第三者委員会報告について


(2020/11/24公開)

2019年3月にWWFの自然保護活動において人権を侵害する行為があったとの一部報道を受け、元国連人権高等弁務官のナビ・ピレイ判事を議長とする独立調査を行う第三者委員会をWWFインターナショナルは設立し、調査を実施。この度、報告書が第三者委員会からWWFに公表されました。

それを受け、WWFは本日、「Embedding Human Rights into Nature Conservation: from Intent to Action(自然保護への人権の組み込み:意図から行動へ)」をWWFの声明として発表しました。WWFが活動している地域で、一部の政府レンジャーによる人権侵害が報告されたことをきっかけとし、今回の第三者委員会の報告を踏まえて、WWFは運営体制を見直しています。

第三者委員会では、人権保護を自然保護活動に組み込むよう勧告を出しており、WWFは勧告を全面的に受け入れます。

また、第三者委員会はWWFのスタッフが人権侵害に加担したり、奨励したり、助長したりしたという証拠はないと判断しました。さらに、人権侵害の報告がWWFへ通報されたとき、WWFのスタッフは対応し行動を起こしていることも確認しました。ただし、すべてのフィールド活動の現場で、地域コミュニティへのコミットメントを一貫して果たせているわけではないことが指摘されました。

WWFインターナショナル総裁のパヴァン・スクデフは「人権侵害は、どのような状況であっても決して容認されるものではなく、私たちの中核的な価値に反するものです。だからこそ我々は第三者委員会による独立した調査報告を依頼しました」と述べました。WWFインターナショナル事務局長のマルコ・ランベルティーニは「WWFは世界各地で地域コミュニティと協力して活動しており、コミュニティの声に耳を傾け、権利を保護し、私たちの活動に参加してもらうことに対し、責任があると認識しています。被害に遭われた方が苦しんでいることは、私たち全員にとって深い悲しみです。我々は第三者委員会の勧告を非常に真摯に受け止めており、コミュニティへのコミットメントを果たすためにすでに実施している行動に加えて、これらの勧告すべてに取り組むことを約束します」と続けました。

第三者委員会ではまた、政府が人権保護の責任を果たすよう、WWFがより明確に主張し、侵害行為があったとの指摘を受けている政府レンジャーを含めて、政府に働きかけることを求めています。WWFでは、すでに世界各地で活動する際には、統一したグローバルなアプローチへと変更していますが、これは第三者委員会の勧告に沿ったものとなっています。コミュニティが懸念を申し立てたり通報する方法を改善し、リスクの高い自然保護プロジェクトを集中的に審査し、承認を経る手続きへと変更しています。この審査により、人権へのコミットメントが果たせないと判断された場合は、該当プロジェクトへの支援を中止する用意ができています。

第三者委員会の各勧告に対してすでに対応を開始しております。以下「WWF Response(報告に対するWWFの声明)」と「Management Response(運営体制の改善)」で、改善策の着手状況の概要をまとめていますのでご覧ください。
■WWF Response(報告に対するWWFの説明)
■Management Response(運営体制の改善)

  • WWFが活動するすべての国で効果的な申し立て対応体制を確立し、コミュニティからの申し立てがし易くなり、その受理と経過の把握と対応ができるようにする。中央アフリカ共和国の人権センター(2016年に設立)は、第三者委員会がベストプラクティスと称賛したもので、複雑な環境下での申し立て対応メカニズムを統合したWWFのモデルの一つである。
  • 社会的・環境的セーフガードを強化する。これは地域コミュニティとの関係性を深め、リスクを特定して管理することを義務化する。これらは世界各国すべてのWWF理事会で承認され(2019年7月以降)、新たに設置された専門部署のグローバル・セーフガード部が中心となって実施されている。
  • WWFの影響力をより強固に人権保護に活用し、セーフガードが満たされない場合は、プロジェクトを中断または撤退する用意をしている。
  • WWFは、コミットメントとセーフガードに対する説明責任を果たし、WWFが活動する地域コミュニティに対立を解消する支援を提供する、独立したオンブズパーソン部を設立する準備を進めている。
  • 地域コミュニティと政府のレンジャー間の対立を減らすための追加的な措置を講じる。例えば、法執行に関わるWWFのプロジェクトでは人権保護についての研修を義務化、世界的な行動規範の策定を行いレンジャーの専門化を目指す国際的な連合であるユニバーサル・レンジャー・サポート・アライアンス(2020年)の設立支援を行っている。
  • リスクの高い自然保護プロジェクトはすべて、WWFの主要な自然保護専門家で構成される新たなハイレベルの「自然保護品質委員会」による審査と承認を義務付ける。
  • 世界中の7,500人のスタッフ全員にすでに新しいセーフガード制度について研修するなど、スタッフの能力を構築する。
  • セーフガードと人権に関するWWFのコミットメントを、関連する支援に関する契約条項として盛り込む。

