共同声明:コツメカワウソを利用した地域活性化プロジェクトについて


日本アジアカワウソ保全協会
動物との共生を考える連絡会
公益財団法人世界自然保護基金ジャパン


野生動物※1の展示・触れ合い※2利用には、絶滅の恐れがある種や、密輸の押収報告がされている種が含まれていることが確認されています。また、公衆衛生・安全対策を欠いた利用者との触れ合い、「かわいい」を強調した発信なども野生動物ビジネスが抱える問題であると考えています。

特にコツメカワウソについては以下のリスクを伴うことから、コツメカワウソを利用した地域活性化プロジェクト(以下、本事業)を実施する事業者は、リスクの正しい認知とそれらを最小化するための対策の実施が必要です。


1. 良い動物福祉を満たせないリスク
2024年に発表されたコツメカワウソの触れ合い施設に関する調査報告書によれば、施設内で十分な水場が確保されていないことや、不適切な餌が与えられていた事例が報告されています(1)。さらに、カワウソ類は高い社会性と複雑な行動要求を持つため、飼育施設にはこれらの欲求を満たす環境エンリッチメントが不可欠です。しかし、一般的な触れ合い展示施設において、そのような飼育環境を企画・維持することは極めて困難であり、動物福祉を十分に満たせない可能性があります。

2. 公衆衛生を確保できないリスク
2025年にWWFジャパンが実施した野生動物の触れ合い展示施設に関する調査(以下、WWF調査)によると、コツメカワウソを扱う施設から薬剤耐性菌が検出されました。また、半数近くの施設では、動物接触後の手洗いなど最低限の衛生対策さえ徹底されていないことがわかりました(2)。こうした不特定多数が利用する触れ合い展示施設では、利用者による外部からの病原体の持ち込みや、利用者から動物、さらに動物間で病原体が伝播する恐れが高く、人と動物の双方が健康を害するリスクがあります。さらに、多くの施設では獣医師が常駐しておらず、定期的な健康診断も実施されていないため(2)、利用者や動物間で病原体が感染する危険性は決して小さくありません。

3. 公衆安全を確保できないリスク
コツメカワウソは英国の動物園の運営実施に関する基準で「危険動物カテゴリー1」に指定されています※3。つまり、コツメカワウソについては、「利用者との直接接触をさせるべきではない」という考え方が基盤にあり、接触が認められた場合でも教育訓練を受けた従業員が、適切な人数で動物に付き添うことが求められています。接触には危険が伴うと認識されるコツメカワウソとの無制限な触れ合いは、咬傷事故等を引き起こす恐れがあります。

4. 絶滅危機を加速させるリスク
コツメカワウソは、国際自然保護連合(IUCN)が作成する「IUCNレッドリスト」において、絶滅の恐れのある動物(VU:危急種)に指定されています。2019年にはワシントン条約の附属書Ⅰに掲載され、国際取引規制が強化されました。しかし、近年もベトナムやタイなどで密猟や押収が確認されています(3)。たとえ触れ合い展示施設で利用される個体が日本国内で繁殖されたものであっても、日本での愛玩利用がSNS等を通じて広く発信されることで、同種に対する需要が高まり、違法取引を助長する懸念があります。

5. コツメカワウソに関する誤った理解を助長するリスク
WWF調査によると、調査対象施設の多くで動物の生態や習性よりも「かわいい」側面が強調され、触れ合い方法に関する指導が不十分であることが判明しました(2)。人と動物の共生社会を実現するためには、コツメカワウソの行動特性や生息地の現状を正しく理解することが不可欠です。特に、保全に関する知識の向上は展示環境の工夫や解説内容と強く関連することが指摘されています(4)。また、野生動物を「飼いならされた」「かわいい」存在として示す体験は、ペットとして飼いたいという欲求を高める可能性があるとされており(5)、触れ合いを主とする環境教育の有用性には疑問が残ります。

6. 本事業が地方公共団体主体の事業として適合しないリスク
本事業の主な対象とされている地方公共団体は、地方自治法第一条の二第一項に基づき、住民の福祉の増進を目的とする行政主体です。上記リスク、とくに公衆衛生上の懸念がある触れ合い展示施設の運営は、住民の健康と安全を脅かす行為であり、この原則に矛盾します。地方自治体に本事業にかかるサービスを提供する場合には、上記リスクを最小化するための対策を講じ、公益性および住民福祉の向上に資することが必要です。


上記リスクを伴う本事業を実施する場合は、以下の対応を取ることを求めます。

本事業の実施団体(交流型・保全型テーマパークの運営を行なう団体)に対して、
(ア) 良い動物福祉および、公衆衛生・安全を担保するための計画と事業を提案、支援をすること

(イ) コツメカワウソとの触れ合いが、動物の生態や習性への理解を深めるために有意義なものになるよう、専門知識を有し、訓練を受けた職員による説明を十分に行なうよう指導すること

(ウ) 公共団体との連携に際しては、コツメカワウソを広告的・娯楽的に利用する企画や表現を行なわないよう指導すること

(エ) 国際的な違法取引の状況を踏まえ、コツメカワウソの需要を増加させる恐れのある事業や発信を行なわないよう指導すること


 また、サービスを利用する地方公共団体においては、地方自治体の役割と責任を十分に認識し、触れ合い展示施設の運営が住民福祉の増進や公益性の確保に資するものかどうか、慎重に検討すべきです。さらに、立法者および日本政府は、人と野生動物の共生社会の実現に向け野生動物とその生息環境の保全、ならびに動物への理解促進を目的とした規制や施策を実施することを期待します。


※1 イヌ、ネコ、ウサギ、モルモットなど家畜化された動物以外の動物を指し、野生捕獲、飼育下繁殖の別は問わず、野生動物と家畜化動物の交雑個体も野生動物に含む。
※2 動物の頭、背中などの体表に触る、撫でる、抱き上げる、腕や肩に載せる、エサを与える行為。
※3 英国の1981年動物園ライセンス法の実施基準「国務大臣が定める近代動物園の業務に関する基準(Secretary of State’s Standards of Modern Zoo Practice)」ではコツメカワウソは危険動物カテゴリー1に該当する。なお、動物園基準は改正され、危険動物の分類や掲載種の変更が加えられた。2027年5月24日より新基準の施行が予定されている。

参考文献

(1) Ushine, N., Kamitaki, A., Suzuki, A., & Hayama, S.-I. (2024). Assessment of Captive Environment for Oriental Small-Clawed Otters (Aonyx cinereus) in Otter Cafés in Japan. Animals, 14(16), 2412. https://doi.org/10.3390/ani14162412

(2) WWF-Japan. (2025). 野生動物との触れ合いの現在地:野生動物を扱うアニマルカフェのリスク緊急評価.

(3) TRAFFIC. (2025). Wildlife Trade Portal.

(4) Spooner, S. L., Farnworth, M. J., Ward, S. J., & Whitehouse-Tedd, K. M. (2021). Conservation education: Are zoo animals effective ambassadors and is there any cost to their welfare? Journal of Zoological and Botanical Gardens, 2(1), 41–65. https://doi. Org/10.3390/jzbg2010004

(5) Leighty, K. A., Valuska, A. J., Grand, A. P., Bettinger, T. L., Mellen, J. D., Ross, S. R., Boyle, P., Ogden, J. J. (2015). Impact of visual context on public perceptions of non-human primate performers. PLOS ONE, 10(2), e0118487. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0118487

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