証事業を行うべきではない。

今 のところ、政府にはこの二国間クレジット制度そのものを国連交渉に提案する意図はないように見えるが、今の段階でこの制度を提案することは、世界に向かっ て日本が多国間交渉を否定しているととられ、次期枠組み合意を妨げる行動になるため、慎むべきである。あくまでも日本は国連の場における多国間合意を目指 す意図を明らかにし、オフセットルールも多国間で交渉していく姿勢を堅持するべきである。

WWFは、環境立国を自認し、二つの環境条約に日本の都市名(京都&名古屋)を有する国の責任として、日本政府に思慮ある行動を求める。

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