「子どものころはミヤコカナヘビが身近にいたよ」 沖縄生物学会誌にて論文発表 宮古高校科学部による地元住民への聞き取り調査 ~宮古諸島の絶滅危惧種ミヤコカナヘビ 過去の分布状況を把握~


陽春の候、貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 世界で宮古諸島だけに生息している絶滅危惧種ミヤコカナヘビの保全・普及活動を共同で実施しているNPO法人どうぶつたちの病院沖縄(沖縄県うるま市、理事長・長嶺隆)、琉球大学熱帯生物圏研究センター・戸田守准教授、公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(東京都港区、会長・末吉竹二郎、以下WWFジャパン)は、三者で支援した沖縄県立宮古高等学校の科学部による宮古諸島の固有種ミヤコカナヘビの研究成果が沖縄生物学会誌に受理されことをお知らせいたします。本論文は、NPO法人どうぶつたちの病院沖縄と琉球大学熱帯生物圏研究センター・戸田守准教授が高校生らとともに投稿し、同誌第60号(3月31日発行)に掲載されました。地元の高校生が主体となって高齢者から地域の昔の様子を聞き取り、ミヤコカナヘビが1970年代までは身近に生息していたことを明らかにした研究発表であるとともに、今後、種の保全策を進める上で重要な示唆に富む内容となっております。貴紙にてご取材頂けましたら幸いです。

ミヤコカナヘビは緑色の体色、細長い体形、自切する長い尾が特徴のトカゲで、宮古諸島の固有種です。2010年代に入ってから個体数の著しい減少が指摘され、現在は宮古島市自然環境保全条例の保全種、沖縄県天然記念物、種の保存法に基づく国内希少野生動植物種に指定され、環境省版レッドデータブックで絶滅危惧IA類、IUCNのレッドリストでは危機種(Endangered, EN)に指定されています。

ミヤコカナヘビは1996年に新種として記載されるまではアオカナヘビと混同されていたこともあって過去の生息状況に関する知見は限られています。そのため、個体数や生息域がどのように変化して絶滅が危惧される状況に至ったのかについて詳しいことは分かっていませんでした。このような知見は、本種の個体数減少の要因を特定する上でも有用であり、ひいては保全策を講じるためにも役に立つと期待されます。

そこで、2019年に沖縄県立宮古高等学校(宮古島市平良字西里718-1)の科学部、当時3年生7名が地元の50代~100歳の方208名から、宮古島とその周辺離島にのみ生息する絶滅危惧種ミヤコカナヘビの過去の生息状況を調査するために聞き取り調査を行いました。部員らは部活動として、市内の老人ホームや各地の公民館や公共施設(10カ所)を訪問し、直接聞き取りを実施しています。直接の研究指導は才木美香(NPO法人どうぶつたちの病院沖縄)があたり、WWFジャパンは研究支援と事前学習の実施、戸田守(琉球大学)は研究全体にわたる助言を担当しました。

~論文の要約~
本種が目撃された地域は伊良部島と宮古島の広い範囲に及び、特に宮古島中央から東よりの地域で本種を見ていた人の比率が高いという結果が得られました。年代別にみると、回答者に占める目撃者の割合は1950年代で特に高かったものの、1970年代でも20%を超えました。さらに、遊んでいた時に見た、自宅の庭で見たなどの回答も少なくなく、方言名に言及する回答者も多かったことから、ミヤコカナヘビは、今回回答の対象となった1970年代以前は、伊良部島と宮古島の広い範囲において人の生活圏内で比較的ふつうにみられる存在であったことが示唆されました。

★宮古高校科学部のメンバーは、本研究の内容で、2020年青少年科学作品展 沖縄県知事賞を受賞しています。また本件調査は、環境省生物多様性保全推進支援事業の支援を受けて実施されました。

【関係者紹介】
●NPO法人どうぶつたちの病院沖縄 
https://www.yanbarukuina.jp/
ヤンバルクイナやイリオモテヤマネコをはじめとする沖縄県内の希少な野生動物の保全活動をしています。交通事故等で傷ついた野生動物の救護・治療や野生復帰のためのリハビリテーションもおこなっています。また、動物医療過疎地の離島におけるペットの診療と適正飼育の普及活動と各島の野生動物の保全に取り組んでいます。

●戸田守(琉球島嶼生物地理学研究室)琉球大学熱帯生物圏研究センター 
https://nt-tbrc.jimdofree.com
琉球大学熱帯生物圏研究センター・准教授。琉球列島の爬虫類と両生類を主な対象とし、遺伝子や形態の違いから琉球の生物相の成り立ちや島嶼における生物の多様性と進化のしくみについて研究しています。近年は、大学院生とともに生物多様性保全に関する研究にも取り組んでいます。

●WWFジャパン http://www.wwf.or.jp/
WWFは100ヵ国以上で活動している環境保全団体で、1961年にスイスで設立されました。人と自然が調和して生きられる未来をめざして、サステナブルな社会の実現を推し進めています。特に、失われつつある生物多様性の豊かさの回復や、地球温暖化防止のための脱炭素社会の実現に向けた活動を行なっています。

【論文情報】
立津槙斗・神里秀美・徳嶺夏南子・徳嶺美南子・上地翔平・伊川佳那・石川作実・儀間朝宜・権田雅之・戸田守・才木美香, 聞き取り調査に基づくミヤコカナヘビ(爬虫綱:有鱗目)の過去の生息状況. 沖縄生物学会誌 第60号:1-10

■報道関係者からのお問合せ
WWFジャパン プレス担当 Email: press@wwf.or.jp

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