TNFDのベンチマーク調査結果に基づく報告書「2024年TNFD開示の潮流と日本企業の対応状況」を公開
2025/08/28
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- 2025年8月、WWFジャパンは、「TNFDキーポイント」に基づくベンチマーク調査の結果を踏まえた報告書「2024年TNFD開示の潮流と日本企業の対応状況」を公表しました。本報告書は、2024年にTNFD提言に基づく開示を行った日本企業65社を対象に実施したベンチマーク調査の結果に基づいています。調査では、企業の開示内容を分析し、その傾向と今後の取り組みに期待される点をまとめました。
TNFDキーポイントに基づくベンチマーク調査の実施
多くの日本企業がTNFD開示を進めていますが、「開示すること」に注力しすぎて肝心のネイチャーポジティブに向けたアクションにつながらない恐れもあります。また、自然関連課題に馴染みのない企業も多く、要点がずれてしまうケースも見受けられます。
そこでWWFジャパンは、自然保護団体の視点から、日本企業が持続可能な事業形態へ変革するために、特に初期の開示で注力すべき4つのポイントをTNFDから抽出し、「TNFDキーポイント」として整理しました。その上で、2024年にTNFD開示を行った65社を対象にベンチマーク調査を実施し、日本企業の開示状況を分析しました。
本調査では、TNFDキーポイントに設定された指標ごとに、各企業の開示がどの段階にあるのかを調査しました。
4つのキーポイントに基づく分析結果の概要
①TNFDで開示するマテリアリティ・アプローチの選択
TNFDは、事業の自然への依存や影響を「財務的観点に限って開示するのか」「自然にとってのリスクや機会まで含めるのか」というマテリアリティの考え方を、開示フレームワークの一般要件として位置づけ、開示フレームワークの上位に位置付けています。しかし、調査対象65社のうちマテリアリティ・アプローチを明示していたのは13社(20%)にとどまりました。
複雑な自然関連課題に対応するためには、「財務マテリアリティ」と「インパクトマテリアリティ」の双方を踏まえた「ダブルマテリアリティ・アプローチ」の採用が推奨されます。今後は、企業がこの考え方を明示し、その上で開示を進めることが期待されます。
②自然関連課題(依存、影響、リスクと機会)の特定・評価、および優先地域の特定
直接操業に関する分析は比較的進んでおり(★★★以上の企業40%)、自社拠点周辺の生態系の十全性や水リスクを評価する事例が目立ちました。一方、バリューチェーン上流・下流の分析はトレーサビリティ確保の難しさから遅れており、★★★以上は19%にとどまりました。多くの企業がデータツールを用いた一般的な分析にとどまっており、今後は「場所に基づいた依存・影響分析」の深化が期待されます。
③ミティゲーションヒエラルキー(マイナスインパクト回避の優先)
依存・影響の分析に基づき、社内合意を経たマイナスインパクトの回避に向けた計画が不可欠ですが、マイナスインパクトの回避実施の事例紹介にとどまる企業も散見されました。ネイチャーポジティブに向けた事業変革には、社内合意による回避・軽減の方針や目標設定が欠かせません。直接操業では節水、バリューチェーンでは森林破壊ゼロや責任ある鉱物調達といった目標を開示している企業もありましたが、トレーサビリティの確保や具体的なロードマップや指標設定の開示が今後さらに求められます。
④IPLC(先住民族と地域社会)と、影響を受けるステークホルダー
自然関連課題とIPLCを関連づけた認識は十分に広がっておらず、★★★に到達した企業は3社のみでした。調査対象の全65社が国際的な人権規範への賛同を表明していましたが、人権デューデリジェンスの範囲に地域住民や先住民族を含め、誰もがアクセス可能な苦情処理窓口を設けている企業は28%にとどまりました。今後は、開かれた窓口の整備や実効性のあるエンゲージメント体制の確立が重要になります。
今後に向けて
TNFDは、自然関連課題の分析を通じて企業がビジネスモデルを変革する契機となることが期待されます。その実現には、複雑なトレーサビリティの把握、マイナス影響を減らすための戦略立案と実行力など、多岐にわたるノウハウが不可欠であり、時間を要します。
今後、先進的な企業事例なども参考に、各企業がネイチャーポジティブの実現に向けて取り組みが進むことが期待されます。本報告書では、こうした課題に挑戦する事例も紹介しています。
WWFジャパンは今後も、TNFD開示を通じて企業が自然関連課題と真摯に向き合い、自然資本や生物多様性への影響を低減できるよう、関係ステークホルダーとの対話を進めていきます。