四国のツキノワグマに関するセミナーを高知で開催しました


日本で最も絶滅する危険性が高いとされるクマの個体群は、四国に生息するツキノワグマです。WWFジャパンとNPO法人四国自然史科学研究センターは、2012年7月から絶滅を回避するために科学的データを集め、生息適地などを明らかにする「総合調査」を実施しています。その最初の1年間の調査結果を報告することを目的に、2013年6月29日、高知大学にて一般の方々を対象としたセミナーを開催しました。

四国のクマは絶滅のおそれのある地域個体群

近年、本州ではクマの出没が頻繁に起きるようになり、生息域が広がっている、あるいは生息数が増えているのではという見方がありますが、四国のツキノワグマに関してはまったく事情が異なります。

その生息数は、十数頭から多くても数十頭程度とされ、環境省の作成するレッドリストにも「絶滅のおそれある地域個体群」として記載されています。

そして、全国に5つある「絶滅のおそれある地域個体群」の中でも、最も生息数が少なく絶滅のおそれがあるのが、四国のツキノワグマです。

そこで、NPO法人四国自然史科学研究センターは、2002年から四国のツキノワグマの生態調査を開始し、WWFジャパンは2005年から同センターの調査に対する支援を続けてきました。

越冬の実態やおおよその行動圏などを把握し、保護区の拡大などを国や県に要望して、2009年11月の国指定剣山山系鳥獣保護区の東南方向への拡大につなげました。

しかし、依然としてクマを取り巻く状況は厳しく、行政当局に働きかけると同時に、地元の方々にも、その実態を知っていただき、絶滅を回避するための施策への理解を深めていただく必要があると判断しました。

そこで、2013年6月29日、高知大学朝倉キャンパスを会場にして、「四国のツキノワグマについて知っていますか?絶滅が危惧される、その現状」と題するセミナーを開催しました。

これによって、官民の力を合わせた保護活動を四国で展開する基盤がより確かなものになればと考えたのです。約60名の参加者があり、みなさん熱心に耳を傾けていました。

高知大学朝倉キャンパスでセミナーを開催

四国のクマの歴史をふり返り、現状を調査

このセミナーでは、まず、2002年から10年あまりクマの生態調査に従事してきた四国自然史科学研究センターの金澤文吾氏から、四国のツキノワグマをめぐる歴史的経緯が語られました。

昭和初期にあたる1930年代、クマ1頭に50円の奨励金がついて、クマの駆除が奨励されたということです。米一升(約1.5kg)が40銭の時代ですから、かなりの金額になります。クマは、植林したスギやヒノキの甘皮(形成層)をかじって、木を枯らせてしまうこともあるため、害獣扱いされていたのです。戦後も改めて捕殺が奨励され、1970年代には1頭40万円という賞金がつけられていたそうです。

1940年にまとめられた、当時のクマの分布図をみると剣山山系のほかにも愛媛県や四国西部の山地にも生息していたことがわかります。

たしかな生息範囲が今は、徳島県と高知県にまたがる剣山山系に限られますが、かつては四国に広く分布していたという話に、会場のみなさんもやや神妙な面持ちとなりました。

やがて、四国ではクマが減ってしまったのではないかと懸念する声があがるようになり、80年代から保護の機運が生まれました。高知県が86年に、徳島県は87年にクマを捕獲禁止としました。

剣山山系には、現在、国指定の鳥獣保護区に加えて、林野庁の保護林およびそれをつなぐ「緑の回廊」が設定されています。四国のクマが、こうした保護地域に生息していることを、金澤さんは生態調査によって明らかにしてきました。

ヘアトラップ法というクマが鉄線をくぐり抜けようとするときに体毛が採取できる調査、カメラトラップ法というクマが前を通りかかると感知してシャッターが切られる自動撮影カメラによる調査などを金澤さんは続けてきました。

ドラム缶をオリとして用いる調査捕獲では、性別や年齢、体長、体重などが測定されました。「四国のクマは本州のものにくらべるとやや小型である傾向が見られる」とのことです。

捕獲したクマには発信器つきの首輪が装着され、ラジオテレメトリー法という手法で行動圏が把握されていきました。これによって、2003年~2008年にかけて、5頭のクマのおおよその行動圏が分かりました。

四国自然史科学研究センターは、WWFジャパン、日本クマネットワークとともに、クマが行動圏としているものの、まだ保護区になっていない場所を保護区とするように、国や県などに要望書を出して、剣山山系鳥獣保護区の拡大につなげたのです。

金澤さんは、調査活動を通じて、オスは大木の洞(うろ:木の内部にできた空洞)など、メスは根上がり(木の根が持ち上がって穴になったところ)などで越冬することを確かめ、四国のツキノワグマに関する信頼の置ける科学的情報をもたらしてきました。

四国のクマ絶滅回避のための総合調査

続いて、同センターの山田孝樹さんが、「四国地方ツキノワグマ地域個体群絶滅回避のための総合調査」について話しました。

これは、2012年7月からWWFジャパンとの共同プロジェクトとして始められたもので、クマの追跡調査に加えて、食料となるドングリなどの堅果類の資源量が生息地にどのくらいあるかを調べるものです。