(2021/12/1追記)第三者委員会調査報告に対するWWFの人権保護の取り組み進捗報告書の公開について

WWFは第三者委員会の79項目の提言をすべて受け入れ、3年間の行動計画に基づいて、WWFネットワーク全体でこれらを実施してきました。開始から3年後に第三者委員会の提言事項に照らし合わせて評価を行う予定です。一方、WWFはより説明責任を果たすため、進捗状況を定期的に報告するグループを設立、この度、1年目の進捗状況を公開する報告書を発表いたしました。以下にてその概要をお知らせいたします。

第三者委員会によって評価されたWWFが世界各地で支援する景観(大規模な生態系)において、次の代表例を含む進捗を公開いたしました。中央アフリカ共和国ではレンジャーの研修に人権に配慮して進めるため設立した人権センターを引き続き支援、カメルーンでは地域の人権及び先住民グループと協力して苦情処理メカニズムを強化、コンゴ民主共和国では国立公園に関する政府との協定を新たに結び、密猟防止において人権を保護し活動する体制を整備、ネパールではWWFが活動する地域以外での人権侵害に対する政府へ圧力を実施、インドでは政府が運営するレンジャー研修のカリキュラムに人権保護の内容を組み込むなど、取り組みを進めています。

また、各国毎に独自で実施していた自然保護活動に伴うリスク調査・評価手法「Environmental and Social Safeguards Framework(環境社会セーフガード枠組み、以下ESSF)」を全世界で統一するとともに、独立したオンブズパーソンも迎えました。ESSFでは、広くフィードバックを求め、受け取ったフィードバックを反映するため人権セーフガードとポリシーの改定も進めております。さらに、政府への働き掛けとして新しい協定や契約に人権を保護する条項を組む込み、加えて世界レンジャー支援アライアンスUniversal Ranger Support Alliance(URSA)を通じてレンジャーの行動規範を確立、またWWFのリスク調査・評価手法を強化するためのツール開発を行ない、全世界でのWWFの取り組みを対象とした監視委員会を通じて、引き続き取り組みを進めてまいります。

WWFジャパンでは、WWFインターナショナルのESSF担当部局と連携し、WWFジャパンが支援している国内と海外の事業へのリスク評価に着手しました。環境および社会的なリスクを特定するスクリーニングのプロセスを現在進行中です。また、新入局スタッフを含む全スタッフを対象とした研修と外部通報窓口の設置を完了しています。WWFジャパンの支援している国内外のリスク調査・評価の進捗状況については今後ウェブサイトにて公開し、引き続きリスク評価と軽減策・緩和策は遅滞なく実行し、透明性を高めてまいる所存です。

本件についての情報は下記ウェブページにて公開しております。
https://wwf.panda.org/wwf_news/wwf_independent_review_/year_1_implementation_update/

今後の取り組みの進捗状況につきましては、ウェブサイトを通じてお知らせいたします。

(参考)
■環境および社会的セーフガード・フレームワーク(Environmental and Social Safeguards Framework)について

(2023/2/16追記、2/27追記)第三者委員会調査報告に対するWWFの人権保護の取り組み進捗報告書(2年目)の公開について

この度、2年目の進捗状況を公開する報告書を発表いたしました。報告書では、第三者委員会によって評価されたWWFが世界各地で支援する特定の景観(大規模な生態系)における進展として、持続可能な開発と権利に基づく保全活動のために連携し、先住民族の権利を支援及び擁護し、国レベルの戦略に先住民族の声を取り入れた各国事例をご報告しています。また、ESSF(環境社会セーフガード枠組み)の進展、苦情処理メカニズムのサポートと改善についても触れています。詳細はこちらをご覧ください。

