セミナー「黄海の環境保全と中国における持続可能な水産市場の今」開催報告


2015年5月28日、WWFは「黄海の環境保全と中国における持続可能な水産市場の今」と題した中国水産セミナーを開催しました。セミナーでは、中国の水産物を取り扱う企業関係者、湿地環境の保全に関心を持つ方々を主な対象に、水産物の生産、加工、流通の現状と、豊かな黄海の生物多様性について話題と情報を提供。今後、水産の生産現場と環境保全の現場で、どのような取り組みと協力が求められるのか、活発な議論が行なわれました。

東アジアをつなぐ海をめぐって

日本にとって、最大の水産物供給元である中国。

そこから輸入される水産物は、アサリやハマグリをはじめ、加工品を含め年間40万トン以上にのぼります。

中国国内での生産量や消費量も年々増加する中、水産資源を今後、「持続可能」な形で保全・生産していくことができるのか。

また、そうした取り組みを通じて、生産の母体である豊かな黄海の自然環境を、どのように保全し、野生生物との共存を図っていくべきなのか。

その大きな課題について、水産物の輸入や販売を手掛ける日本企業の関係者が、最新の情報を得る機会は十分にありません。

そこで、黄海の環境保全に取り組むWWFでは、漁業と自然保護、双方の観点から、情報提供と今後の検討に向けた機会を提供するため、2015年5月28日、東京でセミナー「黄海の環境保全と中国における持続可能な水産市場の今」を開催しました。

セミナー報告


第一部『中国における水産市場の今』

第一部では、中国水産流通加工協会の陳麗純(チェン・リチュン)氏、遼寧省海洋水産科学研究院の冷傳慧(レン・チョアン)博士、WWF中国の李叶青(リ・イェチン)がそれぞれ、中国の水産市場、日本と中国の貿易、持続可能な水産物について、発表を行ないました。

セミナーの様子

発表(1)中国漁業と持続可能な水産品の消費動向

発表者:中国水産流通加工協会 陳麗純(チェン・リチュン)

中国の漁業生産量は、過去30年で急増し、資源保護が求められています。

中国政府の漁業管理目標には、海洋漁業の持続可能性、リサイクル利用への転向、海洋環境悪化の防止、漁業資源の枯渇につながる漁具・漁法の廃止等が掲げられています。実際の漁獲の現場でも、未成魚の割合が多くなっており、課題です。

漁獲圧を減らすため、養殖水槽の上、中、下層で異なる魚介類を養殖する生態混合培養が増えています。

2014年には、生産量の73%以上が養殖を占め、2020年には80%を越えると予想されています。漁業資源の保護のため、海洋だけでなく、揚子江など河川域でも禁漁期を設け、資源を効果的に守る養殖区、小魚区などの保護区の区分が新設されています。

中国水産物の流通加工と消費については、高価格にもかかわらず鮮魚・活魚が伝統的に歓迎され、また高品質の水産物は輸出に充てられる傾向があります。

しかし、1980、1990年代生まれの若い世代は、鮮魚をあまり消費せずに、スーパーやネットで加工品を買うようになりました。

加工水産品の比率も年々高まり、2013年で35.1%に達しています。

また、インスタント食品、機能性食品などの高付加価値品も増えています。

副産物利用による廃棄物ゼロの実現例もあり、中国の水産加工は、資源消費型から省エネルギー型へと転向しています。

ただ、加工比率が60~90%の先進国との差はまだ大きく、加工品の国際標準規格への統合化、自動化、機械化のレベルを高めることで、競争力を強めていく必要があります。

持続可能な水産物消費の推進については、欧州へ輸出する水産物の合法性を認証し、IUU漁業の根絶、MSCなどの国際水産物認証の積極的導入を勧めています。

中国水産流通加工協会はWWFとも協力し、持続可能な水産品の小売店への出荷も促進しています。

消費者の持続可能な水産物への需要も高まっています。2015年4月22日には、中国のホタテガイの生産グループが中国国内初となるMSC認証を取得しました。

  • 本資料の引用には題名と発表者名を記載してください。

中国水産流通加工協会 陳麗純(チェン・リチュン)