追跡調査については、従来のラジオテレメトリー法に代えて、GPS(人工衛星を使った全地球測位システム)による正確な位置情報を記録する方法が導入されています。

2012年9月に、3頭のメスにGPSを用いた記録装置付き首輪を無事に装着することができ、それ以降、3頭の詳細な行動記録が得られるようになりました。

山田さんはこの1年間の位置情報を解析し、「四国のクマは主に標高1,000メートル以上を利用しており、そこにはブナクラス域植生が広がっている」ことを明らかにしました。ブナクラス域植生とは、ドングリの実をつけるブナやミズナラなどの広葉樹が広がっている森林のことです。

また、「日の出や日の入り前後の薄明かりの時間帯にもっとも活発に行動している」ことを示すデータにもふれながら、総合調査によってはじめて見えてきた行動パターンも示唆しました。1日の移動距離は、ときには5~8kmにおよぶことがあるものの、概ね1~2kmであると話しました。

堅果類の資源量調査は、「シードトラップ」と呼ばれる、落ちてくるドングリを受け止めるネットを山中に300基近く設置し、定期的に回収して調べるものです。

2012年9月~10月にかけての時期を中心にブナやミズナラ、コナラのドングリを多数回収し、分析した結果が報告されました。総計8,500を超える種子を割って、種子が健全であるか、虫に食べられていないか、未成熟なものはないかといった点を確認する地道な調査です。

その結果、ブナについては、どの地点でも凶作となり、岩手や富山などの全国的な凶作の傾向と一致していることが分かりました。一方、ミズナラについては、剣山山系においても、場所による豊凶のばらつきはあるものの全体としては並作と言えるとしました。

これも、全国的な傾向とおおよそ一致しています。2013年の春には、仔グマ2頭の誕生が確認されていますので、「ミズナラが一定程度の実をつければ、ブナが凶作でも繁殖を行える程度の栄養をクマが得ることができると考えられるのでは」と山田さんは慎重に話しました。

クマの追跡調査にしても、堅果類の資源量調査にしても、2012年~2016年まで実施予定の総合調査の最初の1年であり、今後さらに多くのデータを集めて解析を進めることが重要であると山田さんは強調しました。データ数が多いほど、解析の信頼性が増すからです。

特に、堅果類の資源量調査は、たくさんのシードトラップを険しい山中に設置し、定期的にドングリを回収する必要があるため、体力的にも精神的にも過酷な調査です。

激しい風雨で、シードトラップが飛ばされることもあり、その場合、再設置の労力がかかります。

ドングリの実をひとつずつ割って内容量を調べる作業も、高知大学の学生さんの応援は得ているとはいえ、決して楽ではありません。

総合調査は、最終的に、クマの生息できる環境がどこにどのように広がっているかを示した「生息適地マップ」を作成し、また、クマの食料が剣山山系のどこにどのくらいあるのかを明らかにした「エサ資源量マップ」を作成することを目指しています。

NPO法人四国自然史科学研究センターとWWFジャパンは、調査結果を会場と共有しつつ、今後の調査活動と保護活動の継続のためには、関心を寄せるみなさまからの継続的な支援が大切であることを伝えて、このセミナーを締めくくりました。

調査地である徳島県と高知県にまたがる剣山山系

剣山山系の位置

NPO法人四国自然史科学研究センターの金澤文吾さん

自動撮影カメラに写ったクマ

オスが越冬していた大木

NPO法人四国自然史科学研究センターの山田孝樹さん

シードトラップに集まったドングリや落ち葉

種子をひとつずつ割って調べる作業

熱心に耳を傾ける会場のみなさん

会場との質疑応答から

会場からの質問に、金澤さんと山田さんは丁寧に答えていきました。

Q:20頭~30頭程度と四国のクマは数が少ないということだが、遺伝的に弱くなったりする心配はないの? 本州のクマを導入する可能性はないの?
A:個体数が少ないので、遺伝的な多様性が低下していることは考えられる。紀伊山地の個体群と遺伝的には近いが、相違もあるので、今ある個体群での存続を図ることを第一に考えるべきでしょう。

Q:かつて四国の西部に生息していたものは、今はどうなっているの?
A:現在は、四国の西部にいるという確実な情報はない。目撃情報をきちんと確認しつつ、万一出没したときの対応策を各県や環境省などの行政機関にまとめてもらいたいところ。

Q:シードトラップにクマがやってきてドングリを食べたり、リスなどが持っていったりする可能性はないの?
A:シードトラップが野生動物に壊された例はほとんどない。定期的に見回りをしてドングリを回収するのは、そうした野生動物からの影響をなるべく受けないようにするため。

セミナー『四国のツキノワグマについて知っていますか?~絶滅が危惧される、その現状』開催概要

日時 2013年6月29日(土)13:30~16:00
場所 高知大学 朝倉キャンパス 共通教育1号館 133号室(高知市曙町二丁目5番1号)
主催 NPO法人四国自然史科学研究センター、WWFジャパン
共催 土佐生物学会・高知大学
後援 NHK高知放送局、高知新聞社、RKC高知放送、KSSさんさんテレビ、KUTVテレビ高知、よさこいケーブルネット、FM高知、朝日新聞高知総局
プログラム

1.開会あいさつ:谷地森秀二(NPO法人四国自然史科学研究センター/センター長)

2.講演1 「四国のツキノワグマ、その歴史と現状」:
       金澤文吾(NPO法人四国自然史科学研究センター 理事)

3.講演2 「四国地方ツキノワグマ地域個体群絶滅回避のための総合調査
       ~1年目の成果とこれからの課題~」:
       山田考樹(NPO法人四国自然史科学研究センター 研究員)

4.質疑応答

5.閉会のあいさつ: 大倉寿之(WWFジャパン)

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