本件についての情報は下記ウェブページにて公開しております。
https://wwf.panda.org/wwf_news/wwf_independent_review_/year_2_implementation_update/

(以下2/27追記)

2020年、WWFは第三者委員会による独立した調査報告結果を公表し、中央アフリカとインド、ネパールにおいて一部の政府レンジャーによる人権侵害が報告された件への対応に関する評価を開始した旨を報告しました。同委員会では、WWFのスタッフが人権侵害に加担したり、奨励したり、助長したりした事実を示す証拠は得られなかったと判断する一方、WWFの対応とシステムの欠点を特定することは惜しみませんでした。またWWFのあらゆる活動において地域コミュニティとの連携を深めるために必要な措置に関する勧告を示しました。その中には、WWFの活動を対象とする50項目に及ぶ一般勧告のほか、国レベルのプログラムに関する29項目の具体的な追加措置が含まれています。同委員会は尊重すべきコミュニティの権利に資する条件を創出し、現場で不正な行為が行われた際にWWF機関を通じて政府に行動を強く働き掛けるにあたり、WWFに対して規律の強化を求めるとともに、さらなる一貫性を持って、より一層の熟慮の上で行動するように要求しています。

Management Response(運営営体制の改善)で示したように、WWFではすべての国がネットワークとして連携し、3年間の「行動計画」プログラムを通じて同委員会の勧告に対処するべく、真摯に取り組みを進めてきました。この点に関しては大幅な進捗がみられるものの、一部の国や特定のテーマに関してはまだ足並みが揃っていない状況も見られます。WWFでは、コミットメントをすべて実現し、WWFが活動するあらゆる地域の人々に資する成果を向上させるべく、献身的に取り組んでいます。

WWFでは自らの説明責任を果たすため、専門の「行動計画」運営グループを設立しました。同グループではネットワーク全体の進捗状況を監視し、ネットワークエグゼクティブチーム(NET)とWWFインターナショナル理事会に定期的に直接報告します。さらに3年後には第三者委員会の勧告に照らし合わせた上で、第三者による進捗状況の評価を実施する予定です。

今回、WWFは当団体のパートナーとサポーター、ドナー、一般市民の方々に対し、第三者委員会が作業完了後から進めてきた取り組みの2年目の進捗状況と、直面してきた課題に関する最新情報について報告いたします。

第三者委員会による評価の対象となった特定の景観(大規模な生態系)は進捗が見られます。今年、WWFは持続可能な開発と権利に基づく自然保護活動を目的としたパートナーシップを締結し、先住民の権利を支援・擁護するとともに、先住民から寄せられた意見を国レベルの戦略に取り入れました。今回の取り組みの一部を紹介します。