発表(2)中国黄海エコリージョン干潟貝類産業状況

発表者:遼寧省海洋水産科学研究院 冷傳慧(レン・チョアン)

黄海エコリージョンは、山東半島、遼東半島を境に黄海とつながっている渤海(ぼっかい)を含めた中国沿岸の遼寧省、山東省など12の省・市と接する海域を指します。

沿岸干潟の利用制度は、1949年以降これまでに3回変遷しています。

2002年以降、干潟の所有権は、国家に帰属し、漁業活動を行なう際には、使用許可を当局に申請する形になっています。

日本は中国にとって、震災や為替変動の影響もありますが、この20年ほどを見ても水産物の最大の輸出先です。

アサリ、ハマグリなどの貝類は、黄海エコリージョンの干潟で生産され、日本にも輸出されている水産物のひとつです。

ナマコやクラゲも沿岸で養殖されています。

干潟で養殖・生産された貝類は、加工場、産地市場、消費市場を経て、小売店、飲食店、露天店舗などの中国内陸部も含めた国内各地で消費されるケースと、日本などの海外市場へ輸出されるケースがあります。

アサリは手堀り漁が伝統的に行なわれていましたが、最近はポンプで、海水や泥と共に吸い込んで採る機械式が増えています。

漁場では選別は一切行なわないので、サイズの小さいアサリも採られます。

その後に、砂抜きや死滅したものを除外するなどの選別が加工場で行なわれます。

遼寧省海洋水産科学研究院 冷傳慧(レン・チョアン)

手堀りアサリは、ポンプで採ったものよりも高額で取引されます。

貝類産業に関わる問題が3つあり、それは、
(1)埋め立て・干拓による干潟の急激な減少
(2)ポンプ漁による干潟生態系の損傷と資源枯渇
(3)潮間帯アサリの生産性の著しい低下
です。

そうしたこともあり、種苗投入や収穫期などの管理を徹底することで、干潟生態系の回復を目指した例も出てきています。

黄海エコリージョン沿岸湿地で持続可能な漁業を実現することで、湿地環境と資源回復は可能であると言えます。

  • 本資料の引用には題名と発表者名を記載してください。

発表(3)中国持続可能小売業円卓会議を通じた中国の持続可能な水産物の促進への取り組み

発表者:WWF中国 李叶青(リ・イェチン)

中国の水産物市場は、消費者の収入が増え、食の安全に対する関心が高まるにつれて、ロブスターやサーモンなど輸入品の取り扱いが増えています。

トレーサビリティのニーズも高まり、商品についた二次元バーコードを携帯電話などで産地を確認することが出来ます。

また、従来からの小売店やホテルなどに加えて、近年、水産物の販路として、電子商取引が爆発的に増えています。

アラスカ産タラ、ノルウェー産サーモンなどをインターネットで購入する人が増えています。

一方で、中国近海の漁業資源は減少してきています。

WWF中国は、持続可能な生産と消費を推進するために、中国連鎖経営協会(CCFA)と協力し、中国持続可能円卓会議を立ち上げました。

WWF中国 李叶青(リ・イェチン)

中国国内の家電、ファストフードなどの小売事業者だけでなく、イオン、IKEA、カルフールなどの海外の小売業者が参加することにより持続可能な生産と消費を促進するようにしています。