  • カメルーンでは、政府パートナーと先住民との間で取り交わされた覚書(MoU)の履行に対する継続的な支援をはじめとするアクセス権の認識と保護に向けた擁護活動を実施しました。またパートナーとの協力による苦情処理メカニズムの強化、レンジャーを対象とした人権保護に関する研修の改善、WWF事業への環境的セーフガードと社会ポリシーの組み込み、社会的経済戦略の最終案の作成を実施しました。
  • 中央アフリカ共和国では、バヤンガの人権センターへの支援の継続、Chengeta Wildlifeとの継続的な協力を通じたレンジャー研修カリキュラムへの人権案件の組み込み、包括的な人材募集プロセスの支援、監視活動に関する専門的知識の共有、さらには法務省との協力のもと、強固なパートナーシップを通じた環境的・社会的セーフガードへの取り組みを実施しました。
  • コンゴ民主共和国では、保護地域を担当する公共事業体ICCNとの密接な協力関係を確立するとともに、同国内の法執行機関に対して人権に基づくアプローチを採用させる必要性についての合意を深め、連携を強化しました。
  • コンゴ共和国では、複数のステークホルダーが参加するプラットフォームを通じ、先住民と地域コミュニティによる持続可能な管理への関与を引き続き強化しました。この点については、組み込まれている苦情処理メカニズムの改善に関する提言も行っています。またWWF事業への環境的・社会的セーフガードと社会ポリシーの組み込み、MoUの改定を通じたETIC自然保護プログラムへの環境的・社会的セーフガードと人権の基本原則の取り入れ、政府レンジャーを対象とする行動規範と関連する懲戒処分による影響に対するETIC規律評議会への関与を通じたサポート、レンジャーを対象とした国内研修カリキュラムの策定に向けた情報の提供、ブラザビルにおける国内オフィスの設立に向けた手続を実施しています。
  • インドでは、社会的セーフガードに関する能力の構築とWWF内部プロセスの強化、および地域スクリーニングの遂行に特化した取り組みが行われています。またカジランガ・カルビ・アンロング地域を対象とした環境的・社会的緩和策のフレームワークを完成し、政府苦情処理メカニズムに関する情報を照合するとともに、地域による受け入れが可能なフォーマットに移行しました。さらにWWFが支援する法執行機関研修での人権保護の取り組みを継続し、インドにおけるすべてのレンジャー研修カレッジのカリキュラムに人権に関するモジュールを統合するための取り組みを進めています。
  • ネパールでは、プログラムおよび活動への人権に基づくアプローチの組み込みと強化、WWFの社会ポリシーとセーフガードに関するパートナーとステークホルダーへの積極的な働き掛け、WWFの「Environmental and Social Safeguards Framework(環境社会セーフガード枠組み、以下ESSF)」の全面的な履行に向けた独自の能力の強化に取り組んでいます。

グローバルな観点からは、以下をはじめとする進捗も見られます。

  • 2021年のオンブズパーソンの指名を受け、「Office of the Ombudsperson Operating Framework(オンブズパーソン運営フレームワーク担当局)」を設立します。運営フレームワーク案に対しては、2022年11月から2023年1月まで市民の意見を広く募集しました。また2023年3月のWWFインターナショナル理事会による承認に向けた審査を実施する予定です。
  • ESSFを推進し、WWFが活動する地域と海域全体でESSFを継続して履行するとともに、その経験から学んだ教訓を情報として取り入れた改定案を作成しています。2023年には承認の取得とその後のネットワーク全体への採用に向け、改定案を提出する予定です。
  • ESSFに基づく地域スクリーニングを実施しています。2022年12月時点では、WWFが活動する374の地域・海域のうち、289か所(77%)において、環境リスクと社会リスクに関する調査が完了・進行しています。
  • 環境的・社会的セーフガードと社会ポリシーに関する能力を強化しています。一例をあげれば、2022年後半には継続的な取り組みにより、認定セーフガードエキスパートがネットワーク全体で21名に達するとともに、2020年4月に導入され複数の言語で受講可能な基礎研修課程「Making Sense of Safeguards(セーフガードを理解する)」を修了したスタッフが8,643名に達しています。
  • 苦情通報窓口と苦情処理メカニズムをサポートし、改善が進められています。2022年12月時点ではWWF事務局の89%が、当団体の中核的な基準である「SpeakUp!」に準拠した苦情通報窓口を国レベルで公開しています。これは、2021年11月と比較して63%の増加となります。
  • 先住民やファースト・ネーションによる意見をWWFのガバナンスに反映する取り組みを強化しています。2022年には2事務局で新たに2名が任命されました。それにより、WWFガバナンス委員会と諮問グループに名を連ねる先住民とファースト・ネーション出身の代表者の数は、現時点で合計10名(それぞれ7名と3名)となっています。これらの役員は、WWFネットワークの7事務局で職務を遂行しています。さらにWWFインターナショナル理事会も先住民およびファースト・ネーション出身の役員を任命することを承認しており、その募集プロセスが既に進行しています。
  • 倫理的な法執行に関する取り組みを進めるとともに、レンジャー研修において人権問題に連携して取り組んでいます。WWFでは、レンジャー研修、「Law Enforcement Due Diligence Tool(法執行デューデリジェンスツール)」の開発・試行、「Director of Ethical Law Enforcement(倫理的法執行ディレクター)」の採用、「Ranger Code of Conduct(レンジャー行動規範)」の採用に関する提言の4分野において進捗が見られます。