また、小売事業者に商品を提供する企業や専門知識を有したMSC、FSC、UNEPなどがオブザーバーとして参加しています。

2013年の正式発足後の活動分野は、
(1)グリーンなサプライチェーン
(2)政策提言
(3)持続可能な消費
(4)エコビジネスの現場視察
の4つです。

政策提言では、グリーンな消費に関する分析を行ない、グリーン白書にまとめています。

持続可能な消費では、毎年「持続可能な消費週間」のイベントを中国商務部、FAOなどの協賛を得て実施しています。

2014年のイベントでは、円卓会議メンバーの406店舗(12都市)で、MSC認証水産物を推奨する取り組みを行ないました。

中国では、認証製品の認知度はまだ低く、2015年もイベントで消費者やホテルを通じた宣伝、啓発に、注力します。

今後も円卓会議メンバー、オブザーバーで協力し、業界全体の底上げを図っていきたいと思います。

  • 本資料の引用には題名と発表者名を記載してください。

第二部『中国 黄海の生物多様性と漁業』

黄海は、朝鮮半島と中国沿岸に囲まれ、世界有数の大陸棚を有する海です。黄海は、中国に限らず日本にとっても重要な漁業生産の場であり、同時に生物多様性保全の価値が高い海域でもあります。第二部では、瀋陽理工大学の周 海翔(ジョウ・ハイシャン)氏、WWF中国の王 瑩(ワン・イン)、WWFジャパンの安村 茂樹がそれぞれ、黄海干潟の価値と現状、干潟の保全活動、日本と黄海の関わりについて、発表を行いました。

発表(4)黄海北岸泥質干潟 生態系サービス機能と現状

発表者:瀋陽理工大学 周海翔(ジョウ・ハイシャン)

中国ではまだ多くの泥質干潟を見ることが出来ます。

干潟は、内陸からの汚染を浄化し、漁業資源を供給し、台風を緩衝するなど、社会経済の発展において重要な場所です。

一方、干潟は、渡り鳥にとって、大事な環境です。

その鳥類も、虫害を抑制という我々にとって、良い役割も果たしています。

渡り鳥は、ニュージーランドから黄海を経て、アラスカなど10,000キロ以上を旅し、中継地である黄海に着く頃には、体重は半減します。

そのため、さまざまな渡り鳥が非常に多くのエサを干潟で食べますが、その形態、生態に応じて、干潟のエサを食べ分けています。

干潟は、この10年で大幅に埋め立てられています。また、養殖業が盛んになり、そのエサ資源を確保するため、養魚、稚魚も一網打尽にするような漁網を使った乱獲も深刻です。

ナマコの養殖池により湾全体が埋め尽くされた場所も至る所で見られます。

特に、高潮帯の埋め立てが盛んなことから、鳥類や伝統的な漁業に従事している漁業者が干潮時に干潟利用出来る時間やエリアが限定されてしまっています。

一方で、我々の調査活動やメディアを通じた啓発活動、行政当局との対話により、埋め立て計画が見直されることも出てきています。

十分なエサ、漁業資源がある健全な干潟が残っていることが大切です。

  • 本資料の引用には題名と発表者名を記載してください。

瀋陽理工大学 周海翔(ジョウ・ハイシャン)

  • この動画は、3分17秒頃から字幕がご覧いただけます。字幕機能をオンにしてご覧ください。字幕機能をオンにするには、右下の時計マークの右のボタンを切り替えてください。

撮影©Zhou Haixiang

発表(5)黄海エコリージョンの保全活動

発表者:WWF中国 王瑩(ワン・イン)

WWFは、国際的にも絶滅の危機に瀕している渡り鳥の中継地保全、私たちの生活を支える水産物生産の現場としての2つの観点から黄海の保全活動を展開しています。

黄海の環境保全上の脅威は、主に生息地の消失、過剰漁業、汚染の3つです。

WWFは2002年に黄海保全の取り組みを始めました。

その初期には、広大で、多様性に富んだ黄海のどこが重要な場所なのか、日中韓の専門家の協力を得て、科学的に調査しました。

2007年からは、調査で明らかとなった生物多様性優先保全地域の各地域で、地域の保全グループを支援しました。

中国の国家級自然保護区である鴨緑江河口干潟で、干潟漁業、底生生物、渡り鳥の関係性を把握し、自然の持続的な管理を促進するモデルプロジェクトを開始しました。

その結果、1980年代頃に盛んであったエビ養殖の影響で、底生生物の生物種構成が変わり、干潟で優占する底生生物種が、渡り鳥が補食しないものに変化していること、現在養殖しているアサリやハマグリなどが捕食されることはほとんどないこともわかりました。

これは、アラスカ、シベリアまで渡る必要がある渡り鳥には、悪影響が懸念されることです。

渡り鳥の生息地保全に寄与する持続可能な漁業資源の管理を確立し、そうした持続可能な取り組みへの生産者、バイヤー、消費者の関心を喚起していくことが重要です。

  • 本資料の引用には題名と発表者名を記載してください。

WWF中国 王瑩(ワン・イン)

発表(6)黄海の生物多様性保全とWWFジャパンの役割

発表者:WWFジャパン 安村 茂樹

WWFジャパンは、2002年から黄海エコリージョンの保全プロジェクトを立ち上げました。

それまでにWWFジャパンは、渡り鳥の生息湿地保全の取り組みを有明海など国内で進めていました。

国境をまたいで移動する渡り鳥の保全活動をより効果的に進め、またそのノウハウを活かすために、渡り鳥の生態的に特に重要で、地理的にも近い黄海において、日中韓の協働プロジェクトへ発展させました。

もうひとつ、渡り鳥保全の視点に加えて、水産資源の観点からも日本は、黄海とかかわりがあります。

例えば、アサリの日本国内の生産量は、1980年代から1990年代に減少し始め、今日では最盛期の半分ほどになっています。

それを補うように、中国、韓国から国内生産量に匹敵する量を毎年輸入しています。黄海は、アサリの重要な生産地です。

WWF中国から既に発表のあった鴨緑江河口干潟をモデルとした協働プロジェクトの結果、過去の漁労活動が干潟の生物層に悪影響を与えた可能性が示唆されました。

より持続的な漁業の推進による渡り鳥の保全を行政当局に提案しました。

これからWWFジャパンは、WWF中国と持続的な水産物生産と消費の促進による黄海生物多様性保全プロジェクトを展開してゆきます。

日本と中国の消費者、企業、研究者、さまざまな方の理解と協力が必要になってきます。

  • 本資料の引用には題名と発表者名を記載してください。

WWFジャパン 安村茂樹


第三部 パネルディスカッション『日中間での持続可能な水産業の推進』

パネルディスカッションでは、これまでの黄海エコリージョンでの生態系管理モデルプロジェクトの次のステップとして、持続可能な水産物の促進という視点での生物多様性保全について、意見を交換しました。

フロアからの質問も交え、どのような日本と中国の協力が可能なのか、日本と中国のマーケットは、それぞれ何を求め、何が克服すべき課題なのかについて、さまざまな意見が出されました。

いま中国では、沿岸地域だけでなく、4000km離れた内陸でも高速道路や冷蔵技術の発達により、国内で生産されている貝類などの海鮮食品への需要が高まってきています。

また、中央政府では、重要海域を抽出し、その保護を進める政策である、エコロジカルレッドラインの制定作業が進んでいます。

しかし、鴨緑江河口湿地を含め、泥質干潟が含まれておらず、再設定の必要性が今年の全人代でも指摘されたことも紹介されました。

このように、中国近海では乱獲が進み、埋め立てや干拓による、沿岸湿地の喪失と生物多様性の減少も深刻であるなど、課題が多く存在しています。

そうした問題に取り組むひとつとして、WWFは、黄海エコリージョンにおいて、さまざまなステークホルダーに参加いただき、持続可能な水産物促進を通じた生物多様性保全モデルを成功させたいと考えています。

パネルディスカッションの進行をつとめたWWFジャパンの山内愛子

イベント開催概要

タイトル WWF 中国セミナー 黄海の環境保全と中国における持続可能な水産市場の今
日時 2015年5月28日(木)
場所 東京海洋大学 楽水会館 大会議室(東京都港区港南4-5-7)
定員 60名
費用 無料
主催 WWFジャパン

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