WWFでは行動計画の実現に向けた作業において、当団体が抱えている数多くの課題を公開する必要があることを認識するに至りました。それにより、WWFが協力する地域コミュニティに直接利益をもたらす行動を推進する効果が得られます。これまでに直面した課題の一部を紹介します。

  • 人権に対するガバナンスとコミットメントが不十分な地域で生活しているスタッフの安全について通報し、安全を確保すること。
  • WWFの組織構造において、当団体が求める迅速な行動の妨げとなっている能力不足を克服すること。
  • 新型コロナウイルス感染症のパンデミック下において、安全を確保した上で敬意をもって地域における協議に関与し、現地活動を実施すること。

WWFでは、人類と自然が共栄する世界という当団体のビジョンが実現するかどうかは、フィードバックを求め、傾聴する当団体の能力によって決まると理解しています。しかし、その実践が難しい場合があることも承知しています。そのためWWFでは、コミュニティから意見を直接聴取し、直接的な対話に継続的に関与し、ピアレビューや批判的レビューを要請し、WWFの社会ポリシーと環境・社会セーフガード枠組みオンブズパーソン運営フレームワーク担当局に関する市民からの意見聴取を実施するなど、さまざまな方法を活用しています。これらは、それぞれが独自の重要な観点をもたらすものです。したがって、これらを総合すれば、現地における変革の実現を支援する方策を講じる際の指針とすることができます。

WWFが今回の重要な取り組みを行うにあたり、ご支援いただいた方々に感謝申し上げます。皆さまからは提言や助言、あるいは称賛や批判のお言葉をいただきました。WWFでは、いただいたすべてのフィードバックが貴重なものであると考えております。皆さまに申し上げたいのは、WWFが「Management Response運営体制の改善」に示したコミットメントは包括的なものであり、真摯なものであり、極めて重要なものであるということです。このコミットメントが、これまで以上に人々や自然保護活動に資する成果をあげるための力になると確信しています。WWFは、有効な変革の実現に向け、可能な限り迅速に行動し、献身的に取り組みを進めています。ただし、自然保護活動に取り組んできた60年の経験から、長期に及ぶ変革は一夜では成し遂げられないことも理解しています。

WWFは、さらに数多くの行動に集中して取り組み、進捗状況を監視することにより、確実に成果をあげることを約束いたします。また当団体のアプローチについて、皆さまからの意見を引き続き傾聴し、学習し、改善してまいります。今回の取り組みに対し、早い段階からご協力いただいたすべての方々に御礼申し上げます。また当団体のコミットメントの実現に向け、建設的なフィードバックを今後も引き続きお寄せいただきますようお願いいたします。

(2024/4/18追記) HUMAN RIGHTS & THE ENVIRONMENT REPORT – 2023(人権と環境報告書 2023)について

ナビ・ピレイ判事を議長とする第三者委員会は2020年、コンゴ盆地、インド、ネパールの保護地域およびその周辺で一部の政府レンジャーによる人権侵害が指摘された件について、WWFの役割を確認・評価する報告書を公表しました。同委員会は国レベルのプログラムに関する勧告を発表し、WWFは地域コミュニティの声を聞き、尊重し、それと同時に、各政府が人権義務を遵守するよう働きかけるために、更に努力を続けなければならないと結論付けました。WWFの取り組みは進捗を見せている一方、自然保護活動に人権保護を組み込むことを強化するには、やるべきことはまだ多くあります。

Management Response(運営体制の改善)(2020年)では、第三者委員会による提言を受けて公約を公表し、自然保護活動に人権の組み込みを、より根付かせるための3年間の行動計画を示しました。以来、コンゴ盆地、インド、ネパール、そしてWWFネットワーク全般で、第三者委員会の提言に従った取り組みを進めてきました。

WWFは2023年末までに実施状況をレビューすることを約束し、これまでに進捗に関する以下の文書を公表しました。Implementation Update: WWF Management Response to Recommendations from the Independent Panel Report – 2021Human Rights and the Environment Report – 2022、および本報告書Human Rights and the Environment Report – 2023(人権と環境報告書 2023)です。以前公約している通り、本報告書の後、Management Response(運営体制の改善)以後の実施期間に関する外部評価も行なう予定です。このたび、WWFは当団体のパートナーとサポーター、ドナー、一般市民の方々に対し、第三者委員会の作業完了後から進めてきた取り組みの進捗状況と、直面してきた課題に関する最新情報について報告いたします。

第三者委員会は、WWFが活動する地域の多くでガバナンスや法の支配に関する課題が見られるとの認識に至り、WWFに対して、自然保護活動における自身の立場や役割、機能、そしてWWFがその価値観に沿って政策や制度変更に影響を与えることができるという点について熟慮するよう促しました。これは例えば、人権に関する基準やコミットメントを政府パートナーに明確に確認し、WWFの機能を活かして、権利に基づく包摂的なアプローチを支援する方向へ意思決定を導くことを意味します。先住民組織などの市民社会団体とのパートナーシップ強化もそこに含まれます。

WWFにおけるコミットメントの実行は、コンプライアンス遵守のためというよりも、私たちの自然保護活動を向上させ、人と自然が共栄する世界にむけた取り組みに他なりません。その取り組みの結果、システムレベルの変革に資する条件が整備され、Management Response(運営体制の改善)に示したコミットメントの3年の実施期間は2023年12月に終了しましたが、WWFの取り組みはその後も続いていきます。

本報告書では、2020年からの以下のような進展を特に強調しています。

  • カメルーンでは、アクセス権の認識と保護に向けた擁護活動を実施した結果、2023年9月、カメルーン政府の森林動物省(MINFOF)と先住民組織ASBABUKとの間に歴史的な合意が成立しました。さらに、パートナーとの協力も継続し、苦情処理メカニズムの強化、レンジャーを対象とした人権保護に関する研修の改善、WWF事業への環境的セーフガードと社会ポリシーの組み込み、社会的経済戦略の最終案の作成を実施しました。
  • 中央アフリカ共和国では、バヤンガの人権センターへの支援の継続(2023年の新たな資金提供を含む)、Chengeta Wildlifeとの継続的な協力を通じたレンジャー研修カリキュラムへの人権案件の組み込み、包括的な人材募集プロセスの支援、監視活動に関する専門的知識の共有、さらには法務省との協力のもと、強固なパートナーシップを通じた環境および社会的セーフガードへの取り組みを実施しました。
  • コンゴ民主共和国では、先住民の権利の保護・推進を支援し、2023年には「先住民の権利の推進と保護」を旨とする法律No.22/030に大統領が署名しました。また、保護地域を担当する公共事業体ICCNとの密接な協力関係を確立するとともに、同国内の法執行機関に対して人権に基づくアプローチを採用させる必要性についての合意を深め、連携を強化しました。
  • コンゴ共和国では、複数のステークホルダーが参加するプラットフォームを通じ、先住民と地域コミュニティによる持続可能な管理への関与を引き続き強化しました。この点については、導入されている苦情処理メカニズムの改善に関する提言も行なっています。また、WWF事業への環境および社会的セーフガードと社会ポリシーの組み込み、MoUの改定を通じたETIC自然保護プログラムへの環境および社会的セーフガードと人権の基本原則の取り入れ、政府レンジャーを対象とする行動規範と関連する懲戒処分による影響に対するETIC規律評議会への関与を通じたサポート、レンジャーを対象とした国内研修カリキュラムの策定に向けた情報の提供を実施しています。その他、ブラザビルにおける国内オフィスの設立に向けた手続きを完了させました。
  • インドでは、社会的セーフガードに関する能力強化とWWF内部プロセスの強化、および地域スクリーニングの遂行に特化した取り組みが行なわれています。また、カジランガ・カルビ・アンロング地域を対象とした環境および社会的緩和策のフレームワークを完成し、政府苦情処理メカニズムに関する情報を照合するとともに、地域による受け入れが可能なフォーマットに移行しました。さらにWWFが支援する法執行機関研修での人権保護の取り組みを継続し、インドにおけるすべてのレンジャー研修カレッジのカリキュラムに人権に関するモジュールを統合するための取り組みを進めています。
  • ネパールでは、プログラムおよび活動への人権に基づくアプローチの組み込みと強化、WWFの社会ポリシーとセーフガードに関するパートナーとステークホルダーへの積極的な働き掛け、WWFの「Environmental and Social Safeguards Framework(環境および社会的セーフガード・フレームワーク、以下ESSF)」の全面的な履行に向けた独自の能力強化に取り組んでいます。

グローバルな観点からは、以下をはじめとする進捗も見られます。

  • 「Office of the Ombudsperson Operating Framework(オンブズパーソン運営フレームワーク担当局)」の設立。2022年11月から2023年1月まで市民の意見を広く募集し、2023年3月に採択されました。最初の実施フェーズの終了後、Gina Barbieriに代わる新しいオンブズパーソンの採用に着手しました。第2フェーズでは問題解決と調停が重点ポイントとなります。
  • 環境および社会的セーフガード・フレームワーク(ESSF : Environmental and Social Safeguards Framework)の推進。WWFが活動する特定の景観(大規模な生態系:陸域・海域) 全体でESSFを継続して履行するとともに、その経験から学んだ教訓を、環境および社会的セーフガード・フレームワークの改定案に取り入れました。これは2023年にインターナショナル理事会の承認を受けました。
  • ESSFに基づく地域スクリーニングの実施。2024年1月時点では、WWFが活動する261の特定の景観(大規模な生態系)のうち、251か所(96%)において、環境リスクと社会リスクに関する調査が完了・進行しています。
  • 人間中心で権利に基づく自然保護活動に関する能力の構築。例えばこの4年間、WWFは、環境および社会的セーフガード、人権、先住民および地域コミュニティの問題に関連して、全世界で40人以上の新規採用を行ないました。
  • 苦情通報窓口と苦情処理メカニズムのサポートと改善。2023年12月時点ではWWF各国オフィスの100%が、中核的な基準である「SpeakUp!」に準拠した苦情通報窓口を国レベルで公開しています。これは2021年11月の63%から増加しています。
  • 先住民やファースト・ネーションズによる意見をWWFのガバナンスに反映する取り組みの強化。2022年には2つのオフィスで新たに2名が任命されました。それにより、WWFガバナンス委員会と諮問グループに名を連ねる先住民とファースト・ネーションズ出身の代表者の数は、現時点で合計18名(それぞれ10名と8名)となっています。これらの役員は、WWFネットワークの9つのオフィスで職務を遂行しています。2023年にインターナショナル理事会は、土地権に詳しい法律家で、マレーシア・サラワク州ケラビット高地の先住民出身のRamy Bulan博士を役員に任命することを承認しました。
  • 倫理的な法執行に関する取り組みの推進、人権に関するレンジャー研修における連携的取り組み。WWFは、野生生物犯罪の取り締まりや特定の景観(大規模な生態系) の保護(しばしば困難な環境で行なわれます)において自然保護法の執行機関が担う役割を認識しています。人権に関するレンジャー研修や倫理的な法執行に対するサポートの提供は、引き続きWWFのミッションの中核を成します。今後も地方、国、地域から全世界のレベルまで研修の機会を開発・提供するとともに、コンゴ盆地、インド、ネパール、さらにそれ以外の場所でも人権研修に広く連携して取り組んでいきます。

以上の活動は現在も進行中で、将来へ向けて継続的に学習や適応が行なわれます。WWFの戦略はさらに進化を遂げ、人と生物多様性の両方に良い結果をもたらすことを目指す中で現れる新たな課題や機会に対応します。Management Response(運営体制の改善)の3年間の実行がどのように評価されるかを踏まえて、どこを修正し、どこでアクションを強化できるかの指摘事項に対応する予定です。人と自然の共栄のためには、双方が調和のとれた形で共存するしかありません。WWFはこの最も重要なビジョンに積極的に取り組んでいます。

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